インクジェット3Dプリンターとは
3Dプリント技術の中には、紙の二次元プリンターのようなインクジェット方式により物体を積層する手法がある。この手法はBinder jettingやMaterial jettingといわれ、さまざまな素材に応用され始めている。
現在、インクジェットの3Dプリンターで、最も代表的な素材が光硬化性樹脂であるが、元来は粉末状の石膏パウダーとバインダー(結合剤)を噴霧し固めて物体にする手法が発祥である。
最近ではここ数年で大きな進化を遂げ、従来では不可能であった、金属や熱可塑性樹脂(インクジェットで一般的な光硬化性樹脂とは別)に対応する機種が登場してきている。ちなみにBinder jettingとはBinder(結合剤)を噴霧する手法。Material jettingとはMaterial(素材そのもの)を噴霧する手法からこのように分類されている。
3Dプリンターを大量生産マシーンに完成させたHPの新Multi Jet Fusion
液体金属のインクジェット3DプリンターXjet。滑らかさと高速生産を実現
また、二次元印刷がCMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)の4色掛け合わせによって様々な色を表現できるように、インクジェット法の3Dプリンターも、高機能モデルでは、フルカラーやマルチカラーが再現可能だ。
今回は、3Dプリンターの種類の中においても、表現力と美しさ両方の点から注目が集まるインクジェット法3Dプリンターのすべてをご紹介しよう。
インクジェット3Dプリンターの原理と仕組み
インクジェット法の原理と仕組みは、基本的に2種類に分類される。素材そのものをインクジェットとして噴霧して固形化する手法と、結合剤をインクジェットにして噴霧して固形化する手法だ。
【1】Material Jettingの原理と仕組み
現在主流となっている製法が、光硬化性樹脂を使用したもので、Material Jettingといわれる原理だ。このインクジェット3Dプリンターは、主にストラタシスのPolyJetテクノロジーのように、紫外線を照射すると固まる特性を持つ光硬化性樹脂をインク状にして吹き付け、そこに紫外線を照射して固形化する技術である。
いわば光造形法(SLAやDLP)の応用ともいえる製法だ。
光硬化性樹脂を使ったインクジェットタイプでは、CMYK樹脂(PolyJetの機種によっては、ホワイトも加えたCMYKW)がノズルから噴霧され、ドロップ状のインクが落ちた時点で着色される仕組みである。積層の仕組みは、1層分の積層が終わると、造形ステージが下がり、次の積層を行う。
【2】Binder Jettingの原理と仕組み
そしてもう一つが、造形材料にバインダー(結合剤)で噴霧し固めて物体にする造形方法である。もともとインクジェット法といわれる3Dプリンターの始まりは、このバインダー(結合剤)を使う手法で、それゆえBinder Jettingともいわれる。
この手法は、従来は石膏の粉末パウダーだけであったが、近年では熱可塑性樹脂や液体金属などを利用する新たな3Dプリンターも登場している。
また、このバインダー(結合剤)を使う場合には、バインダー(結合剤)に着色されており、二次元プリンターがC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の四色掛け合わせで自在にカラー表現ができるように、ハイエンドなインクジェット法3Dプリンターでは、さまざまな色を表現することが可能となる。
インクジェット法の特長 長所と短所
インクジェット法3Dプリンターの最大の特長は、一般的な手法である熱溶解積層法(FDM)などに比べて積層ピッチが小さく(16ミクロンや14ミクロンも存在する)、滑らかな表面仕上げや、微細で複雑な造形物も作ることができる。
また、光硬化性樹脂によるインクジェット法では、その原理が液体樹脂をベースにしていることから、材料混合による様々な表現ができるという点にある。近年では材料のバリエーションも増えており、一般的に商業利用が盛んな熱可塑性樹脂に近い物性の素材を混合によって表現することが可能だ。
例えば、ハイエンドモデルのインクジェット法3Dプリンターでは、耐久性や耐熱性に優れるABS樹脂や、柔軟性があるゴムのような特性も、光硬化性樹脂の掛け合わせで表現することができる。この手法は、インクジェット法の原理と仕組みで述べたCMYKのカラー表現と合わせることで、表現の幅が一気に広がることになる。
インクジェット法の長所
- 極小の積層ピッチで微細で滑らかな表面が表現可能
- 複合材料によって、さまざまな材料特性を表現できる
- ABS樹脂やポリプロピレン、ゴムなど熱可塑性樹脂に近い強度、耐久性、耐熱性などの物性が再現できる
- カラーの配合によって自在に色を表現できる
インクジェット法の短所
- 光硬化性樹脂の場合、造形後の直射日光に当たると劣化しやすく、長期の使用や保存が難しい
- 石膏の場合は脆い
インクジェット法の材料
インクジェット法の材料は、一般的に紫外線で硬化する光硬化性樹脂が多いが、他にも石膏や液体金属、最近では一部熱可塑性樹脂も登場してきている。ここではその代表的なものをご紹介しよう。
光硬化性樹脂
インクジェット法3Dプリンターで最も一般的な材料が光硬化性樹脂である。光硬化性樹脂は、熱を加えると固まる熱硬化性樹脂の一種で、主に紫外線(UV光)を照射すると液状から固まる性質を持つ。
光硬化性樹脂はエポキシ樹脂やアクリル樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂がベースになっており、それをベースに様々な物性を持ついろいろな樹脂が登場してきている。ちなみに光硬化性樹脂は光造形法(SLAやDLP)で使用される樹脂と同じ性質である。色は無色透明から、さまざまな色に着色可能で、分子の配合と複合により、いろいろな性質を表現できる。
インクジェット法の特長の部分でもご紹介したが、この光硬化性樹脂の複合特性によってさまざまなプラスチックの物性を表現することができる。熱可塑性樹脂で代表的なABS樹脂やポリプロピレン、弾力性のあるゴムなど、最終品に近い物性を再現可能だ。
液体金属
インクジェット法3Dプリンターでは、インクのようにヘッドから噴霧するため材料は液状がメインである。これまでは液体状の光硬化性樹脂が中心であったが、新たに液体金属のインクジェット法3Dプリンターも登場してきている。
イスラエルのメーカーXjetが開発した金属3Dプリンターは、ステンレス鋼などの金属素材をインク状にし、サブミクロンレベルにして噴霧体積し、高温融合によって物体に造形する仕組みである。
Xjet 3Dプリンターについてはインクジェット法3Dプリンターの種類の部分で詳しくご紹介するが、レーザー焼結法などの従来の金属積層造形よりも滑らかで微細な表現ができると期待が集まっている。
粉末剤(熱可塑性樹脂、石膏、砂など)
インクジェット法3Dプリンターのもう一つの造形アプローチが、粉末剤を噴霧し、結合剤によって固めるという原理が存在する。この場合の粉末剤では、熱可塑性樹脂や石膏、砂といった材料が存在する。
熱可塑性樹脂では、最近HP(ヒューレッ・パッカード)が開発したMulti Jet Fusionで初めて扱えるようなになった。現在はナイロンポリアミドのみに対応しているが、将来的にそのほかの熱可塑性樹脂も対応可能になるという。
また、石膏や砂などは従来から存在した粉末剤だが、砂などは鋳造の分野では欠かすことができない砂型製造のダイレクト製造に使用されている。
インクジェット法の歴史
インクジェット法は、1993年にMIT、マサチューセッツ工科大学で開発された。その後Z Corporationが独占的にライセンスを取得、二次元印刷の業界で培われたインクジェット技術をもとに、CMYKによるフルカラーで6万色の表現を可能にする3Dプリンターを開発した。
このZ Corporationの3Dプリンターは、粉末状のパウダー材料にインク状の着色結合剤を吹き付けフルカラー化する技術で、シアン、マゼンダ、イエロー、クリアの各色を掛け合わせ、グラデーションからフルカラーまで可能にする。
その後Z Corporationは3Dsystemsに買収され、同社の中でリブランドされ扱われた。この手法がもともとのインクジェット法といわれるが、一方で、光造形法(SLAやDLP)の応用ともいうべき、光硬化性樹脂によるインクジェット法も存在する。
この技術はイスラエルの企業Objet Geometries Ltdが開発し、紫外線を照射すると固まる光硬化性樹脂をインクジェットノズルから噴霧し、照射して固めていく手法である。
Objet Geometries Ltdは、2012年にストラタシス合併することで、同社の中のPolyJetブランドとして発展を続けている。この結合剤を噴霧するのではなく素材そのものを噴霧するインクジェット3DプリンターはMaterial jettingという手法に分類される。
現在ではこのMaterial Jettingである光硬化性樹脂によるインクジェット3Dプリンターが主力のように思われるが、冒頭でもご説明した通り、バインダー(結合剤)を使ったBinder Jettingでも熱可塑性樹脂に対応したHPのMulti Jet Fusionや、液体金属によるXjetなどが登場し、更なる発展が期待される分野である。
ボクセルで進化するインクジェット3Dプリント
インクジェット3Dプリンターは、新たな概念であるボクセルで更に進化しつつある。本記事でご紹介しているPolyJetテクノロジーの集大成ともいえるストラタシスのJ750や、HPのMulti Jet Fusionなどの機種が、新たにボクセルで驚くべき進化を遂げている。ここではその革新性と、ボクセルを採用することで、どんな価値が生まれるのかをご紹介しよう。
ボクセルとは
そもそもボクセルという聞きなれない言葉はどのような概念なのだろうか。ボクセルは、端的に言うとピクセルのボックス版である。ピクセルは、コンピューターで画像を扱う際の色に関する情報だ。例えば100pixel×100pixelとは、縦に100個、横に100個のドットが並べられていることを指す。
ボクセルとは、そのボックス状のことで、物体をコンピューター上でボックス状で構成し、カラー要素などを与えることができる概念のことだ。
STLとボクセルの違い
これまでの3Dプリントデータの基本であるSTLは物体をレイヤー層で構成する仕組みであったが、ボクセルの場合は物体を無数のボックス状で構成しており、それぞれ一つ一つのボックスにさまざまな要素を与えることができる。
いわば、レゴブロックを想像してみるとわかりやすい。レゴブロックの場合は色のみであるが、インクジェットタイプの3Dプリンターでは一つ一つのボクセルに、柔軟性や硬さ、導電性など、さまざまな要素を付与できるのが特長だ。
ボクセルで何が変わるか
3DプリントのデータがSTL、これまでの積層ベースのものからボクセルに変わることで何が変化するのだろうか。例えば、上記のストラタシスのJ750の動画のように、一つの物体の中で、部位によって様々な物性を表現することができる。
ある部分は耐熱性を高くしたり、ある部分は強度や耐久性を高くするなど、一つの物体に必要に応じて物性を与えることができる。このテクノロジーによって、これまでアッセンブルによってでしか表現できなかったものが、一体成形でできるようになる。
またカラーの表現も無限大だ。例えばストラタシスJ750では、ボクセルをベースに造形することで、カラーの表現も内部から着色することができ、彼らの表現を借りれば、「深い表面」を表現することができるのだ。
いずれにせよ、ボクセルが本領を発揮するのはインクジェット3Dプリンターならではといえよう。
インクジェット法の用途
インクジェット3Dプリンターの用途は、素材によって様々である。従来からある石膏ではどうしても脆かったため製品開発における単なる形状確認用のモックアップにしか使用することができなかった。
しかし、現在インクジェット3Dプリンターの主流である光硬化性樹脂によるインクジェット3Dプリンターでは、様々な利用の仕方が登場してきている。
ここではインクジェット3Dプリンターで最も代表的なストラタシスのPolyJetシリーズを例に、その用途をご紹介しよう。
機能性プロトタイプ
光硬化性樹脂によるインクジェット3Dプリンターの最大の特長は、さまざまな種類の光硬化性樹脂を混合することで、素材の特性を変えることができる点にある。
耐熱性や耐衝撃性に優れるABS樹脂のような性質や、ポリウレタン(PU)のような靭性、柔軟性に優れる性質、ポリプロピレン(PP)のように耐久性に優れる性質など、現在工業製品で利用されている様々な熱可塑性樹脂の特性を、リアルに再現することができるのだ。
こうしたインクジェット3Dプリンターの特性から、最終品に近いリアルな機能性プロトタイプを作ることができる。また、色調やトーンなどのカラーバリエーションも自在に表現できることから、見た目、性能両方の側面から最終品に近いプロトタイプやの製造が可能だ。
このインクジェット3Dプリンターの用途は、製品開発における開発段階のプロセスを大幅に高め、よりスピーディなモノづくりを可能にしてくれる。
コンセプトモデル
機能性プロトタイプとともにインクジェット3Dプリンターが活躍するのがコンセプトモデルの製作だ。コンセプトモデルとは、いわばその製品が作られている過程において、カタチにされる最も象徴的な存在である。通常の製品開発のプロセスでは、製品企画があり、そこから製品名や機能、デザインなどが決定されるが、その中心に存在するものがコンセプトである。
コンセプトとは、いわばその製品の存在価値そのものであり、アウトプットされるものすべて(名前、デザイン、パッケージ、機能など)の中心になくてはならないものである。そのためまず初めに試作やデザインを詰める前に作られるのがコンセプトモデルである。コンセプトモデルは複数案あってもよく、プロダクトデザインの元になるものであるから、より完成度の高いものであれば認識しやすい。
そうしたコンセプトモデルには、フルカラーな表現や、素材特性を自在に変えられるインクジェット3Dプリンターは最適といえるだろう。従来の切削加工と塗装による製作に比べれば、表現、コスト、時間などの面でインクジェット3Dプリンターの方が適している。また、微妙な違いや細かい修正なども3Dプリンターであれば、デジタルデータから直接作ることができる。
樹脂型。デジタルモールド®
光硬化性樹脂によるインクジェット3Dプリンターの用途として、そのほかの3Dプリンターと比べて特長的な用途が金型の製造である。金型といえば通常、鉄の塊を削り出して作り出されるが、ストラタシスのPolyJetテクノロジーであれば、光硬化性樹脂を使ってデジタルモールドといわれる樹脂製の金型を作り出すことが可能だ。
このデジタルモールドとは、PolyJetテクノロジーで使われる独自の光硬化性樹脂を配合して作り出される金型で、射出成型や、プレス成型といった従来の量産加工の金型として使用することができる。
このデジタルモールドの圧倒的な利点は、小ロット生産やテスト販売などを目的とした量産品に最適であり、1個1個3Dプリンターで作ったり手作りで作る手間はかけられないが、とはいえ多額の投資をして頑健な金型をつくり大量に生産する必要もない場合に重宝する。
この樹脂製金型、デジタルモールドを使えば、金型そのものの製造コストも圧倒的に安く、リードタイムもはるかに短く作ることが可能で、金型そのもののバリエーションや修正も容易である。新製品開発の少量生産やテスト販売、ノベルティの生産などに最適なツールといえる。このデジタルモールドはインクジェット3Dプリンター特にPolyJetテクノロジーならではの活用方法と言えよう。
治具・固定具
光硬化性樹脂によるインクジェット3Dプリンターのもう一つの用途が、治具や固定具といった製造現場で日常的に使用する工具類を作り出すことができる点にある。
治具や固定具は、製品を取り付けたり、組み立てたり、あるいは検査したりする工程で必ず使用するツールで、パーツの形状や、組み立て方、検査の仕方で、それぞれならではの治具・固定具が求められる。
また、治具によっては一定以上の強度や耐久性が求められる場合があり、用途に応じて物性を再現することができるPolyJetテクノロジーのインクジェット3Dプリンターであれば最適な性能を発揮することができる。
最終品の可能性
これまではインクジェット3Dプリンターの中でも、ストラタシスの光硬化性樹脂を使ったPolyJetテクノロジーによる用途を中心にご紹介してきたが、新たな最終品を作り出すことができるインクジェット方法も登場してきている。
この分野はまだ今後の発展によって用途は増えてくることになるが、HPが開発した熱可塑性樹脂とバインダー(結合剤)を使ったMulti Jet Fusionや、液体金属とバインダー(結合剤)によるXjetといった新たなインクジェット3Dプリンターでは、最終品をデジタルデータからダイレクトに作り出すことができる可能性が高い。
インクジェット3Dプリンターの種類と代表的な機種
インクジェット3Dプリンターには様々なタイプの種類が存在する。既に、インクジェット3Dプリンターの原理と仕組みの部分で、Material Jettingによる手法と、Binder Jettingによる手法をご紹介したが、ここではその種類と代表的な機種についてより具体的にご紹介しよう。
PolyJetテクノロジー:ストラタシス
第一にご紹介するのが、ストラタシスが誇るMaterial Jettingのインクジェット3DプリンターPolyJetテクノロジーの3Dプリンターだ。既に用途や原理の部分でも詳しくご紹介したが、PolyJetテクノロジーは、紫外線を照射すると固まる光硬化性樹脂を使った3Dプリンターで、液体状の光硬化性樹脂を、インクジェットノズルから微細なドロップ状で噴霧し、そこにUV光を照射しつつ一層一層物体に積層する技術である。
このPolyJetテクノロジーはもともと、ストラタシスと合併したObjet社が開発していた3Dプリントテクノロジーで、インクジェット3Dプリンターの用途でご紹介した通り、機能性プロトタイプからコンセプトモデル、樹脂製金型(®デジタルモールド)まであらゆる用途で使用されている。
このPolyJetテクノロジーの最大の特長は、ストラタシスが開発するデジタルマテリアルといわれる光硬化性樹脂の素材で、6種類のデジタルマテリアルを混合することで、さまざまな物性を再現することが可能だ。
ちなみに6種類のデジタルマテリアルとは、CMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)の4色の固い硬質材料に、硬質不透明材料、硬質透明材料、ゴムライクの材料の6つ。この6つの素材を自在に配合し、さまざまなカラーや物性が作られる。
PolyJetテクノロジーの3Dプリンターはさまざまだが、とりわけ新型のJ750では、この6種類をすべて搭載でき、最大で36万色の表現が可能となる。
Multi Jet Fusion:HP(ヒューレット・パッカード)
インクジェット3Dプリンターの新型として注目を集める機種がHP(ヒューレット・パッカード)が開発したMulit Jet Fusionだ。このMulti Jet Fusionは、粉末状のプラスチック素材に、CMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)のインクが配合された結合剤を吹き付けるBinder Jettingタイプのインクジェット3Dプリンターになる。
従来、Binder Jettingは、石膏の粉末パウダーが原料であったが、このHPの新型では、熱可塑性樹脂であるナイロン12を使用して高品質なフルカラーのプラスチック製品を造形することができる。Multi Jet Fusionでは、ナイロン12のパウダーを積み上げた後に、結合剤を配合し、加熱することで一気に固形化する仕組みをとっており、その独自の製法により高品質と高速生産を同時に両立している。
例えば、簡単な歯車などのパーツ類であれば、3分間で1000個も生産することが可能で、3Dプリンターによるダイレクト製造を実現するマシーンとして期待されている。また、Multi Jet Fusionの最大の特長はVoxelという概念を3Dプリントに使用している点にある。このVoxelとは、Pixel(ピクセル)とVox(体積)を合わせた用語で、ピコリットルの立方体単位で物性表現をしていこうという手法である。
例えば、Voxelごとに物体を区切って3Dプリントすれば、場所によって色や、物性を自在に変更することが可能で、弾力性や強度、導電性や柔軟性、半透明やフルカラーといった素材の使い方が可能になる。Multi Jet Fusionの最大の魅力は、このVoxelによる無限の表現の可能性だと言えよう。
ちなみにHPは2機種リリースしており、4200と3200の2機種を販売する予定。一部のメーカーにはすでに試験的に導入されており、プロトタイプからエンドユース製品をダイレクト製造する新たなインクジェット3Dプリンターとして注目されている。
Nano Particle Jetting(ナノ粒子ジェット):Xjet
インクジェット3Dプリンターの新たな機種として登場しているのが液体金属の3DプリンターXjetだ。Xjetは、素材を直接インクジェットで吹き付けるMterial Jettingのタイプに分類されるが、液体状の金属素材をナノ粒子レベルで吹き付ける新たな技術で3Dプリントを可能にしている。
ちなみに、製法であるNano Particle Jettingは日本語訳するとナノ粒子ジェットとなる。液体状の金属の粒子が1ミクロンの10分の1であるサブミクロンレベルで噴霧され、造形速度はなんと毎秒2億2100万滴の体積が可能。ナノ粒子の液体金属を吹き付けつつ、同時に300℃の高温で加熱することによって、粒子一つ一つが融合し、金属の滑らかな表現が可能になるというわけだ。
この新たな金属造形技術は、従来からの粉末状の金属パウダーを使うレーザー焼結法に比べてはるかに滑らかな表現が可能になる。
ちなみにこの液体金属によるNPJナノ粒子ジェッティングの開発には、PolyJetテクノロジーを開発したObjet社の開発メンバーが数多くかかわっており、高いインクジェット技術が活かされている。
液体金属の材料では、ステンレススチールなどが対応しているようだ。こちらのXjetも新たなインクジェット3Dプリンターとして今後注目が集まる機種である。
まとめ インクジェットの未来。マスカスタマイズ生産マシーンへの道
もともと石膏パウダーの結合剤噴霧で始まったインクジェット3Dプリンター。しかし、現在、さまざまな素材に対応することによって、新たな生産マシーンとして進化を遂げつつある。光硬化性樹脂を使ったストラタシスのPolyJetテクノロジーでは、6種類のマテリアルを自在に配合することで、さまざまな物性と無限のフルカラーを実現している。
HPが開発したMulti Jet Fusionでは、石膏パウダーしか対応していなかったBinder Jettingを、熱可塑性樹脂に対応させることで、新しい生産の道を開きつつある。さらにはナノ粒子レベルで液体金属を噴霧するXjetは、金属パーツの生産に新たな風を巻き起こし始めている。
このように、インクジェット技術は、二次元から三次元の物体製造の分野においても、主力の技術になりつつあるのである。その用途は、プロトタイプやコンセプトモデルという従来の3Dプリンターの枠組みを超え、小ロット量産用の金型や、エンドユース製品のダイレクト製造まで幅を広げつつある。
この二つの用途、金型とダイレクト・マニュファクチャリングという使い方は、カスタマイズに対応した量産を可能にし、ものづくりの可能性を大きく広げてくれるものに他ならない。今後も更なる開発と発展に期待したい分野である。
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