ニコン取材。小型金属3Dプリンター「Lasermeister 100A」

小型&高品質を実現したニコンの金属3Dプリンター

3Dプリンターの開発において、ひときわ注目される分野が金属3Dプリンターの開発だ。特に2014年に特許が失効したレーザー焼結(SLS 3Dプリンター)は、最終品レベルが製造できる造形技術として世界で開発が進んでいる。

その一方で、異なるアプローチから金属造形を開発しようという動きも登場している。金属を造形する技術はSLS以外にもSLM(レーザー溶融法)やMIMの技術を応用した金属3Dプリンターが登場している。

今回は株式会社ニコン半導体装置事業部開発統括部次世代開発部の長坂博之氏にお話しを伺った。

独自の「光利用技術と精密制御技術」によって開発されたニコンの小型&高性能金属3Dプリンター「Lasermeister 100A」をご紹介しよう。

ニコンの開発した小型金属3DプリンターLasermeister 100A

大きさ・価格・安全性をクリアし小型化を実現

ニコンが開発した金属3Dプリンター「Lasermeister 100A」は、高さ1.7メートル、床面積は85cm×75㎝の非常にコンパクトなサイズである。また重さは310kgで、このサイズは加工現場はもちろん、一般的なオフィスなどにも対応しており、6人乗りのエレベーターにも入るサイズだ。

また付帯設備は、窒素装置以外不要 。価格も3000万円と従来の金属3Dプリンターよりもはるかに低価格を実現している。

多用途に使用できる3Dプリンター

ニコンの「Lasermeister 100A」の最大の特長が、多種多様な金属加工が可能だという点だ。3Dプリントの積層だけではなく、溶接やマーキングなどにも利用することができる。

 

既存の金属に積層できる3Dプリンター

ニコンの金属3Dプリンターのもう一つの特長が、既存の金属に盛ることができる点だ。付加積層造形といって、ゼロから作るだけではなく既存のものに加えることができる。

これは平面だけではなく局面にも積層することが可能で、従来の切削などの金属加工と融合して使用することができる。

既存の金属に盛ることができる。写真はドアノブに積層したサンプル

金型や切削のノウハウと合わせて使用できる

ニコンが金型メーカーなどからヒアリングを行ったところ、今まで培ってきた金属加工のノウハウを、全て金属3Dプリンターに置き換えることには抵抗があると話していたという。

しかし、ニコンの金属3Dプリンターであれば、金型本体は従来のノウハウを使って作り、必要な部分だけ付加積層加工などを行うことが可能ということである。

従来の金型や切削と合わせて使用が可能。あらかじめ作った金属パーツを入れて積層し盛ることができる。

この機能により金型や金属パーツの欠けた部分の補修などにも使用できるほか、ワークの位置を変えることで、90度に曲がった配管なども、置き換えながら積層することでサポートなどをつけずに作ることができる。

配管などのような複雑な造形物も置き換えを行うことで、サポート材をつけずに造形が可能

スキャニングで正確な位置合わせを実現

例えば、切削加工機では、1台の機械ではなく複数の装置にまたがって作るということがよくある。その際、最初の装置で作った位置と次の装置で作る位置を正確に合わせることが求められる。

ニコンの金属3Dプリンターではスキャニングによって正確な調整が可能だ。「数十~数百ミクロンのレベルであわせる職人の技を、内部のステレオカメラで、位置を割り出し、ソフトウェア上で、位置を設定できる 」と長坂氏は語っている

マーキング&溶接。多彩な使い方が可能

また、ニコンの3Dプリンターは、1台でマーキングや溶接などもできる。例えば溶接などは、これまで専用の設備や職人が必要であったが、万力などで軽く抑える程度でパーツを簡単に溶接することができる。

更にマーキングでは、平面だけではなく局面にも刻印が可能だ。研磨では、レーザー研磨を行うことが可能で、表面を再溶融させることで、表面のざらざら感を少し滑らかにすることができる。

マーキングでは局面にも可能

金属3Dプリンター導入に関する3大ハードル

新たなニコンの金属3Dプリンターはこれまでの金属3Dプリンターとは一線を画す、コンパクト&高品質、安全性が高い革新的な3Dプリンターだ。

一般的にこれまでの粉末積層の金属3Dプリンターは巨大で、価格も非常に高額だ。導入するにはさまざまなハードルがあり、手軽に利用できるものではない。

最大のハードルの第一が大きさである。基本的には工場などの1階にしか入れられることができず、場合によっては床の補強工事なども必要になる。いわばオフィスビルなどで手軽に利用できる”3Dプリンター“ではなく完全な製造設備だ。

第二のハードルが価格である。金属3Dプリンターは、機種にもよるが数千万円から1億円以上かかる。また導入時に補強工事などを行った場合には更にコストがかかることになる。

そして第三のハードルが安全対策である。金属3Dプリンターの粉末材料は、種類によっては、日本の特定化学物質に指定されており、粉塵対策の設備や防塵服、取扱の資格者などが必要となる。

ニコンの光利用技術と精密制御技術が小型化を実現

しかしニコンは、光学レンズメーカーとして、また半導体露光装置のメーカーとして長年培われた独自の技術力によってこのハードルをクリアしている。

エレベーターにも乗る小型サイズ

レンズの小型化で装置全体の小型化を実現

ニコンの開発担当である長坂氏は、レンズの小型化こそが、金属3Dプリンターの小型化につながると語る。

「私たちは光学レンズメーカーなので、内部に弊社の独自設計のレンズが組み込まれています。その最大の違いが大きさです。他社製品を調べたら、その多くが、ペットボトルほどの大きさのレンズを使用していることがわかりました。しかし、私たちのレンズはその半分ほどのサイズです。また枚数も無駄がない枚数で、基幹部の小型化に成功しました」。

レンズを軽量にすると必然的に3Dプリンターそのものの基幹部が小さくなるという。
「レンズが重くて大きいと、必然的にそれを支える構造が大掛かりなものになります。ベルトやモーターも大きくなります。更に外側の構も大きくなり、3Dプリンターそのものが大きくなってしまう」。

この大きさの問題は、製品全体のコストにも関わってくる部分だ。大きければ大きいほど装置を構成するパーツも大きくなりコストが高くなる。しかし、ニコンはレンズを極力小さくすることで、全体的にコンパクトでも高性能に収まるように開発している。

レーザー装置の小型化で装置全体の小型化を実現

小型化を実現したもう一つの要因がレーザー装置の小型化だ。因みに金属3Dプリンターではレーザー装置が最もコストが高いとされる。長坂氏はこの部分も徹底的に小型化とコストダウンを図ったという。

「金属3Dプリンターは通常ファイバーレーザーが使用されます。これは半導体レーザーにそれを増幅させるための光ファイバーを加え光を強くする仕組みです。しかし、私たちは半導体ダイレクトレーザーを使用することで、安価で高品質なレーザーを実現しました」。

レーザー装置そのものを小型化することで、装置全体を小さくする

冷却装置の小型化も半導体レーザーのノウハウで実現

また、その周辺の冷却装置の小型化も半導体レーザーのノウハウが活かされている。
「一番こだわったのが空冷方式のレーザーです。他の3Dプリンターのレーザーは発熱が大きく、素子を守るための冷却機構が巨大です。しかしニコンでは空冷方式によりこの部分の小型化にも成功しました」(長坂氏)

通常のレーザー機構には冷水を使用した冷却機構が設けられており配管、ラジエーターの機構、更にはそれを保護する筐体など必然的にレーザー周辺が大きくなってしまう。

しかし、ニコンでは高効率な空冷方式のレーザーを採用している。空冷方式とはパソコンなどの冷却に搭載されている方式で、空気との熱交換によって冷やされる仕組み。これによってコンパクトで安く、高品質な金属3Dプリンターを実現している。

徹底した安全対策で誰でも使える

ニコンは、半導体チップを作るための半導体露光装置を作っており、その経験から安全性に対する高い基準を持っている。その経験が金属3Dプリンターの安全対策にも発揮されている。

レーザーポインターよりも高い安全なレーザーを採用

その代表的な例がレーザー出力の安全対策だ。一般的にレーザーの出力は危険度がクラス1からクラス4で区分されるが、ニコンの3Dプリンターは製品としてはクラス1に分類される。これは典型的なレーザーポインターのクラス2よりも低く高い安全性を示している。

粉塵爆発対策

また粉塵爆発の対策も十分にとられている。「Lasermeister 100A」は、中に材料を入れた状態では絶対に発火しない徹底した防爆設計が施されている。

もともと標準の提供材料は極めて爆発しにくい粉であるが、万が一違う粉を入れた場合でも内部で着火することはない。

更に内部のロック機能も徹底している。金属3Dプリンターはチャンバーの内部が窒素で満たされているが、中の酸素濃度が上がるまでドアが内部からロックされてあかないようになっている。

これによって、訓練された人が使用しないと扱えないというハードルをクリアし誰でも扱えるようにしている。

材料SUS316Lも専用品。大がかりな防塵設備は不要

ニコンでは材料の面からも安全性、誰でも利用できる環境を用意している。「日本の法律ではマンガンやコバルトなどが1パーセント以上入っている粉体は、特定化学物質に当たります。例えば海外製のSUS 316 Lでは日本では特別な設備がないと使えない場合があるのです」。

そのため、ニコンでは、特定科学物質に該当しない材料を採用している。そのため、大掛かりな防塵設備も必要なく導入が可能だ。また、爆発などの安全対策も徹底して検証している。

「ニコンでは材料の開発にあたり爆薬と混ぜて発火させる試験をして、爆発しないことを確認済みです」と長坂氏は語っている。

温度のモニタリング機能でレーザーを自動調節

ニコンでは造形品質を高めるオプションも開発している。造形中の温度分布を分析し、造形精度を向上するレーザーの自動調節機能だ。ここにも半導体露光装置のノウハウが活かされており、3DデータをGコードにした段階で、熱解析をかけ、造形中の温度分布をあらかじめ予測する。

それによって温度が高くなる部分はレーザーを弱く、温度が低くなる部分はレーザーを強くし、常に一定で高いクオリティの造形を実現することができる。

まとめ レーザーマイスターテクノロジーセンターで見学も可能

光加工機「Lasermeister 100A」は、ニコン熊谷製作所にある「Lasermeister Technology Center」でデモや見学、開発チームとの詳細なディスカッションも可能です。

  • 住所:埼玉県熊谷市御稜威ケ原201-9
  • 営業時間:10:00~17:00(土日祝日/年末年始、夏季休業など当社休業日を除く)
  • 半導体装置事業部 事業企画部 03-6433-3639 ※事前予約

第24回建築再生展2019でも展示中
6月11日(火)~13日(木)
東京ビッグサイト青海展示棟Bホール、Nikon ブースで実機展示があります。