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3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントとは
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメント材料は、植物由来のPLA樹脂をベースとして開発された3Dプリンター用材料です。植物由来とは、主にトウモロコシやジャガイモ、タピオカといった天然素材から抽出して作られたバイオプラスチックのことです。
PLA樹脂そのものは、石油由来のABS樹脂の代替品として開発されましたが、3Dプリンター用の材料では多数の種類が登場しています。そして、3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントは、ABSフィラメントと共に、最も一般的な材料として知られています。
一般的にはABSフィラメントの反対の物性を持つ材料として認識されていますが、実は、新しい材料として進化を遂げており、さまざまな種類も登場しています。
ここでは3Dプリンター用材料としてのPLA(ポリ乳酸)フィラメントについて、できることや作れるもの、特長や特性、更には代表的なPLAフィラメントの種類から、使用する際の注意点まで、をご紹介します。
寸法安定性にすぐれスピーディなプリントができるPLAフィラメンは、製品開発にうまく取り入れることでその真価を発揮します。
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントの強みと弱み
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントは、他の材料よりも優れた特性を持っており、製品開発のプロトタイピングには最適です。また初心者でも簡単に扱える材料です。
PLAフィラメントの強み
PLAフィラメントは安価で安定しており、初心者でも手軽に扱うことができます。
寸法安定性:
PLAフィラメントの一番の強みは、その寸法安定性です。ABSフィラメントとは違い、熱収縮性がそこまで高くないため反りなどの不具合も起きにくく、大きい造形モデルも安定して造ることができます。スピーディなプロトタイピングに最適です。
プリント安定性:
PLAフィラメントのもう一つの利点が、優れたプリント安定性です。プリントが非常に簡単で、歪みやノズル詰まりといった、低価格な家庭用3Dプリンターで起きる問題があまり起きません。そのため誰でも手軽に扱うことができます。
最も低価格:
PLAフィラメントは、3Dプリンター用のフィラメント材料の中で、最も低価格です。その使い勝手の良さと共に最も重宝する材料の一つです。
環境に優しく臭わない:
PLAフィラメントは植物由来で作られていることから生分解性を持ち環境にやさしい材料です。またABSフィラメントのように造形中に臭いを発しない材料でもあります。
PLAフィラメントの弱み
その一方で、PLAフィラメントは弱みもあります。
熱に弱い:
PLAフィラメントは、一般的に熱に弱く60℃程度でも簡単に柔らかくなります。耐熱性が求められるパーツの造形には不向きなフィラメント材料です。
強度が低く脆い:
PLAフィラメントは、硬くて脆いという性質があります。そのため曲げ強度や引張強度などが低く壊れやすいです。
PLAフィラメントの特性一覧
- 硬くて寸法安定性に優れる
- 大きい造形モデルにも最適
- 臭気が少ない
- 壊れやすく脆い
- 熱には弱い
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントでできること
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントは、FDM®(熱溶解積層法)3Dプリンターの材料です。PLAフィラメントは、ABSと共に最も古くからある材料で、デスクトップタイプなど、家庭用(低価格)3Dプリンターでは最も重宝されるフィラメント材料です。
ラピッド・プロトタイピングに最適な材料
PLAフィラメントで最も多い用途が、試作品やモックアップなどのラピッド・プロトタイピングです。
ラピッド・プロトタイピングは3DCADデータから物体を迅速にアウトプットすることを指しますが、PLAフィラメントの高い寸法安定性や、造形安定性はラピッド・プロトタイピングに最適です。
特にABSフィラメントのような熱収縮性が少ないため、“反り”などの心配もなく、データ通りに3Dプリントすることが可能です。
大きい造形モデル
PLAフィラメントでできることの一つが大きい造形モデルのプリントです。熱収縮性がそこまで高くなく、寸法安定性に優れるため、ABSフィラメントで反ってしまう大きさの造形物も、PLAフィラメントならば正確に作ることができます。
また、PLAフィラメントはABSフィラメントのようにプレートの加熱やプリント中の密閉も不要で、手軽に使用することができます。
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントで作れるもの
PLAフィラメントの三つの強み、①寸法安定性、②スピード、③手軽さは、いろいろな造形物を作るのに役立ちます。
試作品・モックアップ
PLAフィラメントで最も多い用途が試作品、プロトタイプやモックアップの作製です。
PLAフィラメントが持つ寸法安定性、スピード、手軽な環境といった強みは、作った3Dデータの形状確認をスピーディに行いたい場合には、早くて間違いがないPLAフィラメントが最適です。
特に製品開発の過程において、素早く形をアウトプットすることは、開発サイクルやスピードを高めることに大きなメリットになります。
これまでは、プロトタイプやモックアップの作製は、プラスチックの塊を削り出す切削加工が中心で行われていましたが、最近ではデスクトップ3DプリンターとPLAフィラメントを使った方が、外注による切削加工で行うようよりも、コスト、リードタイムの面でメリットがあります。
学校教育用モデル
PLAフィラメントは学校教育用モデルでも使用される素材です。デジタルファブリケーション教育や、STEM教育など、実際に3Dデータから物体がそのままできる仕組みを学ぶには、迅速でミスのないプリントができるPLAフィラメントが最適です。
模型・おもちゃ
PLAフィラメントは簡単な模型やちょっとしたおもちゃをプリントするのにも最適です。
学校教育用モデルにも共通しますが、小学生など低学年の子供たちに興味を持ってもらい、3Dプリントの仕組みを学んでもらうには、おもちゃなどを正確にプリントできるPLAフィラメントが最適です。
機能性プロトタイプ
機能性プロトタイプとは、耐久性や耐衝撃性など機械的な特性を持つプロトタイプのことです。
従来、PLAフィラメントは耐久性や耐衝撃性などの物性はABSフィラメントよりも低く、モックアップやプロトタイプが主流でしたが、最近ではPLAフィラメントの開発が進み、耐久性に優れ、ABSフィラメントに匹敵する物性を持つフィラメント材料が登場してきています。
こうした耐久性や耐衝撃性に優れたPLAフィラメントでは、従来の外観のみのモックアップだけではなく、機能性試験用のプロトタイプなどにも利用が可能です。
治具・工具
機能性プロトタイプご紹介したように、耐久性や耐衝撃性が強化されたPLAフィラメントでは、ABSフィラメント同様に治具や工具などのツール類の造形にも利用することができます。
治具は製造工程における加工組立を行う際に、部品を固定したり、検品を行う際に、検査するパーツの位置を決めて固定したりする道具のことです。
こうした用途から治具には主な機能として、“とめる”機能が求められ、しっかりと固定する強度や耐久性が求められます。強度や耐久性、あるいは靭性がABS並みに強化されたPLAフィラメントはこうした治具の作製にも適用しています。
また、摩耗などへの耐久性も強化されているため、ボルトナットやネジなどの工具類にも利用可能です。
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントの種類
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントは、開発によってさまざまな種類が登場しています。そこでは機能性が強化されたPLAフィラメントから、異素材を配合されたPLAフィラメントまでさまざまな材料が登場します。
家庭用(低価格)3DプリンターのPLAフィラメント
PLAフィラメントは、安価な家庭用(低価格)3Dプリンターで最も多用される材料です。またPLAフィラメントとして開発が進むのもデスクトップの分野で、幅広い性能のPLAフィラメントが登場しています。
PolyLite PLA(PolyMaker)
PLAフィラメントは、さまざまなメーカーのものが登場していますが、お手頃な価格で、高品質なプリント性能を誇るのが、PolyMakerのPolylite PLAです。
PolyLite PLAは、プリント性能と層間接着性に優れるフィラメント材料で、ノズル詰まりもなく、ミスプリントが無い安定した造形性能を誇っています。また、1Kgというボリュームをお手頃な価格でお買い求めいただけます。
PlyLiet PLAのスペック
- 重量:1 Kg
- フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
- プリント温度:200℃~220℃
- プリントスピード:60mm/s
- プリントベッド温度:60℃
- カラー:全11色 ホワイト/ブラック/レッド/ブルー/グレー/オレンジ/グリーン/ティール/パープル/イエロー/ナチュラル
- 価格:4,479円(税込み)
Poly-Max PLA(PolyMaker)
PolyMaker製のPLAフィラメントで、通常のPLAフィラメントの最大9倍の耐衝撃性を餅、ABSフィラメントを超える機械的強度を実現した強化PLAフィラメントが、PolyMax PLAです。
一般的にABSフィラメントは、耐久性や靭性、耐衝撃性に優れる特性をもち、PLAフィラメントはその逆の性能といわれていますが、PolyMax PLAは、ABSフィラメントの特性をPLA樹脂で再現したフィラメント材料です。
特に耐衝撃性は、通常のPLAフィラメントの9倍、ABSの20%増を実現しました。これによりPLAフィラメントの持つ寸法安定性やプリント性能で、反りやノズル詰まりのないプリントが可能です。
PolyMax PLAのスペック
- 重量:1 Kg
- フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
- プリント温度:220℃
- プリントスピード:60mm/s
- プリントベッド温度:60℃
- カラー:全10色 ホワイト/ブラック/レッド/ブルー/グレー/オレンジ/グリーン/ティール/パープル/イエロー
- 価格:5,979円(税込み)
PolyWood (PolyMaker)
PLAフィラメントの開発の一つに、異素材と配合することで、さまざまな質感を表現する種類が登場していますが、PolyMaker製のPolyWood PLAは、異素材を配合することなく、純粋なPLAフィラメントのみで、木の質感を再現したPLAフィラメントです。
一般的な木質フィラメントは、PLAフィラメントにパウダー状の木材を配合していますが、PolyWood PLAは、100%PLA樹脂のみで忠実に木材の質感を表現しています。
これによりノズル詰まりなどの不具合を無くし、高いプリント性能によって安定した木質モデルを造形できます。
PlyWood PLAのスペック
- 重量:600g
- フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
- プリント温度:200℃
- プリントスピード:60mm/s
- プリントベッド温度:60℃
- カラー:ウッドブラウン
- 格:7,980円(税込み)
プレミアム PLAフィラメント(AFINIA)
プレミアムPLA フィラメントは、AFINIA 3Dプリンターに最適化されたPLAフィラメントです。
その最大の特長は、反りとノズルつまりを防止することで、大きな造形物のプリントに最適な性能です。高い寸法公差を誇っており、迅速なプロトタイプ作製に真価を発揮するPLAフィラメントです。
Afiniaプレミアム PLAフィラメントのスペック
- 重量:600g
- フィラメント径:1.75 mm ±0.1 mm
- プリント温度:200~210℃
- プリントスピード:15mm/s
- プリントベッド温度:50℃
- カラー:7色、ホワイト/ブラック/グレー/ブルー/ナチュラル/オレンジ/バーガンディー
- 価格:4,104円(税込み)
スペシャルPLAフィラメント 銅、アルミ、木(AFINIA)
PLAフィラメントの開発の一つの例として、プラスチック以外のさまざまな材料を配合し、独特の質感を表現するPLAフィラメントが登場しています。
その代表的な素材が、銅、アルミ、木です。Afinia スペシャルPLAフィラメントは、粉末状の異素材をPLA樹脂に混ぜ合わせることでフィラメント化に成功しました。
また、異素材を配合することで、造形後の研磨や塗装なども可能になり、異素材の特長を再現できます。モックアップやアートなど、多様なプリントに最適です。
プレミアム PLAフィラメントのスペック
- 重量:600g
- フィラメント径:1.75 mm ±0.4 mm
- プリント温度:190~240℃
- プリントスピード:15mm/s
- カラー:3色、銅/木材/アルミ
- 価格:4,104円(税込み)
3Dプリンター用PLAフィラメントのプリント設定
3Dプリンター用PLAフィラメントのプリント設定は他のフィラメント材料よりも簡単です。
ノズル温度
PLAフィラメントは、他のフィラメント材料よりも溶融融点が低く、一般的に180℃~210℃程度です。木材や金属などの異素材が配合されているPLAフィラメントは240℃程度のものもあります。
こちらは使用するフィラメント材料に応じて変わります。PLAフィラメントはノズル温度が高すぎると、非常に柔らかくなり造形モデルが汚くなります。
プリントベッド温度(造形プラットフォームの加熱)
PLAフィラメントは、造形プラットフォームの加熱は基本的には必要ありません。しかし、プレートが加熱できる場合には、プリントベッド温度を50℃~70℃程度にすると造形がより安定します。
こちらは使用する3Dプリンターの種類やPLAフィラメントの種類によって変わります。
フィラメントの保管
PLAフィラメントは、外気温の影響を比較的受けにくいフィラメント材料ですが、空気中の湿度を吸収してしまうため、高温多湿の環境を避け、保湿剤などを使用して保管することをおススメします。

PLAフィラメントも吸湿すると材料が脆くなり、プリント中に切れたりします。PolyMakerが提供するPolyBoxを使用すれば、常に除湿した状態でフィラメントを保つことができます。
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントの注意点
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントを扱う際の注意点として、ノズル温度があります。ノズル温度は高すぎると、造形モデルが溶けて仕上がりが汚くなります。
また、基本的にPLAフィラメントは、造形部分がむき出し(囲まれていない)状態の3Dプリンターで使用することができますが、なるべく使用する環境の温度と湿度は一定にする方が望ましいです。
PLAフィラメントの食品安全性について
PLAフィラメントは植物由来で作られていることから食品安全性が高いと考えられています。3Dプリンター用材料ではない、PLA樹脂そのものは、米国食品安全基準に則った検査に適合していますが、3Dプリンターで使用する場合には、注意が必要です。
例えば、PLAフィラメント以外のABSフィラメントなどを使用していた場合、ノズルに他の材料の化学物質が付着している可能性があります。
また、仮にPLAフィラメントのみでプリントしたものであっても、安価なFDM 3Dプリンターの場合、層と層の間に食品が付着すると雑菌が繁殖する恐れがあります。
特に食洗器のような高温での洗浄にはPLAフィラメントは耐熱性が低いため耐えられず、殺菌もすることが出来ません。そのため、PLAフィラメントで作られた造形モデルを食品用に使用できるかどうかはあまりおススメできません。
まとめ
PLAフィラメントは、その特長である寸法安定性とプリント性によって、製品開発の試作サイクルを早めることができます。反りが無く安定して造形できることから、小さいプロダクトから大きい造形モデルまで幅広い分野の試作に最適です。