ポリエチレンテレフタレート(PET)の特性と用途 ペットボトルからフリースまで

ポリエチレンテレフタレート(PET)とは 概要と代表的製品

いろいろな種類の分子と分子を配合して、分子の種類や配合率などによってさまざまな特性を発揮するのがプラスチックの醍醐味だ。家電製品の筐体で多様されるABS樹脂や、植物由来のPLA樹脂。衣服などにも使用され耐久性の高いナイロンポリアミド、光の透過率が高く尚且つ強靭で水族館の巨大水槽にも使用されるアクリル。iPhone5にも使用され美しい仕上がりが期待できるポリカーボネートなど、幅広い用途で使用されているポリプロピレンまで、外観、機械的特性など素材としての特性を知り、プロダクトにあった選択を行うことでものづくりの幅が大きく広がることになる。

そんなプラスチック素材の中においても、私たちの日常で最も多く使用されているプラスチック素材が本日ご紹介するポリエチレンテレフタレート、通称PETだろう。その名前のとおり、コンビニやスーパー、自動販売機などあらゆる場所で売られているペットボトルに使用される素材だ。

ペットボトルの名前自体もこのポリエチレンテレフタレート(PET)に由来するという。あまりに日常的すぎてその違いを意識している人はほとんどいないが、このポリエチレンテレフタレート(PET)によって作られるペットボトルにはさまざまな形状が存在しており、その形状は中身の飲み物の種類によって実は使い分けがされているのだ。

このペットボトルの元素材とも言えるポリエチレンテレフタレート(PET)は、後に詳しく述べるが射出成形とブロー成形という二つプラスチック加工によってペットボトルへと加工される素材。また最近では新たなプラスチックの製法にもなりつつある3Dプリンターでも利用が開始している。

また、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、冬の季節におなじみに服、フリースにも使用される素材だ。ペットボトルからくるイメージとはかけ離れている素材だが、実はポリエチレンテレフタレート(PET)はポリエステルの一種類とされており、フリース用の素材としておなじみになっている。ポリエステルについは、「ポリエステルの加工と用途」で詳しくご紹介しているが、ポリエステルはあらゆる種類が存在し、ポリエチレンテレフタレート(PET)はその一形態である。また、合成繊維としてのポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)を糸状に押し出したものだ。

それでは本日は我々の日常で最もありふれた素材、ポリエチレンテレフタレート(PET)の機械的特性と用途、加工方法をその具体的な製品がご紹介しよう。

ポリエチレンテレフタレート(PET)の代表的な製品ペットボトル。ペットボトルの語源でもある

ポリエチレンテレフタレート(PET)の歴史

ポリエチレンテレフタレート(PET)が開発されたのは古く、1941年、イギリスのキャリコプリンターズ社が発表、1953年にはアメリカのデュポン社が特許を取得した。商標としては国によって違いがあり、アメリカではデュポンの商標としては「ダクロン」、日本では東レと帝人が共同で商標を持っており「テトロン」と呼ばれている。イギリスでは上記の発表を行った会社キャリコプリンターズ社から「テレリン」の商標になっている。

ポリエチレンテレフタレート(PET)が開発され、デュポン社によって工業化が進められたのが1953年だが、実際にペットボトルとして本格的に工業生産が開始されたのは1967年。ちなみにこのペットボトルの開発もデュポン社によるものだ。

日本でペットボトルの生産が始まったのは、実はキッコーマンの醤油の容器が最初でそれが1977年。本格的に飲料用としてのポリエチレンテレフタレート(PET)の使用は1982年で、その一年後、1983年にコカ・コーラによって全国展開が行われ多くの人に使用されることとなった。それまで多くの飲料水の容器はガラス瓶によるものが主流であったが、ポリエチレンテレフタレート(PET)とペットボトルの登場によって、一躍その座を奪われることとなった。

以来、再利用化の促進なども含め、ポリエチレンテレフタレート(PET)はポリエステルの中でも最も多く使用されるプラスチック素材としての地位を確立。その略称であるPETのリサイクルマークは1である。ちなみにポリエチレンテレフタレート(PET)のペットボトルでの使用は当初は1リットル以上の大型の飲料水向けであったが、500ミリリットル、さらにそれ以下のペットボトルにも使用され、飲み物の種類によってもさまざまな形状が登場している。

ポリエチレンテレフタレート(PET)はまさにペットボトルとともにその使用が拡大し、世界中で最も使用される素材になっている。

ポリエチレンテレフタレート(PET)の特性 長所と短所

ポリエチレンテレフタレート(PET)が使用されているものは、ペットボトルを中心に食品用の容器や、合成繊維としてフリースなどに使用されている。こうした点からある程度の耐熱性や耐寒性、強度に優れ、透明度が高いといった特性を持っている。また強靭で耐薬品性に高い。ちなみに衣料用繊維のほぼ半分以上の素材がポリエチレンテレフタレート(PET)が使用されており、こうしたことから着色時などに影響を与える染色性にも優れるといった特性を持っている。

下記にその強みと弱みをまとめたので、ご参照いただければと思う。ただ、耐熱性や耐薬品性などは加工される対象物によって異なる為、その点も明記する。

ポリエチレンテレフタレート(PET)の長所

  • 耐熱性:フィルムなどで使用する場合は200℃近くまで耐熱温度を持つ。
  • 耐寒性:-60℃ほどまで耐寒性を持つ。
  • 透明性:ペットボトルでも使用されるとおり、透明性に優れる。
  • 耐薬品性:無延伸フィルムなどで使用する場合は耐薬品性に優れる。
  • 耐水性:耐水性に優れ水を通さない。
  • 電気絶縁性が良い。
  • 燃やしても有毒ガスを出さない。

ポリエチレンテレフタレート(PET)の短所

  • 耐熱性:低い。ただしペットボトルで使用する場合は、通常の耐熱温度は50℃で耐熱性は高くはない。耐熱ボトルでも80℃ほど。
  • 耐薬品性:ペットボトルで使用する場合いは、耐薬品性、耐有機溶剤性は低く、アルコール濃度は20%が限度。
  • 耐酸性:非常に低い。
  • 透過性:若干の気体透過性がある。長期間保存の場合には内容物の酸化の可能性がある。ペットボトルで使用する場合には、内面をコーティングしたボトルも多い。
  • エンジニアリングプラスチックとして使用する場合は単体では脆い。ガラス繊維などで補強が必要

ポリエチレンテレフタレート(PET)の製法

ポリエチレンテレフタレート(PET)は、先にも述べたとおりポリエステルの一種類の素材で、テレフタル酸とエチレングリコールという分子から生成されるプラスチック素材。エチレングリコールは他のポリエステルの原料としても使用される。ペットボトルや衣類の原料としてポリエチレンテレフタレート(PET)が主力原料となることから、必然的にテレフタル酸とエチレングリコールという素材も最も消費量が高く、生産量が多い分子だ。

テレフタル酸とエチレングリコールの重合は、芳香をもつ化合物の共通構造である芳香環を有し、同時に分子鎖が直線状態になりやすいため、結晶部分を作りやすい。こうしたことからもリサイクルが比較的しやすくペットボトルをリサイクルして繊維として衣類に使用するケースも普及している。

ポリエチレンテレフタレート(PET)は最もリサイクルが普及しているプラスチック素材

ポリエチレンテレフタレート(PET)の加工と用途

ポリエチレンテレフタレート(PET)の加工方法は、当たり前の話ながら作る製品によって異なる。主に使用される製品はペットボトルを始め、写真用フィルム、カセットテープ、たまごパックなどの透明な包装容器、フリースなどの衣料用繊維などだが、基本的に繊維素材以外では主に射出成形やブロー成形といった金型主体の加工方法が主体となる。

とりわけポリエチレンテレフタレート(PET)の代表とも言える製品であるペットボトルは、この二つの加工方法を経て最終製品になり、製品の種類も様々だ。また、最近では3Dプリント技術の発展とともに、3Dプリンターで使用できるプラスチック材料も種類が拡大してきていることから、ポリエチレンテレフタレート(PET)の3Dプリント材料も登場してきている。

3Dプリント材料はその用途と製法について後述するとして、まずここでは、ペットボトルを例にとってポリエチレンテレフタレート(PET)の加工方法をご紹介しよう。ペットボトルの加工方法については、「ブロー成形の特徴と使用例 ペットボトルからガソリンタンクまで」という記事で詳しく述べたが、あえて重複を恐れずにご紹介しよう。

ペットボトルは射出成形とブロー成形二つの工程が必要

ポリエチレンテレフタレート(PET)が名前の由来にもなったペットボトル。ある意味最も日常的で最も身近なプラスチックの製品だといえるだろう。そのペットボトルだが、基本的には二つの異なるプラスチック加工を経て、我々に馴染みの形状になる。詳しい説明の前に簡単にペットボトルが作られる仕組みをご紹介すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)試験管状のプリフォームと呼ばれる容器を加熱し、空気で膨らませて容器にするという仕組み。

プリフォームという試験管状の容器をプラスチック加工の王様とも言える射出成形で作り、その後、空気を膨らませて加工するブロー成形という方法でペットボトルの形にする。現在、日本で流通しているペットボトルは、280mlから350ml、500ml、900ml、1L、1.5L、1.8L、2L、2.7L、4Lといった豊富な種類があるが、全てこの射出成形とブロー成形の2段階の工程を経て生産される。

全てのサイズのペットボトルが射出成形によってプリフォームから形作るが、試験管状の形状をした金型に高圧力で、ポリエチレンテレフタレート(PET)を注入、その後冷却し固まった状態のものを用意する。射出成形の仕組みと特徴については「射出成形の特徴 高品質で量産性の高いプラスチック成形の王様」をご参照いただければと思う。その後ブロー成形の工程に移るが、用意されたプリフォームを100℃まで加熱して加工できる状態にする。

その後、ペットボトル用の金型で挟み込み固定、この金型は、ペットボトルのサイズ、種類(のちに後述)によって形状を異なるものを使用する。その後延伸棒を金型に固定したプリフォームに入れ縦に引き伸ばす。さらにそこから高圧力の空気をプリフォームに注入し熱で変形できるプリフォームを金型のサイズまで膨らませるという工程をとる。その後冷却し固めて完成という工程だ。

射出成形でプリフォームを用意する
その後熱したプリフォームを金型に入れ高圧力のブロー成形へと進む

さまざまな機能を発揮する4種類のペットボトル

ちなみに、ペットボトルの種類は大きく分類して4種類のペットボトルが存在する。先にもポリエチレンテレフタレート(PET)の特性のところでもご紹介したが、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、通常の薄いペットボトル状にすると耐熱性が低い。しかし、飲料水によっては緑茶やウーロン茶、果汁飲料など高温で殺菌処理され、ペットボトルにそのまま注入される飲み物もある。

高温の飲料水にもポリエチレンテレフタレート(PET)のペットボトル容器が耐えうるように、耐熱処理されたペットボトルも存在する。また、炭酸飲料のように炭酸にするために炭酸ガスを注入するが、その際の圧力に耐えうる加工をほどこされたペットボトルもあるのだ。4種類は以下のとおりになる。

耐圧ボトル:炭酸飲料(果汁なし)

炭酸飲料などを対象にしたペットボトル。炭酸ガスの圧力でペットボトルの形状が耐えられるように容器の壁面を厚くして強度を高めている。また、底部が炭酸の内圧で変形するのを防ぐ為に、ペタロイド形状にしてある。

耐熱圧ボトル:炭酸飲料(果汁あり)

上記の炭酸飲料を対象にした耐圧ボトルの機能に加え、高温にも耐えられるように強化されたペットボトル。主に果汁や乳成分を含む炭酸飲料を対象にしている。果汁や乳成分を含む飲み物は85℃にも及ぶ高温処理された状態でボトル無いに注入されるため炭酸の耐圧性と、高温処理の耐熱性を併せ持つペットボトルだ。

耐熱ボトル:緑茶・烏龍茶・果汁飲料

上記で述べたとおり、緑茶やウーロン茶、果汁飲料といった高温処理が必要とされる飲料水を入れるボトル。こうした高温処理される飲料はペットボトルに充填される際、85℃近い高温で注入されるため、通常のペットボトルとは違い、高温処理が必要。高温による容器の変形を防ぐため、容器の側面には減圧吸収パネルがついていたり、飲み口の口部が変形しないよう、高熱でポリエチレンテレフタレート(PET)が結晶化され硬度が高められているものを使用する。

非耐熱ボトル:ミルク入りの乳飲料

最後にミルク入りの乳飲料を充填するためのボトルは非耐熱ボトルが使用される。お茶や果汁飲料は、高温で容器そのものも殺菌状態にして充填する必要があるが、ミルク入りの乳飲料はあらかじめ殺菌処理をしたあと無菌状態の容器に常温で充填することから、非耐熱ボトルを使用する。基本的に非耐熱ボトルはペットボトル自体も無菌状態にされることなどから、材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)は耐熱ボトルと分けられている。

衣類の半分を占める素材ポリエチレンテレフタレート(PET)の合成繊維

上記でのべたのがポリエチレンテレフタレート(PET)が主な材料であるペットボトルの加工方法である。ポリエチレンテレフタレート(PET)はリサイクル性が高い製品であることから、リサイクルを想定して、ペットボトルに使用される容器はほぼ全てが透明の容器が使用される。

リサイクルされたポリエチレンテレフタレート(PET)は繊維素材として使用されることが多く、その最も代表的な繊維素材がフリースである。フリースは冬ではお馴染みの繊維素材で、もともと1979年にモールデンミルズ社によって開発されたもの。その最大の特長は、「軽量」であるにも関わらず「保湿性が高く」肌触りが柔らかいということが挙げられる。また、「速乾性」に優れリサイクルであることから安価だ。

最近では難燃性を考慮してアラミド繊維を使用される場合も多いが、衣類の半分以上の素材がポリエチレンテレフタレート(PET)だ。ちなみにポリエチレンテレフタレート(PET)を糸状にする溶融糸法紡績の過程において、抗菌素材を混ぜ合わせることで、吸収速乾性に抗菌性を付与した合成繊維にすることが可能だ。

冬の衣類の定番フリースの素材として代表のポリエチレンテレフタレート(PET)

3Dプリンターの材料としてのポリエチレンテレフタレート(PETG)

上記でご紹介したように、ポリエチレンテレフタレート(PET)の加工は金型による射出成型やブロー成型、紡糸加工が主流だが、最近になって3Dプリント技術に対応する動きが登場している。3Dプリンター用のポリエチレンテレフタレートはPETの改良版であるPETGが主流だ。

FDM技術は、今から20年以上前にストラタシスが開発した製造技術で、フィラメント状(糸状)にしたプラスチック素材を熱で溶かして積み上げ物体を生成する製法。3Dプリンター用PETGフィラメントは各社フィラメントメーカーが販売を行っているが、おススメなのがPolyMaker社のPolyLIte PETGとPolyMax PETGだ。

3DプリンターのPETGフィラメントの最大の特長は、ABSフィラメントPLAフィラメントのいいところがあわさった性能といっても過言ではない。ABSフィラメントは耐久性にすぐれる反面、反りなどの不具合が起きやすい。その一方で、PLAフィラメントは強度は低いが、プリント安定性が高く、大きな造形モデルも安定して造ることができる。

PolyMkaerの2種類のPETGフィラメントは、強度と物性に優れ、更に優れたプリント安定性を持っている。また、価格帯もPLAやABSに近い価格で購入することができ、コストパフォーマンスに優れた材料と言える。

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現在FDM 3Dプリンターの材料はABSフィラメントやPLAフィラメントを中心にポリカーボネートナイロン、更にはゴム(エラストマー)フィラメントまで、さまざまなプラスチック素材が登場してきている。

PETGフィラメントについては「3DプリンターのPETGフィラメント完全ガイド」で詳しい特長やおススメフィラメントなどもご紹介していますので是非ご参照ください。

ポリエチレンテレフタレート(PET)をガラス繊維で強化、エンプラとしての使用

ポリエチレンテレフタレート(PET)はこれまでご紹介してきたようにペットボトルや食品用トレイ、フリースなどに代表される繊維素材、さらにはフィルム関連などが主流だが、一部、エンジニアリングプラスチックとしても使用される。エンジニアリングプラスチックとはプラスチック素材の中においても、強度に優れ耐熱性などが高いプラスチックのこと。通称略して「エンプラ」と呼ばれており、自動車や電子機器関連のパーツとして使用されることが多い。

いわばプラスチック素材の中でも一際機械的特性が高い部類の素材だが、汎用的に使用されているものとして、ナイロンポリアミドやポリカーボネートなどが代表的だ。こうした高度な機械的特性が要求されるエンジニアリングプラスチックだが、ポリエチレンテレフタレート(PET)もガラス繊維と融合されることで汎用エンジニアリングプラスチックとして使用されている。

ガラス繊維とはガラスを溶解して繊維状にした素材で、繊維強化プラスチックの代表的な素材。このポリエチレンテレフタレート(PET)のエンプラも、プラスチック単体では達成することができない高強度、高靭性を達成するために、ガラス繊維と混ぜ合わせることで、高度な機械的特性を発揮することが可能になる。

ガラス繊維で強化された繊維強化プラスチックの特長として、プラスチックの軽量さを持ちながら同時に高強度な性能を持つことが可能になる。ポリエチレンテレフタレート(PET)も単体では脆いが、ガラス繊維で強化することで、自動車用パーツや電子機器、家電製品のパーツとして使用することが可能になるのだ。

まとめ 加工性と汎用性が高い素材

ポリエチレンテレフタレート(PET)はこれまで述べてきたとおり、プラスチック素材の中において、最も使用量が多い素材の一つといえよう。ペットボトルとしていたるところに存在するだけではなく、同時に再利用された衣類の繊維素材として半分以上の割合で使用されている。また、ガラス繊維との融合によって強化されたポリエチレンテレフタレート(PET)は、エンジニアリングプラスチックの中においても汎用性が高い素材でもある。

さらには最新の製造技術でもある3Dプリント技術で材料として使用できることにより、食器類関連の製品開発のプロトタイプにも最適な特性を発揮する。このようにポリエチレンテレフタレート(PET)は、その加工のしやすさや汎用性の高さから、幅広い用途でものづくりに使用される素材だといえよう。

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