3Dプリンターのナイロン(PA)フィラメント完全ガイド

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメント材料とは

汎用性が高いエンジニアリングプラスチック

3Dプリンター用材料の中において、高機能で汎用性が高い材料がナイロン(PA)です。ナイロンは、一般的には衣類の材料として有名ですが、さまざまな工業製品に使用されており、強度と耐熱性を持つエンジニアリングプラスチックとして有名です。

また、3Dプリンター用材料としても、高い強度と剛性を持ち、高い耐熱性を誇る強靭な素材としてエンジニアリング目的に使用されます。

ナイロン(PA)フィラメントの特徴・用途から注意点まで

その用途は幅広く、強度が求められる治具や工具から、機能性試験用のプロトタイプ、最終品まで幅広い分野で使用されます。3Dプリンター用のナイロンは、粉末焼結法やFDM®(熱溶解積層法)で使用されますが、特にFDM 3Dプリンターで使用する場合にはプリントに注意が必要です。

ここではFDM 3Dプリンターのナイロンフィラメントについてその特長や用途をご紹介するとともに、取り扱いの注意点や保管方法をお伝えします。

3Dプリンターを使用するすべての方々がより良いモノづくりができるようになれば幸いです。

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントの強みと弱み

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントは、フィラメント材料とFDM(熱溶解積層法)ならではの特長があります。

例えば、厚くプリントすると、充填密度が高く、肉厚なパーツに仕上げることができます。この肉厚パーツでは、大きな衝撃を吸収する耐衝撃性に優れた非常に強力なパーツとして使用することができます。

その一方で、ナイロンフィラメントで薄くプリントすると、衣類などで使用されるような非常に柔軟性に富んだ造形物にも仕上げることができるのです。

ナイロン(PA)フィラメントの強み

ナイロン(PA)フィラメントの強みは耐衝撃性に加え靭性、引張強度、耐熱性、耐摩耗性、耐油性、耐薬品性に優れ、ほぼ万能といえるような機能から、さまざまな造形に利用が可能です。

1.耐衝撃性

ナイロン(PA)フィラメントの代表的な強みが耐衝撃性です。熱可塑性樹脂の中では、最高レベルの耐衝撃性を誇っており、工業用製品のパーツや治具など、さまざまな用途に使用されています。

2.引張強度

ナイロン(PA)フィラメントの特長の一つが引張強度です。靭性にすぐれており、作られた造形物は柔軟で簡単には割れません。

3.耐熱性

ナイロン(PA)フィラメントで作られた造形物は高い耐熱性を誇ります。フィラメントの種類によっては180℃までの耐熱性を誇り、高温下の環境でも高い強度を誇ります。

ナイロン(PA)フィラメントの弱み

吸湿性

ナイロン(PA)フィラメントの造形物は高強度で耐熱性にすぐれていますが、その一方で、材料として非常に吸湿性が高く、プリント中や保管中の十分な乾燥が必要です。吸湿による反りなどが起きやすい材料です。

ナイロン(PA)フィラメント材料の特性一覧

靭性・引張強度:非常に強い引張強度をもち、対摩擦性は綿の10倍の強度を持つ

耐熱性:180℃の高温下でも耐えうる。

耐油性・耐薬品性:耐薬品性や耐油性に優れている。酸に対しては綿の100倍の強度を持つ。

耐衝撃性:吸水により耐衝撃性や柔軟性が増す。

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントでできること

ナイロン(PA)フィラメントはFDM 3Dプリンターの材料としても、さまざまな用途に使用されており、できることは幅広いです。強度、耐衝撃性、靭性などに優れることから、高機能が求められるパーツが最適です。

機能性テスト

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントのできることとしてまず挙げられるのが機能性テストパーツ作成です。機能性テストパーツは、形状確認だけではなく物理的な試験に耐えうる物性が求められます。


金属パーツの代替。
高耐久パーツの作成と軽量化

次に既存の金属パーツの代替品としての役割があります。ナイロン(PA)フィラメントを使用することで、金属に匹敵する剛性や耐久性を保ちながら、パーツ自体の軽量化、コスト削減などに貢献します。


オンデマンド製造

ナイロン(PA)フィラメントでは、最終品に求められる強度や耐久性、耐衝撃性を持っていることから、オンデマンド製造も可能です。設計データをCADで管理し、必要に応じて3Dプリンターでパーツを製造すれば、ビジネスを効率化してくれます。

また試作品の段階から最終品と同じ材料が使用できるため、設計から製造までを一元管理し、試作から改良、製造までの製造プロセスをシームレスにできます。


多品種少量・カスタマイズ製造

ナイロン(PA)フィラメントと3Dプリンターならば、多品種少量生産も可能です。微妙な形状違いやデザイン違いのパーツも3Dプリンターであればデータの変更ですむため、カスタマイズして製造することが可能です。

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントで作れるもの

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントでは、さまざまなものを作ることができます。ここでは具体的な用途についてご紹介します。

機能試作(プロトタイプ)

ナイロン(PA)フィラメントの用途として、代表的なものが機能性プロトタイプです。ナイロン(PA)フィラメントで作られた機能性プロトタイプは、形状確認だけではなく強度や耐久性、耐衝撃性といったパーツの物性に関する試験ができます。


冶具・工具

ナイロン(PA)が持つ強度や耐疲労性、耐衝撃性、靭性などは、治具や工具の作成にも最適です。治具は生産工程において使用される留め具ですが、ナイロン(PA)フィラメントは治具にもとめられる強度と耐久性を発揮します。


最終品パーツ

ナイロン(PA)フィラメントでは最終品パーツを作ることができます。優れた靱性と摩耗特性(対摩擦性は綿の10倍の強度)を持ち、耐薬品性や耐熱性があることから、自動車業界や航空宇宙産業、軍需産業など過酷な環境の下での使用にも耐えうる素材として使用されています。

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントの種類

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントは、デスクトップタイプの3Dプリンター用のフィラメント材料として多数の種類が登場しています。またカーボンファイバーやガラス繊維配合した強化フィラメントも開発が進んでいます。

PolyMide™CoPA(PolyMaker製)

PolyMide™CoPAは、ナイロン6とナイロン6,6のコポリマーをベースにして作られたフィラメント材料で、ナイロンの持つ強度と靭性を持ち、180℃までの耐熱性も備えています。 材料の微細構造と結晶化を制御する「ワープフリー技術」をフィラメント開発に取り入れることで、反りを抑える機能もあります。

PolyMide™CoPAのスペック

カラー:ナチュラル、ブラック
重量:750g
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:260℃
プリントスピード:40mm/s
プリントベッド温度:70℃
ベッド表面:接着剤付きガラス
冷却ファン:OFF


PolyMide PA6-CF(カーボンファイバー配合)フィラメント

PolyMide PA6-CFはナイロン6に炭素繊維であるカーボンファイバーを配合したフィラメント材料です。耐衝撃性、215℃の熱変形温度(荷重たわみ温度)を誇り、カーボンファイバーの高硬度を実現したフィラメント材料です。

PolyMide PA6-CFのスペック

カラー:ブラック
重量:2kg
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:280-300℃
プリントスピード:60mm/s
プリントベッド温度:20-50℃
冷却ファン:OFF
感想設定:80℃で12時間
強化ノズル(タングステン)必要


PolyMide PA6-GF(ガラス繊維配合)フィラメント

PolyMide PA6-GFはナイロン6にガラス繊維を配合したフィラメント材料です。強度、耐衝撃性、191℃の熱変形温度(荷重たわみ温度)を誇り、-190℃の耐寒性も備えるフィラメント材料です。

PolyMide PA6-GFのスペック

カラー:ブラック
重量:2kg
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:280-300℃
プリントスピード:60mm/s
プリントベッド温度:20-50℃
冷却ファン:OFF
感想設定:80℃で12時間
強化ノズル(タングステン)必要


Ultrafuse PAフィラメント ナイロン

Ultrafuse PAフィラメントはナイロン6をベースに開発された高強度ナイロンフィラメントです。

Ultrafuse PAフィラメントのスペック

カラー:ナチュラル
重量:750g
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:220-250℃
プリントスピード:30-60mm/s
プリントベッド温度:90-120℃


Ultrafuse PAHT カーボンファイバー配合ナイロンフィラメント

Ultrafuse PAHTはナイロンをベースに15%のカーボンファイバーを配合することで、高強度、耐熱性、耐薬品性を実現したフィラメント材料です。また130℃を超える耐熱性を持ち、カーボンファイバーの高硬度も実現しました。

Ultrafuse PAHTフィラメントのスペック

カラー:ブラック
重量:750g
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:240-260℃
プリントスピード:30-60mm/s
プリントベッド温度:100℃
強化ノズル(タングステン)必要


Raise純正PA12-CFフィラメント (Raise3D製)

Raise純正PA12-CFは、ナイロン(PA)12をベースにカーボンファイバーを配合した材料です。PA12は高強度・耐薬品性に優れPA6よりも吸湿性が低くプリントが安定します。

Raise純正PA12-CFフィラメントのスペック

カラー:ブラック
重量:1kg
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:290-300℃
プリントスピード:30-100mm/s
プリントベッド温度:60-80℃
強化ノズル(タングステン)必要


Flashforge PAフィラメント ナイロン

Flashforge PAフィラメントはナイロン6と6.6をベースにブレンドして開発された高強度ナイロンフィラメントです。100℃以上の耐熱性を誇り、高靭性、耐薬品性に優れた性能を発揮します。

Flashforge PAフィラメントのスペック

カラー:ナチュラル
重量:500g
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:220-260℃
プリントスピード:60-90mm/s

ナイロン(PA)推奨の3Dプリンターとは

ASAフィラメントは熱収縮によって反りが発生しやすいフィラメント材料です。そのため多くの3DプリンターがASAに対応しているとはいえ、反りの影響で大きい造形物が難しい傾向にあります。

Creator4S(Flashforge)

Creator4SはFlashforgeが開発する業務用3Dプリンターです。新たに庫内温度の加熱機能を搭載した大型のFDM3Dプリンターで、ナイロン(PA)フィラメントでも30cm近い造形物が3Dプリント可能です。またPA以外にも20種類の材料に対応しています。

造形サイズ 400mm x 350mm x 500mm
(ABSはW350mm x D300mm x H350mm)
対応材料 20種類(PA~カーボンファイバー配合材料まで)

RaisePro3

Raise3Dの代表的3DプリンターがRaisePro3です。RaisePro3は最新のFDM 3Dプリンターで、AI搭載によりプラットフォームのノズル位置合わせを補正、専用ソフトとの高い安定性によって高いプリント性能を誇ります。

造形サイズ 300×300×300mm
対応材料 PA~カーボンファイバー配合材料まで

Raise E2

RaiseE2はRaise3Dのデスクトップタイプの3Dプリンターです。ナイロン(PA)からPLA、TPUなど幅広い材料に対応しており、専用ソフトウェアとオートキャリブレーション機能によって非常に高い安定性を誇っています。

造形サイズ 330×240×240 mm
対応材料 PA、PLA、TPU、PCなど

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントの注意点と対策

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントは、特に、デスクトップタイプの3Dプリンターを使用する際に注意が必要です。

ナイロンフィラメントの不具合

ナイロンフィラメントはプリント中に以下のような不具合を起こす可能性があります。


吸湿性が非常に高く不具合をおこす

ナイロンフィラメントは他のフィラメント材料に比べて、吸湿性が非常に高く、水分に非常に敏感です。例えば、24時間で水の密度の約10%を吸収してしまいます。

そのため保管する際には他の吸湿性フィラメントと同様、乾燥剤などを使用し、十分に乾燥しておくことが重要です。具体的には相対湿度20%以下で良質なプリントが実現できます。


反りが起きやすい

水を吸収したナイロンフィラメントでは、いくつかの不具合をおこします。第一が反りです。ABSフィラメントと同様、ナイロンフィラメントも吸湿による熱収縮が高く、造形中に反ってしまいます。


層間接着性が落ちる

第二に、層間接着性が落ちます。FDMはフィラメントを溶かして積み上げるため、層と層の密着性が重要です。しかし吸湿してしまうと造形物の表面は接着性が落ち仕上がり悪く、最悪の場合は押出ノズルから飛び散る可能性があります。

表面が汚くなる

ナイロンフィラメントを水を吸った状態で使用すると表面の仕上がりも汚くなります。外側に小さな穴や気泡ができたりします。

強度が低下する:

ナイロンフィラメントで作れる造形モデルは、耐衝撃性や耐摩耗性など強度に優れます。しかし、十分に乾燥していない状態でプリントするとナイロン本来の十分な強度が出せない可能性があります。

対策

ナイロンフィラメントの不具合を防ぐ対策として、以下の方法があります。


対策:フィラメント専用ボックスを使用する

第一に、3Dプリンターを使用する環境を十分除湿し、湿気を無くした状態にすることが必要です。3Dプリンターを使用する部屋のエアコンをつけ、十分乾燥させた状態を保ちます。

次に、フィラメント専用の除湿専用ボックスを使用するのが推奨です。例えばPolyMakerではフィラメント吸湿を防止するPolyBoxを用意しており、乾燥剤と一緒に保存することで、湿度を極力下げた状態を実現できます。

PolyBoxの優れた点は、協力な除湿剤と共に、湿度計が搭載されており、常にボックス内部の湿度を低く保つことが可能です。また、PolyBoxを使用すれば、乾燥状態を保ったままプリントも可能です。

フィラメント除湿ボックス

DryPRO

DryBoxはフィラメント収納ボックスです。内部に乾燥剤を使用することで、効率的に乾燥状態にすることが可能です。また最大48時間の乾燥と庫内加熱機能も搭載し除湿した状態でそのままフィラメントを使用できます。

PolyBox 湿気防止ボックス

フィラメント材料の保管では、PolyMakerが発売しているPolyBoxがおススメです。フィラメント材料を2本まで収納可能で、常に低湿度に保つことができます。また、除湿したボックスから3Dプリンターにセット可能なため、ABSフィラメント材料を使用する場合にはおススメです。

まとめ

3Dプリンター用ナイロン(PA)フィラメントは、デスクトップ3Dプリンターで使用することで、手軽に高強度で耐熱性にすぐれ、さまざまな用途に使用できます。しかしその一方で、正確にプリントするためには管理や保存に最新の注意が必要で、使用できるプリンター選択が必要です。

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