3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを作る方法 

3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを作る

3Dプリンターで作れるものとして、エンクロージャーやハウジングなども作ることができます。エンクロージャーやハウジングは、電子機器などの機械のケースのことをいいます。いわゆる筐体といわれるもので、内部にセンサーや回路基板といった電子部品を収め保護することを目的としています。

こうしたエンクロージャーやハウジングの設計や開発にも3Dプリンターのオンデマンド性やカスタマイズ性が活かされます。

最近では3Dプリンターの材料も高強度な材料や、ESD(静電気放電・保護)用材料などが登場しており、こうした材料を使ってオンデマンドに3Dプリントすることで、開発から小ロットの製造まで、コストに優れたものづくりを実現することが可能です。

今回は3Dプリンターでエンクロージャーやハウジングづくりがどのようにモノづくりの現場で役立てるのか?どの3Dプリンターの造形方式が最適なのか、作り方やコスト、リードタイム、など、製品開発に役立てる内容をご紹介したいと思います。

エンクロージャー・ハウジングにはどんな種類が存在するのか?

まず3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングの作り方をご紹介する前に、エンクロージャー・ハウジングはどのようなものがあるのでしょうか?現代の電子機器やIoTの時代、あらゆる機械製品が登場しており多種多様です。 

スマートフォンからテレビ、パソコンといった電子機器から、IoTデバイスなどエンクロージャーやハウジングはあらゆる大きさ、形状をしています。

3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを作る意味

上記でご紹介したように、エンクロージャー・ハウジングの種類や大きさ、形状はさまざまですが、3Dプリンターで作ることでどのようなメリットがあるのでしょうか。

試作の効率化

エンクロージャーやハウジングは機械本体の保護を目的としていますが、最終的には量産されるケースがほとんどなため、試作の効率化を目的として使用されます。3Dプリンターではデザインができたらすぐにその場でアウトプットすることが可能です。

開発スピードの向上

3Dプリンターであれば設計の変更や微調整なども柔軟に対応することができます。一度に複数パターンのプリントなどもでき、よりスピーディに開発を進めることができます

コミュニケーションの促進

3Dプリンターで試作品を作ることでコミュニケーションを促進します。アイデアを可視化することで、部署を超えて新たな製品に対して共有することができ、フィードバックも得ることが可能です。

エンクロージャー・ハウジングの3Dプリントに求められる機能とは

それではエンクロージャー・ハウジングを3Dプリントするにはどのような素材が適切で、そのような機能が求められるのでしょうか?形状確認のみのプロトタイプであれば、データ通り出力するだけで問題ありませんが、電子機器としての機能性を検証するには以下の項目がポイントです。

エンクロージャー・ハウジングの3Dデータの作成・入手方法

初めに3Dデータを用意する必要があります。STL形式かOBJ形式の3Dデータがあれば3Dプリントが可能です。

3Dモデリング

3Dデータを作るにはデータそのものを3Dソフトで作る3Dモデリングという手法もあります。エンクロージャー・ハウジングの3Dデータの場合にはFusion360のような3DCADソフトがおすすめです。一から自分で作ることもできますが、フリーの素材などを利用して途中から改良する方法などもおすすめです;。

フリーの3D素材を利用する

フリーの3Dデータから素材をダウンロードする方法もあります。無料で利用できる3Dデータサイトが複数存在します。例えばThingiverseなどの無料3Dデータサイトで「case」や「enclosure」などで検索すると複数無料データがダウンロード可能です。

エンクロージャー・ハウジングを3Dプリントするベストな造形方式は?

上記で、エンクロージャー・ハウジングを3Dプリントする際に、求められる機能を5点、①寸法精度、②強度、③軽量性、④静電気防止、⑤耐候性を上げましたが、どの造形方式がよいのか、各ポイントごとでご紹介してまいります。

一般的にプラスチック材料の3DプリンターはFDM方式と光造形方式、レーザー焼結法の3種類がありますが、各方式で、最適な材料をベースにご紹介します。

下記はエンクロージャー・ハウジングを3Dプリントする場合の光造形とFDM、レーザー焼結の項目別の評価です。

 

光造形

FDM

SLSレーザー焼結法

表面の滑らかさ

    積層跡が目立たない

×積層跡が目立つ

〇 積層跡はつかないがざらざらしている。研磨すると◎

高精細さ

    25ミクロン~100ミクロンの積層ピッチ

△ 推奨が100200ミクロン

△ 推奨が100200ミクロン

強度・耐摩耗性

・静電気保護

    高強度系の材料

ABSライク

PPライク

PEライク

ESD(静電気保護)

ABS

ASA(耐候性)

ESD(静電気保護)

    ナイロン

コスト

高強度系材料は比較的高い

△高強度系材料は比較的高い

    低コスト 材料単価が低い

造形サイズ

◎ デスクトップから大型機まで対応可能

△メーカーによって異なる

◎ 空間でプリント可能なため対応可能

安定性

◎非常に高い(Form3Form3L

△機種によって異なるが。反りの心配

◎ 非常に高い。

ポイント! 光造形3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを作る場合

光造形3Dプリンターは滑らかで高精細な造形が特長で、かつエンクロージャー・ハウジングに最適なタフ系の高強度材料や静電気保護のESDレジンなどが使用できます。また造形後にUVカットのコーティングを施せば耐候性なども付与できます。

ポイント! FDM 3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを作る場合

FDM 3Dプリンターは高強度なABSや、ABSの強度と耐候性を持つASA、静電気保護のESDなどの材料が利用できるのが特長で、エンクロージャー・ハウジングを作るのに最適です。その一方で、反りの問題などがあり、ギアに求められる寸法精度が出せる機種は限定されています。

ポイント!レーザー焼結 3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを作る場合

レーザー焼結 3Dプリンターは高強度、かつ高い精度を誇る3Dプリンターです。エンクロージャー・ハウジングの強度や一定の寸法精度を出したい場合レーザー焼結は最適です。またナイロン12で造形するため最終品として使用できるクオリティを実現でき低コスト。さらにサポート材がつかないので後加工がしやすいです

光造形3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを3Dプリントする方法

それでは実際に3Dデータを使ってエンクロージャー・ハウジングを光造形3Dプリンターでつくる方法をご紹介してまいります。

Form3Form3Lがエンクロージャー・ハウジングの3Dプリントにおすすめな理由

エンクロージャー・ハウジングの3DプリントはForm3を使って進めます。Form3高精細、滑らかな造形が特長ですが、他の光造形3Dプリンターと比べて以下のような際立ったメリットがあるためプラモデルの3Dプリントには最適です。また高強度材料は3種類そろっており、静電気保護のESDレジンもおすすめです。

おすすめポイント

おすすめな理由

高精細・滑らかな造形が可能

SLAを進化させたLFSテクノロジーという造形技術で、どのプリント場所でも高精細で継ぎ目のないプリントができる。

高い安定性・失敗しない

プリント設定が自動で行ってくれるため、形状やレジンの種類ごとに細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できる。エンクロージャー・ハウジングではタフ2000タフ1500デュラブルESDレジン(静電気保護)の使い分けもできる。

簡単な操作性

ソフトウェアが非常に使いやすく、ジオラマのように形状に応じたプリント方向、サポート設定が求められる造形物には操作性が求められる。

豊富な積層ピッチ

25ミクロン、50ミクロン、100ミクロンと豊富な積層ピッチが選択できる。

使用するレジン

エンクロージャーやハウジングを3Dプリントには以下の2種類のレジンでプリントします

タフ2000を選んだ理由

タフ2000は濃いグレイのカラーで、ABSライクの強度を持っている材料です。ABSは筐体やハウジングなどでも多用されている材料で、同じ質感、強度を再現できるためです。

デュラブルを選らんだ理由

デュラブルは乳白色の見た目をしている高強度レジンで、タフ2000とタフ1500の中間の柔らかさを持っている材料です。程よい硬さを持ち、割れも少なくエンクロージャーやハウジングに最適です。

プリント設定

3Dプリンタに送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというForm3専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormでは使用するレジン、積層ピッチや大きさ、プリント方向、サポート材の付け方を設定します

積層ピッチの選択

エンクロージャーやハウジングは、100ミクロンでプリントします。

サポート材の設定

エンクロージャーやハウジングは箱の形状をしていることから、サポート材を付けなくてもプリントができます。ただ、サポート材を付けないで直付けでプリントを行うとビルドプラットフォームの圧力によって伸びたりゆがむ可能性があります。

造形後には嵌め合わせるため、寸法精度がなるべく出るようにサポート材を付けて造形します。

プリント完了後

プリントが完了するとビルドプラットフォームに吊り下げられて造形されます。その後ビルドプラットフォームから取り外し、洗浄と乾燥を行います。

ビルドプラットフォームから取り外す

光造形3Dプリンターでは、ビルドプラットフォームにしっかりと造形モデルがくっついています。Form3の場合はラフトとビルドプラットフォームの設置面が真空状態になっており専用工具を使用して取り外します。

専用工具の中でも取り外しやすいのがヘラとハンマーです。ヘラとハンマーを使えばビルドプラットフォームをほとんど傷つけることなく取り外すことができます

まずラフトとプラットフォームの間にヘラをあてます。

次に軽くハンマーでヘラをたたきます。この際、加える力はほんの軽くで大丈夫です。ヘラが少しでも入れば、そこから空気が入り込み、真空状態が無くなり簡単に造形物が取れます。

洗浄

造形物の取り外しができた後は、エタコールで洗浄を行います。洗浄にはIPA(イソプロピルアルコール)やエタノールなどがありますが、第二種有機溶剤に該当しないエタコールがおすすめです。

仕上げキットを使用する場合

仕上げキットを使用する場合、各バスケットに10分ずつ、合計20分程度ひたしてください。洗浄時間はエコタールの濃度によって異なります。洗浄が続き汚れている場合には少し長め、もしくは別途、エコタールで拭き取ってください。

FormWash(自動洗浄機)を使用する場合

FormWashでは、自動で攪拌してくれて洗浄完了後、引き上げてくれます。こちらも20分程度洗浄を行ってください。

乾燥

エタコールで洗浄後は乾燥をおこなってください。乾燥時間は1時間程度あれば十分です。

サポート除去

さてここからはサポートの除去を行ってまいります。サポート材は造形後に洗浄を行い、十分乾燥させると簡単にとりはずことができます。ただしタフ2000やデュラブルといった材料に粘性がある造形物は、サポート材も伸びやすいのでニッパーを使用することをおすすめします

タフ2000でプリントした場合のコスト・リードタイム

タフ2000でプリントした場合のプリント時間や材料使用量です。

積層ピッチ 100ミクロン
レイヤー数 647層
造形時間 3時間24分
材料使用量 43.28ml
材料コスト @943円(1ml=21.8円)

デュラブルでプリントした場合のコスト・リードタイム

デュラブルで3Dプリントした場合の材料使用量や造形時間、コストをご紹介します。

積層ピッチ 100ミクロン
レイヤー数 647層
造形時間 5時間26分
材料使用量 49.07ml
材料コスト 1,069円(1ml=21.8円)

レーザー焼結3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを3Dプリントする方法

それでは次にレーザー焼結3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングをつくる方法をご紹介してまいります。

Fuse1がエンクロージャー・ハウジングの3Dプリントにおすすめな理由

エンクロージャー・ハウジングの3DプリントはFuse1を使って進めます。Fuse1はレーザー焼結3Dプリンターで初ともいえるデスクトップ型の3Dプリンターで、最も導入コストが安いレーザー焼結3Dプリンターの一つです。窒素ガスを使用しないため、特別な工事や設備工事を行わなくてもオフィスでも使用できるレーザー焼結3Dプリンターとして従来2,000万円~5,000万円であったレーザー焼結法が500万~600万で導入が可能です。

おすすめポイント

おすすめな理由

高強度・高精度の造形ができる

レーザー焼結法はナイロンパウダーにレーザービームを照射して焼き固めて造形物を作る製法です。Fuse1はサポート材がつかず、高精度で作ることができます。

高い安定性・失敗しない

プリント設定が自動で行ってくれるため、細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できます。Form3同様プリント設定が不要なため安定性が高いです。

高い生産性

材料コストが安く、サポート材がつかず、さらに材料の再利用が可能なため、高い生産性を持つ。

使用する材料

エンクロージャー・ハウジングの強度に耐えることができるFuse1ではナイロン12でプリントします。

プリント設定

3Dプリンタに送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというFuse1専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormForm3と同様のソフトウェアでFuse1に切り替えができます。Fuse1はサポート材がつかないので、立体物の範囲にどのように配置するかを決めます

サポート材の設定

Fuse1はサポート材が必要ありません。ナイロンパウダーを積み重ねながらレーザービームを照射して固めるのですが、周りのナイロンパウダーがサポート材の代わりになり造形物を支えてくれます

プリント完了後

Fuse1はプリント完了後、冷却期間がプリント時間の半分ほどかかります。その後、冷却が終わった後はFuse Shiftで余計なパウダーを取り除きます。

FuseShiftから取り外す

Fuse1のようなレーザー焼結3Dプリンターは、造形後にパウダーの中に埋まっています。余分なパウダーをFuseShiftで吸引し、取り出します。その際、余分なパウダーは再利用が可能になります。ナイロンパウダーは非常に粒子が細かいので、完全に取り除くまでかなりの吸引が必要です。

Fuse1でエンクロージャーを3Dプリントする場合のコストとリードタイム

Fuse1ではパッキングといってビルドチャンバー内に複数のモデルを配置することができます。下記は10セットを3Dプリントした場合の設定です。サポート材がつかないため、小ロットの量産に最適です。

積層ピッチ 110ミクロン
造形時間 14時間7分+10時間49分(冷却時間)
総パウダー量 2.89kg
トータル材料コスト 31,790円
1個当たりのコスト @3,179円 再利用分も含む

FDM 3Dプリンターでエンクロージャー・ハウジングを3Dプリントする方法

FDM方式は、ABSナイロンといった高強度材料をプリントする際、反りなどの問題で安定性を保つのが大変です。

ただそこまで大きくない造形物であればABSASAでプリントも可能です。またハイエンドな庫内温度の加熱機能を搭載しているFDM 3DプリンターであればABSやASAで大きいエンクロージャーなどもプリント可能です。

エンクロージャー・ハウジングに最適な低価格FDM 3Dプリンター

低価格なFDM 3Dプリンターでもハウジングやエンクロージャーを作ることはできます。ただし、ABSASAは反りやすいので、大きさやプリント方向などを調整しながら作る必要があります。ここではおススメの低価格なFDM 3Dプリンターをご紹介します。

機種名

使用材料

価格(税別)

RaisePro2/Pro3

ABS

770,000

RaiseE2

ABS

498,000

UP300

ABS

350,000

Raise3Dシリーズ

デスクトップタイプのFDM 3Dプリンターで最も人気が高いのがRaise3Dシリーズです。RaisePro3/Pro2、RaiseE2の3機種では、1台でPLAからABS、ポリカーボネートなど多彩なフィラメントを使用することができます。特に専用ソフトウェアIdeaMakerでプリント設定が簡単で、他のFDM方式に比べて比較的高い安定性を誇ります。

まとめ

3Dプリンターでエンクロージャーやハウジングを作る取り組みをご紹介しましたが、光造形方式は試作や1個単位での利用が向いており、小ロットの量産ではレーザー焼結法が最適です。3Dデータがあれば3Dプリンターでの出力はとても簡単ですので、作り方や使い方、材料などご質問がありましたらi-MAKERまで是非お気軽にお問い合わせください!