射出成形の特徴 高品質で量産性の高いプラスチック成形の王様

射出成形は最も使用されているプラスチック成形

我々の生活において今や当たり前の存在のプラスチック。あまりに当たり前すぎて、その商品を使うときにそれがプラスチックでできているなどと意識すらしない。その使用範囲は多岐にわたっており、我々の部屋に存在するほとんどのモノに使用されている。

テレビや洗濯機、プリンター、携帯電話といった電化製品から、お茶のペットボトルやシャンプーの容器、はさみの取手やドライバーなど、日常的に使用するあらゆるモノに使用されている。

このように空気のような存在となっているプラスチックだが、そのほとんどのプラスチック商品が射出成形という方法で作られているのをご存じだろうか。

最近3Dプリンターが注目されるようになり、3Dプリンターとの対比で金型という表現が用いられるが、よりつっこんだ言い方をすると「射出成形と金型」と言った方が正確かもしれない。そんな射出成形はプラスチック成形の王様と言われるくらい、頻繁に使用される存在だ。

本日は射出成形の特長とその幅広さ、そして仕上がりの美しさをご紹介。

※本記事は7,000字以上の長文になります。

射出成形の特長 高品質で大量生産

上記で述べたように射出成形はあらゆる商品の製造に使用されるプラスチックの成形方法だ。

しかしその製法や特長は実際の製造にたずさわっている人にしか知られていないが、その原理は至ってシンプルだ。非常に簡単に言ってしまうと、約200℃程度の高温でプラスチックを溶かし、金型の中に押し込んで冷却し固めるという方法。

その特長は金型さえ作ってしまえば複雑なカタチのモノを高品質で作ることができる点にある。また最大のメリットはその生産性の良さだ。現在の射出成形機は機械化されていることから、驚くほど速いスピードでプラスチック製品を生産することができる。

製品の種類にもよるが、速いものでは数秒で1個の割合で生産することができる。まさに大量生産体制の象徴ともいえる非常に効率的な成形方法だといえる。逆を言えば、一定量以上の販売量が見込めない場合は、金型を製造するコストが高いため使用することが難しい成形方法ともいえる。それでは射出成形の仕組みをもう少し詳しく見てみよう。

射出成形のしくみ プラスチックの注射器

射出成形は大きく分けると二つの部分から構成されている。一つはプラスチック原料を溶かして金型へ流し込む射出装置。この射出装置は簡単に言うとプラスチックの注射器だ。もう一つの部分は溶けたプラスチックを固め製品をとりだす型締め装置。

この型締め装置は金型を締め付けることによって溶けたプラスチックを冷却し、固まった製品を取り出す役割を担っている。基本的に射出成形はこの二つの部分で成り立っている成形方法だ。ここではまず、注射器の部分である、射出装置に関してその仕組みをご紹介する。

プラスチックを溶かして金型に流し込む注射器の役割をする射出装置は、プラスチックを溶かして押し込む役割と、溜めておくという役割を担っている。プラスチックを溶かす方法はスクリュー方式がとられており、スクリューが時計まわりで回転することによりプラスチック材料が前方に送り込まれ溶かされる仕組み。

溶かされ前方に送り出されたプラスチックはそのままポンプのように金型に押し込まれるが、この射出装置の優れている点は、溶けたプラスチックが逆流しない機能を持っている点にある。

逆流を防止する働きを助けているのは、フタ逆流防止弁で、1回1回金型に樹脂が送り込まれるたびに閉じるようになっており逆流することなくスムーズに生産ができる。射出装置はこの連続運動によってプラスチックを一定の溶けた状態で保ちつつ、量産することを可能にするポンプの機能を持っているのだ。

プラスチックを溶かし押し出す射出装置

射出成形の金型 超高圧力に耐えられる機能

次に射出成形のもう一つの重要な役割を担っている型締め装置だが、ここでは射出装置で溶かされたプラスチックを金型に入れ、冷却して固めるという機能を担っている。しかし、一見すると単純に見える型締め装置だが、そこには超高圧力に耐えうる驚きの機能が備えられている。

射出装置から押し出され金型に注ぎ込まれるときのプラスチックの圧力は、なんと1平方センチメートルあたり200kgから500kgに達すると言われており、金型にはその高圧力に耐えられるだけの設計が必要だ。

この圧力は金型の内部にかかる圧力であり、型締め装置自体にかかる圧力はその約10倍1平方センチメートルあたり2000kgになる。つまり、金型にプラスチックが流し込まれると、すさまじい圧力で金型が押され、閉じた金型を開こうとしてくるのだ。そのため金型自体も相当しっかりした構造のモノが必要だし、型締め装置には冷却するまで開かないように金型を固定する構造が必要だ。

また、このように射出成形には1センチあたりで見ても非常に高圧力がかかることから、金型の設計も高度な精密さを要求される。仮に1mmでも寸法がくるっていた場合には、装置全体にかかる圧力も大幅に変わってしまうためだ。

そのため、金型の設計と製造には高い精密さと高圧力に耐えられるだけの構造が求められる。これが金型が高価と言われる大きな理由だ。このように射出成形の最大の特長は高性能で精密なパーツが製造でき、効率的に大量生産できるかわりに、製品の原型となる金型を作るのに非常に高価な費用がかかる。

そのため、新規で商品開発を行なったり、小ロットの生産を行なうのには適していない。3Dプリンターが金型と対比される最大の所以だ。また射出成形でつくることができるプラスチック製品の大きさは非常に幅があり、大きなものでは自動車のバンパーなども作ることができる。

このパーツの大きさのバリエーションは3Dプリンターでは真似ができない部分だ。ちなみにバンパーほどの大きさのプラスチックパーツを射出成形で作る場合、型締め機にかかる圧力は約3000トンほどにも達するため、非常に大型な装置が必要になる。

金型には超高圧力に耐える構造と設計が必要

金型設計の注意点 温度変化と収縮率

このように高精度なパートを効率的に大量生産できるのが金型だが、その製作には高い精度が問われることになる。

上記で述べたように金型にかかる圧力計算においても1mm単位まで注意しなければならない。しかし、それ以外にも金型を製造する際注意しなければならない重要なポイントがある。それが温度変化によるプラスチックの収縮率の計算だ。

射出成形は高温の溶けたプラスチックを金型内に押し込み、金型内で冷やして固めるが、プラスチックは温度が低下することにより収縮するという性質をもっている。そのため生産されたプラスチック製品は実際の金型の寸法よりは少し小さくなるのだ。金型はこの収縮率をあらかじめ計算して作られなければならない。

ちなみにこの収縮率の割合はプラスチックの材料や、成形時の条件などによっても異なるため、コントロールするには熟練した技が必要だ。この収縮率を見誤ると、実際に必要なサイズとは異なる物が作られてしまい大変なことになる。例えばそのパーツがある商品の一部であれば、想定よりもサイズが小さい場合、全く役に立たなくなってしまう。

パーツとパーツを組み合わせで構成される現代の多くのプロダクトでは1mm単位の誤差も許されないことがわかるだろう。

いろいろな射出成形と金型の技

金型はこのような点を基本的な注意点として踏まえたうえで、作る商品の形状や機能に応じて作られる。そこには金型職人の技と知恵が込められており、誰もが簡単に作れるものではない。

その種類や幅は商品があればそれだけ金型が存在すると言ってもいいほど。それに応じて射出成形と金型の幅も拡大してきたと言える。ここでは上記で述べてきたような単純な射出成形以外に、複雑な構造体を精度高く量産することができる、さまざまな射出成形をご紹介しよう。普通では信じられないような複雑な構造が金型で量産できたりする。

インサート成形 二色や異なる素材を組み合わせる

射出成形は溶けた樹脂を金型に流し込んで成形する技術だが、異なる素材や異なる色の樹脂を流し込み、二色以上のモノやパーツを作ることも可能だ。この射出成形の手法をインサート成形という。

例えば最もわかりやすい例をご紹介すると電卓のキーボードがわかりやすいだろう。キーボードは数字の白い部分とまわりを囲むグレーの部分、二種類のプラスチックで構成されており、これはインサート成形による二色成形で作られているためだ。また、このインサート成形の最大の特長は異なる素材を一体にして成形することができる点にある。

例えば金属と樹脂の組み合わせやプラスチックとゴムの組み合わせなどが可能だ。その代表的なものがコンセントなどのACプラグがあげられる。差込の部分は金属だがまわりはプラスチックで覆われているのは説明するまでもないだろう。

また、金属とプラスチックでいえばドライバーなどもこのインサート成形で作られている。持つ柄の部分はプラスチックだが、ネジを回転させて入れ込む部分は金属だ。

このように、インサート成形は異なる素材や異なる色を一つのモノに組み込むことが可能にするが、市の仕組みはどのようになっているのだろうか。まず電卓のキーボードを例にとると、異なる色が組み合わさったプラスチックは二つの金型を使用して作られている。

原理は簡単で、一つ目の金型に白い文字部分を構成する樹脂を流し込み成形する。そしてその白い文字パーツを金型から取り出さずに、金型を回転させグレーの文字まわりを構成する樹脂を流し込み成形するという手法だ。

また、一つの金型を使って異なる素材を組み合わせることができるインサート成形もある。この方法は金属とプラスチックといったように異なる素材を組み合わせる際に使用される代表的方法だ。この方法では、あらかじめ元となるパーツを作っておき、そのパーツを金型に配置し、そこに別の素材を注入することで一体型が作られるという仕組みだ。

このように異なる素材を上手く組み合わせたり、いろんな色を組み合わせることにより、インサート成形は成形品に様々な物性を与えることができる。

そのメリットは例えばプラスチックのような、加工が容易で成形の幅が広い素材と、金属のように剛性が高く、強度や耐熱性を持つ素材を組み合わさるなど、いろいろな用途で使用できるモノを作りだすことができる。例えば上記であげた電源コードは金属の高い導電性と樹脂の絶縁性を組み合わせることで電気を安全に通すという機能をもつコンセントという製品の製造を可能にした。

また、対応できる素材の幅が多岐にわたっており、金属やプラスチックだけではなくセラミックや、ガラス、木材、紙、布といったいろいろな素材も使用可能。さまざまな素材の性能を組み合わせることで、いろいろな機能や役割を持つモノを開発することができる。まさにモノづくりの幅を広げてくれる汎用性が高い製法だと言える。

こうしたインサート成形の汎用性の高さは多くの分野で使用され、精密機器や自動車、デジタル機器など様々な商品の製造に使用されている。

サンドイッチ成形 マーブル模様やリサイクルに最適

次にご紹介する射出成形の方法はサンドイッチ成形と言われる方法だ。

まさに読んで字のごとくサンドイッチのように樹脂をはさみこむことから、この名前がついている。この方法はどんな時に使われるかというと主に再利用、リサイクル時などに多用される射出成形の製法だ。例えばリサイクルされた古いプラスチックを新しいプラスチックで挟みこみ二層にしてコストを抑え剛性を高めたプラスチックパーツが作れたりする。

もちろんリサイクルされたプラスチック以外の素材も使用でき、性質の違う2種類の材料を組み合わせることでさまざまな特徴のあるプラスチックパーツを作り出すことが可能だ。

一般的なサンドイッチ成形の方法だが、例えば、内部のコア層にABS樹脂、外側のスキン層にエラストマーなどの組み合わせで触感がよく、剛性の高い部品が作れたり、コア層に発砲材料、スキン層に一般的な樹脂素材を使用することで、軽量でソフトな質感を持つプラスチックパーツが作れる。

この組み合わせは樹脂素材の種類分だけ組み合わせが可能でリサイクル材を用いた安価なプラスチックパーツや、さまざまな機能性を出すプラスチックパーツの成形が可能だ。

またサンドイッチ成形の特色として単純な2層構造ではない独特の色調を表現することが可能だ。それがマーブル調とか大理石調とか言われる成形方法で、プラスチックで大理石のような仕上がりを出すことができる。ちなみにマーブルとは英語で大理石のことを指す。このようにサンドイッチ成形はプラスチックの素材を組み合わせたり、色を組み合わせたりすることでさまざまな機能をプラスチックパーツに付与したり、独特の質感をほどこすことが可能だ。

また、近年の企業の環境貢献活動の高まりから、古いプラスチックのリサイクルが活用できるサンドイッチ成形の役割は高まっている。

不良品を防ぐガスアシスト・水アシスト成形

プラスチックの特性は上記でも述べた通り、熱して溶けた状態から冷やされて固まるときに、大きさが収縮するという性質を持っている。

熟練の金型職人はこの収縮を計算に入れて金型設計を行なうが、製品やパーツの形状によって、さらに気をつけなければならない点がある。それがプラスチックの不良品と言われるヒケや反りと言われるものである。

反りとは呼んで字のごとくだが、ヒケとはプラスチックが冷却され固められるときにできる凹みのことを言う。例えばパーツの形状によってはプラスチックの厚みが厚い部分もあれば薄い部分もある。

プラスチックの収縮率の話を上記で述べたが、この収縮スピードは厚みによって異なることになる。もちろん肉厚の部分は収縮スピードが遅く、肉薄の部分は収縮スピードが速い。その際、肉厚部分だけ遅くなることで凹みができてしまうことをヒケという。

このヒケができるのを回避するためには金型の設計だけでは限度がある。成形中に特殊な方法を用いることで回避することができる。そのヒケや反りを回避するための方法がガスアシスト成形や水アシスト成形と言われる方法だ。

この射出成形の方法を簡単に説明すると、金型に溶けたプラスチックを押し込む際、高圧のガスや水を押し込むことで圧力を均等にするという成形方法だ。やり方はいくつかあり、金型からガスを入れる手法と、機械のノズルからガスを注入する方法がある。

高速ヒートサイクル成形 塗装なしで高級感のある仕上げ

次にご紹介するプラスチック成形の方法だが、高速ヒートサイクル成形と呼ばれる成形方法がある。

この手法を使うことでプラスチックパーツを高級感がある仕上げにすることが可能だ。もともとプラスチックは金属や木材の代わりになる素材として注目され、広く使用が普及したが、徐々にその普及が広がるとともに質感まで求められるようになった。

当初はプラスチックの成形品に塗装と研磨をほどこすことで高級な質感を作り上げていたが、今の射出成形技術では塗装することなく高級感のある光沢仕上げが可能になっている。

このプラスチック成形で作られる加工がピアノブラックと呼ばれる仕上げだ。最近のデジタル家電ではよく使用されている仕上げで、まるで鏡面のような仕上げが特長。これを塗装と研磨で仕上げるとなると相当な手間とコストがかかることから、高速ヒートサイクル成形という手法を使って仕上げているのだ。

それではこの高速ヒートサイクル成形を簡単にご説明しよう。簡単にいってしまうと金型内の温度を高速で加熱したり冷却したりする製法だ。金型内に温度によるヒートサイクルを作り出すことで、樹脂の流動性を高め金型内にプラスチックが流れやすくすることができる。

プラスチックは、分子と分子の結合で成り立っていることから熱や温度という要素が物体の成形には重要な要素を占めている。金型技術はまさにこの温度を操ることでさまざまな質感を作り出すことができる。

これまで述べてきた射出成形はいろいろある射出成形の一部だが、これ以外にもいろいろな射出成形の方法が存在する。たとえば金型内部の動きによって中空のプラスチック部品を作る射出成形方法や、縦型の射出成形機で金属にプラスチックを埋め込むフープ成形など、そのやり方や種類は非常に幅が広い。

そこにあるのは、日本の高いレベルのモノづくりを成り立たせている技と経験と知識の融合に他ならない。既に述べたが、そこには金型の設計技術だけではなく、プラスチックや異なる素材の特性を知り尽くし、形状や環境条件によってどのようにそれが変化するのかを熟知したモノづくりの深淵があるのではないだろうか。

まとめ 3Dプリンターと射出成形の違い

大昔の射出成形は熱で溶かしたプラスチックを万力のような機械で金型に流し込むという力仕事であったが、今の射出成形は完全に機械化されている。しかし機械とはいえ、単なるマシーンではなく、そこには人の手や人の技が製品のクオリティを左右する機械製法だと言えよう。

いうなればプラスチックの性質や温度、熱、金型設計、こうした要素をコントロールし、いろいろな条件を作り出すことで、作るモノのバリエーションやクオリティを広げてくれる製法だと言える。

これまで述べてきたように射出成形はプラスチックの加工方法の中に置いて、最も汎用性が高く、最も応用性に富み、最も美しい仕上がりができる製法だ。とりわけ最近では製造技術のデジタル化が注目され3Dプリンターによる加工方法が注目されているが、クオリティや仕上がりという面だけに焦点を絞ってみると、射出成形のクオリティと表現の幅は3Dプリンターの比ではない。

3Dプリンターが及ぼす影響は巨大でさまざまな分野、業界に地殻変動をもたらすが、射出成形やその他のプラスチック成形とは現段階では別々の加工方法としてとらえる必要があるだろう。

確かに3Dプリンターを使えば、金型などのコストをかけずに加工できるというメリットがあるが、そこでは人間の行なう役割はデータからプリントするというマウスをクリックするという行為しか存在せず、人の手が織りなす無限の技が介在する余地が全くない。

いうなれば素材の力、熱の力、周囲の環境、機械の特長といった物を作ることの条件を、人がコントロールすることができず、ある意味、製品の表現方法は限定されてしまうことになる。プラスチックの加工方法にはさまざまな加工方法があり、作る製品のデザインや機能、素材の特長に応じて加工方法は選択されるが、3Dプリンターもそのうちの一つとしてとらえ、柔軟に加工方法を選択する必要があるだろう。

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