「ものづくりのイノベーター」を生み出す職業能力開発総合大学校

「ものづくりのイノベーター」を生み出す大学校

職業能力開発総合大学校は厚生労働省所管の省庁大学校で、日本のものづくりを支える人材を育成する大学校だ。一言で「ものづくり」といってもその範囲は非常に幅広い。

製品企画から開発、加工、生産など幅広い分野を含む。そこでは各専攻20名程度といった少人数のものづくりスペシャリストの実践教育が行われており、学校内にものづくり現場を作り出し、即戦力となる技術者を育成している。

例えば総合課程においては、単なる製品開発だけではなく、実践的な製造技術、更には生産プロセス全体を管理できる「ものづくりイノベーター」を生み出すことを目的としている。

機械専攻コースは未来の技術を創造する人材を育成する

中でも今回ご紹介する機械専攻では、材料や機械などの基礎的な知識から、設計、加工、計測、生産システムに至るまで、製品を生み出す一連のプロセスを学ぶことができる。

このコースを卒業した学生たちは、自動車や家電、ロボット、航空機といったメーカーから、工作機械や金型など、日本の製造業の中核を担う業界へ進んでいる。

なぜこれほど実践的なものづくり教育が可能なのだろうか。それは、まさにリアルな製造現場そのものの環境で学ぶことができるカリキュラムや設備があるからだ。

自動化やIoTなどこれからのものづくりを担う人材を育成している。

本物の製造現場で“ものづくり”の基礎から実践を学ぶ

一般的に大学での勉強というと講義スタイルをイメージしやすい。もちろん職業能力開発総合大学校では講義形式での授業も存在する。

しかし、その授業の多くは演習や実験、実習といったより実践的な技術力を習得するカリキュラムに費やされる。中でも特徴的なのが、メーカーの製造現場や加工現場そのままの環境を使い、実際のものづくりを通して技術の習得ができることである。

3つのカリキュラム。ものを作る加工から生産プロセス全体まで学ぶ

機械専攻のカリキュラムは大きく分けると3つの実習に分けることができる。

それが機械工作実習と精密加工実習、メカトロニクス実習だ。このカリキュラムの最大の特徴は、この3つの実習をとおして、“モノ”を形にする基本的な技術から、より精密で複雑な加工技術、更にはセンサーやモーター、プログラミングなどを組み合わせた“生産プロセス”まで学ぶことができる点にある。

ものづくりの基本から応用まで学ぶ

機械工作実習。手仕上げから旋盤、フライス盤、溶接まで基本を学ぶ

3つのカリキュラムの基本となる部分が機械工作実習だ。

この実習では、ものづくりの基本である加工技術を学ぶことになる。ものづくりの一番の基本は手による加工だが、ここでは手仕上げから、材料に力を加えて変形させる塑性加工、溶接などを学ぶことができる。

塑性加工では、プレス機を使ったプレス加工や、フライス盤や旋盤などの切削加工など、幅広い加工方法を実際の工作機器を使用して習得する。

溶接なども一人1ブースの溶接設備が利用可能で、多様な加工技術を学び身につけることができる。

基本の手作業から学ぶ

精密加工実習。金型や精密機器を図面から作り公差や精度を学ぶ

機械加工実習で基本を学んだあとは、より複雑な加工や組立を学ぶことになる。それが精密加工実習だ。

ここでは、機器の取り扱いだけではなく、本物の金型や精密機器を作ることで、仕様や図面の作り方、そして公差や精度といった、ものづくりに影響を与える“品質”の部分も学ぶことになる。

この実習では、より複雑で正確なものづくりが身につくとともに、自主的により良いものを生み出す力がつくようになる。

精密な機械加工を実習で学ぶ

メカトロニクス実習。“自動化”と“IoT”の入口まで学ぶ

精密機械実習の発展となるカリキュラムがメカトロニクス実習だ。

センシング技術やモーターなどを使い、メカトロニクスの設計と製作を行う。ここでは精密機械実習で培った技術を使い、複雑さと正確さが求められるメカトロニクスのパーツや筐体などを作り出す。

また同時に、プログラミングや配線を駆使して機械を正確に動かす技術も学ぶ。

ちなみにメカトロニクスとは、機械工学、電気工学、電子工学、情報工学の融合のことで、これからの時代のキーテクノロジーである“自動化”や“IoT”の入口ともなる技術だ。

下記は、実習で学生たちが作り出したメカトロニクス製品だが、製品の大きさによって自動で振り分けるシステムを備えた機械だ。

メカトロニクスで作られた機械。

マシニングセンタからレーザー加工機、射出成形機までそろう

こうした「ものづくりのイノベーター」を輩出するカリキュラムをより充実させるのが、本物の製造設備だ。職業能力開発総合大学校には、実際の製造現場や工場そのものの設備がそろう。

ここではあらゆる加工機や製造設備が整っており、学生たちは、こうした設備を使いこなすことで、実践的で最先端なものづくりの技術を習得することができる。

上記であげた溶接ブースやプレス加工機に加え、NC旋盤やマシニングセンタなどの切削加工機、更にはレーザービームで溶接するレーザー加工機や、金型量産を行うための射出成型機まで配備されている。その環境はまさに工場そのものだと言えよう。

溶接ブース。一人1ブースで学ぶことができる。
マシニングセンタで精密加工もできる。
さまざまな金属加工に対応している。

製造現場に必須の「5S」も学ぶ

職業能力開発総合大学校のカリキュラムの特徴の一つが、ものづくりの在り方も学ぶ教育内容だ。上記でご紹介したようなさまざまな製造機械を実習を通して使うが、ものづくりの精度を保つために必須の「5S」の概念もしっかりと学ぶ。

「5S」とは、整理、整頓、清掃、清潔、躾の5つの頭文字をとった概念で、製造現場を常に清潔に保ち、より高品質で不良が無いものづくりを目指すというもの。

実習を通してものづくりに必須の5Sを習得するツール

この概念はものづくりを行ううえで基本であるとともに最も重要な概念で、故障がない品質を保つとともに使う人達の安全性にも関わる部分だ。

例えば、エレクトロニクス製品などの不良を防ぐのもこの「5S」であり、日本製品の優れた品質の根本を支える概念だ。

日本のものづくりを支える高い品質も学ぶ

3Dプリンターも配備。プロトタイプ開発や製品設計のデジタル化も

職業能力開発総合大学校では、従来からある切削加工や金型だけではなく、デジタルものづくりの核となる3Dプリンターも配備し、プロトタイプ開発や製品設計での利用も始まっている。

既にカリキュラムや実習の過程では、3DCAD設計などを使っていることから、3Dプリンターでの利用も登場している。

3Dプリンターも開発に使用されている。

まとめ。基本から最先端の自動化、デジタル化まで学ぶ

職業能力開発総合大学校の機械専攻では、工場さながらの多様な製造設備を通して、ものづくりの基本から実践、更には最先端の技術まで身につけるカリキュラムを提供している。

そこには、基本的な加工技術だけではなく、「5S」といったより良いものづくりを行うための概念、更には、未来のものづくりに求められるファクトリーオートメーションに関わる技術の習得までが含まれている。

例えば、メカトロニクス実習では、自動化やIoTに関する一連の技術を、実習を通して学ぶことができる。また、3Dプリンターの利用は、製品開発の効率化や幅の拡大を学ぶことにつながっている。

こうした一連のカリキュラムは、まさに「ものづくりのイノベーター」を生み出す取組だと言えよう。

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