ポリプロピレン(PP)の特性と用途 家電製品から繊維まで

ポリプロピレン(PP)の概要と用途

ポリプロピレン(PP)は、ものづくりの世界や、プロダクトデザインの世界では、一般的にPPと呼ばれているプラスチック素材の一つだ。非常に軽いことから、主にパッケージデザインの素材としてなじみ深い。しかし、ポリプロピレン(PP)は、実はその使用範囲は非常に幅広く、最も多く使用されているプラスチック素材の一つと言ってもいいだろう。

その使用は一般家庭で使用される身の回りのさまざまな製品に使用され得ている。家電製品や文房具、自動車用のパーツ、おもちゃやスポーツ用品など普段使用するものばかりだ。またその使用形態もさまざまで、単純なプラスチック成形だけではなく速乾性という特長から、繊維素材として使用され、衣類やオムツなどにも使われている。更には、加工が容易で薄くできるということからフィルムやシートとしても使用される。

例えば家電製品では、食器洗浄機や洗濯機などに使用されているし、もっと製造工程が簡単なものでは、ゴミ箱やバケツ、食品用タッパ―、プランター、DVDケースなどの素材として親しまれている。繊維形態として使用されるケースは、使い捨てオムツ、カーペットやロープ、下着や靴下、アンダーシャツなどにも使われている。

上記は一般家庭で幅広く使用される製品としての使用だが、それ以外に工業用としては医療用や建築・建設資材の材料としても活躍している。医療用では注射器の材料としてなじみ深いし、建設資材では柔らかい特性を利用し、電線ケーブルや光ファイバーの被覆などのカバーとして必須の素材だ。

こうした幅広い用途の理由は、ポリプロピレン(PP)が、樹脂の中で最も比重が軽く、極めて加工性が高い上に、優れた強度を持っていることがあげられる。また見た目としては透明性が高く、発色性が高いところから、プロダクトデザインの世界でもデザインを表現するために部分的に使用されるケースも多い。

ポリプロピレン(PP)の歴史

ポリプロピレン(PP)が開発されたのは今からさかのぼること約65年前だ。ドイツの化学者カール・チーグラーがチーグラー・ナッタ触媒を発見したことに端を発する。その後商業利用が可能になったのは7年後の1957年でイタリアのモンテカチーニ社が生産を開始することとなった。カール・チーグラーは、このポリプロピレン(PP)の発見によって1963年にノーベル化学賞を受賞。そこから更に改良を重ねることで拡大し、いまでは全世界でのポリプロピレンの生産量は62,052千トンにも及び、日本国内だけでも、その総需要は230万トンに達する。

ポリプロピレン(PP)の特性

ポリプロピレン(PP)は上記で述べた通り、私たちの身の回りで最も使用されているプラスチック素材の一つだ。その特性もその多様性が示す通りもっとも加工しやすいといった特性がある。更には冒頭でも述べたがプラスチック素材の中では最も比重(0.90)が小さい素材でもある。

ポリプロピレン(PP)の長所

ポリプロピレン(PP)の最大の長所は、その優れた機械的特性にある。引張強度、衝撃強度、圧縮強度といった機械的強度に優れ、耐摩耗性にも優れている。また耐熱性にも優れていることから、電子レンジにも十分耐えることが可能で、食品を収納する食品用タッパ―の素材としてはおなじみの素材だ。

耐薬品性にも優れ、酸やアルカリ、沸騰水、鉱物油など、多くの薬品に耐えることができる。その柔軟性のある素材という点から、射出成形や押出成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形と、金型を使用した多くのプラスチック成形に対応している。こうしたことからその利用範囲も幅広く、前段と重複するが、自動車用部品から家電部品、包装フィルム、医療機器、日用品、食品容器と、日常のまわりの多くの製品に使用される素材だ。

ポリプロピレン(PP)の短所

多くの長所を持つポリプロピレン(PP)だが、その一方で短所もある。ポリプロピレン(PP)の短所は、耐候性が悪く、日光にあたると白くなるという性質がある。また、接着剤が無く接着が困難な素材でもある。この表面特性は、印刷にも不適合で、表面自由エネルギーの低さからくるものだ。ちなみに印刷が必要な場合は表面処理(コロナ処理)を行う。更にはプラスチックの膨張係数が大きく、熱による変化に弱いといった特性があげられる。

ポリプロピレン(PP)の製法

ポリプロピレン(PP)の生産規模は、一つのプラントで年産おおよそ4万トンから数十万トンに及ぶ。ポリプロピレンの重合には、純度が99.5%以上のポリマーグレードプロピレンを用いて作られる。この際、水分や酸素、一酸化炭素、硫黄化合物は一定量以上含有してはならないことになっている。重合する際の温度は60度から100度の温度が一般的であり、最終的に押出機でペレット状にされる。全世界のポリプロピレンのプラントによる生産能力は62,052千トン、生産実績は50,764千トン、総需要は49,366千トンである。

ポリプロピレン(PP)の加工 製法によって調節しやすい素材

ポリプロピレン(PP)はさまざまな製法に適したプラスチック素材だ。プラスチック成形で代表的な製法である射出成形や、押出成形、ブロー成形真空成形などに最適だ。このように多くの製法に適応させるために、ポリプロピレン(PP)内の分子量を調節することができる。

この際の分子量の指標にはMFR(メルトフローレート)と言われる指標を使っており、これは溶けて流れるときの比率を表したものになる。このMFRが高いと、溶けたポリプロピレン(PP)が流れやすくなり、特にプラスチック成形の王様と言われる射出成形に適した素材になる。MFRが高いと、金型内へ充填することが容易になるため、高圧力ポンプで押し出す射出成形ではスムーズに金型にポリプロピレン(PP)を満たすことが可能だからだ。

ちなみに射出成形は、クオリティの高いプラスチック製品を一気に量産することができる優れた製法。そのクオリティを左右するのは金型内の設計といかにまんべんなくスムーズに溶かした樹脂をいきわたらせることができるかどうかにある。そのために金型内の温度コントロールや、設計の削り出しは、かなりの技術が必要だ。

こうした射出成形の加工特性からもポリプロピレン(PP)は最適なプラスチック素材だと言えよう。またMFRの低いポリプロピレン(PP)の場合、押出成形に適した素材にすることができる。MFRが低ければ、溶けた樹脂が垂れにくいため、ロールなどを使う押出成形には最適というわけだ。ちなみにこのMFR(メルトフローレート)という指標は極めて重要でこのMFRを高くしすぎると耐衝撃性などの物性が低下するため、作る製品の機能と形状によって適切な加工方法と分子量を調節しなければならない。

ポリプロピレン(PP)の表面加工 接着と印刷

ポリプロピレン(PP)の特性でも述べたが、その性質として表面自由エネルギーが低いことがあげられる。表面自由エネルギーとは表面張力とも言われており、この値が低いほど着色や接着といった表面加工がしにくくなる。そのためポリプロピレン(PP)は、この値が低いことから接着加工する際や、印刷加工する際には、表面処理をほどこさなければならない。

接着をしたい場合には、ポリプロピレン(PP)専用の接着剤を購入して使用するのがベストだ。印刷の場合はコロナ処理という放電処理を施すことでプリントが可能になる。一方でプラスチックの素材としては光沢やつやがある素材なため、発色を意識する製品などには汎用性の高いABS樹脂などよりも適している。

明るい色の筐体や発色性を高く表現したい製品に最適な素材と言えるだろう。特に家電製品の筐体やおもちゃ、文房具などは購入するターゲットによって、発色性や明るいイメージのデザインが必要な場合も多い。そんなときには、加工性の高さとともに重宝する素材の一つだ。

3Dプリンターの材料としてのポリプロピレン(PP)

ポリプロピレン(PP)が対応している製法は、金型による従来からの成形方法だけではない。最新のテクノロジーとして注目されている3Dプリンターの材料としても使用が開始されている。詳しくはストラタシスが汎用性の高い3Dプリント材料を発表、ポリプロピレン「ENDUR」という記事をご参照いただければと思うが、3Dプリンターメーカーとして世界的に知られるストラタシスの材料としてポリプロピレン(PP)が利用可能だ。

ストラタシスはFDMとPolyjetという二つの3Dプリント技術を有する3Dプリンターメーカーだが、このポリプロピレンの材料はPolyjetという液体状の樹脂を使ったインクジェット3Dプリンターの方式で硬化する方法。ポリプロピレン(PP)の材料は、そのPolyjet製法をとる3DプリンターObjet Connex、Objet EdenV、 Objet500 Connex3、Objet 30Proといった高性能タイプに対応している。ストラタシスのポリプロピレンを使ったモデルでは、一般の使用にもあるようにケースやカバーなどと言ったパーツが公開されている。

繊維材料としてのポリプロピレン(PP)

ポリプロピレン(PP)はまた、繊維材料としても使用が盛んなプラスチック素材だ。ナイロンは合成繊維として衣類などでなじみ深いが、一方でポリプロピレン(PP)は、衣類としてはほとんど使用されていない。むしろカーペットなどの生活雑貨としての使用や、ロープやテントといった産業用繊維としての使用が盛んだ。

基本的な製法としては、作られたポリプロピレン(PP)を溶融紡糸したものがポリプロピレン(PP)繊維で、ステープルとフィラメント状のものになる。これはポリプロピレンが持つ極度に軽い比重や、軽くても耐久性に優れるということ、さらには水にぬれても強度は全く変わらず、ほとんど水を吸わず、水にぬれてもすぐ乾くという特性から繊維への利用が拡大した。

そのためポリプロピレン(PP)が持つ特性はそのまま引き継いでおり、耐久性や耐酸性などは繊維状になっても変わらない。しかし同時にポリプロピレン(PP)が本来持つ弱点、染めにくい点や、太陽に弱く紫外線の影響を受けやすいという点はそのまま繊維状にしても持っている。こうした点から合成繊維としてはナイロンとの上手い使い分けができている素材だと言える。

まとめ 最も使いやすく汎用性の高い素材

ポリプロピレン(PP)は、これまで述べてきたように非常に幅広い用途に適したプラスチック素材の一つだ。成形方法もプラスチック成形で最も多用する射出成形や真空成形、押出成形に始まり、最新の3Dプリンターでも使用できる。こうした加工のしやすさという特性から、非常に幅広い製品の素材として使用されており、その形状、使い方、用途は多岐にわたる。

デザイン性が求められる家電製品の筐体から、大量生産で、収納などの機能性重視の容器まで様々だ。また、ナイロンと同様、フィラメント状にすることで繊維素材としても使用可能で、カーペットやロープなどではおなじみの素材。このようにポリプロピレン(PP)は数多くあるプラスチック素材の中でも最も汎用性の高い素材だと言えるだろう。

また大量生産系の製品に多く使用されることから、生産量や消費量も非常に多い素材。その特長をおさえることで、多くの製品の開発に使用することができる。

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