3Dプリンターで服を作る・アパレル事例

広がる服・アパレルでの3Dプリンターの活用

3Dプリンターの活は、アパレル業界や服の3Dプリントにも利用が開始されています。特に3Dプリンターを使用すれば、これまでにないデザインが作れることから、海外のスーパーブランドなどで利用が盛んです。

その試みは2011年にオランダのファッションデザイナー、アイリス・ヴァン・ハーペンが、2011年に3Dプリンターによって作られたドレスを発表するなど、比較的早い段階から取組が行われています。

また、2015年には、ファッション業界の大御所、故カール・ラガーフェルドが、上記、アイリスヴァンハーベンや、同じく3Dプリントで服を作るノア・ラビフと共に、シャネルのオートクチュールコレクションに3Dプリンターを使用する試みを発表しました。また数年パリのファッションウィークで3Dプリント服が登場するなどアパレル業界での3Dプリンターの使用が徐々に行われつつあります。

3Dプリンターで作れる服とは?

それでは3Dプリンターで作られる服とはどのようなものなのでしょうか?3Dプリンターというと、硬いものを作るイメージがありますが、ナイロンやTPUといった素材を中心カスタマイズされて作られています。

高いコストと造形時間

ただし、通常の服を作るのとは違い、造形時間がかなりかかる点や、1個当たりのコストが高くなることから、現在のアパレル業界での利用は、ファッションショーや映画の衣装など特注品での造形にとどまっています。

服作りで使用される3Dプリンターの造形方式と素材とは?

それでは実際にどのような3Dプリンターの造形方式と素材が服作りに利用されているのかご紹介します。

服では衣服にまとうことから、柔軟性や柔らかさなどが求められるため、プラスチック材料が使える3Dプリンターになります。

現在、プラスチックの3DプリンターはFDM方式、光造形方式、インクジェット方式、レーザー焼結方式と4種類が中心ですが、どの造形法式もアパレル、ファッションでは活用されています。

下記は服を3Dプリントする場合の造形方式別の項目別の評価です。

 

光造形

インクジェット

レーザー焼結方式

FDM方式

基本的にな仕組み

液体のUVレジンに紫外線をあてて固める

液体のUV硬化性樹脂を微細なインクジェットで噴霧し、紫外線をあてて固める

ナイロンやTPUの粉末材料にレーザービームをあて焼き固める

フィラメントといわれる糸状のプラスチックをノズルを通すて溶かして積み上げ固める。

表面の滑らかさ

  • 積層跡が目立たない

◎積層跡が目立たない

△ざらざらした質感

× 積層が目立つ

高精細さ

  • 25ミクロンの積層ピッチ

14ミクロン、16ミクロンの積層ピッチ

100ミクロン~ 

× 推奨が100200ミクロン

後加工性

  • 研磨や塗装ノリがよい

◎研磨や塗装ノリがよい

◎研磨や塗装ノリがよい

△積層跡が目立ち研磨に手間がかかる 

コスト

  • 材料による

×高い

低コスト

  • 低コスト

服・ファッションで作る場合の特長と課題

光造形は大型の造形物ができない点やサポート材がつくため、服の一部、アクセサリやネイルなどが向いている

インクジェットはフルカラーでかつ形状も自在なため最も期待される造形方式

レーザー焼結はサポート材がつかず、素材もナイロン、TPUでの活用が期待される。

FDMは大型の造形が難しく、安定性の観点からパーツなどの造形が向いている。

光造形3Dプリンターで服を作る場合

光造形3Dプリンターは高精細で滑らかな造形ができるのが最大の特長ですが、大型の造形物を作るのが難しい点や、サポート材がついてしまう点などから、服全体を作るよりも服の一部や服のパーツ、ネイルなどを作るのに適しています。

インクジェット3Dプリンターで服を作る場合

インクジェット3Dプリンターは最も服作りに向いている3Dプリンターです。光造形よりも微細で、かつフルカラーや柔軟性を表現することが可能です。ただしその反面導入コストや材料コストが高いです。

レーザー焼結3Dプリンターで服を作る場合

レーザー焼結3Dプリンターは最も服作りに活用されている3Dプリンターです。ナイロンとゴムであるTPUが使えることや、サポート材がつかないことから服をそのまま出力することもできます。

FDM 3Dプリンターで服を作る場合

FDM 3Dプリンターで服作る場合、材料費が安く、低コストで作ることができます。その一方で積層跡が目立つのと膨大な造形時間がかかります。また使用する機種によって安定性を保つのが難しいです。

光造形3Dプリンターでの服・アパレル業界で活用する方法

それでは実際に光造形3Dプリンターで服、アパレル業界で活用する方法についてご紹介します。光造形3Dプリンターは既にご紹介した通り、服全体ではなく服の一部やアクセサリでの活用が向いています。

光造形3Dプリンターで服を3Dプリントする方法

それでは実際に3Dデータを使って服を光造形3Dプリンターでつくる方法をご紹介してまいります。

Form3+が服の3Dプリントにおすすめな理由

服の3DプリントはForm3+がおすすめです。Form3+は高精細、滑らかな造形が特長ですが、服の一部はメッキしたり、ネイルは透明材料が最適です。また他の光造形3Dプリンターと比べて以下のような際立ったメリットがあるためアパレル関連の3Dプリントには最適です。

おすすめポイント

おすすめな理由

高精細・滑らかな造形が可能

SLAを進化させたLFSテクノロジーという造形技術で、どのプリント場所でも高精細で継ぎ目のないプリントができる。

またXYの平面解像度も25ミクロンで一定の精度を出すことができる。

高い安定性・失敗しない

プリント設定が自動で行ってくれるため、形状やレジンの種類ごとに細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できる。

服やアパレル関連では高精細なグレイやクリアがおすすめです。

簡単な操作性

ソフトウェアが非常に使いやすく、ケースのように形状に応じたプリント方向、サポート設定が求められる造形物には操作性が求められる。

豊富な積層ピッチ

25ミクロン、50ミクロン、100ミクロンと豊富な積層ピッチが選択できる。

使用する材料

服のパーツやネイルなどは見た目の高精細でグレイ、クリアを使用します。

  1. クリアレジン

透明性を持つレジン。造形後に研磨やコーティングを施すことで高い透明性を発揮します。

  1. グレイレジン

最も高精細で滑らかに造形ができるのが特長です。

クリアレジンと金メッキで服のパーツを造形

実際にクリアレジンを使って3Dプリントし、造形後に金メッキを施すことで、服のパーツを作った事例があります。

ミラノを拠点とするファッションデザイナーのMiaVilardoMiryakiRiccardoPolidoroが行った取り組みで、2014年にForm1Formlabsの初代3Dプリンター)を使って行われた取り組みです。クリアレジン25ミクロン~100ミクロンでプリントが可能でメッキは電気によるクロムメッキです。

金属塗料「塗る金属」使えば再現可能

上記の取り組みは電気メッキを施していますが、3Dプリンタ造形後に金属塗料と組み合わせればいろいろな金属の質感が表現できます。金属塗料は金属粉末と硬化剤を混ざ合わせて表面だけ本物の金属にする塗料で、塗った後に研磨を施すと本物の金属の光沢を再現できます。

「塗る金属」はゴールドからブロンズ、カッパー、真鍮、鉄、ステンレス、クロムなどさまざまなラインナップが利用できます。

表面ガラスコーティングで防汚、防傷

ファッションショーなどで使用することを想定すると、傷や汚れがつかないように表面コーティングするのもお勧めです。この場合、ガラスコーティングを施せば長期にわたって表面を美しく保つことができます。

ナノメタルコーティングは希少金属であるレアメタルを配合した高性能のコーティング材です。防汚防傷効果があり、表面を薄いガラス被膜で保護します。

レーザー焼結3Dプリンターで服を3Dプリントする方法

レーザー焼結3Dプリンターは最も服作りに利用されている3Dプリンターです。

Fuse1が服の3Dプリントにおすすめな理由

服の3DプリントはFuse1がおすすめです。Fuse1はレーザー焼結3Dプリンターで初ともいえるデスクトップ型の3Dプリンターです。窒素ガスを使用しないため、特別な工事や設備工事を行わなくてもオフィスでも使用できるレーザー焼結3Dプリンターです。

おすすめポイント

おすすめな理由

高強度・高精度の造形ができる

レーザー焼結法はナイロンパウダーにレーザービームを照射して焼き固めて造形物を作る製法です。Fuse1はサポート材がつかず、高精度で作ることができます。

高い安定性・失敗しない

プリント設定が自動で行ってくれるため、細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できます。

Form3同様プリント設定が不要なため安定性が高いです。

高い生産性

材料コストが安く、サポート材がつかず、さらに材料の再利用が可能なため、高い生産性を持つ。

使用する材料

Fuse1ではナイロン12でプリントします。

Fuse1で出力した服のサンプルの一部

実際にFuse13Dプリントしたチェーン状のサンプルをご紹介します。まずサポート材がつかないため、表面の質感などを保ったまま造形ができます。さらにチェーンとチェーンが高強度で止められているため、壊れたり破れたりすることがありません。また材料が再利用することができるのもうれしい点です。

金属塗料「塗る金属」使えば再現可能

上記の取り組みは電気メッキを施していますが、3Dプリンタ造形後に金属塗料と組み合わせればいろいろな金属の質感が表現できます。金属塗料は金属粉末と硬化剤を混ざ合わせて表面だけ本物の金属にする塗料で、塗った後に研磨を施すと本物の金属の光沢を再現できます。

「塗る金属」はゴールドからブロンズ、カッパー、真鍮、鉄、ステンレス、クロムなどさまざまなラインナップが利用できます。

表面ガラスコーティングで防汚、防傷

ファッションショーなどで使用することを想定すると、傷や汚れがつかないように表面コーティングするのもお勧めです。この場合、ガラスコーティングを施せば長期にわたって表面を美しく保つことができます。

ナノメタルコーティングは希少金属であるレアメタルを配合した高性能のコーティング材です。防汚防傷効果があり、表面を薄いガラス被膜で保護します。

インクジェット3Dプリンターで服を3Dプリントする方法

インクジェット3Dプリンターも最も服作りに利用されている3Dプリンターです。特にフルカラー造形のできるストラタシスのJシリーズは豊富な利用実績があります。

Stratasys Jシリーズが服の3Dプリントにおすすめな理由

服の3DプリントはStratasyspolyJet3DプリンターであるJシリーズがおすすめです。JシリーズはJ850J55など、フルカラー造形ができる3Dプリンターです。色彩の表現も50万色以上(J55)が可能で、既に実際のファッションショーなどでも使用されています。

おすすめポイント

おすすめな理由

フルカラー・マルチマテリアル

JシリーズはCMYKWUV硬化樹脂を噴霧しながら色を自在に表現できるのが特長です。50万色以上の表現で、3Dデータからダイレクトにプリントが可能です。

高精細&滑らかな質感

PolyJet3Dプリンターは、14ミクロンや16ミクロンなどの積層ピッチで非常に微細な表現が可能です。インクジェット状で噴霧することから滑らかさも他の3Dプリンターに比べて優れています。

使用する材料

ストラタシスPolyJet3DプリンターはUV硬化性樹脂を使用します。Veroシリーズというカラーマテリアルを中心にCMYKWのカラーをかけ合わせて配合しカラーを表現します。

Jシリーズで出力した服の事例

Jシリーズではファッションショーでの使用実績が多数登場しています。ここではそのいくつかをご紹介します。

ニューヨークファッションウィーク20163Dプリントドレス

20167月のニューヨークファッションウィークで登場した3Dプリントドレスです。270個の3Dデザインを組み合わせて作られた3Dプリントドレスで、J750のフルカラーマルチマテリアルで作られています。

2019Stratasysx KAIMIN3Dプリントデニム

お次にご紹介するのが2019年にストラタシスとハイテクファッションブランドKAIMINがコラボレーションした3Dプリントデニムです。KAIMINはレディー・ガガやビョーク、ケイティ・ペリーといったアーティストとコラボした実績があるブランドです。

この服もPolyJet テクノロジーとマルチマテリアルによって作り出されており、インクジェット3Dプリンタでなければ表現できない色調を表現しています。

JuliaKoernerとストラタシスの3Dプリント服

もう1件、建築家兼、デザイナーのJuliaKoernerとストラタシスのコラボデザインの3Dプリント服をご紹介しましょう。

こちらもPolyJet テクノロジーのJ850とマルチカラーマテリアルを使ったマダガスカルサンセットバタフライの服を3Dプリントしています。蝶のパターンを2Dスキャンし、そのパターンをマッピングしたデザインです。

アパレル・服業界における3Dプリントケーススタディ集

ここからは、上記以外に、どのような服作りに3Dプリンターがどのように活用されているかをご紹介しましょう。

3Dプリント服のパイオニア。アイリス・ヴァン・ハーペン

3Dプリンターを使って服を作るファッションデザイナーのパイオニアがオランダのファッションデザイナーアイリス・ヴァン・ハーペンです。

彼女はオランダの美術学校であるArtEZ University of Artsで学び、今から10年以上前にわずか24歳で独立しました。アイリス・ヴァン・ハーペンは上記のシャネルのオートクチュールコレクションで有名ですが、自らのファッションブランドを2007年に立ち上げ、毎年3Dプリンターなどの最先端のデジタルテクノロジーを使ったコレクションの発表を行っています。

また、その独創的でアーティスティックなデザインは著名人からのファンも多く、レディー・ガガ、ティルダ・スウィントン、ビョーク、ビヨンセなども彼女のファッションのファンとなっています。3Dプリンターとアパレル、服と言えば、まず彼女の作品を外すことはできません。

TIME 年間最優秀発明50に掲載された20113Dプリントドレス

アイリス・ヴァン・ハーペンの最初の3Dプリント服が2011年に発表されたEscapism Coutureコレクションです。

このEscapism Coutureコレクションは、ドレスやネックレスなどの作品で、デザインとテクノロジーとファッションを融合させた革新的な取組として、称賛されました。

この3Dプリントドレスは、Photoshopで作られ、その後建築家などと協力して3Dモデル化し、1週間かけて3Dプリントされました。この3Dプリントドレスはロンドンのビクトリア&アルバートホールで開催された、産業革命2.0で展示され、TIME誌から、その年の年間優秀発明501つに選出されています。

オートクチュールショー「VOLTAGE2013

アイリス・ヴァン・ハーペンの代表的な作品のひとつが2013年に発表された3Dプリントドレスのコレクションです。

このドレスのスカートとケープでは、ストラタシスのマルチマテリアルが可能なインクジェット3DプリンターObjet Connexが使用されました。Objet ConnexPolyJetテクノロジーといわれる液体樹脂をインクジェットのように吹き付け硬化させる製法を持ち、一つのモデルに硬い硬質材料と柔らかい柔軟性のある材料を組みこむことができます。

3Dプリンターで作られた服の欠点のひとつが、プラスチックを使用するため、このObjet Connexによる柔軟性がある材料は、体へのフィット感と衣服としての機能性が再現可能です。

このコレクションは、パリ・ファッション・ウィークでは、デザインや素材だけでなく、動きや装着性についても配慮された3Dプリントドレスが発表されました。ショーの後、このドレスはMITメディアラボで展示されています。

Magnetic Motion。レーザーカッター、3Dプリンターで作られたコレクション

2015年春のコレクションでは「Magnetic Motion」というコレクションを発表しました。このコレクションは、レーザーカッターや射出成形、3Dプリンターが使用されたドレスで、アクリルメッシュで作られた半透明の3Dプリントドレスが登場しました。このコレクションはカナダ人建築家であるフィリップ・ビーズリーと、オランダのデザイナーJólanvan der Wielとのコラボレーションによって作り出されました。

Ludi Nature2018コレクション。0.8mmの極薄3Dプリントドレス

アイリス・ヴァン・ハーペンは、パリファッションウィーク2018において、新たなコレクションLudi Nature2018を発表しました。

このコレクションでは、21種類の服がレーザーカッター、3Dプリンター、パラメトリックデザインなど最新のデジタルテクノロジーによって作り出されています。中でもひときわ注目されたのが、「Foliage」という3Dプリントドレスです。このドレスはなんとわずか0.8mmという極薄で3Dプリントされたもので、「葉」のように非常に柔らかいドレスに仕上がっています。

Foliage」を創りだしている製法はデルフト工科大学(TU Delft)と協力して開発されたもので、3Dプリントから4Dプリントの実験も行われています。

Noa Raviv。ストラタシスのObjet Connex3で服を3Dプリント

3Dプリンターで服を作るデザイナーとしてもう一人有名な存在が、Noa Ravivです。Noa Ravivは、イスラエルのファッションデザイナーで、グリッドパターンのデザインとストラタシスのハイエンド3Dプリンターを使用した3Dプリントドレスで有名です。

2014年に彼女が発表したブランド、Hard Copyコレクションは、ギリシャの彫刻からインスピレーションを上て作り出されたもので、デジタルの図面とギリシャ彫刻の歪みを対照的に表現しています。この3Dプリントドレスは、ストラタシスのマルチマテリアルマルチカラー対応のObjet 500 Connex3で作られ、細部にわたって精密に表現されました

デザインの特長であるグリッドパターンは、モデリングソフトウェアのツールによって、衣服の周りに施され、その周囲を黒い輪郭とオレンジのアクセントで補完しシャープな印象が与えられています。彼女の作品はニューヨークのメトロポリタン美術館に収められています。

http://www.noaraviv.com/graduate-collection/

threeASFOUR。ニューヨークファッションウィーク2016でもObjet Connex3が活躍

Noa Ravivと同じように、ストラタシスのObjet Connex3を服に使用するケースがニューヨークファッションウィークで登場しました。この試みはニューヨークを拠点にするファッションリーダーであるthreeASFOURとデザイナーTravis Fitchによって行われました。

この3Dプリントドレスは、‘Oscillation’(振動)というタイトルで、およそ30個のパーツで構成されています。このデザインは振動による幾何学的形状と周波数による幾何学的形状を表現したもので、厚さ1ミリの層で作られグラデーションカラーと柔軟性が特長です。

特にグラデーションと1ミリの層という薄さで柔軟性を持つ造形はインクジェットでマルチカラーマルチマテリアルが可能なConnex3ならではだと言えるでしょう。ちこの表現について、ThreeASfOURは「複雑で絡み合ったエネルギーの円で、形状、色、柔軟性が身体の周りを放射するように変形する3Dパターンを視覚化することができました」と語っています。

シャネルのオートクチュールコレクション2015でも3Dプリンターが使用

これまでご紹介してきたのは、デジタルテクノロジーをファッションに取り入れた新たなデザイナーの取組ですが、スーパーブランドのシャネルが2015年のオートクチュールコレクションに3Dプリンターを取り入れたことは有名です。既に冒頭でもご紹介しましたが、このシャネルの取組は、ファッション界の巨匠であるカール・ラガーフェルドによって行われました。

ラガーフェルドは、既にご紹介した、3Dプリント服のパイオニアである二人のデザイナーアイリス・ヴァン・ハーペンと、Noa Ravivと共に手がけました。因みにオートクチュールコレクションと言えば、パリ・クチュール組合に加盟するオーダーメイドの高級服の一点物で、いわばパリコレの発祥ともいえるコレクションのこと。

加盟しているスーパーブランドは、シャネルを初め、クリスチャン・ディオール、ジバンシー、ゴルチエ・パリなどで、ファッションデザインの代表ともいえる服です。そのため、伝統的な1920年代のデザインとキルトによる縫製をベースとしつつ、部分的に装飾で3Dプリンターが使用されています。

具体的にはスカートやジャケットの装飾として3Dプリンターで作られたパーツが取り付けられました。使用された3Dプリンターはレーザー燒結法(SLS、おそらくEOS社の3Dプリンター)によるもので、パウダー状のナイロンかと思われます。

使い方は布地の上にカバーのように3Dプリントされた装飾品を取付ており、出力された3Dプリント装飾は歴史的なクチュール・アトリエであるLesageLemariéの職人によって縫製されました。例えば下記の写真のようにスパンコールと3Dプリントパーツの一体は、2トーンの外観を見事に表現しています。

このオートクチュールコレクションのアイデアは、20世紀の最も象徴的なジャケットを使い、その21世紀版を作ることだ」とラガーフェルドはのべています。この斬新なデザインと装飾を可能にしたのはまさに3Dプリンターならではの造形と言えるでしょう。

ジャケットやスカートに取り付けられた3Dプリントパーツは、金型や切削など従来の加工技術では再現が難しい形状をしています。またその一方で3Dプリンターで扱えるプラスチック材料では、布地のような柔らかさ肌触り、フィット感を出すことが難しく、まだまだ服を作る技術として実用性は乏しいのが現実です。その現在の3Dプリンターの特性をうまく取り入れた取組と言えるでしょう。

Pringle。レーザー焼結3Dプリンターで布地に組み込む試み

シャネルのオートクチュールコレクションに3Dプリンターが使用された事例をご紹介しましたが、この布地に組み込む取り組みは実はシャネルに先駆け2014年にスコットランドのファッションブランドPringle(プリングル)が行っていました。

この試みはPringle3Dプリントテクノロジーの科学者Richard Beckettとの間で行われたもので、シャネルの事例と同じようにレーザー燒結法(SLS)白いナイロンパウダーが使用されています。使用された3Dプリンターはレーザー燒結法(SLSDMLS)のパイオニアであるドイツのEOS社の3DプリンターEOS Formiga P100であり、3Dプリント後は衣服に組み込まれました。

2014年にPringleによって発表されたコレクションでは、手首の摩耗に触覚要素を追加したり、セーターのアーガイルプリントに盛り上がった要素が追加されています。

このデザインを手がけたPringleのデザイナー、マッシモ・ニコシアは、「より彫刻的な衣装のアプローチから、よりマテリアル的な触覚ベースのアプローチへと移行したいと思っています。

3Dプリントパーツは、小さなフックや羊毛に縫い付けられています。これらは豪華なパターンであり、衣服をシンプルでエレガントな方法で強化しました」。

Bradley Rothenberg3Dプリントテキスタイルを服に取り込む

EOSのレーザー燒結法の3Dプリンターとホワイトのナイロンパウダーを使い、服に3Dプリントテキスタイルを取り入れた斬新なドレスを発表したのがBradley Rothenbergです。

これは2014年のニューヨーク・ファッションウィークで発表されたもので、3Dプリントドレス以外に、アクセサリやバッグなども発表されました。

この使い方もシャネルと同様、服の一部に装飾として3Dプリントパーツを加えることで、これまでにはないデザインを表現しています。

組みこまれた3Dプリントパーツは、メッシュ構造で形作られており、柔軟性を高めるために細分化し、薄くプリントされています。この3Dプリントドレスも3Dプリントサービスを提供するi.Materialiseとシェイプウェイズによって作られました。

バーレスクダンサー、ディタ・フォン・ティースの3Dプリントドレス

レーザー燒結法が3Dプリントドレスに使用された例として、ニューヨークのデザイナーMichael Schmidtと建築家Francis Bitontiによって2013年に作られた3Dプリントドレスの方が早いかもしれません。

こちらはバーレスクのダンサーディタ・フォン・ティースにカスタムフィットさせるために作られました。シャネルや、Pringleとは違い、こちらは黒いナイロンパウダーとレーザー燒結法によって作り出されています。

この3Dプリントドレスは、有名なオランダの3Dプリントプロダクトのオンライン販売を行うシェイプウェイズで製造されました。のちの柔軟性を実現した極薄のナイロンとは違い、このドレスは硬く、網状にすることで可動性を保っています。

DANIT PELEG。デスクトップFDM 3Dプリンターで2000時間で服を作成

これまでご紹介してきた3Dプリント服は、プラスチック材料の中でも比較的柔軟性が表現できるナイロンパウダーと、レーザー燒結法(SLS)による3Dプリントドレスが多かったが、デスクトップタイプのFDM 3DプリンターとPLAフィラメントで作る試みも登場していいます。

DANIT PELEGによって行われたこの試みは5着の衣服を3Dプリントするのになんと2000時間もかかっています。最終的には、ゴムライクのフィラメンFilaFlexを使用しています。DANIT PELEGはもともと大学でデザインを学び、卒業制作で取り組んだのがこの3Dプリントドレスです。

当初はA4サイズのシートを1枚プリントするのにも20時間ほどかかったとのことで、3Dプリントを始めた最初の1カ月はデスクトップFDM 3Dプリンターの課題でもあるハードウェアの惰弱性やミスプリントによってほとんど外出できなかったとのことで、苦心の末5着の3Dプリントドレスの制作に成功しました。

まとめ

ファッション・アパレル業界における服の3Dプリントは、新たなデザインの試みとして着実に浸透しています。当初は硬質なプラスチック材料による物が中心でしたが、徐々にテクノロジーが進化するとともに服に合うように、柔軟性のあるナイロンパウダーを使った、極薄の3Dプリントドレスなどが登場してきています。

何よりも3Dプリンターを服の一部に取り入れることで、これまでにないデザインやアイデアを実現することが可能になっています。むしろ、従来の布をベースに、一部分を3Dプリンターで作ることで、従来にはない新たな試みが可能になり、ファッションの進化をもたらすことでしょう。