デジタル化の流れは、製造業に大きな構造変化を起こしつつある。この製造業のデジタル化は、二つの大きな要因によって行われる。
第一の要素がIOT化である。各製造工程にセンサーが搭載され、原料調達から組立、品質検査に至るまで、あらゆる製造工程がデータ化される。いわゆるIIOT(Industrial Internet of Things 製造業のIOT化)では、各工程のデータがビッグデータとして集約され、分析され将来的にはAIによってリアルタイムで製造プロセスがカイゼンされるようになる。
そしてデジタル化の第二の要素が自動化である。この自動化の流れは、3Dプリンターや自動配送車両など、こちらもあらゆる製造工程に導入される。とりわけ3Dプリンターは、テクノロジーの進歩によって、単なるプロトタイプ作成から、エンドユースパーツの製造にまで発展しつつある。
求められるのはデジタル人材
この二つの要素、IOTと自動化の流れは、製造業そのものの構造変化を起こし、ビジネスモデルすらもチェンジする可能性を秘めている。こうしたデジタル製造の時代が差し迫る中、メーカーや製造業がデジタル化する上で、最も必要な要素な何だろうか。
様々な要因が必要であるが、その最大の要素の一つが“人”である。
毎年、国際競争力ランキングを発表しているIMDはある興味深いレポートを発表している。それはデジタル競争力ランキングと呼ばれるもので、各国のデジタル競争力をまとめたものだ。これは、国の競争力にとって、デジタル化が無視できないことを示しており、更には、このデジタル競争力は3つの要素から構成される。
そのうちの一つが“knowledge”、すなわち知識であり、具体的には人材や教育システムのことを指す。
本サイトでもたびたび、3Dプリント教育についてはご紹介してきたが、今回この3Dプリントシステムを利用した画期的な教育プログラムが行われた。今回は南信工科短期大学が、ストラタシス・ジャパンと有限会社スワニーと共に行ったデジタルモールドの公開授業をご紹介しよう。

デジタルモールドとは
デジタルモールドは、本サイトでもたびたびご紹介してきたが、ストラタシス・ジャパンのPolyJet3Dプリンターと、ABS樹脂の特性を再現したデジタルABSによって作られる樹脂製の型のことだ。
プラスチックの量産加工の代表ともいえる射出成型用の型や、金属量産加工の代表ともいえるプレス成型用の型として利用することができる。
従来の金型に比べてはるかに低コストで、短いリードタイムで作ることができる。もちろん金型のように数千や数万のロットを作ることはできないが、小ロットの生産が可能な点や、試作段階から最終品と同じ材料でテストモデルを作ることが可能だ。
これまで、製品開発では、試作品を切削やモックアップ専用の3Dプリンターで作るなどが一般的であり、金型量産の段階とは、材料も異なり、見た目や質感なども違うのが当たり前であった。
しかし、デジタルモールドを使えば、試作開発の段階から、最終品と同じ材料でテストショットが可能で、尚且つ金型の修正もオンタイムで行うことが可能となる。まさにデジタル製造に革新をもたらす仕組みであり、これにより製品開発のプロセスを劇的に変えることができる。

デジタルモールドについては、こちらをご参照ください。
- デジタルモールド®が2016年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 を受賞。ものづくりに革新を起こす力
- 金属プレス加工が進化。デジタルモールド・プレスの力
- デザインから量産までわずか6日。ハイブリッドモールドの驚異的な力
製品設計から成形まで、実演でデジタルモールドを学ぶ
今回、このデジタルモールドの公開講座を9月7日に行ったのは、長野県の南信工科短期大学だ。南信工科短期大学は県内2番目に作られた工科短大で、ものづくりのスペシャリストを育成することを目的に作られた短期大学だ。
実はデジタルモールドの公開講座が開かれるのは7月に続いて2回目で、専門課程に進んだ2年生を対象に行われた。
講師はデジタルモールドでお馴染みの有限会社スワニーの橋爪氏、PolyJet 3Dプリンタの開発元、株式会社ストラタシス・ジャパンの小山氏、超小型射出成形機の株式会社アイオー・エムの酒井氏の3名が務めた。
この授業では、従来の金型の基礎知識から始まり、ものづくりの一環としての新技術:デジタルモールドの講義と実習も含む形で開催され、製品設計から型割り、造形、成形まで、一連の流れを学ぶことができる。
実習においては、実際に南信工科短期大学の校章がパーツとして作られた。



まとめ デジタル人材の育成が新たなビジネスを生み出す
冒頭でご紹介したように、自動化とIOT、この二つによってもたらされる製造業のデジタル化は、これまでの産業構造を変え、ものづくりの在り方そのものも変えることになる。
また、製造業のデジタル化は、単純に製造工程を効率化するだけではなく、新たなビジネスモデルを生み出す可能性を与えてくれる。
デジタルモールドは、まさにその中心ともなるテクノロジーだと言えよう。例えば、デジタルモールドを使えば、製品開発の段階から、最終品と同じ材料、質感で、何パターンも試作することができる。これは試作段階から精度の高いモノづくりを可能にし、選択の幅を広げることにつながる。
また、顧客の細かいニーズに対応したカスタマイズ品も、デジタルモールドであれば、柔軟に対応することが可能だ。更に、デジタルモールドであれば、金型量産前のテストマーケティングなどにも利用することができる。
いきなり高額な費用と時間をかけて金型を作らなくても、デジタルモールドであれば、わずか1日で、圧倒的な低コストで実現することができるからだ。
小ロット生産からはじめて市場の動向、ユーザーニーズを伺い、更に改良して金型量産にもつなげられる。こうしたデジタルモールドの持つ柔軟な力は、マスカスタマイゼーションや、オンデマンド生産など新たなビジネスの形も可能にしてくれるのである。
そのためには、デジタルスキルに精通し新たな発想に対応した人材が必要なのである。
ちなみに、冒頭でご紹介したIMDの発表するデジタル競争力では日本は27位、“knowledge”(知識)では、29位となっており決して高くはない状況だ(1位はシンガポール)。
今後も南信工科短期大学のように、デジタルものづくりのスキルを身に着けた人材育成が盛んになることが求められる。
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