3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)
フィラメント材料とは

3Dプリンター用のフィラメント材料の中で、人気の素材の一つがポリプロピレン(PP)フィラメントです。ポリプロピレン(PP)は、工業用の商品で最も多用されているプラスチック材料の一つです。
家庭用プラスチック製品の代表
特に高い強度、透明性、光沢、耐薬品性、耐疲労性に優れていることから、家庭用のプラスチック商品の代表的素材です。また、食品にも電子レンジにも対応しているため、家庭用のプラスチック容器としても使用されています。
こうした多用性から3Dプリンター用のポリプロピレン(PP)フィラメントはプラスチック製品の試作や強度検証などに最適な材料といえるでしょう。
ポリプロピレン(PP)フィラメントの注意点や対策も
その一方でポリプロピレン(PP)フィラメントはプリントする際に、課題や注意点などもあり、比較的プリントが難しい部類のフィラメント材料です。
今回はポリプロピレン(PP)フィラメントの特長や注意点、おススメ機種やPPの種類についてもご紹介します。
対応3Dプリンターも豊富
ポリプロピレン(PP)フィラメントに対応した3Dプリンターも最近では徐々に増えつつあります。100万円以下のデスクトップタイプでも利用が始まっており、Raise3DプリンターのRaisePro3、Pro2、E2などでも使用が可能です。
3Dプリンターを使用するすべての方々がより良いモノづくりができるようになれば幸いです。
3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)フィラメントの
強みと弱み
3Dプリンター用PLA(ポリ乳酸)フィラメントは、他の材料よりも優れた特性を持っており、製品開発のプロトタイピングには最適です。また初心者でも簡単に扱える材料です。
ポリプロピレン(PP)
フィラメントの強み
1.優れた機械的特性
ポリプロピレン(PP)フィラメント材料の最大の強みは、優れた機械的特性です。強度、特に耐疲労性に優れており、衝撃やねじれなど素材に対する負荷に強いです。また強度と剛性のバランスが高く、耐薬品性、絶縁性、耐水性にも優れています。


2.光沢と半透明の見た目
ポリプロピレン(PP)フィラメントは、工業製品でも高い透明性と光沢のある見た目から、さまざまな家庭用製品に使用されています。FDM方式の3Dプリンターで使用する場合、積層跡が残りますが、半透明と光沢のある質感を再現できるため試作に最適です。
ポリプロピレン(PP)
フィラメントの弱み
1.密着性の弱さ
ポリプロピレン(PP)フィラメントを3Dプリンターで使用する際の最大の課題が密着性の弱さです。ポリプロピレン自体が半結晶構造をしているため、フィラメントを積層するさいに密着がしにくいです。それにより反りが発生したりミスプリントが起きる可能性があります。密着性の対策は後ほどご紹介します。


2.反り
ポリプロピレン(PP)フィラメントもABSと同様に、造形中“反り”が発生します。上記の密着性の弱さとも関連していますが、それ以外に熱収縮の影響もあるため大きい造形物や広い造形面積の場合反りやすいです。
ポリプロピレン(PP)フィラメントの特性一覧
耐久性:長く劣化せずに安定して使用することができる。
耐疲労性:衝撃やねじれ、凍結などに強い。
耐衝撃性:衝撃などに強い特性を持つ。
耐熱性:100℃程度の耐熱性
耐薬品性:酸やアルカリなど薬品による変化が少ない。
引張強度:引っ張った時にも破れにくい。
靭性・曲げ疲労性:ねじったり曲げたりした時にも壊れにくい。
3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)フィラメントで
できること
ポリプロピレン(PP)フィラメントでできることをご紹介します。PPフィラメントは、FDM®(熱溶解積層法)タイプの3Dプリンターの材料として幅広い用途に使うことができます。
製品開発のリードタイム短縮
ポリプロピレン(PP)フィラメントでできることの第一として、製品開発の効率化があげられます。具体的には製品開発にかかるリードタイムの短縮です。
デザインモックや試作開発の
効率化に
一般的な製品開発の工程では、製品企画からデザイン案が起こされ、モックアップやコンセプトモデルなどの試作品が作られます。試作品の検証では、機能や形状が何度も検討され、改良やブラッシュアップが行われます。
特にポリプロピレン(PP)の機能性と、光沢、半透明の見た目はPP製品のプロトタイピングに最適です。
大体切削加工の場合に1週間から数週間程度かかりますが、3Dプリンターとポリプロピレン(PP)フィラメントであれば数時間から数日で設計データからアウトプットすることが可能です。
製品開発のコスト削減
第二に、3Dプリンターでポリプロピレン(PP)フィラメントを材料として使用することで材料代などのコスト削減効果があります。切削加工で試作品をつくる場合、ブロック状の樹脂を削り出して物体にすることから、ブロックごとの材料費がかかります。
しかし、3Dプリンターとポリプロピレン(PP)フィラメントであれば、必要な分だけ使用することから材料コストの削減にもつながります。

3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)フィラメントで作れるもの
3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)フィラメントでは、さまざまなものを作ることができます。ここでは具体的な作れるものについてご紹介します。
PP製品の試作品(プロトタイプ)
ポリプロピレン(PP)製品は高強度でかつ光沢・透明のある見た目をしています。3Dプリンターとポリプロピレン(PP)フィラメントを使用すればPPを使った家庭用製品などのプロトタイプを作ることができます。


機能性プロトタイプ
ポリプロピレン(PP)フィラメント材料の用途として、機能性テスト用のプロトタイプを作ることができます。機能性プロトタイプとは、外観だけのモックアップとは違い、実際にPPの耐疲労性や強度、耐摩耗性、耐薬品性などをテストすることができます。
治工具
ポリプロピレン(PP)フィラメントの高い耐疲労性、摩耗性は治工具などの作成にも利用が可能です。繰り返し使用するねじれや衝撃に対してPPの持つ優れた機械的物性が最適な効果を発揮します。


最終品パーツ
ポリプロピレン(PP)フィラメントは場合によっては最終パーツを作ることもできます。ポリプロピレン(PP)フィラメントは強度と耐疲労性、耐衝撃性、靭性、耐薬品性などがある材料なため、強靭なパーツを作ることができます。
3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)フィラメントの種類
ポリプロピレン(PP)フィラメントは、通常のPPのものや、ガラス繊維を配合した種類があります。

Ultrafuse PPフィラメント ポリプロピレン 700g(BASF)
Ultrafuse PPフィラメント ポリプロピレン 700gは、化学品メーカーであるBASFが提供するPPフィラメントです。高弾性で高疲労耐性に優れプリント性も高く機能試作から治工具まで幅広い用途に使用できます。
Ultrafuse PPフィラメントのスペック
カラー:ホワイト
重量:700g
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:220℃~240℃
プリントスピード:20mm/S~50mm/s
プリントベッド温度:60℃~80℃
PPフィラメント用シート
ポリプロピレン(PP)フィラメントの弱点の一つが密着性の弱さです。そのためPPフィラメントは専用の造形シートが必要です。
Ultrafuse PPフィラメント専用シート

Ultrafuse PP-GF ガラス繊維配合PPフィラメント 750g(BASF)
Ultrafuse PP-GF ガラス繊維配合PPフィラメント 750gはポリプロピレンにガラス繊維を配合することで、PPの持つ強度、耐疲労性に加え耐薬品性や紫外線に強い耐UV性を備えました。
Ultrafuse PP-GF ガラス繊維配合PPフィラメントのスペック
カラー:ブラック
重量:750g
フィラメント径:1.75 mm ±0.05 mm
プリント温度:240℃~260℃
プリントスピード:30mm/S~80mm/s
プリントベッド温度:70-90℃

PP フィラメント 700g (北陸エンジニアリング)
PP フィラメント 700gは、国内メーカーである北陸エンジニアリングが開発するPPフィラメントです。
PP フィラメント 700g (北陸エンジニアリング)のスペック
カラー:ナチュラル
重量:700g
フィラメント径:1.75 mm

PPGW フィラメント 500g
PPGW フィラメント 500gは日本製のガラス繊維配合のポリプロピレンフィラメントです。
PPGW フィラメント 500gのスペック
カラー:ホワイト
重量:500g
フィラメント径:1.75 mm
ポリプロピレン(PP)推奨の3Dプリンターとは
ポリプロピレン(PP)フィラメントは熱収縮によって反りが発生しやすいフィラメント材料です。そのため多くの3DプリンターがABSに対応しているとはいえ、反りの影響で大きい造形物が難しい傾向にあります。

Creator4S(Flashforge)
Creator4SはFlashforgeが開発する業務用3Dプリンターです。新たに庫内温度の加熱機能を搭載した大型のFDM3Dプリンターで、ナイロン(PA)フィラメントでも30cm近い造形物が3Dプリント可能です。またPA以外にも20種類の材料に対応しています。
造形サイズ 400mm x 350mm x 500mm (ABSはW350mm x D300mm x H350mm) |
対応材料 20種類(PA~カーボンファイバー配合材料まで) |

RaisePro3
Raise3Dの代表的3DプリンターがRaisePro3です。RaisePro3は最新のFDM 3Dプリンターで、AI搭載によりプラットフォームのノズル位置合わせを補正、専用ソフトとの高い安定性によって高いプリント性能を誇ります。
造形サイズ 300×300×300mm |
対応材料 PA~カーボンファイバー配合材料まで |

Raise E2
RaiseE2はRaise3Dのデスクトップタイプの3Dプリンターです。ナイロン(PA)からPLA、TPUなど幅広い材料に対応しており、専用ソフトウェアとオートキャリブレーション機能によって非常に高い安定性を誇っています。
造形サイズ 330×240×240 mm |
対応材料 PA、PLA、TPU、PCなど |
3Dプリンター用ポリプロピレン(PP)フィラメントの注意点と対策
ポリプロピレン(PP)フィラメントは耐疲労性や強度、耐薬品性に優れる一方で、3Dプリントが若干難しい材料です。ここではPPフィラメントの持つ課題と対策をご紹介します。
密着性の弱さ:
すでにご紹介しましたがポリプロピレン(PP)フィラメントの弱点の一つが密着性の弱さです。特に最初のビルドプラットフォームへの密着がうまくいかないケースが多く、対策が必要です。

対策1:専用密着シートを使用する
密着性の悪さからフィラメントメーカーも対策としてPPフィラメント専用の密着シートを販売しています。基本的にこのシートを使用することで密着の問題はクリアできます。

対策2:プリントベッドの温度を上げる
密着性を高めるもう一つの対策が土台であるプリントベッドの温度を高めに設定することです。剥がれや反りなどを軽減します。
反り:
反りとは、FDM(熱溶解積層法)の3Dプリンターで起きる不具合の一つで、造形モデルの四方が反ってきてしまう減少です。
これはプラスチックが持つ熱収縮性によるもので、とくにフィラメント材料を加熱して柔らかくし積層するFDM(熱溶解積層法)3Dプリンターでおきる典型的な課題です。 ポリプロピレン(PP)もABSほどではなくても熱収縮の影響で、反りが発生しやすい素材です。

反りが出やすい造形モデルとは
この反りですが、造形モデルの形状やサイズ、プリント方向などによって異なりますが、一般的に大きい造形モデルで起きやすく、モデルの端が剥離してしまう場合があります。

対策1:庫内温度の加熱機能がある3Dプリンターを使用する
ABSの反りに最も効果がある対策がCreator4Sなど庫内温度の加熱機能がある3Dプリンターを使用することです。チャンバーの加熱によってABSの熱収縮が抑えられ、比較的大きい造形が可能です。

対策2:造形プレートを綺麗に清掃する
第一に、基本的な前提条件として、造形プレートを綺麗な状態に保つことが必要です。ほこりや、脂、また前回のプリント時の残留物などが無いか確認し、汚れているのであれば清掃します。
清掃にはペーパータオルとイソプロピルアルコール(IPA)、IPAが使用できない場合にはエタノールなどの消毒液を使って造形プレートを綺麗にふき取ります。

対策3:フィラメント除湿ボックスを使用する
フィラメント材料は、吸湿性があるため十分に除湿されていない空間や、湿気が多い空間に長期間置いておくと、空気中の水分を吸収してしまい、溶着力が弱くなり、反りが起きやすくなります。 そのため、日常からフィラメント材料を乾燥剤と共に保管するなど除湿された空間で保管する必要があります。
フィラメント除湿ボックス

DryPRO
DryBoxはフィラメント収納ボックスです。内部に乾燥剤を使用することで、効率的に乾燥状態にすることが可能です。また最大48時間の乾燥と庫内加熱機能も搭載し除湿した状態でそのままフィラメントを使用できます。

PolyBox 湿気防止ボックス
フィラメント材料の保管では、PolyMakerが発売しているPolyBoxがおススメです。フィラメント材料を2本まで収納可能で、常に低湿度に保つことができます。また、除湿したボックスから3Dプリンターにセット可能なため、ABSフィラメント材料を使用する場合にはおススメです。

対策4:造形プレートの加熱
3Dプリンターの種類によって異なりますが、第一には造形プレートの加熱と密閉を行うことで、PLAフィラメント材料の反りを軽減することができます。

対策5:プリント方向を変える
反りは、造形モデルのサイズによって起きやすくなります。先にご紹介したように大きいモデルは反りが起きやすくなるため、プリント方向を変えるのも一つの方法です。

対策6:造形モデルを分割する
場合によっては造形モデルを分割してプリントし、造形後にアッセンブルする方法もあります。

まとめ:手頃な価格で高い汎用性で、いろいろな造形に最適
ポリプロピレン(PP)フィラメントは、高い機械的物性と汎用性の高さから使いこなせればモノづくりのさまざまなシーンで役立ってくれます。プロトタイピングから治具、工具、更には最終品の製造まで、ものづくりの可能性を大きく広げてくれることでしょう。
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