3Dプリンターの概念を変えるCLIP製法の商用機M1が登場
昨年の3月に登場して以来、世界中から注目を集めるCarbon 3Dプリンター。紫外線硬化樹脂を使った光造形をベースとしながらも、独自のCLIP製法により、驚異的な造形スピードとクオリティを実現している。Carbon 3DプリンターのCLIP製法については、「射出成形なみのハイクオリティな仕上がりを高速3DプリントCarbon3D」でその特長を詳しくご紹介しているが、3DソフトウェアのオートデスクやGoogleベンチャーズなどからの投資を受け、ようやく製品化が実現している。
本日はCLIP製法による最初の商用機となる3DプリンターM1をご紹介しよう。なおCarbon 3Dは社名をCarbonに改めており、今後はCarbonの表記で統一する。また、今回のM1発表に伴って、従来のCarbon3D時代の試作機の時には、言及されなかった素材についても正式に発表された。
その素材はこれまで光造形では使用されてこなかったオリジナルの素材5種類が登場。FDM(熱溶解積層法)では熱可塑性樹脂ベースの素材の豊富が特長的だが、光造形ではエポキシ樹脂やアクリル樹脂、ポリウレタンなどがベースとなっている。しかし、Carbonは材料開発の分野でもコダック社と提携することで、これまでにはない独自素材を開発している。今回のM1専用でも熱可塑性樹脂の特性を反映した素材が開発されているとのこと。
また、M1の登場に伴い気になる価格も発表されている。それによるとあくまでCarbonのM1 3Dプリンターは工業用グレードであり、デバイス単体の販売というよりは年間契約というスタイルになっているようだ。それでは気になるCarbonの開発したM1 3Dプリンターについてご紹介しよう。
M1 3Dプリンター最大の特長。「射出成形レベルの機械的特性」
今回商用化されたM1 3Dプリンターの最大の特長は、Carbon 3Dプリンター時代から引き続き言われている「射出成形レベルの機械的特性」を再現できる点にある。射出成形とは、言うまでもなく金型量産製法の王様と行ってもいいポピュラーなプラスチック加工方法のこと。ハイグレードなプラスチック成形品が手軽に量産することができる反面、金型製造に多額の費用がかかる。
このM1 3Dプリンターが持つ射出成形レベルとは、ある意味、光造形とは真逆の特性である。いや、光造形にかかわらず、この「射出成形レベル」とは、現状の「積層」によって物体を作り上げる3Dプリント技術では到達することができない特性なのである。以下、「積層」しない3Dプリント技術CLIP製法について、いかに射出成形レベルの機械的特性を実現しているが再度ご紹介しよう。
CLIP – 連続液界面生産による優れた機械的特性、分解能、表面仕上を実現
第一に、「3Dプリント」とは光造形方法に限らず、FDM(熱溶解積層法)も、レーザー焼結法も、「積層」によって物体を作る技術である。その中でも光造形は、液状の紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することで樹脂を固め積層していく手法だ。この紫外線硬化樹脂は、熱硬化性樹脂の一種類であるエポキシ樹脂やアクリル樹脂がベースに作られており、熱硬化性樹脂の加熱すると固まるという特性を利用している。
しかしこの光造形は一層々積層していく手法になり、一つの層を紫外線で硬化させたらプレートを上げ、次の層を積層し固めるという作業を繰り返すことで物体を成形していく。この積層によって作られた物体は脆く、その用途は形状確認程度にしか使うことはできない。また、1段1段データに則って積層していくため造形スピードは遅い。
こうした通常の光造形が持つ課題をM1 3DプリンターのCLIP製法は、硬化を阻害する要素である酸素と、硬化させるための光をコントロールすることによって、クリアしている。下記はCLIP製法を可能にするM1 3Dプリンターの仕組みだが、硬化する作業を、液体樹脂の内部で行うことで、造形スピード、仕上がりを段違いに高めることに成功している。
液体内部に下側から紫外線を照射することで酸素が入り込むことを排除し、硬化スピードを高め、尚且つエンジニアリンググレードの機械的特性を有する高解像度を実現しているのだ。
5種類のエンジニアリングレベルのプラスチック素材も登場
Carbonが発表したM1のすごいところは、製法が画期的というだけではない。今回M1の発表と同時にリリースされた5種類のプラスチック素材もこれまでの光造形の常識を変える素材となっている。
RPU硬質ポリウレタン:剛性と強度にすぐれ滑らかな表面仕上げ
第一にご紹介する素材が、RPU硬質ポリウレタンと言われる素材。熱硬化性樹脂でもあるポリウレタンを配合した硬質素材だ。このRPU硬質ポリウレタンの特性は、剛性と強度にすぐれ尚且つ高い靭性を持つ。また耐磨耗性にもすぐれ、自動車や電子機器などの工業用パーツの製造に最適な性能を発揮する。以下はRPU硬質ポリウレタンの動画だが、ボルトの固定にも耐えうる圧縮力を発揮している。また、こうした機械的特性に加え、滑らかな一貫性のある表面仕上げが可能となる。
RPU硬質ポリウレタンの動画
FPU軟質ポリウレタン:耐衝撃性と耐磨耗性に優れる
第二の素材もポリウレタンベースの素材で、ポリウレタンの特性の一つでもある柔軟な性能を備えたFPU軟質ポリウレタンになる。この素材は、耐衝撃性と耐磨耗性に優れる素材。また耐疲労性を有しており、摩擦や繰り返し応力が求められる工業用パーツに最適な性能を有する。下記の動画は、5mmの厚さを持つFPU軟質ポリウレタンのパーツで、繰り返しハンマーで打たれても変形することなく、衝撃に耐えうる性能を有している。
FPU軟質ポリウレタン動画
EPUポリウレタンエラストマー:高い引裂強度・高弾性のゴム
3つ目の素材は、ゴムとして造形が可能なEPUポリウレタンエラストマー素材。ポリウレタンはゴムとして使用できるのが最大の特長であり、このEPUポリウレタンエラストマーは、高弾性、耐衝撃性、高い引張り強度を持つアプリケーションに最適な素材だ。下記の動画では、メッシュ構造のウレタンエラストマーのオブジェクトで高い引裂強度、圧縮強度、および弾力性を示している。
EPUポリウレタンエラストマー動画
CE シアネートエステル:高耐熱・高強度
第四の素材は、CE シアネートエステルと言われる素材。こちらの素材で作られたパーツは高い耐熱性、強度、及び剛性を持つ。エレクトロニクス製品や工業用パーツ、ボンネット内パーツなどに最適な強度と耐熱性を持ち、下記の動画では、CEシアネートエステルの3.2mmのバーを260℃の温度まで加熱しても、200グラムの重量に耐えうる様子が映し出されている。
CEシアネートエステル動画
PRプロトタイピング:6色のプロトタイプ専用樹脂
第5の素材が、プロトタイピングに最適な従来からの光造形専用樹脂である。このPRプロトタイピングでは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイト、グレーの6色を備えた素材で、プロトタイプを迅速に反復して作るには最適な能力を持つ。
PRプロトタイピング動画
M1 3Dプリンターの価格とスペック
M1 3Dプリンターは当初、Carbon 3Dプリンターとして登場した際にはデスクトップタイプのように見えたが、どちらかというと安価な工業用レベルに分類される。価格はデバイス単体での販売ではなく、年間契約で4万ドル。M1 3Dプリンターが1ユニットにサンプル樹脂、ソフトウェアなどがついてこの価格だ。また、トレーニングフィーとして別途1万ドル、これ以外にアクセサリーパックの追加や、別途素材を購入する必要がある。
- プリンターサイズ:144mm×81mm×330mm
- 精度:高性能なLEDライトエンジンは、75ミクロンのピクセルを投影可能
- 価格;4万ドル/1年(プリンター1ユニット、サンプル樹脂、ソフトウェアなど含む。その他アクセサリパックあり)
- PRプロトタイピング:99ドル/800ml
- RPU硬質ポリウレタン:199ドル/800ml
- FPU軟質ポリウレタン:199ドル/800ml
- EPUポリウレタンエラストマー:199ドル/800ml
- CE シアネートエステル:199ドル/800ml
- PRプロトタイピング:399ドル/800ml
まとめ 熱可塑性樹脂と同様に最終品レベルで作れる
M1 3Dプリンターは、Carbon 3Dプリンターとして発表された時には、CLIP製法による射出成形レベルの仕上がりという部分のみが紹介されていたが、今回のリリースでは、5種類の素材で、尚且つ工業用で使用できることを実証している。興味深いのが、金型量産で多用される熱可塑性樹脂のように、高性能なパーツを造形することができる点だろう。
熱可塑性樹脂は現代の工業用品において、主力ともいえるプラスチック素材だが、基本的には金型とFDM(熱溶解積層法)での使用が中心である。しかし、CLIP製法によるM1 3Dプリンターでは、脆いと言われていた紫外線硬化樹脂を独自開発することによってハイグレードのパーツ製造で使用できるようにしている。FDM(熱溶解積層法)ではさまざまな熱可塑性樹脂が対応しつつあるが、光造形もCarbonのM1 3Dプリンターの登場によって素材が広がり、更なる進化が期待されるだろう。
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