3Dプリンターが日本のモノづくりに与える影響と本当の使い道とは

2013年度は世界的に3Dプリンターが注目され、日本においても急速にブームとなり、3Dプリンターを利用した数々のサービスが出現した年になった。

そのブームとなった要因はアメリカのオバマ大統領の3Dプリンターに関する政策発表であったり、ロングテール概念の提唱者であるクリス・アンダーソンの著書『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』の影響力など、国策やメディアの発表が一斉に火をつけていること、あるいは3Dプリンター自体の精度が高まり製造業の加工現場以外の使用が広まることにより一般的な認知度が向上していることがあげられる。

3Dプリンターブームは一時のピークに比べ落ち着きを見せているが、同時にいたるところでメーカー、製造業に対する注目を集め、3Dプリンターとモノづくりに関する議論が活発化しているように見える。

本サイトでも海外の3Dプリンターの導入例などを紹介していきたが、ここで微力ながら、3Dプリンターの現状と外観をもとに、本当の使い道、日本のモノづくりに対する影響力を考察してみたい。

そもそも3Dプリンターとは

現状のブームがあれど、そもそも3Dプリンターとは何ぞやという疑問を持つ方も多いのではないだろうか。

大前提として3Dプリンターの簡単な概要を説明すると、物体(樹脂や金属といった)を一定の層で何度も何度も積層することで形づくる機器のことを指す。

欧米ではこの積層方法からアディティブマニュファクチャリング、添加剤製造と呼ぶことが一般的だ。

使い方は非常にざっくり言ってしまうと、設計図である3DCADデータを3Dプリンターに送ることによって物体が製造されるというもの。ふつうのプリンターはワードやパワーポイント、PDF、イラストレターなど、二次元のものを出力するがそれの三次元版になる。

3Dプリンターのもともとの用途

次に3Dプリンターの特徴だが、どんな特徴があるのだろうか。そもそも3Dプリンター自体は1980年代から使用されてきた経緯がある。もともとの使用目的は試作品、模型の製造が主であった。

通常、企業が製品を生産する前には、製品企画を考え、その企画に基づいてデザインし、生産するという流れを取るが、デザインした段階で検証を行い製品の精度を高める必要がある。

従来はデザインから試作品を作り出す工程は外注していたが、3Dプリンターがあることで自社でスピーディに試作品を作り、デザインの検証が行うことができるというメリットがあった。

もともとは試作品の検証であったため、素材も樹脂や石膏と限定されており、造形精度もはるかに低かったと言える。

3Dプリンターの技術向上と使用拡大

もともとは試作品の造形で使用されていたが、3Dプリント技術が進化し素材が多様化することによって、試作品の製造以外でも使用用途が広がったことが言える。

また、3Dプリンターの製法の一つであるFDM方式(樹脂を熱で溶かして細いノズルから射出し、何層にも積み上げて物体を作る方法)の特許が切れたことにより、比較的安価で3Dプリンター自体が製造できるようになり、従来の製造現場以外での普及が進んだ。

1台数百万円から1千万円程度した機器が1台数十万円程度で販売されることになったため、小規模なデザイン事務所や個人デザイナー、アートやモノづくりに関心のある個人、発明好きの個人などでも3Dプリンターを購入することができ一気に普及した。一方素材の多様化や精度の向上は製造現場での導入を加速し、従来とは異なる製造プロセスを作り出している。

ジェットエンジンに使用される燃料ノズルなどは、従来は20種類近いパーツを機械加工で製造し組み立てる製造方法であったが、高性能な3Dプリンターで丸ごと1ユニット製造することができるようになっている。

そのため、20種類近いパーツを製造し、組み立てるための人員やコスト、時間が削減できるようになった。同時に3Dプリンターで作った燃料ノズルの方が軽量で耐久性に優れている。

さらに製造業におけるパーツ製造だけではなく大量生産用の金型自体を製造するという取組も行われている。ドイツのメーカーは簡易的な鋳造用の砂型を高性能3Dプリンターで製造し、砂型を作るためのコストと時間を大幅に圧縮している。

3Dプリンターの特徴とは?そのメリット・デメリットは

現在の3Dプリンターはどのような特徴があるのであろうか。第一に、3Dプリンターで製造した場合、積層精度や物体の形状によって異なるが、大体1cm程度を積層するのに最低1時間はかかる。

そのためある程度のヴォリュームのある試作モデルなどを製造するのにも10時間から24時間かかるときもある。また、使用する素材の価格が現状では高く、生産ロットにもよるが量産化のために使用する機器ではないとえる。

よく最近では金型生産と比べて論じられることが多いが、安価で迅速に大量生産できる金型製法と3Dプリンターを同列で比較すること自体ナンセンスだ。

3Dプリンターは航空宇宙産業や自動車、医療分野などで使用されているが、金型生産に取ってかわるというような使用方法はされていない。

製造業での使用実績は、あくまでも全体の製造プロセスの中におけるパーツ製造や、量産化する必要のないスペアパーツ、修理品での使用で、金型や人の手によって生産するまでもない部品の製造に使用されている。

医療分野の使用でもインプラントや補聴器など、個人個人の身体にあったカスタマイズ生産が必要であることから、3Dプリンターが使用されている。

3Dプリンターのタイプ別

非常におおざっぱなまとめ方で恐縮だが、3Dプリンターのタイプを3種類に分類すると下記のようになる。

3Dプリンターは安価なデスクトップタイプから高性能のハイエンド製品まで幅広く存在する。またその製法と精度、素材も多種にわたっているため一概に分類できないが、あくまでも使用用途の目安としてまとめてみた。

1.ハイエンドモデル

  • 価格帯:約1,000万円
  • 素材:金属、産業用熱可塑性プラスチックなど
  • 使用用途:パーツ製造、金型製造、高性能試作品
  • 造形精度:高 数μmから可能
  • ターゲット:製造工場

2. 中級モデル

  • 価格帯:約100万円~
  • 素材:産業用熱可塑性プラスチックなど
  • 使用用途:高性能試作品
  • 造形精度:中 数十μm
  • ターゲット:製造工場

3. デスクトップモデル

  • 価格帯:約10万円~30万円
  • 素材:ABSフィラメントPLAフィラメントなど
  • 使用用途:簡易試作モデル
  • 造形精度:低 数百μm
  • ターゲット:デザイン事務所、個人

大まかに高性能レベル、中レベル、デスクトップタイプと分類しているが、製造プロセスにおいてパーツ製造ができる3Dプリンターは高精度なモデルに分類されると思われる。

中レベルの3Dプリンターは高性能な試作品製造に使用されることが多い。一方安価なデスクトップタイプは大まかな形状を確認する簡易試作品の製造や個人の趣味で使用されるレベルだ。

実際、製造業で使用され注目されている3Dプリンターはほとんどが高性能レベル・中レベルのモデルで、デスクトップタイプが普及しているのはデザイン事務所や個人の趣味、あるいは学校などである。

製造業における3Dプリンターのメリット コスト圧縮と品質向上

実際に高性能モデルの3Dプリンターはどのように使用されているのであろうか。

過去の記事でも紹介をしているが、第一のメリットはコストカットである。

添加剤製造、すなわち3Dプリンターの製造現場での使用で20年の実績のあるGEはジェットエンジンのパーツ製造で3Dプリンターを使用している。ジェットエンジンには様々な部品を組み合わせて一つの巨大なジェットエンジンを作るが、GEはサポート剤であるジェットエンジンブラケットや燃料ノズルの製造に3Dプリンターを使用し始めている。

ただし、全生産数は85000ユニットにも及ぶため現段階では試験的な導入であるが、将来的には全数を3Dプリンターで製造する計画を立てている。

しかしなぜ大量生産には向かない3Dプリンターでパーツ類を製造するのであろうか?それは圧倒的なコストカットにあると発表している。この場合のコストとは、原材料費、人件費、時間、エネルギーがあげられる。

例えば、燃料ノズル一つ製造する場合には従来の方法で行った場合、20種類近い個別パーツを機械加工で作り、その後アッセンブルして一つの燃料ノズルを作るという方法をとっている。

それには20種類のパーツを製造するために①原材料の消費量、②パーツ設計、③製造ラインの確保、④人員の確保、⑤リードタイム、⑥組み立て時の検証、⑦製造にかかるエネルギーコスト、といった様々なコストが発生していた。

しかし3Dプリンターで製造する場合には、全ての部分において圧倒的にコストを削減することができる。こうした様々な製造コストを削減することで、そのコストを他の部分、新製品開発や技術研究などに振り向けることが可能になるためだ。

第二のメリットとして挙げられるのが品質向上である。

従来の製造方法ではなく、3Dプリンターを使って部品を製造した場合には耐久性が向上しパーツ重量が軽くなるというメリットがある。

それは複数の部品を組み合わせて一つの部品にしている場合、一つの部品の劣化がそのパーツ自体の劣化につながる。こうした心配が3Dプリンターで初めから一つのパーツとして造形すればなくなる。また、部品と部品を組み合わせる接合部分の劣化という心配もなくなる。

航空宇宙産業や自動車業ではこの使用方法と研究が盛んにおこなわれており、エアバスのパーツ製造を3Dプリンターに切り替える場合は、コスト削減と品質向上に関する9つの基準を設定し、十分に検証を行って、9つの基準全てにおいて従来の製造方法よりも優れていることを証明したうえで3Dプリンターによる製造がおこなわれるという。

上記はあくまでも一例だが、3Dプリンターの使用方法は製造プロセスの中において限定している。簡単にメリット・デメリットをまとめると

メリット

  • 3Dプリンターによる製造はコスト削減と品質向上につながる。
  • 特定パーツに限り3Dプリンターで製造を行っている。
  • ただし、3Dプリンターに切り替えるには、あらゆる角度からの分析と検証を行っている。
  • コスト削減、品質向上の二つの点で従来からの製造方法を上回っている必要がある。

デメリット

  • 3Dプリンターを導入するのにかなりの設備投資がかかる。
  • 高性能3Dプリンターが一定数必要。
  • その分数千万円から数億の投資が必要
  • 3Dプリントのオペレーター人材の確保・教育が必要
  • スペースの確保

日本のモノづくり全体に対する影響

それでは現在の日本の製造業やモノづくりにとって今後3Dプリンターはどのように利用できるのであろうか。日本の製造業においても3Dプリンターは既に利用されてきている実績がある。

産業における3Dプリンターの導入比率も9.7%と比較的高く、比較的導入は進んでいるが、その使用例はほとんどが試作品の製造だ。

従来の試作品製造は簡易的な試作品製造であったが、3Dプリンター自体の精度や素材が多様化することにより、試作品で製造できる分野も拡大している。

試作品の製造と金型使用への可能性

今年の8月にパナソニックがデジタル家電開発の試作品製造に3Dプリンターの導入を決定している。

従来の小型デジタル家電の試作品は手作業で樹脂や金属を加工し、試作に数週間の期間がかかっていたが、3Dプリンターで試作品を製造する場合には数時間から1日程度の短時間で製造することができるという。

パナソニックのような家電メーカーは試作品製造に費やす時間が多く、開発にあたって数十点から数百点の試作品を製造するという。こうした点から3Dプリンターの導入は圧倒的なコストカットとリードタイムの短縮につなげることができる。

パナソニックの導入例は本の一例であるが、パーツ自体の製造を行い従来の工程で作るよりもコストカットの削減と品質向上に結び付けられる可能性がある。また金型製造に関して現状導入されている例は知りうる範囲ではない。

金型製造は造形するプロセスが何段階にも分かれており、金型の精度が大量生産品にそく結び付けられるため、職人としての能力が問われる部分だ。日本製品の精密さや精工さは金型職人のレベルの高さによるところも多く、すぐに3Dプリンターで金型を製造することにはなかなか結びつきにくいと考えられる。

今後の日本の製造業に対する3Dプリンターの影響を考えた場合、いくらブームになったからと言ってすぐに製造の現場に導入され製造プロセスの一部が変わるという可能性は低いのではなかろうか。

少なくとも、試作品の製造であれ、パーツ製造であれ、金型製造であれ、3Dプリンターを導入するためには、従来品との十分な比較検証を行い、コストカットと品質向上という二つの部分が証明される必要がある。

また、製造プロセスに導入されうるハイエンドな3Dプリンターは価格も高く、原材料費も高いため、導入は慎重に行うべきだろう。

ただし、3Dプリント技術の研究開発は諸国が取組、急速に製造プロセスに組み込み産業構造を変化させようという動きもあるため、まだ導入していない企業も積極的に3Dプリンターをとらえ、情報収集と研究を重ねる必要がある。

間接的影響力① 学校教育への導入

日本のモノづくりに与える間接的な影響力として第一に教育機関への浸透がある。

先日3Dプリンターメーカーの二大企業のうちの1社ストラタシスのCEOが日本の3Dプリンター市場において教育機関が有望であるとの発表を行ったが、学校教育への3Dプリンターの浸透は間接的に日本のモノづくりに影響を与えると思われる。

既に芸大や工学院などの専門学校でも多数の3Dプリンターが導入され、プロダクトデザインの卵である学生やエンジニアたちによって3Dプリンターと3DCADデータの勉強法が指導されている。

こうした人材たちは従来の製造方法とは異なる視点を持ち、ITと3Dプリント技術を融合した新しい発想法をもって製造業の世界に導入されることになる。こうした教育機関での3Dプリンターの導入は次代をつくる人材を作るという非常に大きな意味を持っている。

教育機関への投資はアメリカ・イギリスでも盛んにおこなわれており、アメリカではデスクトップタイプの3Dプリンターの最大メーカーであるMakerBot社がアメリカの全学校への導入を目標に掲げ、公的支援、民間からの寄付と協力して導入を図っている。

またイギリスでは政府が中心となり1000万ポンドの資金援助を行い3Dプリンターの導入を図っている。イギリスでは3Dプリンターの導入だけではなく2014年から教育カリキュラム自体を変更し、5歳から14歳まで総合的にモノづくりを学ぶ体制を採用しよういう動きがある。

3Dプリンターは明らかに国家政策として取り組まれており、自国の競争力の核となる産業構造を次世代型へブラッシュアップする動きだ。

間接的影響力② メーカーブーム

モノづくりに与える間接的影響力の第二はメーカーブームだ。

2012年10月にクリス・アンダーソン著の『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』が火付け役になり、2013年度は空前のメーカーブームが起きた年だ。3Dプリンターの存在がにわかに注目され、個人がメーカーになれる時代と騒がれている。

また、メーカーズブームの先陣として注目されているのがShapewaysのような企業だ。Shapewaysはオンライン上で3Dプリントのカスタム製品を販売する会社で、2012年度は世界中に100万個の3Dプリントされた製品を出荷した実績を持つ。

Shapewaysではオンライン上でデザイナーがデザインした製品が販売され、個人の要望に応じてサイト上でカスタマイズし、素材や色が選ぶことができる。

shapewaysが日本でも認知され始めると同様のサービスをインターネット上で開始し始める企業が多数続出した。こうした消費者をダイレクトにターゲットとした動きは、製造業で導入されている3Dプリンターの視点とは大きく異なる。

製造業では3Dプリンターを製造プロセスの一部を変え、より効率的に製品化を行い、品質向上をもたらすという目的で使用されているが、メーカーブームでは3Dプリンターはデータがあればモノが作られ誰でもメーカーになれるというイメージが強い。

基本的に3Dプリンターを通して製造業やモノづくりに関心が集まることはとてもいいことだと思われるし、今までモノづくりに関心が無かった人々を参画させることで新たな視点が入り、モノづくりに新しい動きが出てくるきっかけにもなるものだ。

しかし、問題点もある。

現在の3Dプリント技術でエンドユーザーが使用したくなる最終消費財を作るのは少し無理があるのではないかと思われる。

3Dプリンターで成形したモノと金型により人の手が加わって大量生産されたモノでは、一目見て大量生産品の完成度の方が優れていることがわかる。

いくら個別の要望に応じてカスタマイズできるからと言ってもこれほど世の中にモノが溢れかえっている時代では、よほどこだわりのある人以外、ちょっとクオリティの高い大量生産の類似品を選ぶのではなかろうか?例えば 3Dプリンターで出力するだけではなく、やすりで磨いたり、手作業で漆加工したり、色を塗ったりといった後加工が必要だと思われる。

おそらくshapewaysの出荷している製品もそうした処理がなされているのではなかろうか。

3Dプリンターをエンドユーザーに提供する製品の製造で使用するのであれば、消費者の立場に立ったモノづくりが必要になるだろう。エンドユーザーにとっては、大量生産品だろうと3Dプリンターで個別生産されたものであろうと関係ないのだから。

とはいえ、3Dプリンターは今までモノづくりに参加できなかった多くの人々にその機会を与えてくれるため、様々なアイデアや発想が生まれ総体的にモノづくり全体で見た場合にはプラスになるのではないだろうか。

まとめ

3Dプリンターは20年の研究・使用実績があるが2013年には幅広く認知され、また認知されるだけではなく3Dプリンターを利用した様々な取り組みが始まっている。

製造業での使用だけではなく、医療分野、教育への導入、個人のモノづくりの参加といった、広範な分野での導入と使用が開始されている。

こうした動きはその業界単体で完結するものではなく、3Dプリンターという一つのカテゴリがインターネットを通して相互に影響を高めあうことにつながっていくのではないだろうか?

一つの分野での発見やアイデアの発想がそのまま違う分野に利用され相互に影響を与え合い総体的に力が向上していく。

クリス・アンダーソン著の『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』の言いたい要旨も、3Dプリンターとインターネットがあれば誰でもモノづくりができるといった安易な発想なのではなく、インターネットというツールを通してあらゆる分野でモノづくりの発想が相互影響し、発展を繰り返していくという点にあると考えられる。

テクノロジーの力が人の力を何倍にも増幅させ、一人のアイデアだけではなく無数のアイデアを集約させることでモノづくりの発展も従来とは異なるスピードと成長性をもたらすことが今後の時代なのだと解釈できる。

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