PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の特性と用途 使用量第三位を誇る高い汎用性

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)とは。代表的製品と概要

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は、ビニールや塩ビという名前で馴染み深い素材だ。プラスチック素材の中においても特に加工性に優れ、ポリエチレン(PE)ポリプロピレン(PP)ポリスチレン(PS)、などとともに五大汎用樹脂として最も多用される素材の一つでもある。

ちなみに、五大汎用樹脂には、他にABS樹脂を加える場合やポリエチレンテレフタレート(PET)を加える場合もある。とりわけビニールが軟質プラスチックの総称であるように、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は衣類やバッグ類といった柔らかい製品の素材として馴染み深い。

またその一方で硬質な製品にも使用される。硬質な製品の素材としてのPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は、強度や耐候性に優れるという特性から、看板やダクト、水道管などのパイプとして使用される。ちなみに軟質プラスチックとして使用された場合も高い耐候性と強度を持つことから、ゴルフで使用するキャディバックやボストンバッグの生地としても多用される素材だ。

このようにPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は、こうした硬軟両方の形状をとれるという点から、幅広い用途に使用され、また広く一般的に目にする素材とも言えるだろう。こうした幅広い用途の背景には、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の加工性の高さが挙げられる。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は加熱すると柔らかくなり成形することができる熱可塑性樹脂に分類されるが、対応している加工方法は多岐に渡っており、金型の代表的な加工方法でもある射出成形ブロー成形真空成形や押出成形などにも対応している。

更には、切削加工や溶接、曲げ加工といった加工方法にも対応している素材で、製品や用途に応じて柔軟に加工することができる。また、着色性に優れていることや型押しなどの表面加工にも最適な素材で、外面の印象にこだわったプロダクトの素材としても多用される。

例えば上記で述べたバッグ類などにPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が多用されるのも加工性が高いという特性からである。本日はそんな一般的に幅広く使用され、さまざまなプロダクトの素材として活躍するプラスチック素材、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)についてご紹介しよう。

ビニールハウスの素材として使用される。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の耐水性と耐候性が大いに発揮される 画像出処:Wikipedia
PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)はレコードの素材としても使われる
電気を通さない性能を持つことから電源コードのカバーにも使用される

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の歴史

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は五大汎用樹脂としてプラスチック素材のなかにおいては最も古い歴史をもつ素材の一つだ。その始まりの歴史は非常に古く1835年まで遡る。

もともとPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は、紫外線などに弱く脆いといった特性をもつ塩化ビニルの弱点を補うために開発された素材。その元になっている塩化ビニルが発見されたのが1835年で、ドイツ出身で19世紀最大の化学者とされるユストゥス・フォン・リービッヒと、フランスの化学者アンリ・ヴィクトル・ルニョーによって発見された。その後、ポリ塩化ビニルに合成する方法が開発されたのが1914年。その際には、商品化に至ることはなかったが、それから14年後の1928年に、アメリカ合衆国のグッドリッチ社によって現在の加工しやすい柔軟なPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が作り出され今日に至っている。

ちなみにグッドリッチ社はタイヤ部門は現在のミシュランに、航空宇宙部門はユナイテッド・テクノロジーズに買収されている。このようにPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の実用化が本格的に開始されたのが1928年だが、その加工性の高さと優れた機能性から世界中で商用利用され、その生産量と使用料は毎年増加し続けている。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が日本で実用化されたのも1941年と古く、当時を代表する財閥の一つでもある日本窒素肥料(現在のチッソ株式会社)によって「ニポリット」の商品名で販売が開始された。その後戦後の高度経済成長と工業化の進展によってPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の生産量は増え続け、時計のバンド、バッグ類、水道管、農業用フィルムなど、あらゆる分野の工業製品の材料として普及してきている。

その後、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の生産量は1997年のピークを迎えるまで増え続け、ダイオキシンに代表される環境問題の高まりを見せる1999年以降下降を続けている。ちなみにその生産量が減少しているとはいえ、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の生産量は、ポリエチレン(PE)ポリプロピレン(PP)についで第三位に位置づけ、年間で147万トン(2014年、塩ビ工業・環境協会参照)にも及ぶ。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の特性 長所と短所

上記で述べたようにPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)はピーク時の1997年に比べて生産量が減少し続けているとはいえ、年間147万トンもの生産量を誇り、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)に次ぐ地位を占めている。それほどの生産量を誇る最大の理由は、一重にPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の加工性の高さと高い機能性によるだろう。

また、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)を五大汎用樹脂の一つに数える要因の一つが、安価に製造することができるという点が挙げられる。一方で、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は耐候性や強度に優れるという長所をもつ反面、耐薬品性(有機溶剤など)や耐熱性に弱いという短所ももつ。

ちなみにPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は、ダイオキシンの影響や、環境ホルモンなどの影響が気にされ不買運動などにも繋がったが、問題とされたフタル酸エステルには環境ホルモン様作用が確認されなかったとの環境省の報告がある。更には、近年の企業の環境貢献意識などから、一般的な石油系プラスチックに比べて、塩素が重量比の約半分を占めていることから二酸化炭素の排出量が小さく、環境への影響力が小さいプラスチックとされる。

ただ従来の環境に対するイメージからPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)を素材として使用したがらない企業も存在する。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の長所

  • 耐候性:耐候性に優れ、紫外線など外部の環境での使用にも耐えうる。
  • 耐薬品性:耐薬品性に優れる。
  • 耐酸性・耐アルカリ性:酸やアルカリに強い。強酸には僅かに侵される。
  • 耐水性:耐水性に優れ水を通さない。
  • 難燃性:難燃性が高く燃えにくい。
  • 強度:高い強度を持つ。
  • 電気絶縁性:電気絶縁性に優れ電気を通さない。
  • 加工性:加工性に優れ硬質から軟質まで対応。型押し、エンボス加工にも最適
  • 着色性:着色性にも優れる。印刷性も高くプリントできる。
  • 価格:安価。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の短所

  • 耐熱性:耐熱性に弱く加熱すると65℃から85℃で軟化する。
  • 耐薬品性:有機溶剤などに弱く侵される。
  • 耐衝撃性:耐衝撃性は低い。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の製法と種類

五大汎用樹脂の一つとして三番目に多いPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)だが、どのように開発されたのだろうか。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の歴史の項でもご紹介したが、もともとPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は塩化ビニルをベースに開発が行われた。

塩化ビニルは硬くて脆く、紫外線などに弱く塩素原子が外れ劣化しやすいといった弱点を持つが、こうした弱点を克服し広く工業用途に使用できるようにしたものがPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)になる。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の製法は、単体の塩化ビニルモノマーを付加重合させることで合成される。

また、柔らかい繊維素材などの変わりとして使用される場合には柔らかくする成分、可塑材を加えて配合する。この可塑材はフタル酸エステルが用いられていたが、環境の影響から代替材料として熱可塑性エラストマーも用いられる。尚2003年における環境省の発表ではフタル酸エステルは環境ホルモン作用は確認されないとの報告を上げている。

ちなみに、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は基本的に塩化ビニルモノマーの重合によって作り出されるため1種類だが、可塑財の分量をコントロールすることによって硬質にも軟質にも形を変えることができる。可塑財の分量を多くすれば軟質のビニールとなり、ビニールハウスやバッグなどの繊維の代替材料として使用される。

この軟質の場合もPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の性能は基本的に変わらず、耐候性に優れ耐水性に優れた機能を発揮する。以下のPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の加工の部分で詳しくご紹介するが、ポリ塩化ビニルはこの可塑財の配合によって、形を変えありとあらゆるものに使用されているのだ。まさに五大汎用樹脂にふさわしい加工性の高さだといえよう。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の加工

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は前述した通り、さまざまな加工方法に対応している。金型を使った成形方法では射出成形や真空成形、ブロー成形、押出成形など代表的な量産加工方法全般に対応しており、更には切削や溶接などにも対応している。また、加熱して柔らかくする可塑財の配合によって硬質、軟質さまざまな形状に対応できることから溶液状にしたPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)に別の素材を浸してコーティングしたりディッピングしたりする加工方法にも対応している。一般的にプラスチックの加工方法では射出成形など加熱した樹脂を金型に注入して冷却して固形化する成形方法が多用されるが、ここではそんなポリPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)ならではの加工と代表するプロダクトをご紹介しよう。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)加工の代表。バッグでお馴染みのディッピング加工

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の特性を活かした代表的なプロダクトの一つがバッグだ。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)を材料として使用しているバッグは多岐に渡っており、その代表的なものがスーパーブランドのハンドバッグが挙げられるだろう。ちなみにバッグに塩ビ加工、PVC加工を一番はじめに取り入れたのはグッチだと言われている。

また、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)加工されたバッグは他にも存在する。ゴルフなどでお馴染みのキャディバッグや、ボストンバッグは、ゴルフ場といった外の環境で使用するという特性から、耐候性や耐水性に強いPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)加工は最適だといえよう。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)をバッグ類に使用する際の加工方法はディッピング加工というコーティング法がとられる。

バッグの素材は本来布や綿などの繊維類だが、その繊維類の上に液状になった塩ビ樹脂溶液に浸して塗布することでコーティングする手法だ。このディッピング加工と似た製法にコーティング加工という製法があるが、コーティング加工ではトラックの幌やテントなどにも使用される。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)でコーティングされた布地は前述のとおり、耐候性と耐水性が飛躍的に向上し、同時に耐久性も向上する。すなわちPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)コーティングによって外部でも長期間使用することが可能で、水や汚れ、傷などに強くなるわけだ。また、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)によるPVC加工の長所はそれだけではない。表面全体がコーティングされることによってエンボス加工などの表面加工が施すことが可能になる。

エンボス加工とは、プレス加工の一種で凸版と凹版の間に材料を入れ模様を型押ししてデザインする加工方法だ。通常一般的な布地やレザーなどにエンボス加工を施すことは難しいが、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)によってコーティングされた素材はこのエンボス加工が驚く程施しやすくなる。

バッグ類の表面加工ではこのPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のコーティング以外にポリウレタン(PU)を使ったPU加工が存在するが、この表面の型押しによるエンボス加工は、ポリウレタン(PU)のコーティングよりもPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のコーティングのほうがカタチをくっきりと出しやすい。ただ、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は環境への配慮からポリウレタン(PU)加工を選択する企業も存在する。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)で表面をコーティングされたバッグ。スーパーブランドではお馴染みの加工
革製品の耐久性や耐水性を向上。

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は建築用シートも主流。カレンダー成形と高い印刷性

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の特性である耐候性と加工性の高さ、この性能を代表するもう一つの製品が壁紙や床材などに代表される建築用のシートだ。最近の壁紙や床材といったシート類は、実にデザインが豊富でさまざまなタイプの木目調や大理石調、シルク布、メタリック調などあらゆるパターンが存在する。

こうした建築用のシートの材料に使用されているのがPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)で、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が持つ耐久性と耐水性にくわえ、高い着色性や印刷性、接着性が最大限発揮された製品だといえよう。この印刷性と接着性から実に多様な製品に使用されており、看板や新幹線、航空機といったステッカーにもPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が使用されている。

また、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)をフローリング用の材料として使用する場合、費用が比較的安価であるうえ、複雑な立体状の設計に柔軟に対応できることから利用が盛んである。またPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の特性として、柔軟で弾性に富む点から転倒時における安全性などが担保できるうえ、快適に過ごせるという特長もあげられる。

このPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のシートとしての活用は、フローリングだけではなくサインとしての利用も盛んだ。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のシートはさまざまな厚さのものを造れるだけではなくコストパフォーマンスもよいことから、商業用看板製品やマーキングといった製品に張り付けるタイプのものから、案内板などのサインでも使用される。

こうしたステッカーやシート類の製品を加工する方法がカレンダー成形で加熱したロールとロールの間に熱可塑性樹脂を流し込み何本ものロールを通すことでシート状にしていく加工方法である。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)はこのカレンダー成形にも最適なプラスチック材料だといえよう。

壁や床用の建築用シート。木目調などPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の高い印刷性が発揮される
大理石調など印刷は無限大

押出成形で作り出されるパイプやチューブ、縄跳び

以上がPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の代表的な性能である耐候性、耐水性、耐久性、印刷性、着色性などが活かされた製品であるが、これ以外にもこの性能を生かした塩ビの製品は多い。例えば、水道管などに使用されているパイプなどの素材もPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)だ。水道管などは地中に埋まり、尚且つ水を通すという役割を担っていることから耐候性や耐水性、一定の強度が求められる。

また、縄跳び、チューブなどといった外で使用する製品もPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が使用されている。こうしたパイプやチューブ類、縄跳びといった製品の加工には押出成形が用いられており、押出機と口金を用いて成形される。押出成形は基本的な構造は射出成形と似ており、ペレット状の樹脂素材をスクリューの押出機に注入しドロドロに溶けた樹脂を金型に通し成形機に入れ冷却して筒状や棒状、糸状にする。

この押出成形では硬軟両方のプラスチック製品を作り出すことが可能で、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の押出成形による製品も、パイプ類は硬く、チューブや縄跳びなどは軟らかい。

押出成形で作られる水道パイプ。PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の耐候性と耐水性が発揮される

医療機器で多用されるPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は医療用機器でも多用されるプラスチック材料である。おもにヘルスケア分野においてPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が使用される用途は、血液用の容器やチューブなので、カテーテルや人工心肺用血液などのために使用される容器で、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が持つ透明性、軽量性、柔軟性、引裂強度、殺菌および生体適合性などに由来する。ちなみに、このヘルスケア分野でのPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の年間消費量は欧州を一例にとると、毎年85000トンにも及ぶとされている。

このようにPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は硬軟両方の形状に対応しつつコーティングとして用いられることでそのほかの素材の可能性を拡大する能力を持っている。またここでご紹介した以外にも一般的な射出成形やその他の金型を使った成形によって作り出される硬いパーツ類の材料としても使用される素材だ。まさに五大汎用樹脂の一つとして高い加工の柔軟さが見て取れるだろう。

3DプリンターとPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)を使った3Dプリンターは既に登場している。このPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の3Dプリンターは、シート積層法(LOM)といわれる積層技術によるもので、一般的な熱溶解積層法(FDM)や、光造形法などとは異なる仕組みである。また、最近では、熱溶解積層法(FDM)用のフィラメント材料としてもPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のフィラメント材料が登場している。ここでは、ラミネート積層法(LOM)によるPVC専用の3Dプリンターと、熱溶解積層法(FDM)によるフィラメント材料についてご紹介しよう。

シート積層法(ラミネート積層LOM)のPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)専用3Dプリンター

まず初めにご紹介するのが、シート積層法、別名ラミネート積層法(LOM)といわれる3Dプリント技術を使った3Dプリンターである。この3DプリンターはイスラエルのメーカーSolido社が開発したSD300Proというモデルで、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)を薄いプラスチックシート状にした独自材料を使い、カッティングしながら積層・接着するという造形方法を採用している。

3Dプリントというと、一般的に糸状のプラスチック材料を溶かして積層する熱溶解積層法(FDM)や、液体状の紫外線硬化性樹脂を使い、紫外線を照射して硬化させる光造形法が一般的であるが、このシート積層法も、プロトタイプを作製するための3Dプリンターとして知られる存在である。

シート積層法は、その名前の通り、シート状の素材、おもに極薄状のPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のシートを使い、何枚も接着剤で貼り合わせて積層し、その語カッティングして物体にする技術である。プラスチック材料以外には、紙や金属(金属の場合は超音波を使って接合)シートを使用するタイプも存在する。

このシート積層法の特長は高い強度と耐久性を持つパーツ製造が可能で、大きい物体も作ることができる。しかもわずか薄さ0.168mmの高精細で積層が可能だ。一般的な3Dプリント技術とは違い、物体の化学反応を必要としない(すなわち、熱溶解積層法は加熱して溶かして形にし、光造形法は加熱して液体から個体にするなど)ため、比較的大きな物体も短時間で造形することができる。材料となるPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の薄シートは5色のラインナップを備え、透明に近いアンバー、クリーム、ブルー、レッド、ブラックの5色が利用可能だ。

このSolido SD300 Pro 3Dプリンターでは、造形されたパーツがPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の持つ高い接着性、印刷性を持ちパーツの塗装や、研磨、接着など後加工に最適な機能を誇る。このSolido SD300 Pro 3Dプリンターは日本でも販売代理店があり1台あたり百数十万円程度で購入することができる。

Solido SD300 Pro 3Dプリンター動画

薄いPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のシートを材料にした3DプリンターSolido SD300 Pro
0.168mmの積層ピッチで高性能なプロトタイプが作れる

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)シートの3DプリンターSolido SD300 Proスペック

  • 造形技術:プラスチックシート積層
  • 材料:ポリ塩化ビニルPVCシート
  • 材料カラー:透明(アンバー)、レッド、ブルー、クリーム、ブラック
  • 精度(XY):0.1mm
  • 積層:0.168mm
  • 最大造形サイズ:160mm(X)×210mm(Y)×135㎜(H)
  • プリンターサイズ:465mm×210mm×135mm
  • 重量:45kg(内9kgがカートリッジトロール)
  • 消費電力:620W (最大)100-120 / 200-240VAC、50/60ヘルツ
  • 動作温度:18℃~35℃
  • サウンドレベル:65デジベル(最大)
  • 最大周囲湿度:80%
  • ファイル形式:STL
  • 外部接続:USB

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の3Dプリンター用フィラメント材料

一方、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の3Dプリンターでの利用は熱溶解積層法(FDM)のフィラメント材料としても開発が進んでいる。熱溶解積層法(FDM)は、ストラタシスが開発した3Dプリント技術で、熱可塑性樹脂を糸状(フィラメントといわれる)状態にした材料を熱で溶かし、ノズルから押し出して積層し自然冷却で固め物体にする技術。

いわゆる、3Dプリンタ―の名前を世に知らしめた中心技術であり、特許失効により様々な技術が登場してきている。この熱溶解積層法(FDM)の材料は、ABSフィラメントPLAフィラメントが中心であったが、熱可塑性樹脂という点から、現在さまざまなプラスチック材料が登場してきている。

開発されたPVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)のフィラメント材料は、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の専門メーカーChemson Pacific社が開発したもの。Chemson社のオーストラリア支社が独自に開発したもので、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の持つ、優れた耐久性や耐候性がオンデマンド製造に活かされることになる。熱溶解積層法(FDM)3Dプリンターでは、熱可塑性樹脂をノズルから押し出して積層するというその製法から、プラスチック素材が持つ熱収縮によって、反りなどの不具合が出やすい点がある。

特に安価な3Dプリンターでは、その症状が出やすく、安定したプリントを実現するにはフィラメント材料やノズルの改良が望ましい。この3Dプリンター用フィラメント3DVinylは、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)が持つ優れた耐久性や耐候性などに加え、3Dプリントに最適な安定性や反りの防止などを実現している。

まとめ 性能と加工性の良さで工業用からコンシューマプロダクトまで

PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)の最大の特長は優れた加工性と、耐候性、耐水性、強度といった物性にある。加工性では金型成形から切削加工、更にはエンボスや印刷、接着などあらゆる加工方法と相性がいい。また機能性では耐候性と耐水性、耐久性という観点から外の環境で使用したり長期間使用する製品に最適なプラスチック素材だといえる。

こうした二つの側面からパイプやビニールハウスといった工業用から、スーパーブランドのバッグや財布といったコンシューマプロダクトまで幅広い用途での使用を可能にしている。また、PVC(ポリ塩化ビニル、塩ビ)は進化し医療用のパッケージやチューブなどにも利用が拡大し、その優れた特性がさまざまな分野で活かされて始めている。

更に、3Dプリンター用フィラメント材料などにも徐々に利用が始まり、その加工性の良さと、優れた性能により、ますます用途を拡大してきている。まさに五大汎用樹脂の名にふさわしく、使いやすく硬軟さまざまな形態、製品に対応した汎用素材だといえよう。

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