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3Dプリンターのサポート材とは
3Dプリンターの運用において、最も頭を悩ます存在の一つがサポート材です。サポート材とは、その名前の通り、造形モデルを支える部分のことで、FDM®(熱溶解積層法)3Dプリンターでも、光造形法(SLA、DLP)3Dプリンターでも、付け方一つで造形モデルの精度に大きく影響します。
造形モデルをなるべく綺麗に仕上げたい場合にはサポート材のつく部分を極力減らすことが必要です。
例えば綺麗に見せたい表面にサポート材がついてしまうと、取り外しも大変なうえ、プリント後の手間(研磨などの後処理)も増えます。更に、サポート材がつけばつくほど、余計な材料費がかかります。
そこで、今回はFDM(熱溶解積層法)の3Dプリンターのサポート材について、その構造と、問題点、またよりサポートが少なく済む方法などの対策、更には専用のサポート材フィラメントまでご紹介します。
サポート材の手間を減らし、よりよい仕上がりを実現することで快適な3Dプリントが実現できます。
サポート材が必要な構造とは?
そもそもサポート材が必要な構造とはどのような形状なのでしょうか。
サポート材は、積層造形といわれる3Dプリンターならではの存在です。従来のブロックを削り出す切削になかった概念です。
3Dプリンターは、アディティブ・マニュファクチャリング(additive manufacturing)と呼ばれるように1層ずつ物体を固めて形にする手法です。そのため、積層する過程において、どうしても積み上げられない形状などがある場合、サポート材を生成します。
3D CADデータをスライス状にし、それをGコードといわれる数字のコードにして3Dプリンターに送ると、スライス状のデータに従って、プリンターが1層ずつ積み上げて一つの形にしていきます。
その際に形状によっては、物体を支えるサポート材がないと作ることができない形があります。
それが、次にご紹介するオーバーハングとブリッジです。

オーバーハング
オーバーハングとは、もともと岩壁の傾斜のことを指します。『岩壁の傾斜が頭上に庇のようにおおいかぶさっている部分(三省堂 大辞林)』で、3Dプリンターの造形モデルでいうと、下記の図のようなT字やY字の形状のことです。
このT字やY字の屋根の部分は、サポート材が無いと、支えられず造形途中に落ちてしまう可能性があります。
FDM(熱溶解積層法)3Dプリンターの場合、前の層の上に少しずつずれて(オフセットされて)積層されます。それによって末広がりに広がりオーバーハングの形状を形にしていきます。
45度のオーバーハングが基準
サポート材が必要なオーバーハングは45度が基準となっています。屋根の傾きが45度を超えるとサポート材が必要になってきます。この角度は3Dプリンターや材料によっても若干異なります。
基本的には45度未満に収めればサポート材で補強しなくても造形できますが、プリンターの種類によっては35度や40度でもサポート材が必要な場合があります。

T字のオーバーハングは必要
一方T字のオーバーハング、もしくは角度が90度のオーバーハングは、確実にサポート材が必要です。T字になる部分にサポート材をつけないと、空中支えきれずプリントは失敗してしまいます。

ブリッジ
ブリッジは、その名前の通り“橋”のような造形物のことを指します。基本的にはブリッジも、オーバーハングのT字と同じ形状なためサポート材が必要になります。サポート材が無いと、橋の上の部分が支えることができずミスプリントが発生します。

オーバーハングテストでサポートの範囲を確認する
お使いの3Dプリンターが何度のオーバーハングまでサポート材が不要か簡単にテストすることができます。
3Dデータの無料ダウンロードサイトThingiverseでは、オーバーハングテスト用の造形モデルがあります。
5度刻みで20度から70度までの角度がテストできます。こちらでプリントすれば、何度までサポート材をつけずにプリントできるかチェックできます。

サポート材の形
FDM 3Dプリンターのサポート材は、基本的に2種類の形状があります。造形モデルの形状や場所に応じて、機械が判断しサポート材の形が変わります。
細い線
細い線のようなサポート材は簡易的な補強で作られるサポート材です。オーバーハングを支える役割があり、簡単に取り外すことができます。

箱型
薄い箱のような形状のサポート材です。最も一般的なサポートの形状で、T字型のオーバーハングやブリッジなどを支える役割があります。
サポート材としての役割は高いですが、その一方で、場所によっては取りはずすのが大変です。
また単一ノズルのFDM 3Dプリンターの場合、造形モデルとサポート材が同じ材料なため、モデルとサポート材がくっついて取りはずしにくい場合があります。

サポート材の付け方
サポート材の付け方は、3Dプリンターの種類によって異なります。押出ノズルが1本の場合と、デュアルヘッドといわれる押出ノズルを2本搭載したタイプで、サポート材の使用が異なります。
押出ノズル1本の3Dプリンターのサポート材
押出ノズルが1本しかないFDM 3Dプリンターでは、造形に使用する材料と同じ材料でサポート材が作られます。押出ノズルがモデルを積層しながら同時にサポート材も積層していくのです。
このタイプの3Dプリンターの問題はサポート材が取り外しにくい点です。造形モデルとサポート材が同じ材料なため、造形物の場所によっては、サポート材と造形モデルの接合部分が完全に密着してしまい取りはずすことが困難な場合があります。
また、密着性が高い場合には手で取り外すことが困難で、カッターやペンチなどを使用してとり外さなければなりません。場合によっては造形モデルの表面が汚くなったり破損したりします。
押出ノズル2本(デュアルヘッド)の3Dプリンターのサポート材
サポート材の課題を克服するには押出ノズルを2本搭載したデュアルヘッドの3Dプリンターが最適です。
業務用(ハイエンド)のFDM 3Dプリンターは2本押出ノズルを搭載しており、1本のノズルからは造形に使用する材料が積層され、もう1本の材料からはサポート材が積層されます。
デュアルヘッドの3Dプリンターの強みは、専用のサポート材を使用することができ、簡単に造形モデルから取り外すことができます。サポート材はPVAのような水溶性の素材で作られているため、水で溶かして除去することができます。
水で溶かすため造形モデルを傷つける心配もなく、取り外しが困難な中空部分や細い構造体でもストレスなく取りはずすことができます。
サポート材の問題点と対策
サポート材の問題点と課題をここで改めて整理しておきましょう。3Dプリンターは積層ピッチなどの造形精度が注目されがちですが、サポート材は運用面にさまざまな影響を与え、実はプリンター本体の性能よりも日々の作業には重要です。
サポート材の取り方、除去方法
3Dプリンターにおけるサポート材の取り方ですが、基本的には手で剥がします。ビルドプラットフォームからはスクレイパーなどの工具を使用してはがします。その後、造形モデルの周囲についているサポート材を手で剥がします。
剥がしにくい個所、特に中空モデルなどの内部のサポート材は、ペンチやピンセットなどを使い、差し込んで剥がします。
ただし、こうした手で剥がすことが出来るサポート材は、造形が上手に成功した場合で、それ以外は以下のような不具合などがおきます。
サポート材による不具合
サポート材による不具合や課題は以下のようなものがあります。
材料費の増加
サポート材の問題点の第一は、材料費の増加です。サポート部分が増えれば増えるほど、当然のことながら無駄な材料費がかかります。例えば、造形モデルが小さく薄い場合にはモデルそのものよりもサポート材の方が材料費がかかる場合があります。
プリント時間
サポート材が多ければ、当然のことながら材料費と同様にプリント時間も長くなります。
剥がれにくい
押出ノズルが1本の3Dプリンターでよくある現象ですが、サポート材と造形モデルが一体化してしまい、サポート材が剥がれないという問題点があります。
FDM 3Dプリンターは、熱可塑性樹脂といって加熱して柔らかくし冷えて固まるという樹脂を材料にしています。
そのため、溶かして固まる積層の過程で、サポート材と造形物が一体化してしまいます。これにはサポート材の付け方や押出ノズルの高さ(Z軸)の位置を調整したり、フィラメント材料の種類によっては、調整が大変になります。
後処理の手間
サポート材は造形後にニッパーやカッターで取り外しを行います。サポート材のつく場所が多かったり、サポート材が太い場合には、取り外しの手間も多く、造形後には研磨などの後処理が大変になります。
研磨や下処理は工数の増加につながり、コストもその分かかります。
表面の仕上がりへの影響(モデル破損のリスク)
サポート材が多いということは、造形モデルとの接着面が多いということです。慎重に取り外しを行わないと、造形モデルに傷がついたり最悪の場合には破損したり汚くなったりします。
また、サポート材を除去した個所は研磨などの後加工が必要になり、後処理の手間が増えることになります。造形モデルの種類によってプリント方向を調整したり、データを分割するなどして、表面にサポート材がつかないように調整が必要です。
対策:サポート材を最小にする方法
サポート材の問題点でもご紹介した通り、サポート材は極力少ない方が、材料コスト、時間、造形物の精度という3つの点からもベストです。ここではサポート材を最小にする方法をご紹介します。
プリント方向を変える
サポート材を最小にする第一の方法が、プリント方向の検証です。造形モデルのプリントする向きが変更することで、サポート材がつかない場合があります。
例えば、オーバーハングのT字のように水平にプリントする場合には必ずサポート材がついてしまうため、造形モデルの向きを縦や横方向などに変えるだけでサポート材がつかなくなる可能性があります。
造形モデルを斜めにする
造形モデルそのものの向きを斜めにするだけで、土台のみにサポート材がつき、モデル本体にはつかない場合もあります。
この斜めのプリント方向は、積層が徐々に小から大に広がって作られていくため、モデルも比較的綺麗にできる場合があります。
オーバーハング部の角度を調整する
オーバーハングの部分は約45度程度まではサポート材がつきません。そのため造形モデルの形を変更することが可能であれば、突き出している部分などの角度を調整することで、サポート材をつけずに済みます。
モデルを二つに分割する
場合によってはモデルを二つに分割する方法も有効です。例えば球体のような造形モデルは、1体で成形しようとすると球体の表面にもサポート材がついてしまい、仕上がりにも影響が出てしまいます。
そのため、造形後に接合することを想定し、二つに分割してプリントすることも必要です。
サポート材の密度を調整する
ソフトウェアで調整が可能であれば、サポート材の密度を調整することで、問題を解決することができます。
サポート材の密度は、密度を多くするとプリントは安定し造形モデルが綺麗にできる可能性がありますが、材料消費量とプリント時間が増え、場所によってはサポート材を取り外しにくくなります。
一方、サポート材の密度をすくなくすると、材料消費量とプリント時間は少なくなり、サポート材も取り外し安くなりますが、その一方で形状によってはミスプリントや失敗を引き起こす可能性があります。
サポート材フィラメントの種類
FDM(熱溶解積層法)3Dプリンターには、サポート専用のフィラメント材料が開発されています。サポート材は主に2種類あり、手で簡単に取り外しができるタイプと、水で溶かせる水溶性のサポート材が登場しています。
専用のサポート材を使用することで、造形モデルを綺麗に仕上げるだけではなく、キズや破損などの事故から防いでくれます。

家庭用(低価格)3Dプリンターのサポート材フィラメント
家庭用(低価格)3Dプリンターのサポート材もサポート材専用のフィラメント材料が開発されています。こちらも手で簡単に取り外しができるサポート材と、水で簡単に溶ける水溶性サポート材が登場しています。
PolySupport(PolyMaker製)
PolySupportは手で簡単に取り外すことができるサポート材です。構造を支えるしっかりとした強度と、手で簡単に取り外せる使いやすさを両立したサポート専用フィラメントです。
押出ノズルが1本の3Dプリンターですと、造形物を作る材料と、サポート材が同じなため、加熱して溶けて、冷えて固まるという物性も同じなため、完全にくっついてしまう恐れがあります。
しかし、PolySupportのように造形モデルを作る材料と異なる物性のサポート材フィラメントを使用すれば、完全にくっつくことはなく、取り外しも簡単に行うことができるのです。

PolySupportはPLAフィラメントやポリカーボネート(PC)、PVB、TPU(熱可塑性ポリウレタン)、ABSなどのサポート材として使用することができます。一方ナイロンフィラメントには対応していません。
PolySupportのスペック
- カラー:パール・ホワイト
- フィラメント径:1.75 mm(< ± 0.04 mm,通常は~ ± 0.02 mm)
- 1巻の重量:750g
- 推奨プリント温度:220~230℃
- 推奨プリント速度:40~60mm/s
- 推奨HBP(*2)温度(利用可能な場合):25~60℃
- 価格:7,980円(税込み)
PolySupportの物性
- PLA(PolyLite PLA、PolyMax PLA、PolyWood):◎
- ABS(PolyLite ABS):△
- PETG(PolyLite PETG、PolyMax PETG):△
- PC(PolyLite PC、PolyMax PC):○
- PVB(PolySmooth):○
- TPU(PolyFlex TPU95):○
- ナイロン(PolyMide Copa):×
PolyDissolve S1 水溶性サポート材(PolyMaker製)
PolyDissolve S1は、PolyMakerが開発した水溶性のサポート材フィラメントです。常温の水に浸けると2から3分ほどでサポート材が膨らんで簡単に手で取り外すことができます。
また、残ったサポート材は、水を入れ替えてつけると除去することができます。PLA、PETG(ポリエチレンテレフタレート)、PVB、TPU(熱可塑性ポリウレタン)、ナイロンといったフィラメントのサポート材として使用することができます。ポリカーボネート(PC)とABSには対応していません。

この水溶性サポート材PolyDissolveを使用すれば、中空の造形モデルや、除去ツールが入りにくい個所も水に溶かすことで、比較的簡単に除去することができます。

またPolyDissolve™S1は、十分に除湿する必要があり、乾燥設定は80℃で12時間乾燥する必要があります。乾燥ボックスのPolyBoxと一緒に使用することを推奨します。
PolyDissolve Siのスペック
- カラー:ナチュラル
- 平均フィラメント径:1.75 mm
- 1巻の重量:750g
- 推奨プリント温度(*1):215~225℃
- 推奨プリント速度(*1):20㎜/s~40㎜/s
- 推奨造形プレート加熱温度(利用可能な場合):25~60℃
- 価格:9,980円(税込み)
PolyDissolve Siの相性
- PLA(PolyLite PLA、PolyMac PLA、PolyWood):◎
- ABS(PolyLite ABS):×
- PETG(PolyLite PETG、PolyMax PETG):○
- PC(PolyLite PC、PolyMax PC):×
- PVB(PolySmooth):◎
- TPU(PolyFlex TPU 95):◎
- ナイロン(PolyMide Copa):◎
- 鋳造用フィラメント(PolyCast):○
サポート材フィラメントの保管について
サポート材フィラメントは、吸湿性が高く、十分に除湿した環境で保管することが必要です。フィラメントの乾燥には、フィラメント乾燥ボックスであるPolyBoxがおススメです。湿度計を搭載し湿度15%をキープすることが可能です。

サポート材の取り外しやすさ
安価な家庭用(低価格)3Dプリンターの多く(押出ノズルが1本の3Dプリンター)が、サポート材を取り外すのが大変です。
デュアルヘッドのようにノズルが2本ついている場合は、一つのノズルをサポート材専用にすることで取り外しやすくすることができ、造形モデルも綺麗に仕上げることができます。
まとめ
3Dプリンターにとってサポート材は造形モデルを安定させ美しく仕上げるための要素です。
その一方で、サポート材そのものが造形モデルを取り外しにくくしたり、傷つけてしまう可能性があったり、取り扱いにくい存在です。特に押出ノズルが1本のFDM 3Dプリンターではサポート材の付け方一つで、ストレスなくプリントが可能です。
また最近では専用のサポート材フィラメントを使用することで、デスクトップタイプの3Dプリンターでも高品質で安定した造形が可能になりつつあります。是非皆さまの快適な3Dプリンターライフの一助になれば幸いです。