液体金属のインクジェット3DプリンターXjet。滑らかさと高速生産を実現

「滑らかさ」と「高速生産」を両立した金属3Dプリンターの開発

2016年度に入り、新たなタイプの3Dプリンターが注目を集めつつある。紫外線硬化を阻害する酸素を排除することで、飛躍的なスピードと圧倒的な精密さを実現したCarbon 3Dプリンター

ピクセルとボックスの融合、Voxelの概念をベースに、プラスチック表面にさまざまな特性を与えることができるHPの高速3DプリンターMulti Jet Fusionなど、新たな進化を遂げつつある。こうした新型3Dプリンターの最大の特長は二つ。第一に、飛躍的な高速生産を可能にしたこと。

第二に、これまでの、積層するという造形とは一線を画す、新たな造形方法により金型成形並みの滑らかさを実現したこと。この二点に凝縮されるだろう。

この二つのポイント、「滑らかさ」と「高速生産」は、3Dプリンターが、これまでの生産技術である金型量産に全くかなわたなかった要素である。射出成形で作り出されるプラスチック製品の滑らかさは、決して積層造形では再現することはできない。また一定数の量産を行う際にも、金型の量産性に比べ積層造形は比肩しようがない。

しかし新たなタイプの3Dプリンターは、金型が持つ「滑らかさ」と「高速生産」を手に入れ、デジタルデータからの完全なるダイレクト生産を可能にすることを視野に入れている。ちなみに、この3Dプリンターの「量産」はプラスチック成形の分野だけではない。

実は金属造形の分野においても、この野心的な取り組みは行われている。本日ご紹介するイスラエルの金属3Dプリンター「Xjet」はこれまでの金属積層造形の概念を覆す、新たなタイプの金属パーツ生産マシーンを開発している。

液体金属のインクジェット3Dプリンター「Xjet」とは

今回ご紹介する金属造形の3Dプリンター「Xjet」は一言で表現するならば、金属のインクジェットタイプと表現することができるだろう。インクジェットタイプの3Dプリンターは、プラスチック素材ではお馴染みの製法のひとつ。液体状の紫外線硬化樹脂を使い、プリントヘッドから霧状で吹付け紫外線を照射して硬化する方法である。

「Xjet」3Dプリンターは、このインクジェット製法を金属素材で実現している。その技術はNPJ、ナノ粒子ジェッティング技術と言われるもので、1ミクロンの10分の1の大きさであるサブミクロンレベルで、金属粒子を吹き付けて造形するもの。

プラスチックのインクジェット造形技術も、ミクロレベルの細かい造形を実現することが可能だが、このNPJ、ナノ粒子ジェッティング技術も従来の金属3Dプリントであるレーザー焼結法や、電子ビーム溶着法などと比べても、比較にならない滑らかさと精密さを実現することが可能だ。

ちなみにレーザー焼結法は金属粉末をレーザービームで焼き固める積層法だが、30ミクロンの精度を誇り、電子ビーム溶着法も45ミクロンの精度を誇る。NPJナノ粒子ジェッティング技術はこの二つの精度を大幅に上回る精度を誇る。

1ミクロンの10分の1のサブミクロンンレベルの金属粒子をインクジェットで噴霧して造形する。
高精細な金属パーツを成形可能。
インクジェット技術の特長である高精細が行かされる。

毎秒2億2100万滴の速度で吹き付けるナノ粒子ジェッティング技術

それではこのNPJナノ粒子ジェッティング技術とは具体的にどのような技術なのだろうか。NPJナノ粒子ジェッティング技術で使用する金属粒子は、液体、すなわちインク状の金属粒子である。そのインク状の金属粒子を毎秒2億2100万滴の速度でビルドプレート上に吹付け体積させることで金属オブジェクトの造形を可能にしている。

さらに噴霧するだけではなく、同時に最大300℃の高温によって加熱しひとつひとつの粒子を融合させる技術である。この1ミクロンの10分の1の大きさであるサブミクロンレベルで堆積し高温融合させることで、粉末焼結などで発生する残留応力による歪みなども発生しない。

またパウダー状よりもさらに細かい粒子を融合させるため、粉末焼結よりもはるかに滑らかな仕上がりを実現できる。機械の使用方法も粉末焼結法のように大規模なものではなく、インクジェットのプリンターのように、インク状のカートリッジを装填するだけだ。

液体金属のインクジェット3Dプリンター「Xjet」動画

超高精細の造形が可能。

高速大量生産も視野に。Autodeskスパークも巨額の投資

このXjetは、イスラエルのシリコンバレーと言われるレホヴォトに2005年に設立されたメーカーだ。このNPJナノ粒子ジェッティング技術の開発にあたっては、50名以上もの専門的な研究開発部門によって開発され、50以上もの特許を取得している。

ちなみにインクジェット技術といえばストラタシスと2011年に合併したイスラエルのObjet社が有名だが、Objet社も元はイスラエルのレホヴォトで設立され、Xjetの開発にもインクジェット技術の創出に関わったObjet社のベテラン技術者が多く関わっているという。

他にも産業用インクジェット技術の先端であるヒューレット・パッカードのHP Scitex社の技術者が参画するなど、Xjetの開発には、インクジェットに関するあらゆる知見を持つプロフェッショナルチームで構成されている。この高度な専門性と画期的な技術により、Xjetは、2016年3月に2500万ドルにも及ぶ資金調達に成功している。

ちなみに大型の資金調達は、2014年度の2200万ドルに続いて2回目。1回目は既存の株主からだが、今回の2回目の資金調達にあたっては、Autodeskが展開する3Dプリント技術のオープンソースプラットフォーム、スパーク投資ファンドを通じて行われた。

実際、これほどの投資と注目を集める要素は、造形精度だけではなく、最終品の量産が期待されているということも挙げられる。XJet機のサイズは250mm×250mm×500mmのビルドトレイを備えており、中型サイズから小型サイズの金属パーツであれば一度に複数を生産することができる。

まさに高精細、高密度の金属パーツをカスタマイズした状態で量産することが可能になる。今後普及していくマスカスタマイゼーションの波に、金属製造の分野でも対応が進みつつある。5月にフロリダで導入が開始された。

巨大なビルドプレートを備え、中型モデルから小型モデルまで大量生産が可能となる。
ステンレススチールなどで使用できる。
小さいパーツならば大量生産も可能。

まとめ 進むマスカスタマイゼーションの波

今回のXjetの登場によって、マスカスタマイゼーションが着実に具現化されつつある。プラスチックの3Dプリンターだがつい先日登場したHPのMulti Jet Fusionもフルカラーの量産マシーンとして進化を遂げつつある。

3Dプリンターにはさまざまな原理のものや素材、用途もさまざまだが、少なくとも最終品レベルのパーツをカスタマイズした状態で量産することができるマスカスタマイゼーションには、インクジェットタイプが一歩先んじているようだ。

インクジェットタイプの最大の特長は極小粒子による高精細と、高耐久、一定数量の同時生産だが、素材の多角化と高速生産性が進むことで、最終品の量産に進化することができる。HPのMulti Jet Fusionも、今回登場したXjetも、今後加速するマスカスタマイゼーションにいち早く対応した最終生産マシーンとして注目が集まりそうだ。

最終品レベルが作れる3Dプリンターはこちらもどうぞ

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。