30年で拡大したデジタル製造の集大成。ストラタシスブースレポート

ハイエンドモデルが主流。導入事例が拡大するストラタシス

今回で第29回目の開催となる設計製造ソリューション展。今年も数々の3Dプリンターメーカーが登場しているが、近年の市場の傾向としてハイエンドタイプの進化と拡大が顕著だ。

特にその技術的進歩によって、試作レベルから機能性プロトタイプや生産の分野まで拡大しつつある。中でも今回ご紹介するストラタシスのブースでは、数々の3Dプリンターを使った事例が登場している。

創業から30周年を迎えるストラタシスだが、今や単なる3Dプリンターメーカーとしてではなく、ソフトやコミュニティ、パーツサービスなど包括的な3Dプリンティングソリューションカンパニーに成長している。

今回は、 未来のデジタル製造を感じさせてくれるストラタシスの展示をご紹介しよう。

FDM開発から30年。その集大成ともいえる展示

ストラタシスは今年で創業から30周年を迎える。現在、数多くのデスクトップタイプの3Dプリンターの元ともなる熱溶解積層法(FDM)が、ストラタシスの創業者 、現会長スコット・クランプによって開発されたのが1988年。

以来、プロトタイプを作るためのデスクトップタイプから、生産レベルまで使用できるハイエンドモデルまでラインナップを広げている。

更に2011年にはインクジェット製法であるPolyJet 3DプリンターのメーカーObjet社と一つになることで、FDMとPolyJet二つのラインナップを武器にデジタル製造の分野でトップを走る存在となっている。今回のストラタシスの展示は、まさに30周年の集大成ともいえる展示が行われた。

ストラタシスの二大ラインナップの進化

ここでストラタシスの二つのラインナップ、熱溶解積層法(FDM)とインクジェットタイプであるPolyJetについて簡単にご紹介しよう。

FDM 熱溶解積層法

まず初めに熱溶解積層法(FDM)は、3Dプリントの代表ともいえる技術で、金型で使用される本物の熱可塑性樹脂と同じ材料を扱えるのが特長だ。

熱可塑性樹脂とは、現在世の中に存在するあらゆる製品に使用されているプラスチック材料で、これまで金型での利用が中心であったがストラタシスのFDMテクノロジーの進化によって、3Dプリンターでの利用も登場しつつある。

PolyJet インクジェットタイプ

一方、インクジェットタイプのPolyJetテクノロジーとは、液体状の紫外線硬化性樹脂を使い造形するタイプのものもの。その特長は、ハイエンドタイプでは高精彩で滑らかな質感をもち、あらゆる表現が可能になる点にある。

最大50万色のフルカラー表現に加え、場所によって物質の特性、硬さや軟らかさを変えることも自在にできる。更には他の製法ではまねできない、3Dプリンター樹脂型、デジタルモールド®も作ることが可能だ。

そして今回の展示ではこうした二つのラインナップが驚くべき進化を遂げている。

進化する熱溶解積層法(FDM)。最終品パーツから治具、エンボス加工まで実現

今回登場したストラタシスブースでは、熱溶解積層法(FDM)の多彩な事例が登場している。一般的に他社の安価な熱溶解積層法(FDM)3Dプリンターでは、プロトタイプなどが中心となるが、ストラタシスでは最終品から治具、まで幅広い用途に対応している。

炭素繊維配合ナイロン12に特化。Fortus 380 CF

ストラタシスの熱溶解積層法(FDM)3Dプリンターで新たに登場した機種がFortus 380 CFだ。ストラタシスの熱溶解積層法(FDM)の一つの特長が多彩な熱可塑性樹脂を使用できる点にあるが、Fortus 380 CFは炭素繊維配合のナイロン材料に特化している。

ナイロン12は最高レベルの靭性を持つ材料として知られ、そこに軽くて強度を持つカーボンファイバーを35%の割合で配合することで、エンジニアリングレベルのパーツ製造を可能にしている。

近年、自動車や航空機など、金属の代替パーツとして、軽量高強度なエンジニアリングプラスチックが注目されているが、炭素繊維配合のナイロン12はまさに軽量・高機能なパーツ製造に最適といえる素材だ。

また、Fortus 380 CFは、あえてこの材料の造形に機能を特化することで、他のFDMよりもより手頃な価格で高機能パーツの3Dプリントを利用することが出来る。

カーボンファイバー配合ナイロンで、軽量強化パーツの造形ができる。

シボやエンボスなど微細な造形に進化するFDM

今回のストラタシスの熱溶解積層法(FDM)3Dプリンターの展示でもう一つ注目すべき点が、FDMの造形精度の向上だ。これまで熱溶解積層法(FDM)は、インクジェットなどとくらべ、積層跡が目立つなどの表面の滑らかさの点で、課題が残ると言われていたが、その表面の造形精度も驚くほど向上してきている。

例えば、従来は金型などでしか表現することが出来なかったシボやエンボスといった表面加工も、FDM 3Dプリンターで実現することができる。熱溶解積層法(FDM)の造形レベルも微細さや滑らかさが向上すれば、より最終品製造のバリエーションも拡大することが期待できる。

進化するFDMの造形レベル。表面の表現力も微細な造形が可能に

治具の事例。作業を1時間から10分に短縮し生産性を大幅に向上

ストラタシスの熱溶解積層法(FDM)では、治具の生産も利用が加速している。治具とは、生産工程の中で、組立や塗装、検品など、作業者が作業を行う際に、パーツを固定するためのツールだが、この治具には高いカスタマイズ性が求められる。

従来の金属からAMによる樹脂化、さらにスパース構造による軽量化を行い、作業の効率化と負担軽減を実現。

作業の対象となるパーツや製品にあった最適な形状が必要だからだ。今回の展示ではさまざまな用途で使用される治具が登場している。例えば、フォークリフトのメーカーとして有名な豊田織機では、機体の塗装作業のための治具をストラタシスのFortus 900 mc で作ることで生産効率を大幅に向上させている。

従来は、罫書きといわれる手法(マグネットや糸などによって塗装ラインを手作業で決める作業)で行っていたが、この治具の開発によって作業時間は1時間から10分まで短縮することが可能となっている。また、この治具の開発にあったっては、トポロジー最適化によって最適な形を解析し、強度を保ったまま中空にすることで、 コストとリードタイム、作業者の負担軽減といった、さまざまなメリットをもたらしている。更に、Fortus 900mcで大型の治具を一括造形できる点も大きなメリットである。こうした造形ができるのもハイエンドなストラタシスの熱溶解積層法(FDM)ならではと言える。

豊田自動織機が開発した治具。最終的にはトポロジー最適化で超軽量化を実現。

ASA樹脂。自動車のバンパーを3Dプリント

ストラタシスの熱溶解積層法(FDM)の多彩な材料の一つがASA樹脂だ。ASA樹脂は強度と耐久性に優れるABS樹脂の耐候性を強化した樹脂だ。このASA樹脂は耐候性を強化することで、紫外線などの外的環境からも強く、性能や見た目の変化が少ない材料であり、同時にABS樹脂の持つ耐久性を併せ持つ材料である。

長時間、外の環境で使用されることを想定したパーツ製造に最適ともいえる材料で、まさに自動車用パーツなどに最適である。

ASA樹脂で作られた自動車のバンパー。耐候性と耐久性を併せ持ち、機能テストもできる。

デジタルモールドが進化。多彩な用途で使用が拡大

今回の展示のもう一つの目玉がPolyJet 3Dプリンターで作られるデジタルモールドの展示だ。デジタルモールドは、たびたびご紹介しているPolyJet 3DプリンターとデジタルABSで作り出される3Dプリント樹脂型だが、その用途は驚くほど拡大してきている。

薄さ0.3mmのプレス加工に対応。進化するデジタルモールドプレス

デジタルモールドは射出成形用の金型として開始されたが、金属加工のプレス加工でもその用途を拡大している。以前、「金属プレス加工が進化。デジタルモールド・プレスの力」という記事で、金属加工の分野にまで進出するデジタルモールドをご紹介したが、その後進化を遂げ、なんと薄さ0.3mmのプレス加工にも対応しつつある。

一般的にプレス加工は、金属の金型で金属をプレスし形を作り成形していくが、そのさいの課題として、金属の塑性によって、キズが付く可能性がある。そのため金属プレス加工では、プレスする金属の種類に合わせて金型を調整しなければならない。

しかしデジタルモールドプレスであれば、型そのものがデジタルABSという強靭な樹脂で作られているため、プレスの圧力が加わっても強金属ぞれぞれの塑性に合わせて金型の方が調整しキズをつけずに造形してくれる。

右側のデジタルモールドでの曲げではショックラインと呼ばれるキズが発生しない。また、目では確認しづらいが、板厚やサイドの寸法変化など、成形後に差が出ている。

これによって作り出された成形品はわずか0.3mmのアルミでも実現可能となった。

下記は、2019年春運行開始予定の西日本旅客鉄道の観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」のティンパネルのテストモデルだ 。最終的に搭載されるティンパネルはデザインや材質は異なるが、デジタルモールドによるプレス成形のメリットを伝えるために制作したモデルだ。

0.3mmの薄い板厚で、曲線や隣接する直線の絞り形状の再現など、金属金型では再現が難しいような設計も、デジタルモールドであればワンショットで成形することができる。

複雑で薄肉も可能。医療の手術用モデルにも進出

デジタルモ ールドは更に、通常の射出成形の分野でも進化を遂げている。今回も有限会社スワニーの橋爪氏が実演を行ったが、難易度の高い薄肉で複雑なデザインの射出成形にも対応している。

デジタルモールドを手掛けるスワニーの橋爪氏。

更に、デジタルモールドは、以外な分野でも革新的な利用方法が開始されている。それが医療用の手術用モデルだ。現在、手術のシミュレーションはVRなどデジタルで行われているが、このデジタルモールドを使った手術用モデルを使用すれば実際のリアルなオペを体験することが出来る。

伊那食品工業の独自ノウハウを活かした、新たに開発されたデジタルモールド専用材料。

これはデジタルモールドを手掛ける有限会社スワニーと、「かんてんぱぱ」ブランドを展開する伊那食品工業株式会社が共同で手掛け、ストラタシスも技術支援を行ったもの。

デジタルモールドに伊那食品工業が開発した独自素材を流しこみ、内部にストラタシスのPolyJet 3Dプリンターで造形した血管モデルなどを入れ、臓器モデルを忠実に再現することが出来る。この材料はこのアプリケーションのために開発された専用材料だ。

この手術モデルを使えば、シミュレーションとは違ったリアルな手術の訓練が可能となるものだ。今回は技術展示であり、実際のビジネス化は今後の発表で行われるようだ。

このほか多彩な表現力を持つPolyJet 3Dプリンターの用途として、金型のモールドベースや、ストラタシスJ750の表現を変えるVivid Colorで作られたAudiによるテールランプなども 登場している。

Vivid Color で造形したテールライトカバー。ハウジングはVeroBlackで造形しメッキを施している。

まとめ 金属用3Dプリンターの造形モデルも登場

ストラタシスは現在、熱溶解積層法(FDM)とインクジェットのPolyJet、二つのテクノロジーによる3Dプリンターを提供しているが、その分野のリーディングカンパニーだけあって、その導入事例や用途は、多彩で他社にはないデジタル製造の広がりを見せている。

また、今回は、詳細は公開されなかったが新たに開発を進める金属用3Dプリンターの造形モデルも展示された。金属3Dプリンターは、航空機や自動車などのパーツ製造で注目が集まる分野だ。

ついに登場した金属3Dプリンターの造形モデル

またその製法もレーザー燒結法であるSLSやDMLSをはじめ、レーザー溶融法であるSLM、電子ビーム溶解法など、多彩なアプローチの金属造形が登場している。ストラタシスが開発する金属3Dプリンターの概要やテクノローの詳細はいまだ明かされていないが、アルミで作られた造形モデルからは、その高い精度がうかがえる。

今後の発表に期待が集まりそうだ。

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