3Dプリンターで金型を作るには?
3Dプリンターで作れるものとして、今回は“金型”についてご紹介します。金型は現代の大量生産のものづくりを担っている加工技術で、プラスチックや板金加工では欠かすことができない存在です。
しかし金型は製作コストが高く、一つの金型を作るのにも百万円~数百万円単位の費用がかかります。当然、それに見合った販売量が見込まれなければ、金型を作るのは難しいといえるでしょう。
3Dプリンターでは、こうした金型そのものを3Dプリンターで作ろうという取り組みが開始されています。金型は鉄の塊を削りだして作りますが、3Dプリンターで作れる金型は樹脂で作る“樹脂金型”です。
今回は3Dプリンターで金型づくりがどのようにモノづくりの現場で役立てるのか?どの3Dプリンターの造形方式が最適なのか、作り方やコスト、リードタイム、など、製品開発に役立てる内容をご紹介したいと思います。
3Dプリンターで金型を作るメリットとは
まず3Dプリンターで金型を作るメリットについてご紹介したいと思います。コストやリードタイムなど多彩なメリットがありますが、ここではその代表的な点をご紹介します。
低コスト
3Dプリンターで金型を作る最大のメリットが低コスト化です。金型は小さいパーツでも1個数百万円から費用がかかりますが、3Dプリンターの樹脂型であれば、1個数千円から、数万円で作成が可能です。
小ロット量産に対応
3Dプリンターで金型を作れば、小ロットの量産に対応することができます。金型は初期費用が高く、一定数の販売量が見込まれている必要がありますが、低コストの3Dプリンター金型であれば小ロットから対応が可能です。
量産と同じ最終材料が使用できる
3Dプリンターで金型を作れば、実際の金型量産と同じ最終品材料を使用することができます。例えば射出成形では本物の熱可塑性樹脂が使用できます。またプレス加工ではさまざまな金属が使用できます。
リードタイムの短縮
3Dプリンターで金型を作る場合、本物の金型とは違い、リードタイムが圧倒的に短くなります。データができれば1日から数日で出力が完了するため、1カ月近くかかる金型に比べて早く量産に取り掛かれます。
多品種小ロットが可能
3Dプリンターで金型を作る場合、いろいろなバリエーションを個別に作ることができます。3Dプリンターでは1個単位で出力可能なため、さまざまな製品バリエーションを小ロットから始められます。
修正・微調整が簡単
3Dプリンターで金型を作れば、修正や微調整が簡単です。金型は作った後に微妙な調整が必要ですが、3Dプリンターで作る樹脂型であれば、複数パターンの同時造形や造形後の研磨加工もできます。
テストマーケティングができる
3Dプリンターで金型を作れば、小ロットから試験的にものづくりが開始することができます。これにより大量生産に移行するまえのテストマーケティングなどにも利用が可能です。
3Dプリンター金型のデメリット
3Dプリンターで作れる金型は確かにメリットも大きいですが、その分デメリット、できないこともあります。
耐久性が低い
3Dプリンターで作れる金型はあくまでも樹脂型なので、耐久性が本物の金型ほどはありません。そのため1つの金型で作れるロットも数十程度になっています。その場合には複数の型を3Dプリントしロットを増やします。
サイズが限れる
3Dプリンターで作れる金型は本物の金型とは違い、作れるサイズが限られています。また作れる3Dプリンターの種類と材料も限定されています。
3Dプリンターで作れる金型の種類
3Dプリンターで作れる金型の種類は1種類だけではなく、いくつかの量産加工に対応しています。
射出成形用金型
プラスチックの量産加工で最も多用される製法が射出成型用の金型です。3Dプリンタ―で作られる金型は基本的に射出成型用になります。ただし大型の金型はまだ難しい状況です。
プレス成型用金型
金属のプレス加工用にも3Dプリンターで作られた金型を使用することもできます。3Dプリンタープレス金型は、1種類の型でさまざまな金属を使用できるのが特長です。
ブロー成型用金型
ブロー成型用の金型でも3Dプリンターで作られた金型を使用された事例があります。
金型の3Dプリントに求められる機能とは
それでは金型を3Dプリントするにはどのような素材が適切で、そのような機能が求められるのでしょうか?金型として使用するためには以下の項目がポイントとなります。

金型の3Dデータの作成方法
初めに3Dデータを用意する必要があります。STL形式かOBJ形式の3Dデータがあれば3Dプリントが可能です。
3Dモデリング
3Dデータを作るにはデータそのものを3Dソフトで作る3Dモデリングという手法もあります。金型の3Dデータの場合にはFusion360のような3DCADソフトがおすすめです。一から自分で作ることもできますが、フリーの素材などを利用して途中から改良する方法などもおすすめです。

金型を3Dプリントするベストな造形方式は?
金型を3Dプリントするには、上記でご紹介したように①精度、②圧力に耐える強度、③UV硬化性樹脂であることを条件に上げましたが、どの造形方式がよいのか、各ポイントごとでご紹介してまいります。
3Dプリンターで作る樹脂型は、流し込む材料が熱可塑性樹脂(加熱すると柔らかくなり、冷えると固まる特性を持つ)なため、型が同じ熱可塑性樹脂でできていると、樹脂がくっついてしまい、成形できません。そのため、熱可塑性樹脂とは異なる性質を持つUV硬化性樹脂でなければ金型としては機能しません。
そうすると必然的に金型が3Dプリントできる機種は、光造形方式とインクジェット方式の2機種に絞られます。
光造形 |
インクジェット方式 | |
表面の滑らかさ |
|
◎積層跡は目立たない |
高精細さ |
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◎ 14ミクロン、16ミクロンなどの細かい積層ピッチ |
対応材料 | 〇 高耐熱レジン ガラス繊維配合レジン |
|
コスト | ◎低コスト | △光造形と比べると高額 |
造形サイズ | ◎ 小型のみ | ◎ 比較的大型も可能 |
安定性 |
◎非常に高い(Form3、Form3L) |
〇 高い ※ノズルのメンテナンスが必要 |
ポイント! 光造形3Dプリンターで金型を作る場合
光造形3Dプリンターでも金型を作ることができます。滑らかで高精細な仕上がりが特長で小型の射出成形機の金型として最適です。ただし、金型として使用できるレジンが限られており、そのレジンが使用できる3Dプリンターも限定されます。

ポイント! インクジェット3Dプリンターで金型を作る場合
インクジェット3DプリンターではストラタシスのPolyJetタイプが金型を作るのに最適です。高強度なABSの物性を再現したデジタルABSや硬質透明材料を使用すれば射出成形からプレス成型、ブロー成型の樹脂型を作ることができます。またインクジェットなため、非常に高精細で滑らかな質感を出すことができます。

光造形3Dプリンターで金型を3Dプリントする方法
それでは実際に3Dデータを使って金型を光造形3Dプリンターでつくる方法をご紹介してまいります。
Form3+・Form3Lが金型の3Dプリントにおすすめな理由
金型の3DプリントはForm3+を使って進めます。Form3は高精細、滑らかな造形が特長ですが、他の光造形3Dプリンターと比べて以下のような際立ったメリットがあるため金型の3Dプリントには最適です。また金型に使用できるレジンとして2種類の耐熱性が高いレジンが使用できます。
おすすめポイント |
おすすめな理由 |
高精細・滑らかな造形が可能 | SLAを進化させたLFSテクノロジーという造形技術で、どのプリント場所でも高精細で継ぎ目のないプリントができる。 |
高い安定性・失敗しない | プリント設定が自動で行ってくれるため、形状やレジンの種類ごとに細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できる。 金型ではハイテンプ、リジッドの使い分けもできる。 |
簡単な操作性 | ソフトウェアが非常に使いやすく、金型のように形状に応じたプリント方向、サポート設定が求められる造形物には操作性が求められる。 |
豊富な積層ピッチ | 25ミクロン、50ミクロン、100ミクロンと豊富な積層ピッチが選択できる。 |

使用する金型のデータ
光造形3Dプリンターでどこまで造形できるかを検証するため今回はいろいろタイプの金型をプリントしてみます。
使用するレジン
金型を3Dプリントには以下の3種類のレジンが推奨です。
ハイテンプレジン
二次硬化で100℃、三次硬化を行うことで最大238℃の耐熱性を持つレジン。若干欠けやすいのが欠点。
リジッド4000レジン
ガラス繊維配合のレジン。耐熱性は77℃だが小型の射出成型機には耐えうる。表面が硬く滑らかなのが特長。
プリント設定
3Dプリンタ―に送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというForm3専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormでは使用するレジン、積層ピッチや大きさ、プリント方向、サポート材の付け方を設定します。金型の場合、なるべく型の内部にはサポート材を付けないような設定でプリントします。

積層ピッチの選択
金型は、基本的には全て100ミクロンでプリントを行います。リジッド4000とハイテンプでは50ミクロンでもプリント可能です。
サポート材の設定
また折り曲げている手の下部分には支えるためのサポート材がつきます。それ以外の赤くなっている部分にサポート材を足していきます。
プリント完了後
プリントが完了するとビルドプラットフォームに吊り下げられて造形されます。その後ビルドプラットフォームから取り外し、洗浄と乾燥を行います。
ビルドプラットフォームから取り外す
光造形3Dプリンターでは、ビルドプラットフォームにしっかりと造形モデルがくっついています。Form3の場合はラフトとビルドプラットフォームの設置面が真空状態になっており専用工具を使用して取り外します。
専用工具の中でも取り外しやすいのがヘラとハンマーです。スクレイパーは小型の造形物には最適ですが、今回のプラモデルの場合、精密な形状や細かい部分などが折れないように、造形物が飛ばないように取り外しを行います。
まずラフトとプラットフォームの間にヘラをあてます。
次に軽くハンマーでヘラをたたきます。この際、加える力はほんの軽くで大丈夫です。ヘラが少しでも入れば、そこから空気が入り込み、真空状態が無くなり簡単に造形物が取れます。
洗浄
造形物の取り外しができた後は、エタコールで洗浄を行います。洗浄にはIPA(イソプロピルアルコール)やエタノールなどがありますが、第二種有機溶剤に該当しないエタコールがおすすめです。

仕上げキットを使用する場合
仕上げキットを使用する場合、各バスケットに10分ずつ、合計20分程度ひたしてください。洗浄時間はエコタールの濃度によって異なります。洗浄が続き汚れている場合には少し長め、もしくは別途、エコタールで拭き取ってください。
FormWash(自動洗浄機)を使用する場合
FormWashでは、自動で攪拌してくれて洗浄完了後、引き上げてくれます。こちらも20分程度洗浄を行ってください。
乾燥
エタコールで洗浄後は乾燥をおこなってください。乾燥時間は1時間程度あれば十分です。
サポート除去
さてここからはサポートの除去を行ってまいります。サポート材は手でも取り外すことができますが、なるべく造形物を傷つけたくないので、ニッパーを使って取り外していきます。
またサポート材は造形後に、十分乾燥させると手で簡単に取り外すことができます。
二次硬化 FormCure
乾燥してサポート材を取り外した後は、IPAがついていないか十分確認を行った上で、二次硬化を行います。二次硬化ではハイテンプレジンとリジッド4000レジンとそれぞれ条件が異なります。
ハイテンプレジンの二次硬化条件
ハイテンプレジンは80℃の温度で120分二次硬化します。それにより耐熱性が100℃まで高まります。三次硬化する場合には、非食品用オーブンで温度を160°Cに設定し、3時間硬化してください。
リジッド4000の二次硬化条件
リジッド4000は80℃の温度で10分間二次硬化してください。これにより耐熱温度が77℃まで高まります。
リジッド4000の金型の仕上がりとコスト・造形時間
今回は代表としてリジッド4000で作った型の仕上がりやコスト、リードタイムについてご紹介します。




積層ピッチ | 100ミクロン |
レイヤー数 | 570層 |
造形時間 | 6時間29分 |
材料使用量 | 108.3ml |
材料コスト | @2,685円 |
卓上射出成形機Easy Moldで小ロット
金型の3Dプリントが完成したら、デスクトップタイプの射出成形機で射出を行います。小型の射出成形機はいろいろ登場していますが、ここでは手動型で手ごろな導入ができるEasy Moldを使用します。
Easy Moldは、6グラムと10グラムの2種類のラインナップがある小型の卓上射出成型機で、実験や小型パーツの試作などに最適です。特にFormlabsのハイテンプレジンやリジッド4000レジンの小型金型とも相性がよく、小型パーツの試作、実験などに使用がされています。
リジッド4000とEasyMoldでの射出成形
リジッド4000とEasy MoldではABSやナイロン、ポリカーボネートといった本物の熱可塑性樹脂を使って射出成形が可能です。ペレットからも押出ができますし、3Dプリンターのフィラメントなどを細かく切って押し込むこともできます。


インクジェット3Dプリンターで金型を3Dプリントする事例
それでは次にインクジェット3Dプリンターで金型をつくる方法をご紹介してまいります。
インクジェット3Dプリンターで金型が作れる機種は限定されており、ストラタシス社のPolyJet方式の3Dプリンターでかつ、デジタルABSが使用できる3Dプリンターに限定されています。
おすすめポイント |
おすすめな理由 |
高精度の造形ができる |
PolyJet方式は16ミクロンなどの微細な積層ピッチで滑らかかつ高い精度で造形が可能。 |
金型に耐えうる強度 | デジタルABSはABS樹脂の物性を再現したUV硬化性樹脂で、金型の高圧力にも耐えることができる素材です。 また硬質透明材料でも耐久性はおちますが、使用することができます。 |
サポート除去が楽 |
PolyJet方式はサポート材が専用材料になっており、後処理が水で除去できる手軽なワークフローが可能。またサポート材の痕が残らないのが特長。 |
南信工科短期大学の射出成形金型
PolyJet 3Dプリンターで金型を作る取り組みで代表的な存在がデジタルモールド®です。デジタルモールド®は有限会社スワニーの登録商標で、樹脂金型で小ロット量産を行っています。南信工科短期大学では授業で3Dプリンターを使った金型量産の取り組みを学んでいます。
金属プレス加工用の金型も3Dプリント
金属プレス成型用に金型を3Dプリントする事例も登場しています。金属は素材ごとで塑性が異なっており、素材ごとに金型を変える必要がありましたが、3Dプリンター樹脂金型では金型が圧力でたわみ耐えうるため、1種類の樹脂型でいろいろな素材がプレスできます。
ブロー成型金型を3Dプリントしたサントリー事例
またサントリーではブロー成型でペットボトルの試作に3Dプリンター金型を取り入れています。リードタイムを3日に短縮することで試作サイクルを早め、製品開発の精度を向上しています。
卓上射出成型機 Easy Moldとも相性が高い
PolyJet 3Dプリンターでは高強度なABSライクの樹脂だけではなく、通常の硬質透明材料の樹脂でも金型を作ることができます。その場合は材料も低コストで、より少ないショットになりますが、試作などに使用できます。先ほどご紹介したEasyMoldを使っての成形も可能です。
ルアーの小ロットカスタム量産
Easy Moldを使えばルアーの小ロットカスタム量産も可能です。ABSなどの射出成形を行い、滑らかな表面に転写やプリントを施せばオリジナルのルアーの製作ができます。



ギアの量産事例
小型のギアの小ロット量産にも3Dプリンター金型と卓上小型射出成型機は適しています。高強度なABSやナイロンといった量産用の樹脂を流し込みカスタム形状も量産できます。



精度や滑らかさ、強度が求められるパーツの試作・小ロット量産に最適



3Dプリンター金型と卓上射出成型機はいろいろなパーツの量産に最適です。特に3Dプリンターでつくるには強度や表面の滑らかさ、精度などが求められるものに向いています。i-MAKERでは3Dプリンターでの金型のテストプリントや、ショットサンプルなどもご提供しています。是非ご相談ください。