3Dプリントとの組み合わせで進化する鋳造機メーカー
デジタルデータからダイレクトに物体を造形する3Dプリンティング。従来はプロトタイプの作製が主な用途であったが、近年、テクノロジーの進化によって、さまざまな利用方法をもたらしている。
特に、注目すべきなのが、従来から存在する他の製造技術と組み合わせることで、これまでにない、新たなツールとして進化を遂げている点だ。
例えば、以前もご紹介したデジタルモールドなどは、プラスチック量産の代表ともいえる製造技術、射出成形に画期的な利用方法をもたらすだけではなく、製品開発と製造のプロセスそのものを大きく変えつつある。
そして今回は3Dプリント技術を、最も古くから利用されている金属加工の技術、鋳造と組み合わせることで、新たな金属加工のソリューション企業として進化を遂げようとする吉田キャスト工業株式会社(以下、吉田キャスト)をご紹介しよう。
吉田キャストは、日本で最も歴史の長い鋳造機メーカーとして、特に、ロストワックス鋳造の分野では、日本一のシェアを誇っている。
鋳造とは。進化する3大金属加工の一つ
鋳造は、最も古い金属加工技術の一つである。一般的に、金属を形にする技術は、叩いて形にする鍛造、削って形にする切削、そして金属を溶かして型に流し込み形にする鋳造が存在する。
近年では、金属3Dプリント技術も進化しているが、基本的には古代から現代まで、金属を形にする技術はこの3種類が中心である。中でも鋳造は、その原理においてはギリシャ時代にまでさかのぼり、日本においては古くは奈良の大仏など、仏像を作るために用いられてきた技術だ。
その一方で、鋳造はさまざまな進化を遂げており、ジェット機のタービンブレードなどの製造にも利用されている。
また、一言で鋳造といっても、実はその種類は多岐に渡っており、砂型鋳造や、ダイカストといわれる金型鋳造、ラバーキャストといわれる耐熱シリコン鋳造など、用途にあわせて多様な形態に進化している。
基本的に金属を流し込むという技術は同じであるが、作りたいものや金属に合わせて型を作る技術が大きく異なるのである。

吉田キャスト。ロストワックス鋳造機のリーディングカンパニー
今回ご紹介する吉田キャストは、鋳造の中でもロストワックス鋳造といわれる分野の鋳造機メーカーである。このロストワックス鋳造とは、ジュエリーなどの宝飾品や歯科技工の造形に使用される技術だ。
ちなみに、ロストワックス鋳造も、セラミックシェル鋳造とブロックモールド(ソリッド法ともよばれる)鋳造との2種類に分けることができる。
ロストワックス鋳造は、そもそもアメリカ軍の軍事技術として開発・利用されていたもので、ジェット戦闘機が上空1万3000メートルを飛行する際に、高温でも耐えうる金属構造のタービンエンジンを作るために利用されたのが近代における精密ロストワックス鋳造の始まりである。
その後、二次世界大戦後に、平和利用を目的とした技術の天下りによって、ブロックモールド法は歯科技工の分野に転用され、ブロックモールド法を基調としたセラミックシェル法は航空機エンジンパーツ等の生産分野にそれぞれ舞台を移し民間利用が開始された。
そして今から50年近く前に、歯科技工から宝飾品にブロックモールドを取り入れ日本で展開を始めたのが、吉田キャストなのである。
以来、この分野のリーディングカンパニーとして、金、銀、プラチナ、チタン、ステンレスなど多様な金属材料に対応しており、大型のものから、デスクトップで手軽に利用できる鋳造機まで豊富なラインナップを誇っている。

3Dプリント技術で進化する鋳造プロセス
それでは、ここからは吉田キャストが新たに取り組む3Dプリント技術の利用についてご紹介しよう。ロストワックス鋳造のプロセスに3Dプリントを取り入れることで、生産コストの低減化とともにその工程を大幅に効率化することができる。
ロストワックス鋳造の工程、プロセス
まず現在の鋳造の流れをご紹介すると、以下のようなプロセスを経て、金属造形がなされる。
1. 原型・マスターモデルの作成
まず初めに、最終品のモデルとなる原型を作る必要がある。ジュエリーなどの原型やマスターモデルは、粘土などで造形したり、金属などを切削したりするが、もともとは、『飾り職人』(江戸時代では刀のツバ、根付、簪を手作りしていた職人)と呼ばれる職人が板材などから一つ一つ形にし、ロウ付けなどで組み上げてきた。

2. ゴム(シリコーン)型の作成
次に、1で作った原型をシリコーンゴムに埋め込みゴム型を作る。シリコーンを加熱し固め(熱加硫式の場合)、ゴム状にした後で、メス刃などでゴム型を二つに切り分ける。形状によっては、硬化剤を混ぜ室温で架橋又は加硫するRTV式も使用が可能。

3. ワックスモデルの作成
ゴム型を作った後は、ゴム型に溶けたワックスを注入し、ワックスモデルを作る。ここで作られるワックスの数は、生産する数量分作ることになる。また、鋳造の工程で、このワックスモデルが溶かされることから“ロストワックス”という名前に由来する。


4. ワックスツリーの作成
3で作られた複数のワックスモデルをワックスの芯棒に取り付け、ワックスツリーを作る。ワックスツリーはセンタースプルーといわれる芯棒に金属を流し込み、それぞれくっつけられたワックスモデルに溶湯(溶けた金属)が流れしっかり到達することで成形されるため、ワックスの効率のよい燃焼や溶湯が流れ易くするような注意が必要である。

また、合金の種類によって組成(金属の性格)が異なることから、金属の溶解温度や凝固収縮なども考えて取り付けなければならない。これを誤ると鋳巣や鋳造欠陥の原因となる場合がある。
5. 埋没(鋳型作製)
ワックスツリーができると、ツリーを鋳型の中に入れて、水やバインダーで溶かした埋没材を流し込み、鋳型を作る。この時には混ぜる際に空気が入り込むため、真空脱泡して気泡などを取り除く必要がある。気泡がのこっていると、そこに金属が入り込んでしまうためである。
また、この埋没材は、金属の種類によって最適なものを利用する。例えばプラチナやステンレスなどは融点が高いため、専用の埋没材を使用する。

6.脱ロウ・鋳型焼成
その後硬化した鋳型を専用の炉にセットし加熱することで、鋳型内のワックスツリーを焼失させる。ワックスツリーの部分が空洞になり、これによって鋳型が完成する。吉田キャストでは、専用の電気炉や二次燃焼装置などのラインナップもそろえている。

7.鋳造
ここで完成した鋳型を鋳造機にセットし鋳造を行う。鋳造機は、鋳型のサイズや、金属の種類などによって種類が決定される。一般的には金属の融点によって異なり、シルバー、ゴールド用と、高融点のプラチナ用に分けることができる。
ここでは金属材料を機械にセットすれば、誘導加熱(高周波を利用した溶解)で機械の内部で溶解し、鋳型に金属を流し込み凝固まで保持してくれる。吉田キャストでは大型からデスクトップまで豊富なラインナップをそろえているのが特長だ。

8.鋳型バラシ
鋳造が完了したら、鋳造機から鋳型を取り出して壊し、鋳造物を取り出す。そのさい、埋没材を除去する際には、水圧やサンドブラスターを使用して除去する。吉田キャストでは、専用の小型ブラスト装置や、ウォーターブラスト装置などもそろえている。

9.ゲートカット
最後に、取り出されたツリー状の金属成形品をニッパーなどで切断し、旋盤や切削機、研磨機などで表面処理を行い、最終品に仕上げていく。
3Dプリントを鋳造プロセスに導入。光造形3DプリンターForm2の事例
上記でご紹介したプロセスに対し、吉田キャストは新たに3Dプリント技術を導入することで、金型を使用しない製造や鋳造全体のプロセスを効率化する試みを行っており、オンリーワン(ワンオフ)生産や小ロット生産の際の大幅なコスト削減を実現する試みをおこなっており、既に一部実用化している。
今回はFormlabsが提供する光造形3DプリンターForm2との組み合わせを一例としてご紹介しよう。Formlabsは、クラウドファンディングで一躍注目を集めた3Dプリンターメーカーだ。
その最新機となるForm2は、高精彩な仕上がりで定評があり、更には豊富な造形材料を持つことで知られている。この鋳造プロセスでいうとForm2では、2種類の樹脂素材を使うことで、より効率化することが可能である。

高精彩なスタンダードレジンで、マスターモデルを高精度に
鋳造プロセスのうち、現在、最も3Dプリンターの利用が期待できる工程が、一番初めの原型、マスターモデルの造形だ。
現在、ジュエリーなどの鋳造では、一般的にマスターモデルの造形は、前述のように原型職人に原型作製を外部委託したり、可塑性ワックス(マシナブル)を機械又はヤスリなどを使用した手加工などによって切削加工している。
いわば職人の手作業によって作り出している。しかし、このマスターモデルの製作をCADデータと3Dプリンターで作ることができれば、よりスピーディに精密なモデルを作ることができる。
3Dプリンターの一つの特長として、切削など従来の造形技術では作ることが出来ない形状を作り出すことができる点があげられるが、中でも積層のあとが目立たず、高精彩で滑らかな仕上がりを再現することができるForm2は最適と言えるだろう。
Form2では、高精度のレーザーによって、最小25ミクロンもの積層ピッチによって造形することができ、中でも造形の微細さとデザインの視認性に優れるGrayレジンは、最適な樹脂と言える。

Castableレジン。インベストメント鋳造専用の樹脂でロストワックスモデルを
もう一つ、Form2の画期的な点は、ジュエリーなどに使用するためのインベストメント鋳造専用の樹脂を提供している。
このジュエリー専用レジンCastableで造形したモデルは、ワックスモデルとして利用することが可能で、上記でご紹介した工程のうち、3番目のワックスモデルの造形に利用することができる。
このCastableレジンを利用することの強みは、第一に、マスターモデルをスタンダードレジンで作る際に使用するCADデータから、全く同じ形状を作り出すことが可能で、最終品と同様の形状をマスターモデル、ワックスモデルで統一して作ることができる。
また、このジュエリーレジンも、高精彩で滑らかな表面を実現することができる。もちろん、鋳型を焼成する際に、灰や残留物を残さないクオリティを実現している。

小型のデスクトップ鋳造機VBC-50との組み合わせが最適
Form2のスタンダードレジンとジュエリーレジンを使った取組は、ジュエリー製作や金属の工業製品の製造に新たな影響を与えつつある。
吉田キャストは、小型のデスクトップ鋳造機である卓上吸引鋳造機プチキャストVBC-50を。Form2と組み合わせることを提案している。この小型鋳造機は、これ1台で、真空脱泡機と吸引鋳造機二つの機能を有しており、より手軽にインベストメント鋳造を開始することができる。
例えば、マスターモデルやワックスモデルなどをデスクトップ3DプリンターのForm2 を使って造形し、その後の工程である鋳型作製や脱ロウ、鋳型焼成、鋳造などは、VBC-50によって行えば、より効率的に、高精度なジュエリー製作ができるかもしれない。
もちろん、金属の種類や形状などによって、作製の検証やノウハウは必要だが、新しいモノづくりを行うための準備は従来よりも驚くほど手軽に整いつつある。

卓上吸引鋳造機プチキャストVBC-50スペック
- 形式:VBC-50
- 入力電源:単相100V
- 消費電力:0.2KW
- 機械サイズ:420W×450D×400H(mm)
- 埋没台サイズ:280W×280D
- 重量:約23kg
- 鋳造雰囲気:大気
- 熱源:溶解用ガスバーナー/ヒーター式溶解炉(エレクトロメルト)
- 真空ポンプ:50l/min
3Dプリントと鋳造のソリューションメーカーへ進化
Form2のスタンダードレジンとCastableレジンを鋳造のプロセスに取り入れることで、製品企画から試作、鋳造、仕上げまで製品開発のプロセスを更に効率化することができる。
例えば、手作業で一つ一つ作るよりも、CADデータとForm2を利用した方が、デザインの検証や修正、バリエーションの作製など、よりスピーディに低コストで行うことができる。また、指輪など使用者によりサイズが異なるジュエリーなどでは、サイズごとの貴金属量が変わったり、サイズの拡大や縮小にともないサンプル写真やCADのレンダリングと比較したイメージの相違が発生する。
このサイズによるコスト変動やイメージのチェックも3Dモデリングにより貴金属に転化する前に実際的に確認が行えるメリットがある。
また、ブロックモールド法では、3Dモデル作成後の鋳型作製から焼成、鋳造完了まで、最短でわずか2日で行うことが可能だ。吉田キャストは、この3Dプリンターとの組み合わせによって、鋳造プロセスをより良いものにしようとしている。
今回ご紹介したForm2の利用は、3Dプリントを使った一例であり、これ以外にもさまざまな試みを行っている。吉田キャストは、日本で最も歴史が長い鋳造機メーカーであると同時に、新たな3Dプリントと鋳造のソリューションメーカーへ進化しようとしている。
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