光造形3DプリンターForm3レビュー【カップ編:グレイレジン】

光造形3Dプリンターで、カップを3Dプリントするとどうなるのか?
どこまで綺麗で滑らかなカップに仕上がるのか?
中が空洞になっている造形をプリントするとどうなるのか?

3Dプリントするカップの内容と使用するソフト

こちらが、今回3Dプリントをしたカップの種類になります。全部で4種類あります。
円形タイプと四角タイプのカップ形状で3Dプリントした場合の、表面の精度、曲面のカーブの仕上がりや平面の角の仕上がり具合、カップの内側の仕上がり具合などを見ていきます。

プリントするカップの形状とサイズ

左から順番に説明していきます。

1.円形カップ
サイズ Φ30mm × 高さ60mm
カップの淵の厚み 1mm

2.円形カップ
サイズ Φ60mm × 高さ80mm
カップの淵の厚み 1mm

3.円形カップ大 3mm
サイズ Φ60mm × 高さ80mm
カップの淵の厚み 3mm

4.四角カップ
サイズ 縦50mm × 横50mm×高さ80mm
カップの淵の厚み 3mm

こちらの4種類の形状で検証していきます。

使用する光造形3Dプリンターと材料

使用する光造形Dプリンター

Form3高精細、滑らかな仕上がりが特徴の反転方式の光造形3Dプリンターです。

使用する3Dプリントソフトウェア

PreFormは、直観的に使えるForm3/Form3L専用ソフトウェアです。
プリント方向、サポート材の設定、レイアウトなどワンクリックで設定が可能。またサポート材1本単位から細かい設定も簡単にできます。プリント設定を簡単にできる優れた無料ソフトウェアです。

光造形3Dプリンター用の材料はForm3専用スタンダードレジンのグレイレジンを使用します。

3Dプリンター用 硬質スタンダードレジン

硬質スタンダードレジンは、光造形3Dプリンターにおいて最も一般的に使用されるレジンです。多様な用途に対応できる汎用性が高く、プロトタイピングから模型、フィギュアまで幅広い分野で活用されています。このタイプのレジンは、適度な強度と耐久性を持っており、扱いやすさとコスト面でも手頃な価格であるため、初心者から熟練者まで幅広く利用されています。

今回、ソフトウェアPreFormでプリントするカップの3Dデータは、Blenderを使用して作製しています。

3Dプリントで検証したい内容

検証1 : サポート設定の違いによって造形の仕上がりがどこまで変わるのか?

まず、サポート設定に関して簡単にご説明します。Form3の専用ソフトウェアPreFormのサポート設定には方法がいくつかあります。

できるだけサポート材の影響を受けずにきれいなカップを作りたいと思いますので、直付のパターンをメインに、できるだけサポート材を減らした手動プリントのパターンとを比較検証していきます。

1.手動プリント

手動ですべてのプリント設定を行う
できるだけサポート材を付けたく無い場合に手動でサポート材を設定できます

※カップに付いていたサポート材を、手動でできるだけ減らしています。
造形の表面にサポート材跡の影響が出ないように、底面のみにサポート材がくるように設定しています。

2 .直付プリント(サポート設定なし)

サポート設定をしないで、サポート材を付けずにプリントする
ビルドプラットフォームに直接造形してプリントをします(直付)

※サポート設定をしないでカップを直接ビルドプラットフォームに配置しています。
※サポートを減らす場合の注意点 : サポートを下手に少なくすると造形物がビルドプラットフォームに張り付かずに落下する危険性があリます。

検証2 : カッピングはどこまで造形に影響が出るのか?

<カッピングとは>
カッピングとは、光造形法のプリントが逆さまになる時に起きる現象で、Form3の光造形法で空洞のある造形を3Dプリントする場合に、注意しなければなりません。

先程お伝えしたように、Form3反転方式の光造形3Dプリンターです。プリントする造形に空洞または凸面があると、その部分がプリント中に空気を閉じ込める吸引カップとなり、造形を破裂させてしまうことがあります。タンクに浸かったビルドプラットフォームが持ち上がる時に、カップ内の空間が大きくなりカップ内の空気圧が下がり真空状態になっていきます。そして周りの壁が内側に密着されすぎてしまい、圧力に耐えきれずに内側に曲がってしまいます。この現象をカッピングと言います。空気の逃げ場が無くなり、造形が破裂や潰れてしまうことがあります。

※カッピングを解決しないままプリントすると、「ブローアウト」と呼ばれることが多い破裂が起き、プリント
が失敗する原因になります。

今回の検証では、このカッピングの現象がどこまで造形に影響が出るのかを見ていきたいと思います。
カッピングは、3DソフトウェアのPreFormでプリントの設定をする時に、確認することができます。

<カッピングを解決する為には>

●空気を逃す穴を開ける
造形に影響が出ないように3Dデータに穴を開ける方法、見た目の精度は上がるが造形に穴が開いてしまう。

●造形を半分ずつプリントして接合
造形を半分ずつプリントして後で造形を接合させる方法、継ぎ目がどうしても残ってしまうが穴は開かない。

今回は、カッピング現象の影響を見たいので、手動プリント、直付プリントで検証していきます。
実際に、プリントする内容でPreFormのカッピングを確認していきましょう。

1 .手動プリント

こちらが、カッピングを解消する為にカップに穴を開けた3Dデータになります。

円形カップ 小 厚さ1mmに穴を2個開けた3Dデータ
円形カップ 大 厚さ1mmに穴を4個開けた3Dデータ
左の円形カップ大の内側部分
円形カップ小の内側部分
プリント適性でカップ症状は解消されています

2 .直付プリント(サポート設定なし)

※カップ症状が出ている場合に黄色く表示されます
※カップ症状が出ている場合
Pre Formのプリント画面の右側にプリント適性が表示されます

カップ症状が出ていますが、そのまま直付プリントで進めていきます。

3Dプリントするカップのパターン

今回の検証内容をまとめると、次のような3パターンでカップ形状を3Dプリントしていくことになります。
今回の積層ピッチは、100ミクロンのみで検証していきます。

パターン1:厚さ1mmの円形カップ 小と大 (直付)

プリント方法サポート方法
円形カップ小 厚さ1mm直付なし
円形カップ大 厚さ1mm直付なし

パターン2:厚さ1mmの円形カップ 小と大 (サポートあり)

プリント方法サポート方法
円形カップ小 厚さ1mm手動あり/底面のみ
円形カップ大 厚さ1mm手動あり/底面のみ

パターン3:厚さ3mmの円形カップ大と四角カップ (直付)

プリント方法サポート方法
円形カップ大 厚さ3mm直付なし
四角カップ    厚さ3mm直付なし

カップの3Dプリント結果

検証1 :サポート設定の違いによって造形の仕上がりがどこまで変わるのか?

<結果>

パターン1.円形カップ小 1mm(直付)

・表面の仕上がりは、少しザラザラしています。精度で見ると直付の始まり部分が少し広がっています。
・寸法精度で言うと、外側の寸歩が縦に0.4mm縮んでしまいました。内側の円の寸法は、円の直径が0.1mm縮みました。
・底面と内側の角の仕上がりは、底面の角がきれいに出ています。内側部分の角もきれいに出ています。
・カップの縁の仕上がりは、きれいに出ています。

パターン1.円形カップ大 1mm(直付)

・表面の仕上がりは、滑らかに仕上がっています。精度で見ると直付の始まり部分が少し広がっています。
・寸法精度で言うと、外側の寸歩が縦に0.3mm縮んでしまいました。内側の寸法は、内側の円の寸法は,縦に0.1mm、横に0.3mm縮んでしまいました。
・底面と内側の角の仕上がりは、底面の角がきれいに出ています。内側部分の角もきれいに出ています。
・カップ縁の仕上がりは、きれいに出ています。

パターン2.円形カップ小 1mm(手動)

・表面の仕上がりは、滑らかに仕上がっています。精度で見ると形状に少し歪みが出てしまいました。
・寸法精度で言うと、外側の寸歩が縦に0.1mm縮んでしまいました。内側の円の寸法は,縦に0.2mm、横に0.7mm縮み円が歪んでしまいました。
・底面と内側の角の仕上がりは、底面のサポート材の面の角が変形して丸くなってしまった。内側部分の角はきれいに出ていました。
・カップ縁の仕上がりは、きれいに出ています。

パターン2.円形カップ大 1mm(手動)

・表面の仕上がりは、ザラザラに仕上がっている。精度で見ると形状に少し歪みが出てしまいました。
・寸法精度で言うと、外側の寸歩が縦に0.3mm縮んでしまった。内側の円の寸法は,縦に0.1mm、横に0.5mm縮み円が歪んでしまいました。
・底面と内側の角の仕上がりは、底面のサポート材の面の角が変形して丸くなってしまいました。一部に剥がれたような影響が見られました。内側部分の角はきれいに出ていました。
・カップ縁の仕上がりは、きれいに出ています。

パターン3.円形カップ大 3mm(直付)

・表面の仕上がりは、一部表面が滑らかに仕上がっている。精度で見ると直付の始まり部分が少し広がっています。
・寸法精度で言うと、外側と内側の寸法は、ほぼ寸法通りの精度でプリントできました。
今回の検証の形状パターン中で一番きれいにプリントできました。
・底面と内側の角の仕上がりは、底面の角がきれいに出ています。内側部分の角もきれいに出ています。
・カップ縁の仕上がりは、とてもきれいに出ている。3mmと厚みにある形状だったので、縁の面の影響が分かりやすく滑らかに出ていました。

パターン3.四角カップ 3mm(直付)

・表面の仕上がりは、とても滑らかに仕上がっている。精度で見ると直付の始まり部分が少し広がっています。今回の検証の形状パターンの中で、一番表面がきれいにプリントできました。
・寸法精度で言うと、外側の寸法が横に0.2mmのびた。内側の寸法は、ほぼ寸法通りでプリントできました。
・底面と内側の角の仕上がりは、底面の角がきれいに出ている。内側部分の角もきれいに出ています。
・カップ縁の仕上がりは、とてもきれいに出ている。3mmと厚みにある形状だったので、縁の面の影響が分かりやすく滑らかに出ていました。

今回のプリント結果を表にまとめたものです。

カップの形状プリント方法サポート方法表面仕上がり高精細/ディテール全体の仕上がり外側寸法内側寸法底面の仕上がり内側の仕上がり縁の仕上がり
円形カップ小 1mm直付なし表面が少しザラザラ△  ふつう※直付の始まり部分が少し広がっている縦に0.4mm縮んだ0.1mm縮んだ表面と角がきれい角がきれいに出ている○  きれい
.円形カップ小 1mm手動あり/底面のみ表面が滑らか×  形状に少し歪みあり底面以外はきれいに出ている縦に0.1mm縮んだ 縦0.2mmのびて,横に0.7mm縮んだサポート材の面が変形/角が丸い角がきれいに出ている○  きれい
.円形カップ大 1mm直付なし表面が滑らか△  ふつう※直付の始まり部分が少し広がっている縦に0.3mm縮んだ 縦0.1mm縮んだ,横に0.3mmのびた角がきれいに出ている角がきれいに出ている○  きれい
円形カップ大 3mm直付なし表面が一部滑らか○  きれい※直付の始まり部分が少し広がっている外側 寸法通り内側 寸法通り角がきれいに出ている角がきれいに出ている◉  厚みがある分とてもきれい
.円形カップ大 1mm手動あり/底面のみ表面がザラザラ×  形状に歪みあり底面の変形と表面の仕上がりが目立つ縦に0.3mm縮んだ 横に0.1mmのびた,横に0.5mm縮んだサポート材の面が変形/角が丸い角がきれいに出ている○  きれい
四角カップ  3mm直付なし表面が滑らか◉ とてもきれい※直付の始まり部分が少し広がっている縦は寸法通り,横に0.2mmのびた内側 寸法通り角がきれいに出ている角がきれいに出ている◉  厚みがある分とてもきれい

検証2: カッピングはどこまで造形に影響が出るのか?

<結果>

今回比較検証した直付プリントと、手動プリントで、3Dプリントしたパターン別に結果を見ていきましよう。

パターン1.円形カップ小 1mm(直付)

・カッピングを解決せずに直付プリントしましたが、寸法が縦に縮んでしまいました。
・積層跡の影響は、外側と内側にも出ていました。
・特にカップ外側の下部分に濃い積層跡が見られました。
・カッピングにより、特に造形始まり部分に大きく圧力がかかり、圧縮により造形が歪んでしまいました。
・直付部分が圧力により潰れて広がった造形になってしまいました。

パターン1.円形カップ大 1mm(直付)

・カッピングを解決せずに直付プリントしましたが、寸法は全体的に縮んでしまいました。
・積層跡の影響は、外側と内側に薄っすら出ていました。
・カップ外側の下部分に段差の積層跡が見られました。
・造形に、縦にラインが入ってしまいました。
・カッピングにより、特に造形始まり部分に大きく圧力がかかり段差ができ、圧縮により造形も歪んでしまいました。
・直付部分が圧力により潰れて広がった造形になってしまいました。

パターン2.円形カップ小 1mm(手動)

・空気穴を開けてプリントしましたが、寸法が縦に縮み、カップの円も縦横に歪んでしまいました。
・積層跡の影響は、外側と内側に薄っすら出ていました。
・カッピングにより、圧力がかかり圧縮して造形が大きく歪んでしまいました。
・穴は塞がらずにプリントできていたが、サポート材の影響なのか穴の効果はそこまで感じられませんでした。

パターン2.円形カップ 1mm(手動)

・空気穴を開けてプリントしましたが、寸法が縦に縮み、カップの円も縦横に歪んでしまいました。
・積層跡の影響は、外側と内側に圧縮された積層跡が目立ちました。
・カッピングにより、圧力がかかり圧縮して造形が大きく歪んでしまいました。
・穴は塞がらずにプリントできていたが、サポート材の影響なのか穴の効果はそこまで感じられませんでした。

パターン3.円形カップ大 3mm(直付)

・カッピングを解決せずに直付プリントしましたが、寸法はほぼ寸法通りにプリントできました。
・積層跡の影響は、外側と内側に薄っすら出ていました。
・カップ外側の下部分に濃い積層跡が見られました。
・造形に、縦にラインが入ってしまった。特に内側部分の方が目立ちます。
・カッピングの影響は、今回の検証では一番影響がなくプリントができました。
・直付部分が圧力により潰れて広がった造形になってしまいました。

パターン3.四角カップ 3mm(直付)

・カッピングを解決せずに直付プリントしましたが、寸法が少しだけ歪んでしまいました。
・積層跡の影響は、ほとんど見られません。
・カップ外側の下部分に積層跡の段差が見られました。
・カッピングにより、特に造形始まり部分に圧力がかかり、圧縮により造形が歪んでしまいました。
・直付部分が圧力により潰れて広がった造形になってしまいました。
・円形のカップよりもカッピングの影響が少なくプリントできていました。

今回のプリント結果を表にまとめたものです。

カップの形状プリント方法サポート方法積層跡の影響(内側と外側)カップ症状の影響1カップ症状の影響2
.円形カップ小 1mm直付なし外側と内側に積層跡が出ているカップ下部分に濃い積層線があり
円形カップ小 1mm手動底面のみ外側と内側に積層跡が薄っすら出ている圧縮による形状の歪みが大きい
円形カップ大 1mm直付なし外側と内側に積層跡が薄っすら出ているカップ下部分に段差の積層線があり縦にラインが入っている
円形カップ大 3mm直付なし外側と内側に積層跡が薄っすら出ているカップ下部分に濃い積層線があり縦にラインが入っている(特に内側が目立つ)
円形カップ大 1mm手動底面のみ外側と内側に積層跡が目立つ圧縮されたような積層跡がある(内と外)圧縮による形状の歪みが大きい
四角カップ  3mm直付なし外側と内側の積層跡がほとんど見えないカップ下部分に段差あり

今回3Dプリントした6種類のカップの造形時間と材料コストの一覧表になリます。
※今回の検証の場合は、4回に分けてプリントをしています。

プリントプリントした形状パターンプリント時間レイヤー数ボリュームTotal材料コスト1個あたりのl材料コスト
1回目円形カップ大 1mm3h39m800層17.75ml1個= 334円1個=334円
2回目円形カップ小 1mm / 円形カップ大 1mm6h45m870層34.07ml2個=640円1個=320円
3回目円形カップ小 1mm1h59m600層6.18ml1個=116円1個=116円
4回目円形カップ大 3mm / 四角カップ  3mm7h20m800層102.41ml2個=1.925円1個=963円

カップの3Dプリントまとめ

カップ形状をとにかく滑らかに3Dプリンターで出す方法

カップのサイズが小さい場合
・積層ピッチ 100ミクロン
・サポート設定 直付
※カップ形状の淵の厚みが厚いほど成功しやすい

カップのサイズが大きい場合
・積層ピッチ 100ミクロン
・サポート設定 直付
※カップ形状の淵の厚みが厚いほど成功しやすい
カップの大きさに関しては、小よりも大の方がカッピングの影響が出やすい。

●側面に曲面があるカップよりも、平面部分のあるカップ形状の方がプリントが成功しやすい。

●カッピング解消の為に、造形に空気穴を開ける場合は、サポート材の付け方の影響も確認してからプリントする。

<カップ形状を3Dプリントする場合の注意点>

カップ形状を3Dプリントする場合の注意点として、今回の検証ではカッピングの影響をみる為に、あえてカッピングの症状を解決しないまま直付で3Dプリントしています。精度を求める造形の場合にカッピング現象が出ている場合には、カッピングを解消する方法でプリントをすることをお勧めします。

今回のカップ形状のパターンでの設定の方法の違いによる検証結果になりますので、
ぜひ3Dプリントの参考にして頂けたらと思います。

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