3Dプリンターでケースを作るには
3Dプリンターでつくることができる最も身近なものの一つが“ケース”です。
ケースは日常、さまざまなところで使用されています。例えば3Dプリンターで作られるケースとして代表的なものがスマートフォンケースがあります。
またケースといえば、PCなどのコンピューター周辺機器では機械を保護する目的でケースが使用されており、例えばラズベリーパイ用ケースや電源ケーブル用のケースなど3Dプリンターを使ってさまざまな身の回りのケースを作ることもできます。
さらに電子機器以外にも、名刺などを入れるカードケースや、ペンケースなど文房具類のケースもあります。
このようにケースは身の回りのいろいろなものがあり、すべて3Dプリンターを使えば手軽につくることができるのです。今回はケースを中心に3Dプリンターでのつくりかたをご紹介してまいります。
ケースづくりに求められる3Dプリンターの素材と機能
それではまず、ケースづくりにはどのような点が求められるのでしょうか?ケースの機能というと、基本的に対象物を保護する目的などが挙げられます。電子機器などは回路基板などを保護する目的でケースが取り付けられています。
保護する目的のためには落としても割れなかったり、対象物が壊れない強度が求められます。
また3Dプリンターで作る場合、対象物にカスタマイズされた形状にできるという機能もあります。
3Dプリンターは”積層造形“といわれ、25ミクロンとか100ミクロンといった薄い層を何層も積み重ねて1個の物体にしてく技術です。そのため造形方式によっては積層跡が残ってしまいます。
ケース本来の目的である保護と、3Dプリンターでつくるカスタマイズという要素以外に、見た目を求めるのであれば、積層跡が目立たない造形方式の3Dプリンターを使用することも必要です。
ケースの3Dデータの作成・入手方法
初めに3Dデータを用意する必要があります。STL形式かOBJ形式の3Dデータがあれば3Dプリントが可能です。
3Dモデリング
ケースの3Dデータを作るにはFusion360のような3DCADソフトがおすすめです。操作も簡単で初心者にもやさしいCADソフトです。
フリーの3D素材を利用する
フリーの3Dデータから素材をダウンロードする方法もあります。無料で利用できる3Dデータサイトが複数存在します。例えばThingiverseなどの無料3Dデータサイトで「case」と検索すると複数無料データがダウンロード可能です。
ケースの3Dプリントに最適な造形方式とは
ケースを3Dプリントする際には、どの造形方式がもっともおすすめでしょうか?ケースは先にご紹介した通り、対象物を保護できるある程度の強度がベストです。
ケースをつくるには樹脂系の3DプリンターであるFDM方式と光造形方式の2種類を中心に考えます。FDM方式、光造形方式両方とも高強度の材料があるのでどちらも使用可能です。
下記はケースを3Dプリントする場合の光造形とFDM方式の項目別の評価です。
光造形 | レーザー焼結法 |
FDM方式 | |
強度 | ◎ 高強度材料を使用の場合 | ◎非常に高い高強度 | ◎ 高強度材料を使用の場合 |
材料 | ABSライク、PPライク、PEライク | ナイロン12 | 高強度PLA、ABS、PCなど |
表面の滑らかさ |
| △積層跡は目立たないがざらざらしている |
× 積層が目立つ |
高精細さ | ◎25ミクロン~50ミクロン、100ミクロンの積層ピッチで高精細。平面の解像度も高い | 〇100ミクロンでも高精細な仕上がり | × 推奨が100~200ミクロン |
後加工性 | ◎研磨や塗装ノリがよい | ◎研磨や塗装もできる |
△積層跡が目立ち研磨に手間がかかる |
コスト |
| ◎低コスト |
|
造形サイズ |
◎ デスクトップサイズでプリント可能 | ◎大型の造形も可能 |
◎ 高強度PLAであればある程度大きいものは可能 ABSやPCは反る可能性があり。 |
光造形3Dプリンターでケースを作る場合
光造形3Dプリンターでケースを作る場合、ポイントとなるのがプリント方向とサポート材の付け方です。ケースは四角い形状をしている場合が多く、プリント方向によってはサポート材がついてしまう可能性があります。基本的には高強度と滑らかな表面を両立できます。
レーザー焼結3Dプリンターでケースを作る場合
レーザー焼結法は、高強度なナイロン12を使って、かつ低コストでケースを作ることができます。また他の造形方式とは違い、サポート材がつかないことや、造形のエリアが面ではなく、立体で配置することができるため、複数作る小ロット量産に最適です。
FDM 3Dプリンターでケースを作る場合
FDM 3Dプリンターでケースを作る場合、材料費が安く、低コストで作ることができます。高強度のABSやポリカーボネートを使用できますが、大きいケースだと反る可能性もあります。その場合高強度PLAがおすすめです。また積層跡が目立つためその点は考慮して使用しましょう。
光造形3Dプリンターでケースを3Dプリントする方法
それでは実際に3Dデータを使ってケースを光造形3Dプリンターで作る方法をご紹介してまいります。
Form3がケースの3Dプリントにおすすめな理由
ケースの3DプリントはForm3を使って進めます。Form3は高精細、滑らかな造形が特長ですが、3種類の高強度材料を使用できます。また他の光造形3Dプリンターと比べて以下のような際立ったメリットがあるためケースの3Dプリントには最適です。
おすすめポイント |
おすすめな理由 |
高精細・滑らかな造形が可能 | SLAを進化させたLFSテクノロジーという造形技術で、どのプリント場所でも高精細で継ぎ目のないプリントができる。またXYの平面解像度も25ミクロンで一定の精度を出すことができる。 |
高い安定性・失敗しない | プリント設定が自動で行ってくれるため、形状やレジンの種類ごとに細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できる。ケースの場合、高強度のタフ2000、タフ1500、デュラブルを使用するので簡単なプリント設定、安定性が求められる。 |
簡単な操作性 | ソフトウェアが非常に使いやすく、ケースのように形状に応じたプリント方向、サポート設定が求められる造形物には操作性が求められる。 |
豊富な積層ピッチ |
25ミクロン、50ミクロン、100ミクロンと豊富な積層ピッチが選択できる。 |
使用するケースのデータ
光造形3Dプリンターでどこまで造形できるかを検証するため今回はいろいろなタイプのケースをプリントしてみます。
使用するレジン
ケースには強度や見た目の検証が求められるため、以下の4種類のレジンで検証してみます。
タフ2000レジン
ABSのような引張強度を持ち、適度な硬さをもちあわせています。
タフ1500レジン
PP(ポリプロピレン)の柔軟性をもち、より引張強度が高い材料です。
デュラブル
PE(ポリエチレン)の強度を持ち、タフ2000とタフ1500の中間の材料です。
グレイレジン
グレイレジンは最も高精細で滑らかな仕上がりができます。形状確認ようプロトタイプや強度がもとめられない造形物に適しています。
プリント設定
3Dプリンタ―に送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというForm3専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormでは使用するレジン、積層ピッチや大きさ、プリント方向、サポート材の付け方を設定します。
積層ピッチの選択
ケースに使用する3種類の材料はいずれも100ミクロンでプリントします。
サポート材の設定
ケースは形状によってはサポート材を付けないでプリントも可能です。今回の名刺ケースは形状的にサポート材を付けないと支えきれないため縦方向にプリント設定を配置して設定をします。
プリント完了後
プリントが完了するとビルドプラットフォームに吊り下げられて造形されます。その後ビルドプラットフォームから取り外し、洗浄と乾燥を行います。
ビルドプラットフォームから取り外す
光造形3Dプリンターでは、ビルドプラットフォームにしっかりと造形モデルがくっついています。Form3の場合はラフトとビルドプラットフォームの設置面が真空状態になっており専用工具を使用して取り外します。
専用工具の中でも取り外しやすいのがヘラとハンマーです。まずラフトとプラットフォームの間にヘラをあてます。
次に軽くハンマーでヘラをたたきます。この際、加える力はほんの軽くで大丈夫です。ヘラが少しでも入れば、そこから空気が入り込み、真空状態が無くなり簡単に造形物が取れます。
洗浄
造形物の取り外しができた後は、エタコールで洗浄を行います。洗浄にはIPA(イソプロピルアルコール)やエタノールなどがありますが、第二種有機溶剤に該当しないエコタールがおすすめです。
仕上げキットを使用する場合
仕上げキットを使用する場合、各バスケットに10分ずつ、合計20分程度ひたしてください。洗浄時間はエコタールの濃度によって異なります。洗浄が続き汚れている場合には少し長め、もしくは別途、エコタールで拭き取ってください。
FormWash(自動洗浄機)を使用する場合
FormWashでは、自動で攪拌してくれて洗浄完了後、引き上げてくれます。こちらも20分程度洗浄を行ってください。
乾燥
エタコールで洗浄後は乾燥をおこなってください。乾燥時間は1時間程度あれば十分です。
サポート除去
さてここからはサポートの除去を行ってまいります。サポート材は手でも取り外すことができますが、なるべく造形物を傷つけたくないので、ニッパーを使って取り外していきます。
まとめ ケースの概算コストと制作期間
3Dプリンターでカードケースをつくる場合の概算費用をご紹介します。
ランニングコスト
材料使用量 | 100ml |
材料コスト | 1880円(18.8円×100ml) |
造形時間 | 4時間28分 |
そのほかのケース類
上記では名刺ケースを代表例としてご紹介しましたが、ここではそれ以外のプリントしたケース類についても簡単にご紹介します。
メッシュケース
タフ1500とタフ2000で3Dプリントしたメッシュケースです。メッシュ状のものや蓋がついているものも3Dプリンターであれば一体成型が可能です。
スクリューキャップケース
グレイレジンで3Dプリントしたスクリューキャップケースです。スクリューキャップはネジのように蓋を止めることができます。小さいケースから大きいケースまで幅広い大きさが作れます。
エンクロージャー・ハウジング
電子機器などの筐体であるエンクロージャーやハウジングも3Dプリンターで出力可能です。上記はABSライクのタフレジン(旧型現在はタフ2000に移行)とグレイレジンで出力したハウジングです。
スマートフォンケース
3Dプリンターで作れるものの一つにスマートフォンケースがあります。こちらは3Dプリンターでクリアの透明レジンで出力後、塗装を施したものです。
レーザー焼結法でケースを作る場合
次にレーザー焼結法でケースを作る場合をご紹介しましょう。レーザー焼結法ではナイロン12での高強度造形が可能です。
Fuse1がケースの3Dプリントにおすすめな理由
ケースの3DプリントはFuse1を使った場合のケースをご紹介します。Fuse1はレーザー焼結3Dプリンターで初ともいえるデスクトップ型の3Dプリンターで、最も導入コストが安いレーザー焼結3Dプリンターの一つです。
窒素ガスを使用しないため、特別な工事や設備工事を行わなくてもオフィスでも使用できるレーザー焼結3Dプリンターとして従来2,000万円~5,000万円であったレーザー焼結法が500万~600万で導入が可能です。
おすすめポイント |
おすすめな理由 |
高強度・高精度の造形ができる | レーザー焼結法はナイロンパウダーにレーザービームを照射して焼き固めて造形物を作る製法です。Fuse1はサポート材がつかず、高精度で作ることができます。 |
高い安定性・失敗しない | プリント設定が自動で行ってくれるため、細かいパラメーター設定をする必要がない。ソフトでプリント設定すればだれでも綺麗に印刷できます。 Form3同様プリント設定が不要なため安定性が高いです。 |
高い生産性 | 材料コストが安く、サポート材がつかず、さらに材料の再利用が可能なため、高い生産性を持つ。 |
ケースの3Dプリントに使用する材料
Fuse1ではナイロン12が現在使用できる材料です。ナイロン12は高い耐久性、高強度、耐熱性に優れています。
プリント設定
3Dプリンタ―に送る前に、プリント設定を行います。プリント設定はPreFormというFuse1専用のスライスソフトで設定を行います。PreFormはForm3と同様のソフトウェアでFuse1に切り替えができます。Fuse1はサポート材がつかないので、立体物の範囲にどのように配置するかを決めます。
サポート材の設定
Fuse1はサポート材が必要ありません。ナイロンパウダーを積み重ねながらレーザービームを照射して固めるのですが、周りのナイロンパウダーがサポート材の代わりになり造形物を支えてくれます。
プリント完了後
Fuse1はプリント完了後、冷却期間がプリント時間の半分ほどかかります。その後、冷却が終わった後はFuse Shiftで余計なパウダーを取り除きます。
FuseShiftから取り外す
Fuse1のようなレーザー焼結3Dプリンターは、造形後にパウダーの中に埋まっています。余分なパウダーをFuseShiftで吸引し、取り出します。その際、余分なパウダーは再利用が可能になります。ナイロンパウダーは非常に粒子が細かいので、完全に取り除くまでかなりの吸引が必要です。
まとめ 概算コストと制作期間
Fuse1でケースを作ると非常に高強度で繰り返し使用することができるケースを作ることができます。下記はFormlabsのFuse1サンプルですがケースを止めるスナップフィット部分は折れることなく何度も繰り返し使用することができます。また、表面のディティールもエンボス加工やデボス加工、穴あけなども非常にきれいに3Dプリントができます。
材料 | ナイロン12 |
プリント個数 | 1回の造形で84パーツ |
1個当たり材料消費量 | 20g |
1個あたり材料コスト | @132円 |
低価格なFDM 3Dプリンターでケースを作る
低価格なFDM 3Dプリンターでもケースを作ることはできます。ただし、ABSやナイロンを使用する場合、反りなどが発生する可能性があり、大きさは限定的されます。
植物由来のPLAでは、熱による変化が少ないため、ある程度の大きさのケースを作ることが可能です。ここではケースを作るのに使用できるおススメのFDM 3Dプリンタ―をご紹介します。
機種名 |
使用材料 |
価格(税別) |
RaisePro2 | PLA、ABS、ポリカーボネート、ナイロン、カーボンファイバー配合ナイロンなど |
770,000円 |
RaiseE2 | PLA、ABS、ポリカーボネート など |
498,000円 |
UP300 | PLA 、ABS |
350,000円 |
Enderシリーズ | PLA | 3万円~7万円程度 |
CRシリーズ | PLA | 10万円程度 |
RaisePro2/Pro3
FDM3Dプリンターの中で最も安定して使用することができる3Dプリンターの一つがRaiseシリーズのRaisePro2、Pro3です。独自ソフトウェアのIdeaMakerによってハードウェアとの連携が高く、失敗が少ない3Dプリンターです。一般的にプリント設定が難しいFDM方式ですが、Raise3Dでは、パラメータ―設定が簡単です。
Pro2とPro3の違いは、2点あります。第一がノズルのエクストルーダーヘッドの装着がPro3ではマグネット式になり簡単に取り付けができるようになった点、第二がプラットフォームがPro3がフレキシブルタイプになり、造形後の取り外しが簡単です。
RaiseE2
RaiseE2は50万円以下のFDM 3Dプリンターの中では、最も安定性が高い機種の一つです。またPLA、ポリカーボネートと多彩な材料が1台で対応しており、Pro2・Pro3同様専用ソフトウェアIdeaMakerで簡単に使用ができます。
UP300
UP300は50万円以下の3Dプリンターの中では、比較的綺麗な造形ができる3Dプリンターです。ABSとPLAが使用でき(ABSは小型造形物のみ)、手軽な3Dプリントができます。ただし複雑な形状や他の材料はプリント設定が難しくPLA中心の造形がおススメです。
Enderシリーズ・CRシリーズ
EnderシリーズとCRシリーズは10万円以下のデスクトップタイプの3Dプリンターの中では、圧倒的なシェアを誇る3Dプリンターです。
Enderシリーズは組み立て式で低価格であり、いろいろな造形物を手軽に楽しむことができます。小さいケースなどはPLAとEnder、CRシリーズで低コストかつスピーディに作れます。3Dプリンターのエントリーとして、また、DIYや教育用ツールとしておススメです。
まとめ 3Dプリンターを使えばケースの試作、カスタマイズができる
3Dプリンターを使えば、さまざまなタイプのケースを作ることができます。また対応している造形方式も、光造形やFDM、レーザー焼結などさまざまですが、それぞれで向き不向きがあり用途によって最適な造形方式を選択するのがいいでしょう。i-MAKERではテストプリントやサンプルのご提供、またテレビ電話などで3Dプリント全般に対してアドバイスを行っております。是非お気軽にお問い合わせください!