電子機器の製造開発も3Dプリンターで行う未来
3Dプリンティングの目指す未来は、デジタルデータからの完全な製造だ。アディティブ・マニュファクチャリングといわれるこの造形技術は、さまざまな素材で研究開発が行われている。
これまで金型で用いられていた樹脂や金属など、大量生産でしか使用することができなかった素材が3Dプリンターの材料として開発が進み、将来あらゆる製品が小ロットカスタマイズ生産に対応する。
しかしそんな3Dプリンターの開発においてまだ手が付けられていなかった分野が存在する。
それが電子デバイスをデータから作る3Dプリンターの開発だ。今回は株式会社FUJI(以下、FUJI)の電子デバイスを製造する3D プリンター「FPM-Trinity」をご紹介しよう。
電子デバイスを一体で作る3Dプリンターとは?
これまで電子回路をプリントする3Dプリンターは開発がされてきたが、電子デバイスそのものを作る3Dプリンターは存在しなかった。
一般的に現代の電子機器は回路パターンが描かれ無数の電子部品が実装された基板部分と、製品の外観をつかさどる筐体に分かれている。テレビやラップトップPC、スマートフォンなど電気で動くすべての電子デバイスがそうだ。
そのため回路基板作る分野と、筐体を作る分野は全く異なる分野であり、現在注目を集めている3Dプリンターも、いわば筐体を作る分野における技術革新に該当する。
筐体と電子回路を一度にプリントするという新たな発想
しかし、FUJIが開発した電子デバイス用3Dプリンター「FPM-Trinity」はこの異なる二つの分野を一体で作ってしまおうというものだ。
わかりやすく表現すると「FPM-Trinity」は、筐体の内部に電子回路をプリントすることを実現する革新的な3Dプリンターである。
それどころか、電子回路を描くだけではなく、その回路を機能させる電子部品も“実装”することが可能なのだ。
ちなみにFUJIは電子部品実装ロボットで世界的なシェアを誇るトップ企業で、全世界のスマートフォンのうち、およそ半分は同社の電子部品実装ロボットによって実装された基板が使われていると言われている。
電子回路と部品を同時に3Dプリントする仕組み
この“実装”とは、電子回路が描かれたプリント基板に部品をはんだ付けすることだ。
一般的なイメージでは、はんだごてを使って、手ではんだ付けするイメージだが、現代の電子デバイスの基板実装は、量産用に自動化されている。
回路パターンが描かれた基板に、ペースト状のはんだを塗布し、電子部品を配置、リフロー炉で加熱することで、はんだペーストが溶け、電子部品が装着される。
FUJIの「FPM-Trinity」では、製品のボディである筐体部分を樹脂で3Dプリントし、その内部に電子回路を描き、さらに部品も配置して装着する機能を持つ。
はんだの代わりに導電性ペーストを採用
それではどのようにボディを作り電子回路のプリントと部品の実装まで行うのだろうか。これまでのようなはんだを使った実装では、はんだ付けの融点が200℃以上の高温になる。
そのため、「FPM-Trinity」では回路パターンには導電性銀インクを、部品接合には導電性の銀ペーストを採用し、全ての工程を可能な限り低温化している 。
ボディをUV硬化樹脂で3Dプリント
また筐体を作る部分はUV硬化性樹脂によるインクジェット方式になる。下記の図のように、ベースとなるボディ部分をUV硬化樹脂で積層し、回路パターンを導電性銀インクでプリントを行う。
この工程を繰り返すことで多層回路を構築し、導電性の銀ペーストで部品を実装し電子デバイスを作っていく。
電子デバイス3Dプリンターの新たなソリューションも登場
それではこの電子デバイスの3Dプリンターを使ってどのようなことが可能なのだろうか。すでにFUJIはさまざまな3Dプリントソリューションに取り組んでおり、モノづくりの未来を拓く革新的な試みが行われている。
電動義手のセンサーの小型化でユーザーフレンドリーを実現
第一にご紹介するのが電子義手センサーの小型化の成功事例だ。これは電子義手Finchを開発したダイヤ工業株式会社 と共同で行われたもので、センサー部分を「FPM-Trinity」で作り変えることで、ユーザーの肌へのストレスを軽減させることに成功している。
Finchはシンプルかつ高い機能性と操作性を持つ電動義手で、筐体は3Dプリンターで作られている。
それを装着し腕を動かすには筋肉隆起をセンサーが検知し動く仕組みだが、このセンサー部分の厚みを半減し、人体にフィットしやすい局面形状に作り変える ことで、ストレス軽減を実現している。
例えば、従来の技術でこのセンサーを作り出そうとすれば、人体にフィットさせる筐体部分は別に3Dプリンターや金型で作らなければならず、内部の基板をカスタムするにもコストがかかる。
しかし「FPM-Trinity」では人に触れる部分と回路部分を一体で3Dプリントすることで素早く手軽に実現できる。
専用モジュールの3DプリントでIoTプログラムの検証を4日に短縮
次にご紹介するのが、IoTプログラムの検証を短縮できる専用モジュールの開発だ。
これはLeafonyといわれるArduinoに対応した20mmサイズの基板を使ったもので、必要なモジュールを選んで組付けるだけで必要なIoTの機能を実装することができる。
「FPM-Trinity」では一部の機能を代替製造することで設計から製造、そして検証の工程を4日間で完了することに成功している。
PolyJet 3Dプリンターでインサート成形された光るマニュキュアスタンド
この光マニュキュアスタンドは、「FPM-Trinity」とストラタシスのPolyJet 3Dプリンターを融合させたソリューションだ。この取り組みはデジタルファクトリー株式会社との共同プロジェクトで、筐体に透明なPolyJetマテリアルで作ったボディに、FPM-Trinityで製造したLED回路基板を埋め込むことに成功している。
このディスプレイはマニュキュアを置く部分に回路基板が接触し光るようになっている。
電子デバイス3Dプリンターのメリットとは
ここで挙げた事例はまだ開発中のものを含め、ほんの一例だが、FUJIの電子デバイス3Dプリンターを使うことで、これまでの電子機器の製造開発にさまざまなメリットをもたらすことになる。
リードタイムとコストを効率化
第一が、多層基板の開発のスピードアップだ。例えば、電子回路を設計し、それをプリント基板に実装する場合、外注すると約2週間~3週間程度の期間がかかる。
またコストも回路の複雑さによって、数万円~数十万円までかかってしまう。しかしFPM-Trinityを使うことで、リードタイムは1日程度に短縮することができる。
新たなデザイン・機能の創造
第二に、電子回路と筐体が一体となった3Dプリントを実現することで、新たな電子デバイスのデザインや機能を創造することができる。
これまでの製造技術では、筐体とプリント基板を別々に作るという制約から、製品の形状なども限定されてきた。しかし、筐体に電子回路と電子部品を組み込むことができれば、全く異なるデザインや機能を実現することができる。
例えばウェアラブル端末など身に着けて使用する電子機器では、人間工学に基づいたデザインのデバイスを開発することもできるだろう。
まとめ
電子デバイス3Dプリンター「FPM-Trinity」は、電子部品実装ロボットで世界トップのシェアを誇るFUJIならではの技術力が集約されている。
まだ最終品を実装するためにはさまざまなハードルが残っているが、多層基板の試作や、新たな電子デバイスの開発などで大きな力を発揮するだろう。
FUJIの電子機器が作れる3DプリンターFPM-Trinityについて、オンラインセミナーが開催されます。
多品種少量のハードウェア開発や、新たなIoT製品、多層基板の開発など、回路印刷+3D造形+部品実装」にご興味がある方はぜひお申込みください。
▼イベント概要———————————————————
【日時】2020年7月15日(水) 15:30-17:00
【主催】株式会社FUJI
【協賛】株式会社図研
【配信協力】DMM.make AKIBA
【参加費】無料
【視聴方法】当日までにZoom視聴URLをお送りします。
【参加登録】https://fpm-trinityonline.peatix.com/
※当日は質疑応答もインタラクティブに受け付けております!
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