
3Dプリンター教育の必要性:
時代背景と技術進化
広がる3Dプリンター教育とデジタル化の背景
DXハイスクール構想に代表されるように、日本はデジタル化人材の育成に本格的に力を入れ始めています。これからの未来を築く人材を育てるために身に着けるデジタルスキルはさまざまですが、3Dプリンターや3Dスキャン―を活用したデジタルものづくり、いわゆるデジタルファブリケーション教育も大きなテーマとして注目されています。
なぜ、3Dプリンターを中心とした教育が今後必要なのでしょうか?これまでも3Dプリンターは少しずつ教育現場にと入れられてきましたが、DXハイスクールではさらにそれを強化するための政策として注目が集まっています。
今回は「3Dプリンター教育の必要性」というテーマで、今後の未来やデジタル化が進む時代背景という視点から、なぜ必要なのか、その重要性や求められるスキルなどについてご紹介してまいります。
未来の成長を実現する二大テーマ デジタル化と自動化
まず日本だけではなく世界の国々が発展し成長を遂げていく中で、二つの大きなテーマがあります。それがデジタル化と自動化です。デジタル化ではAIやIoTといったデジタルテクノロジーを活用してより良くしていこうという動きです。 特にAIでは、ChatGPTなどに代表されるように生成AIなどが注目されています。そしてもう一つのテーマが自動化です。自動化は自動運転技術やドローン、ロボットなど生産性を高め、効率化を図る技術として注目されています。

デジタル化
AIやIoT、3Dデータなど

自動化
ロボティクス、ドローン、3Dプリンティングなど
この二つのテーマは、あらゆる産業での適応が求められています。特に人口減少と少子高齢化が課題の日本においては、この二大テーマが人手不足を補い、成長を促すために欠かすことができません。
3Dプリンターは自動化の一大テーマ。社会と産業への影響とは

このような大きな時代の流れの中で、3Dプリンターは自動化の一大テーマとして、さまざまな業界での活用が期待されています。製造業だけではなく、医療や介護、農業、建設、物流、不動産、ファッション、ジュエリーなど物質を扱うすべての領域にとって活用が進んでいます。ここでは3Dプリンターの技術的な側面を踏まえつつ、社会や産業への影響についてご紹介しましょう。
3Dプリンターの効果ともたらすもの
3Dプリンティング技術を一言でいうと、「3Dデータをもとに、1個単位から物体を積み上げて形にする技術」です。この特長によってこれまでできなかったことができるようになります。

効果1:1個単位のダイレクト製造
第一に、1個単位でデータから作ることによって、多くの設備を設けなくてもモノを作ることができます。大量生産を行うためには生産設備が必要でしたが、少量であれば3Dプリンターで作ることができます。また手作業で作るよりも効率的に、同じ品質で作ることができます。

効果2:形状の制約が少ない
第二に、これまで作ることができなかった形を作ることができます。従来のものは型に入れて作るか、削ってつくるかのどちらかのアプローチでしか形にすることができませんでした。しかし積み上げて作るアプローチによって、これまでにないデザイン、機能、コストのものを作ることができます。

効果3:クラウド中心のものづくり
第三に、3Dデータから直接形にすることができるため、どの場所でも3Dプリンターがあれば同じものを作ることができます。これまでのように一定の決められた場所で作る必要はなく、3Dプリンターがある場所で作ってモノを供給したり販売したりすることができます。
このように3Dプリンターがもたらす効果はこれまでの製造技術ではない部分ですが、どのようなモノづくりに対して可能性をもたらすのでしょうか?
可能性1:アイデアを形にする可能性が高まる
3Dプリンティングはアイデアを素早く低コストで形にすることが可能です。試作と改良のサイクルを大幅に短縮することができ、これまでコストや期間などによって実現が難しかった製品やサービスを世に送り出すことが可能となります。

可能性2:製品の改良によって便利になる
3Dプリンターの特長の一つがカスタマイズ性とデザイン性です。1個単位からつくることで、特定のニーズに合わせてカスタマイズすることで、より機能的で便利になります。3Dプリンティングにより、ユーザーごとの要求に応じた形状、サイズ、材料特性を持つ製品が設計でき、従来の製造方法では不可能だった複雑なデザインも実現可能になります。また、これまで複数のパーツで作っていたものが、3Dプリンターに置き換えることで、より軽くて使いやすいものに改良することが可能です。

可能性3:低コスト化が可能になる
3Dプリンティングは設計から製造までのプロセスをシンプルにし、高額な金型などを必要としません。1個単位から作ることが可能で小ロットやカスタム製品の製造でもコストを抑えることができます。また、必要量しか材料を使用しないため、従来の製造方法に比べて経済的です。

可能性4:起業や新ビジネスが促進される
技術的なノウハウと比較的少額の初期投資で製品を市場に投入できるため、起業家精神を持つ個人や小規模な中小企業でも新しいビジネスをスタートすることができます。また、ニッチな市場やカスタムメイドの需要に迅速に応えることが可能です。

可能性5:サプライチェーンが効率化される
3Dデータ中心のものづくりでは、生産と物流の最適化が行われます。データからダイレクトに作れるため、製品を需要のある場所で直接生産できるようになります。これにより、在庫を大量に抱えるリスクを減らし、サプライチェーンを効率化し、全体的な運用コストを削減することが可能となります。

3Dプリンターの可能性を示す事例
3Dプリンターの効果と可能性はさまざまな業界に影響を与え始めています。大量生産・対象消費からより細かいオンデマンドニーズと効率性が求められる時代において、その真価を発揮しつつあります。ここでは具体例をもとにいくつかの事例をご紹介しましょう。
航空宇宙産業での利用

航空宇宙産業では3Dプリントが最も早くから活用されている業界の一つです。プロトタイピングからパーツのオンデマンド製造まで幅広く使用がされています。例えば、飛行機のエンジン用のパーツを複数パーツを組み合わせて作っていたものを、3Dプリンターで1個のパーツに変更することで、軽量化や低コスト化を実現しています。また、整備に使用されるサービスパーツの在庫をなくし、必要に応じてオンデマンドで製造しています。
医療分野での利用
医療分野も個人個人の体にカスタマイズできることから早くから活用されています。義肢や補聴器などその人の体に合った形で1個ずつカスタマイズができるため3Dプリンターは最適です。また歯科用での利用も盛んで、歯列矯正の歯のモデルだけではなく、マウスピースやナイトガードなども3Dプリンターで作られています。

研究開発での利用

大学や大学院、研究機関での研究開発にも3Dプリンターが盛んに使用されています。特に新たなデバイスの開発や、従来使用されていた製品の改良など、より便利に、豊にするために3Dプリンターは最適です。最近では3Dプリンターでは強度や耐熱性、耐薬品性といったさまざまな物性を持つ素材が登場しており、さまざまなニーズに対応する研究開発には最適です。
フィギュアや模型、個人作品
3Dプリンターは個人での利用も拡大しています。フィギュア作品やアート作品などこれまでの造形技術では形にすることが難しい形状を表現できるためです。特にフィギュアの分野では、さまざまな造形師や作家の方々が自らの作品を表現しています。

アートやファッション

アートやファッションでも3Dプリンターの表現性は真価を発揮しています。ファッションショーの衣装やネイルなどさまざまな装飾品で独特の表現ができる3Dプリンターは最適です。積層して形にするというアプローチからこれまでの製造方法や手作業では実現が難しい、微細な表現ができるためです。
型としての使用(チョコレートや石鹸、バスソルトなど)
3Dプリンターで直接ものを作るだけではなく、型として使用することで最終品を小ロットで作ることも可能です。例えば3Dプリンターで原型を作り、原型をベースにシリコン型を作ればチョコレート用の型を作ることができます。また3Dプリンターで型を作り、石鹸やバスソルトなどを型にはめて最終品を作る事例もあります。

今後の3Dプリンターのゆくえと未来のスキルとは?
これまでご紹介してきたように3Dプリンターは、あらゆる産業や業界でさらに使用が拡大していくことになります。その理由としてあげられるのが3Dプリンターがまだ技術的に成長の途中であることが言えるからです。
現在の3Dプリンターはまだ品質、精度、安定性、生産性などの側面から課題が多く残されています。しかし技術は日進月歩で進んでいくもので、数年間でも多くの飛躍をとげています。先に述べた、品質や精度、安定性、生産性がさらに向上し続ければ、その利用範囲はさらに拡大し、これまで量産の領域を担っていた分野まで広がる可能性もあります。
それでは3Dプリンティングが自動化の主要テクノロジーとして社会で浸透していくなか、今後、どのようなスキルが求められているのでしょうか?

未来に求められるスキル・クリエイティブ思考が
重要性を増す
それでは具体的にどのようなスキルが求められるのでしょうか。ここでは未来に求められるスキル、クリエイティブ思考についてご紹介します。
第一に3Dプリンターや3Dデータ制作というものは、アイデアを形にするための道具でありツールです。 そのため、それ自体に精通していることは求められますが、それ以前のスキルや思考法の方が必須です。
いずれ、3Dプリンターや3Dデータは自動化が進み、誰が行っても同じ品質で差異はなくなるでしょう。 一方で、それ以前の、「どんなアイデアを形にするか」「誰のためのデザインや機能なのか」といったデザイン思考やそれを形にするエンジニアリングスキルが必要です。
3Dデータを作れるモデリングスキルではなく、上記のようなデザイン思考やエンジニアリングスキルがより重要性を増してくると考えられます。
最速で3DCAD・デザインエンジニアを習得!

3Dプリンターを使う前の必須スキル、最速で3DCADとデザインエンジニアスキルが習得できる『DXとリバースエンジニアリングの教科書』に関するお問合せはこちらです!