エンジニアリングレベルに進化するデスクトップ3Dプリンター
2009年に一部の特許が失効して以来、増加を続けるFDM(熱溶解積層法、FDMはストラタシスの登録商標)3Dプリンター。
さまざまな種類の熱溶解積層法の3Dプリンターが登場しているが、最も代表的な存在がMakerBotである。MakerBotは熱溶解積層法の小型版として関連するソフトやデータバンクなどを含むエコシステムとしていち早く開発に成功し、デスクトップモデルの普及に先鞭をつけたモデルだ。
その後、FDMの開発元でもあるストラタシスの傘下に入ることで、独自の進化を遂げつつある。現在MakerBotはReplicatorのブランドで様々な機種を販売しているが、今回新たに高速化を成し遂げたモデルReplicator+が登場した。
また、第5世代のMakerBot ReplicatorはPLA樹脂のフィラメントをベースにしているが、Replicator+の登場と合わせて、ABS樹脂のように耐久性、耐衝撃性が強化されたPLAフィラメント、タフPLAもリリースしている。
数多くのデスクトップタイプの3Dプリンターが登場する中において、進化したMakerBotは、ハードとソフト両方の部分からよりユーザーに優しい、実用的なモデルに進化しているといえるだろう。本日はより実用性に優れ、デザイナーやエンジニアにもReplicator+とエンジニアリングレベルのフィラメントタフPLAをご紹介しよう。

Replicator+が挑む、安価なデスクトップ3Dプリンターの課題
FDM(熱溶解積層法)とは、フィラメント状の熱可塑性樹脂を加熱して積層し、冷却して固形化する製法だ。安価なデスクトップタイプが登場するにあたって、普及が加速しているが、実用面ではまだまだ課題が大きく残っていると言わざるをえない。
ちなみに安価とはいえ価格帯は幅広く、安価な数万円のものから10万円程度のもの、さらには数十万円程度の機種までと、一言で“安価”といっても様々な価格帯が存在する。
また機能や実用性という観点から見ると、本当にユーザーインターフェースに優れた機種は少ないと言わざるをえない。今回登場したReplicator+は、プリンターそのものの性能以前に、こうした機能性、実用性という観点から圧倒的な利便性を発揮するように進化している。例えば、安価なデスクトップ3Dプリンターでありがちな課題を列挙してみると、
造形安定性の低さ
ソフトウェアやプリンターの精度、調整の過不足などによって、造形が安定せず歪んだり、ミスプリントが頻発したりする。
※いわゆるFDM(ストラタシスのハイエンドな3Dプリンタ)ではオーブン式でクローズの設計になっているため、使用環境下での影響を受けない。
フィラメントの詰まり
熱溶解積層法は湿度や温度の影響を受けやすいことから、デスクトップタイプのような使用環境や状況によってはフィラメントの詰まりが起きやすくなる。
※おなじくハイエンドのフィラメントもカートリッジ内にリールが存在するため、廉価品のように外部からの影響を受けづらい。
リカバリーの低さ
フィラメントが詰まったり、切れたりした状態でも、プリントヘッドが動作を停止せず、せっかく長時間のプリント時間を割いたにも関わらず、未完成状態でプリントが終了しているという事象が多々起きる。
メンテナンスや校正が大変
特に安価な組み立てタイプでは、押出ノズルの設置やプリント前の校正(キャリブレーション)などに手間がかかり、機械の特性を熟知する必要がある。
プレートからの剥離が大変
FDMはビルドプレートに溶かしたフィラメントを積層していくが、積層後、プレートに造形物がくっついてはがすのが至難の業である。そのため、マスキングテープなどを引いてはがしやすくする対応も取られる。しかし、フィラメントの設置面などの状況では、プラスチック特有の反りや、場合によっては剥がれなどが置き、ミスプリントの原因にもなりかねない。
サポート材の除去の手間
安価なデスクトップ3Dプリンターではサポート材の除去も手間である。ハイエンドなFDM 3Dプリンターであれば、水溶性の水に溶けるサポート材などが登場しているが、低価格なFDMでは、フィラメントもサポート部分として造形されるため、造形物から引きはがすのが大変である。また、サポート材がモデル材と同一の製品もあり、この場合サポート材の除去が簡単には行えないなどの場合もある。
このように、安価なFDM(熱溶解積層法)3Dプリンターは、造形精度や速度以前に、実用面において、かなりの改善点が見られる。少なくとも、エンジニアやデザイナーが手軽に扱える製造マシーンというレベルにまでは至っていない。しかし、新型のReplicator+は、こうした従来からある安価なFDM(熱溶解積層法)3Dプリンターの課題を自動で解決してくれる驚異的な機能を持つ。
Replicator+が持つ優れた実用機能とは
Replicator+は前回のモデルに比べて、プリント速度が30%高速化し、造形サイズも25%大きいモデルが作れるようになっている。しかし、こうした高速化とサイズ以前に、上記であげた安価なデスクトップモデルが持つ課題を解決している。それをご紹介しよう。
Replicator+動画
優れた造形安定性
Replicator+の開発に当たってはその安定性を確保するため人38万時間に及ぶ膨大な複数試験が行われることとなった。また、以下でご紹介するクラウドソフトウェアとハードウェア内部のファームウェアの改良により30%の高速化を実現しながらも、造形安定性は飛躍的に向上している。
実際のテストプリントのモデルも、従来品で45分かかったものが、わずか21分で造形が完了している。また印刷安定性を担保するため、16万時間のプリント試験をクリアしたSmart Extruder+も汎用で装備しており、高速安定性にかなりのこだわりを見せている。

フィラメント詰まりと自動停止機能
Replicator+はSmart Extruder+によってフィラメント詰まりは極力減少しているが、万が一フィラメントが詰まった場合、あるいはフィラメントが切れた場合には自動停止機能を備えている。これにより、初めからプリントしなおすということはなく、詰まりを解消したり新たなフィラメントを装着したりすれば、途中の状態から造形が再開できる。

メンテナンスフリーと微細な自動校正
一般的に組み立て式や安価なデスクトップモデルはメンテナンスや校正に手間と時間がかかるが、Replicator+は出荷時における校正により、ほぼメンテナンスフリーで使用することが出来る。また仮に校正を行う場合にも、3点の座標ポイントを非常に細かいレベルで調整可能で、常に安定した平面状態を保つことが出来る。
フレキシブルビルドプレートで反りの防止と剥離が楽
Replicator+では、ビルドプレートもFDM(熱溶解積層法)に最適化されている。従来からの造形物の引きはがしをグリップビルド化することで容易にし、なおかつ、プリント時における反りなどが起きない仕様になっている。いうなればフィラメントが良好に接着し、反りをなくし、なおかつはがしやすいプレートに最適化されている。

サポート材除去の改善
Replicator+はサポート材除去でも改善が施されている。ソフトウェアの進化によって、造形物を支える最低限のサポート構造を算出し、また、サポート材と造形物の接着部分を極細化することで、プリント後の剥離も非常に手軽になっている。
複数パーツ、複数プリンターも管理可能なクラウドソフトウェア
Replicator+の特筆すべき点は、ハードウェアやファームウェアの進化だけではない。今回から新たに採用されたソフトウェアに最大の進化を見て取ることが出来る。MakerBotの新たなソフトウェアMakerBot Printは、完全にクラウド対応となっており、どの場所にいてもパソコンやスマートフォンから3Dプリンターを操作することができる。

また、一つのクラウドアプリケーションで複数のマシーン、印刷モデルを一元管理することが出来るのだ。多くのデスクトップモデルが、1つの3Dプリンターに一つのPCとソフトウェアを配備し、操作しなければならないことから比べると、ソフトウェアの運用面でもユーザビリティが高いといえるだろう。
さらに一般的な3Dプリンター用ソフトは、一つのプレートに一つのモデルしかプリントすることが出来ないが、MakerBotのクラウドアプリケーションでは、アッセンブルした3Dモデルを複数のパーツに分けてビルドプレート上に配置することが可能で、一気に複数のパーツを3Dプリントすることが出来る。

まさに来るべきデジタル製造の手法を、そのままに3Dプリンターを操ることが可能になる。またクラウド上では実際の積層ピッチの階層ごとにまで忠実に見ることが可能で、プリント前に、リアルに近いモデルをオンライン上で見ることが出来る。MakerBotはストラタシスの傘下に加わることで、ソフトウェアアプリケーションの部分で多くの技術的ノウハウを加えられることとなり、独自の進化を遂げているといえるだろう。

耐久性、耐衝撃性が強化されたタフPLAフィラメントも登場
Replicator+は素材であるフィラメントの面からも新たな進化を遂げている。MakerBotは基本はPLA樹脂のフィラメントがベースだが、今回のリリースに合わせて耐久性、耐衝撃性が大幅に強化されたタフPLAフィラメントが登場している。
PLAフィラメントはABS樹脂に比べて強度の部分でもろいという弱点があったが、タフPLAは、ABSに似た特性を持ち、引っ張り強度、耐衝撃性、曲げ強度が大幅に強化された特性を持つ。
またABS樹脂のフィラメントが、造形中反り安いという弱点を持っているが、タフPLAは反りもなく安定したプリント精度で高強度な造形物を生成可能だ。このReplicator+とタフPLAフィラメントの組合せは、デスクトップタイプのFDM 3Dプリンターで、高強度なプロトタイプや治工具といった、よりエンジニアリングレベルの造形を可能にしてくれる。

Replicator+スペック
- 造形サイズ:29.5 × 19.5 × 16.5(cm) 9492立方センチメートル
- レイヤ解像度:100ミクロン
- フィラメント直径:1.75ミリメートル
- フィラメントの互換性:MakerBot PLAフィラメント、MakerBotタフPLAフィラメント
- 押出機の互換性:スマート押出機+、タフPLAスマート押出機+
- ノズル径:0.4mm
- 印刷ファイルタイプ:.MAKERBOT
- 周囲温度:15-32°C
- 保管温度:0から38°C
- 商品の寸法:52.8 × 44.1 × 41.0
- 製品重量:18.3 KG
- XY位置決め精度:11ミクロン
- Z位置決め精度:2.5ミクロン
- サポートされているファイルの種類:STL、OBJ
- オペレーティングシステム:Windows(7、10)、Mac OS X(10.9+)
- 電源要件:100-240 V、50〜60 HZ 、0.76から0.43 A
- コネクティビティ:USB、イーサネット、無線LAN
- カメラの解像度:640×480

まとめ 次世代型のデスクトップ3Dプリンターへ進化
デスクトップタイプの3Dプリンターの進化はさらに加速するだろう。今回ご紹介したReplicator+も、従来のモデルに比べてはるかに機能的になり、ユーザービリティが向上している。造形速度や精度などの向上ももちろんだが、3Dプリンターは実際の使い勝手という部分が最も重要になってくる。
特にプリントの安定性や、ソフトウェアのインターフェース、造形後の後処理など、実は速度や精度以上に気を遣う要素が3Dプリンターの運用面では存在するのだ。そうした点からするとReplicator+は、速度、安定性、ソフトウェア、造形後の後処理など、あらゆる面において、次世代型のデスクトップ3Dプリンターといえるのではないだろうか。今後の開発にも目が離せないモデルだ。
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