3Dプリンターでメガネを作る動き
3Dプリンターを使って試作から最終品まで作る動きが盛んな分野がメガネです。主にメガネのフレームを3Dプリンターでダイレクトに造形し作るという取り組みです。
メガネは視力を補助してくれる必需品としての役割だけではなく、ファッションアイテムとしても広く使用されている製品です。視力だけではなくフィット感やデザインなども個人の要望に応じたカスタマイズがメガネの3Dプリントに適しているといえるでしょう。
そこで今回はメガネにおける3Dプリンターの使用状況や、その影響、そしてメガネに最適な3Dプリンターと材料などをご紹介します。
メガネの3Dプリントに求められる機能
それではメガネフレームにはどのような機能が求められるのでしょうか?形状確認のみのプロトタイプであれば、データ通り出力するだけで問題ありませんが、最終品として使用される場合には、以下の要素が求めらます。
メガネの3Dデータの作成・入手方法
初めに3Dデータを用意する必要があります。STL形式かOBJ形式の3Dデータがあれば3Dプリントが可能です。
3Dモデリング
3Dデータを作るにはデータそのものを3Dソフトで作る3Dモデリングという手法もあります。メガネの3Dデータの場合にはBlenderやZbrushといった3DCGソフトでつくるか、Fusion360のような3DCADソフトがおすすめです。一から自分で作ることもできますが、フリーの素材などを利用して途中から改良する方法などもおすすめです;。
フリーの3D素材を利用する
フリーの3Dデータから素材をダウンロードする方法もあります。無料で利用できる3Dデータサイトが複数存在します。例えばThingiverseなどの無料3Dデータサイトで「Glasses」で検索すると複数無料データがダウンロード可能です。
メガネの一部を3Dプリントするベストな造形方式は?
上記で、メガネのフレームを3Dプリントする際に、求められる機能を4点、①強度、②軽さ、③フィット感、④見た目を上げましたが、どの造形方式がよいのか、各ポイントごとでご紹介してまいります。
一般的にデスクトップの3DプリンターはFDM方式と光造形方式の2種類がありますが、メガネの場合、強度や見た目の仕上がり感などを考えると、光造形方式かレーザー焼結方式が最適です。
下記はメガネを3Dプリントする場合の光造形とFDM方式の項目別の評価です。
光造形 |
SLSレーザー焼結法 | |
表面の滑らかさ |
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〇 積層跡はつかないがざらざらしている。研磨すると◎ |
高精細さ |
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△ 推奨が100~200ミクロン |
後加工性 |
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コスト |
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造形サイズ |
◎ メガネは造形サイズが小さいのでデスクトップで可能 |
◎ メガネは造形サイズが小さいので可能 |
光造形3Dプリンターでメガネを作る場合
光造形3Dプリンターはメガネを作るのに仕上がり、強度は適しています。滑らかで高精細な造形ができる点や、造形後の研磨や塗装などの後加工がしやすい点などもおすすめです。さらに高強度で靭性が強いレジンを使用すれば、メガネにも使用が可能です。最終品として生産するにはハードルがありますが、プロタイプでは最適です。
レーザー焼結 3Dプリンターでメガネを作る場合
レーザー焼結 3Dプリンターでメガネを作る場合、材料費が安く、低コストで作ることができます。材料がナイロン系のパウダーを使用するため、高強度かつ精度が高い造形ができます。またサポート材がつかないので後加工がしやすいです。
光造形3Dプリンターでメガネを3Dプリントする方法
それでは実際に3Dデータを使ってメガネを光造形3Dプリンターで作る方法をご紹介してまいります。
Form3+がメガネの3Dプリントにおすすめな理由
メガネの3DプリントはForm3を使って進めます。Form3は高精細、滑らかな造形が特長ですが、他の光造形3Dプリンターと比べて以下のような際立ったメリットがあるためメガネフレームの3Dプリントには最適です。またタフ1500とデュラブルという靭性が強い材料がおすすめです。
おすすめポイント |
おすすめな理由 |
高精細・滑らかな造形が可能 | SLAを進化させたLFSテクノロジーという造形技術で、どのプリント場所でも高精細で継ぎ目のないプリントができる。 |
高い安定性・失敗しない | プリント設定が自動で行ってくれるため、形状やレジンの種類ごとに細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できる。 メガネの場合柔らかいタフ1500やデュラブルというレジンを使用するため、材料安定性は重要になる。 |
簡単な操作性 | ソフトウェアが非常に使いやすく、メガネのような穴が開いた複雑な形状に応じたプリント方向、サポート設定が求められる造形物には操作性が求められる。 |
豊富な積層ピッチ | 25ミクロン、50ミクロン、100ミクロンと豊富な積層ピッチが選択できる。 (デュラブル、タフ1500は50ミクロン~) |
使用するメガネのデータ
光造形3Dプリンターでどこまで造形できるかを検証するため今回はいろいろなタイプのプラモデルをプリントしてみます。
使用するレジン
メガネを3Dプリントする滑らかさや精細さ、さらには折れない高強度が求められるため、最も最適なタフ1500とデュラブルを選択します。
タフ1500
タフ1500はPPライクといわれる靭性が強いレジンです。メガネフレームのように折り曲げても折れない強度が求められるモノの3Dプリントに最適です。
デュラブル
デュラブルはPEもしくはPETライクといわれる材料です。タフ1500ほどの柔軟性はありませんが、程よい硬さと柔らかさを併せ持つ高強度材料です。
プリント設定
3Dプリンタ―に送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというForm3専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormでは使用するレジン、積層ピッチや大きさ、プリント方向、サポート材の付け方を設定します。
積層ピッチの選択
メガネは、表面のフレームの滑らかさなどが求められる形状なため、デュラブルレジンもタフ1500レジンも50ミクロンでプリントを行います。
サポート材の設定
メガネフレームは輪になっている形状なため、崩れないようにサポート材を多めにつけてプリントします。
プリント完了後
プリントが完了するとビルドプラットフォームに吊り下げられて造形されます。その後ビルドプラットフォームから取り外し、洗浄と乾燥を行います。
ビルドプラットフォームから取り外す
光造形3Dプリンターでは、ビルドプラットフォームにしっかりと造形モデルがくっついています。Form3の場合はラフトとビルドプラットフォームの設置面が真空状態になっており専用工具を使用して取り外します。
専用工具の中でも取り外しやすいのがヘラとハンマーです。ビルドプラットフォームから取り外す際に必要なポイントは、造形物を傷つけないという点と、ビルドプラットフォームの表面を傷つけないという点が必要です。ビルドプラットフォームも傷が深くなると交換しなければならなくなるためです。
まずラフトとプラットフォームの間にヘラをあてます。
次に軽くハンマーでヘラをたたきます。この際、加える力はほんの軽くで大丈夫です。ヘラが少しでも入れば、そこから空気が入り込み、真空状態が無くなり簡単に造形物が取れます。
洗浄
造形物の取り外しができた後は、エタコールで洗浄を行います。洗浄にはIPA(イソプロピルアルコール)やエタノールなどがありますが、第二種有機溶剤に該当しないエタコールがおすすめです。
仕上げキットを使用する場合
仕上げキットを使用する場合、各バスケットに10分ずつ、合計20分程度ひたしてください。洗浄時間はエコタールの濃度によって異なります。洗浄が続き汚れている場合には少し長め、もしくは別途、エタコールで拭き取ってください。
FormWash(自動洗浄機)を使用する場合
FormWashでは、自動で攪拌してくれて洗浄完了後、引き上げてくれます。こちらも20分程度洗浄を行ってください。
乾燥
エタコールで洗浄後は乾燥をおこなってください。乾燥時間は1時間以上あれば十分ですが十分洗浄液が乾いた状態まで乾燥させてください。
サポート除去
さてここからはサポートの除去を行ってまいります。サポート材は手でも取り外すことができますが、なるべく造形物を傷つけたくないので、ニッパーを使って取り外していきます。
3Dプリントされたメガネの研磨方法
3Dプリンターで造形しサポート材を除去したあとは、研磨で綺麗に仕上げます。
研磨は手で行う方法とブラストを行う方法がありますが、ここではやすりを使用して行う方法でご説明します。一般的に研磨は面倒で手間がかかると思われていますが、やり方を覚えると、驚くほど簡単に造形物を綺麗に仕上げることができます。
研磨を簡単にする正しいやり方とは?
それでは研磨を簡単にするにはどのような方法をとればよいのでしょうか?実は、研磨はきちんとしたステップを踏めばとても簡単にできてしまいます。まず研磨を行うにあたり、基本的な疑問があります。
第一が、どの番手から始めたらいいか?
第二が、どのぐらいの時間を研磨すればよいのか?
この二つさえ把握すれば以外にスムーズに手間なく研磨は終了します。
①番手を細かく刻んで行う
第一に研磨は表面の凹凸レベルによって粗い番手から徐々に細かく刻んでいきます。ここでポイントとなるのが、番手を大きく飛ばさないということが必要です。例えば、400番手からいきなり1000番手のような形で番手を細かいものにすると、研磨は大変です。
まず400番手から初めて、次に600番手、800番手、1000番手、1200番手と徐々に細かくしていきます。
②一つの研磨時間は数十秒
研磨を行うとき、多くの方々が長時間磨かなければならないと思っていますが、一つの番手で研磨する時間は数十秒で大丈夫です。
研磨箇所を特定し研磨する
今回の出力した車の模型では、下記の箇所を研磨します。1か所につきやすりを5つの番手で各数十秒ずつ行います。最後の仕上げに耐水ペーパーで行うと綺麗に仕上がります。
表面ガラスコーティングで防汚、防傷
最後に表面をコーティングすることで防汚、防傷効果によって長持ちすることができます。
ナノメタルコーティング
ナノメタルコーティングは希少金属であるレアメタルを配合した高性能のコーティング材です。防汚防傷効果があり、表面を薄いガラス被膜で保護します。
タフ1500でメガネフレームを3Dプリントした場合のコスト・リードタイム
下記はタフ1500でメガネフレームを3Dプリントした場合のコストとリードタイムです。
積層ピッチ | 50ミクロン |
レイヤー数 | 1452層 |
造形時間 | 15時間30分 |
材料使用量 | 49.42ml |
材料コスト | @1,077円 |
デュラブルでメガネフレームを3Dプリントした場合のコスト・リードタイム
デュラブルでメガネを3Dプリントした場合のコストとリードタイムは以下の通りです。
積層ピッチ | 50ミクロン |
レイヤー数 | 1139層 |
造形時間 | 16時間49分 |
材料使用量 | 34.14ml |
材料コスト | @744円 |
レーザー焼結3Dプリンターでメガネを3Dプリントする方法
次に3Dデータを使ってメガネをレーザー焼結3Dプリンターでつくる方法をご紹介してまいります。
Fuse1がメガネの3Dプリントにおすすめな理由
メガネの3DプリントはFuse1を使って進めます。Fuse1はレーザー焼結3Dプリンターで初ともいえるデスクトップ型の3Dプリンターです。窒素ガスを使用しないため、特別な工事や設備工事を行わなくてもオフィスでも使用できるレーザー焼結3Dプリンターです。最終品としてメガネを3Dプリントする事例をのちにご紹介しますが、ほとんどがレーザー焼結法とナイロンによる3Dプリントです。
おすすめポイント | おすすめな理由 |
高強度・高精度の造形ができる | レーザー焼結法はナイロンパウダーにレーザービームを照射して焼き固めて造形物を作る製法です。Fuse1はサポート材がつかず、高精度で作ることができます。 |
高い安定性・失敗しない | プリント設定が自動で行ってくれるため、細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できます。 Form3同様プリント設定が不要なため安定性が高いです。 |
高い生産性 | 材料コストが安く、サポート材がつかず、さらに材料の再利用が可能なため、高い生産性を持つ。 |
使用する材料
メガネには強度が求められますがFuse1ではナイロン12でプリントします。
プリント設定
3Dプリンタ―に送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというFuse1専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormはForm3と同様のソフトウェアでFuse1に切り替えができます。Fuse1はサポート材がつかないので、立体物の範囲にどのように配置するかを決めます。
サポート材の設定
Fuse1はサポート材が必要ありません。ナイロンパウダーを積み重ねながらレーザービームを照射して固めるのですが、周りのナイロンパウダーがサポート材の代わりになり造形物を支えてくれます。
プリント完了後
Fuse1はプリント完了後、冷却期間がプリント時間の半分ほどかかります。その後、冷却が終わった後はFuse Shiftで余計なパウダーを取り除きます。
FuseShiftから取り外す
Fuse1のようなレーザー焼結3Dプリンターは、造形後にパウダーの中に埋まっています。余分なパウダーをFuseShiftで吸引し、取り出します。その際、余分なパウダーは再利用が可能になります。ナイロンパウダーは非常に粒子が細かいので、完全に取り除くまでかなりの吸引が必要です。
Fuse1でメガネを3Dプリントする場合のコストやリードタイム
Fuse1でメガネを3Dプリントする場合、1個でプリントするよりもまとめてプリントしたほうがコストや時間もお得です。下記は11セットまとめてプリントすることを想定したコストや時間です。
レイヤー数 | 1651層 |
造形時間 | 14時間45分+12時間48分(冷却時間) |
パウダー量 | 3.09㎏ |
トータル材料コスト | 36,565円 再利用分含む |
1個当たり | @3,324円 再利用分含む |
拡大するメガネの3Dプリンター製造事例
3Dプリンターでカスタムフィットメガネを作る動きは数年前から広がりつつあります。手法はさまざまで、3Dスキャナーで個人の顔のデータをスキャニング後に3Dプリントする手法や、オンライン上でカスタマイズする方法、もしくは製造だけ3Dプリンターで行っている企業などさまざまです。
事例1 JINSの3Dプリントサングラス「Neuron4D」
日本のメガネ―メーカーでトップシェアを誇るJINSも3Dプリンターを使ったメガネ製造に挑戦しています。CLIP製法で有名なCarbonの3Dプリンターを使い、サングラスを3Dプリントしました。
JINSの3Dプリントサングラス「Neuron4D」はラティス構造の独自の構造を実現し、0.1mm単位で硬さのグラデーションを実現するという3Dプリンターでしか実現できないサングラスとなっています。「テンプルエンドに向かうほど柔らかくなる設計」(JINSプレスリリース)です。
Carbon社はアディダスのスニーカーを3Dプリンターで製造するなど3Dプリンターを使った最終品製造に多く活用されています。
事例2 HOYAの完全カスタマイズ3Dプリントメガネ
光学機器、レンズメーカーとして有名なHOYAの3Dプリントメガネです。HOYAの提供する3Dプリントメガネは、個人個人の顔をスキャニングすることで、一人ひとりの顔形にあったフレームと、視力にあったメガネを提供するサービスです。
フレームは3Dプリンターで作られ、その人の鼻や目の位置などに対応し完全にカスタマイズされます。HOYAでは専用のスキャニングソフトを開発し、各店舗の店頭でスキャニングし、ユーザーの顔の完全な3Dモデルを生成します。その後用途(スポーツ用や自宅用など)をヒアリングし、用途にあった形でレンズとフレームがカスタマイズされます。
その3Dデータをもとに、レーザー焼結(SLS)3Dプリンターとナイロン12によって3Dプリントされます。
事例3:セイコーのオンラインカスタム3Dプリントメガネ
時計などで有名なセイコーもメガネの3Dプリントカスタマイズを提供しています。セイコーの場合は、完全にオンライン上でカスタマイズし、3Dプリントして提供するというもの。
セイコーオプティカルヨーロッパが手がける「Xchanger」と言われるスポーツアイウェアで、用途に応じてデザインが変わり、レンズやフレームの各部位(フロントやサイド、テンプルなど)のカラーを選択することができます。
用途はゴルフ、サイクリング、スキー、ウォータースポーツ、スカイダイビング、ランニング、モータースポーツの6種類で、価格は399ユーロです。こちらの製造はベルギーの3Dプリントサービス、マテリアライズと提携して行い、レーザー燒結法(SLS)3Dプリンターとチタンよりも軽い独自の生体適合性材料が使用されます。この3Dプリントメガネはメガネのアカデミー賞SILMO D’OR(シルモドール)賞を受賞しました。
事例4:Hoet。オーダーメイドの3Dプリントチタンメガネ
メガネフレームの製造そのものに3Dプリンターを取り入れるケースも登場しています。Hoetは、ベルギー生まれのアイウェアメーカーです。Hoet COUTUREといわれるシリーズが3Dプリントメガネで、4年間の研究開発を経て、チタン製の3Dプリントメガネを発売しました。
このコレクションは12のモデルのラインナップを持ち、ナチュラルカラーからダークグレイにコーティングされます。またこのHoet COUTUREシリーズは在庫を持たない完全オーダーメードの3Dプリントメガネで、注文に応じて生産されます。
フレームのデザインは3Dプリンターならではのもので、中空の微細な形状をしており、従来の製法では作ることができない形をしています。また注文に応じてゴールドやプラチナ、マウンドダイヤモンドなどで装飾されるほか、独特な刺繍がデザインされます。この3Dプリントメガネはどちらかというとアートの域まで高めたメガネです。
事例5:MONOQOOLのネジなし3Dプリントメガネ
MONOQOOLは、3Dプリンターでメガネを作る専門会社です。同社では、従来のメガネフレームに使用されるネジやナットといった部品を使用しない一体型のメガネフレームを3Dプリターで作っています。
MONOQOOLはレーザー燒結法(SLS)3Dプリンターとナイロンポリアミドによる軽量&丈夫なメガネフレームを手掛けており、快適さとデザインの両立を標榜しています。
またデザインも独得の形をしており、同社が本社を構えるデンマーク・スカンジナビアの伝統デザインをルーツに開発された3Dプリントメガネを提供します。どのメガネも非常にスタイリッシュで、耐久性が高いナイロン素材のおかげで、超薄型軽量フレームでなんと4gを実現しています。ユーザーは各フレームを選択し、カラーや寸法をカスタマイズしてオーダーすることができます。
まとめ
3Dプリンターでメガネを作る取り組みはまだ始まったばかりです。レーザー焼結法や高強度なナイロンを使ったマスカスタマイズでの利用も開始し始めており、最終品の3Dプリンターの利用では進んでいる分野の一つです。是非メガネの3Dプリントに関して気になる点などございましたら、お気軽にi-MAKERまでお問い合わせください。