進化するデジタルモールド
3Dプリンターの新たな使い方として注目されるデジタルモールド。従来のように、金型を金属で作る代わりに、3Dプリンターで樹脂金型を作るという取り組みだ。このデジタルモールドは、有限会社スワニーがストラタシスと試行錯誤し作り上げた新たなアプリケーションだ。
デジタルモールド®を作るために使用される樹脂素材は紫外線で硬化するストラタシス独自の光硬化性樹脂である。そのため、射出成型で主に使用される熱可塑性樹脂とは組成が異なるため、成型用の樹脂を注入しても樹脂同士くっつくことはない。
また、光硬化性樹脂は熱硬化性樹脂の一種であることから、高温になっても溶解することもない。(金型などで多用される熱可塑性樹脂は、加熱すると柔らかくなり冷却すると固くなる。一方、光硬化樹脂は通常は液状で、UVを照射すると硬化する特性を持つ。硬化後はもとの液状に戻ることはない。)
デジタルモールドはこの二つの相反する樹脂特性を利用することで実現したものである。この画期的な取り組みは、ものづくりの分野に、これまで不可能であった迅速な小ロット生産を可能にし、プラスチック成型の一つの分野を確立しつつある。
そしてこのデジタルモールドは現在、さらなる進化を遂げ、プレス加工の分野にも浸透しつつある。本日は、デジタルモールドの新たな取り組みであるデジタルモールド・プレスと、有限会社スワニー、中辻金型工業株式会社の取り組みをご紹介しよう。
これにより、プラスチック成型だけではなく、鉄、銅、ステンレス、アルミニウムなどの金属加工の小ロット生産も可能となった。

金属加工の分野にも進出。デジタルモールド・プレスとは
プレス加工とは、主に金属加工で多用される加工方法のこと。板状の金属板を金型ではさみ、高圧力をかけて変形させ加工する。その特長は生産性が高く、大量生産に向いているということがあげられる。具体的にはプレス機械という高圧力をかけるマシーンに金型を装着し、金属板を挟んでプレスし量産を行うという使用方法だ。
従来、このプレス機械に装着される金型は金属(主にスチール、鉄)であったが、デジタルモールド・プレスとは、この金属製の金型をストラタシスConnex 3とデジタルABSによって作られた樹脂金型に置き換えるというもの。
これにより、従来の金型では実現することができなかった多くの利点が得られることになる。それでは具体的に金属プレス加工にデジタルモールドを採用した際の利点を詳しくご紹介しよう。

デジタルモールド・プレスの利点1:異なる金属素材でも一つの金型で対応可能
金属プレス加工に対応している素材は様々だ。鉄、アルミ、ステンレス、銅、チタンなど、あらゆる種類の金属材料に対応している。
プレス加工は物体の塑性、(力を加えると変形し一定の形状でとどまる特性、残留応力ともいう)を利用し成型する技術だが、金属は種類によって、この塑性特性が異なる。金属の塑性については様々な定義があるため、具体的には言及しないが、わかりやすく例えると、銅の塑性と、ステンレスの塑性は全く異なるため、プレスした際の応力(すなわち変形の仕方)が異なり、素材に合わせて金型も変更しなければならない。
つまり同じ形状のパーツや製品を作る場合には、金属の種類によって細かく金型を一つ一つ用意しなければならないのだ。しかしデジタルモールドを使えば、金属の種類によって金型を変更する必要はない。従来の鉄でできた金型ではプレス機械によって圧力をかけても頑丈なため、一つの素材、例えば銅なら銅の塑性に合わせた形状にしか対応しない。
そのため銅の塑性に合わせた金型で、ステンレスをプレスしようとしても銅の塑性にカスタマイズされているため、ステンレスの塑性に対応できず、不具合が生じる。しかしデジタルABSで作られたデジタルモールドであれば、強靭な樹脂素材であるため、金属ぞれぞれの塑性に合わせて金型の方が調整し対応してくれるわけだ。
これにより、デジタルモールドの金型であれば、銅でも鉄でも、ステンレスでも、アルミでも、異なる金属素材をプレス加工することができる。実際、中辻金型工業株式会社では、上記4つの種類の金属を一つのデジタルモールドで加工する方法を実現している。


デジタルモールド・プレスの利点2:表面処理の工程を大幅短縮
デジタルモールド・プレスの利点はもう一つ存在する。通常、金属加工では物体を成型した後に表面処理、研磨やメッキなどを行うが、中辻金型工業株式会社によるデジタルモールド・プレスであれば、この工程を大幅に圧縮することが可能だ。
例えば、従来の金属製の金型では金属同士がプレスしあうことで傷やけずれなどの不具合が発生することがあり、表面処理は必ず成型後の最終仕上げとして行われることが通常である。しかしデジタルモールドは樹脂製であることから、金属板に研磨やメッキなどの表面処理を施した後でも、プレス加工が可能になる。
これは従来の金属製の金型では不可能であった部分であり、大幅に工程を圧縮することができる。表面処理の手間や時間は、加工後の形状によって左右されるが、プレス加工前の板金状であれば、平面であるため表面処理も手間や時間がかからない。これによって大幅に時間と工数を削減することが可能となる。
下記は中辻金型工業株式会社がTRINUSと一緒に開発している「みなものお皿」というプロダクトだが、鏡面加工をした後にプレス加工をしても、傷が全くついていないことがわかる。工程が鏡面仕上げ→レーザー加工→プレス加工という順番に変更され、プレス加工後の後処理が不要となる。
ちなみにTRINUSは「技術とデザインの化学反応による驚きを」をコンセプトに掲げた新しいかたちの製品開発プラットフォームで、デザイナーと高い技術力を持つ企業によって新商品を生み出そうという取組を行っている。

「みなものお皿」プレス加工の動画
デジタルモールド・プレスの利点3:そり、傷、歪みがなく微細な表現が可能
既に表面処理の部分でも触れたが、デジタルモールド・プレスのメリットの第三としてそり、傷、歪みなど従来の金型で発生していた不具合が発生しないということがあげられる。これにより、複雑なエンボス加工などもデジタルモールド・プレスでは一つの金型で様々な金属素材に対応可能であり、通常の金属製の金型では再現することが難しい曲線、カーブなども表現することが出来る。
上記でご紹介した「みなものお皿」はみなも、すなわち水面の微妙な陰影を現したもので、こうした複雑で微細な表現を再現することが出来る。
デジタルモールドは、もちろん金属製の金型に比べて耐久性は低い。しかし、数十から数百程度の小ロット生産には十分耐久性を発揮し、柔軟に対応することが出来る。
この秘密は、ストラタシスの3DプリンターPolyJet方式のConnexシリーズとデジタルABSという素材にある。デジタルABSとは、熱可塑性樹脂でおなじみのABS樹脂の特性を、物理的に再現したもの。ABS樹脂は、家電製品の筐体から治具に至るまで、ものづくりの分野で様々な用途で使用されている素材だ。
耐久性や強度、靭性に優れる素材で、優れた機械的特性から最も汎用性が高い素材でもある。デジタルABSは、このABS樹脂の物性を再現していることから、プレス加工時による圧力にも柔軟に対応することが可能となる。このデジタルABSの持つ物性こそが、高圧力で耐えうる樹脂金型を可能にしており、切削で作製した樹脂型や、その他の3Dプリンターで造形した樹脂型では同じパフォーマンスは得られない。






まとめ 金型とものづくりの概念を変える力
このデジタルモールドの利用は、これまで不可能であった小ロット生産の可能性を大きく広げ、新たな製品開発の機会を大幅に広げてくれる。金属製の頑健な金型を一から作るとなると、コストや期間も膨大で、一定数の販売数量が確保できない限り、新製品の開発に乗り出すことはできない。
しかし、デジタルモールドであれば、数十から数百規模の小ロット販売から、低コストでスタートすることが可能になり、テスト販売などにも最適である。少なくとも、新製品開発に取り組むハードルは大きく下がり、気軽にトライ&エラーを行うことが可能だ。また、デジタルモールドでは、単体だけではなく、入れ子式など、従来の金型と組み合わせたハイブリッドな使い方も可能で、それによって金属の金型でのカスタマイズなども実現することができる。
このようにデジタルモールドであれば、金型の様々な使い方が可能になり、生産する種類やロットなどによって、多様な使い方ができる。例えば、デジタルモールドを使えば、企画からわずか1日で複数の種類の金型を作り、すぐにでも試作に取り掛かることが出来る。
これによってもたらされるものは、単なるコスト削減効果だけではなく、ものづくりに参加する人の意識を大きく変えることにつなげられるだろう。より手軽に、よりスピーディに試作や小ロット生産が可能になれば、様々なチャレンジが生まれ、ものづくりの幅も、可能性も大きく広がるに違いない。そうした点では、デジタルモールドをプレス加工に採用した中辻金型工業株式会社の取り組みは、時代に対応した先進的な取り組みだといえよう。
※デジタルモールドは、有限会社スワニーの商標、もしくは登録商標です。
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