戦国時代の「純金製の刀装具」を手に。
3Dスキャナと3Dプリンタでよみがえる
文化財レプリカ
はじめに:
越前一乗谷の朝倉氏の重要文化財をデジタル技術で再現
デジタルテクノロジーを活用して、文化財のレプリカ作成へ活用する取り組みが登場しています。
国宝や重要文化財に指定されているものなど、歴史的な遺物は直接手で触れることができません。今回ご紹介するプロジェクトは、3Dスキャナーと3Dプリンターを使って、国の重要文化財のレプリカを作成し地域独自の文化財として提供しようというものです。
このプロジェクトは、朝倉氏の地元である福井県の模型制作工房 株式会社S MODEL WORKSの酒井正人氏。酒井氏は、多種多様なガレージキット・プラモデル・鉄道模型・ジオラマなど500点以上の制作実績を誇り、3Dスキャナーや3Dプリンターなどデジタルテクノロジーの活用もいち早く取り入れています。

国の重要文化財「獅子目貫(ししめぬき)」とは
今回3Dスキャナーと3Dプリンターで再現されたレプリカは、国の重要文化財に指定されている「獅子目貫(ししめぬき)」です。「獅子目貫(ししめぬき)」とは、刀の装飾品の一部で、越前一乗谷にかつて存在した戦国大名・朝倉氏の重要文化財です。目貫は、小柄・笄とあわせて「三所物(みところもの)」といわれ、武士の刀の装飾品として知られています。中でも目貫は、刀の柄と茎を固定するための道具で、時代が進むとともに装飾品としての役割も担うようになりました。特に意匠には縁起が良いものが採用され、獅子には魔除けや福徳招来、商売繁盛などの縁起があるとされています。特に常に戦場に出る武士にとって獅子は縁起が良いとされ、兜などにも取り入れられています。朝倉氏は、現在の福井県の戦国大名で、一乗谷城を居城に室町時代から戦国時代にかけて5代約100年間にわたって越前国を支配しました。

文化財レプリカ制作のデジタル革命:
S MODEL WORKSの取り組み
今回再現された「獅子目貫(ししめぬき)」は、そんな朝倉氏ゆかりの文化財として、3Dプリンターで再現されています。重要文化財は、その歴史的重要性と、美術品としての美しさから、現代においても多くの人々の関心を引きつけています。
しかし、文化財は、保存の観点から一般の人々が手に取ることができません。そのような中、SMODEL WORKSの酒井氏は3Dスキャナーと3Dプリンターを駆使し、「純金製の刀装具」を再現するプロジェクトを開始しました。


獅子目貫 レプリカの詳細はS MODEL WORKS様のホームページでも詳しくご紹介されております。
3DスキャナーSOL PROでスキャン
このプロジェクトでは、対象となる「獅子目貫(ししめぬき)」を3Dスキャニングを行い、そのスキャンデータをベースに、3DCAD上でトレースを行い、モデリングを行いました。スキャンに使用されたのは、SOL PRO 3Dスキャナーです。SOL PROは、低価格ながら比較的高性能な3Dスキャナーで、だれでもかんたんに取り扱えるのが特長です。当初、CTスキャンで「獅子目貫(ししめぬき)」をスキャンしましたが、うまくスキャンすることはできませんでした。SOL PRO 3Dスキャナーはレーザータイプの3Dスキャナーで、対象物の形状と、フルカラーのテクスチャデータを取得できるのが特長です。
かんたん2クリックで3Dスキャン完了

SOL PRO 3Dスキャナーの特長はかんたん2クリックでスキャンが完了する点です。3Dスキャナーはスキャンやメッシュ、ごみ取、マージなど初心者にとっては聞きなれない工程で行われますが、SOL PROの場合には、キャリブレーションとスキャンボタンをクリックするだけで、手順にしたがって行えばだれでもスキャンが可能です。スキャンサイズは2センチ以上17センチ以下の卓上モデルですが、ある程度のあたりデータと細かいテクスチャが取れ、手軽に3Dモデル化ができます。
目貫の微細な3Dモデリングを3Dスキャナーでサポート
3Dスキャナーで取得した3Dデータはそのまま自由に形状を変えることはできません。3Dスキャンされたデータはポリゴンメッシュといわれるデータ形式で、その形状を変更するには、サーフェイスのデータ形式に変更するか、3DCAD上でトレースを行う必要があります。
サーフェイスの面張りができるソフトは非常に高額であるため、一般的には3Dスキャンされたデータをベースにスケッチ機能などでモデリングを行います。「SOL PROの場合にはテクスチャがついているため、形状を把握しやすいです。3DCAD上でトレースを行うには、取得したSTLデータをCADソフトでインポートを行い、データと実物を見ながら描きなおしますが、作業の効率化にもつながりました」(酒井氏)


3Dスキャナー活用のメリットとは?
3Dスキャンの活用メリットの一つが、自由に編集できる3DCADデータを作成するベースデータを取得することです。そのまま使用するには不完全ですが、ある程度の形状や近い部分を3Dスキャナーで取得することによってその後の活用方法が飛躍的に広がります。「3Dスキャナーを活用することで、その後のモデリング作業や製品設計、3Dプリント試作などできることが大きく広がります。」(酒井氏)
光造形3DプリンターForm4で高精細出力
3Dスキャン後、モデリングしてデータが完成した後は、3Dプリンターで出力を行います。S MODEL WORKSでは、高精細で高速出力が可能な光造形3DプリンターForm4で造形を行いました。「Form4はFormlabsの3Dプリンターで、UVレジンに紫外線を当てながら1層ずつ硬化するタイプの3Dプリンターです。「獅子目貫(ししめぬき)」のように微細なディティールが求められる造形物には最適です。」(酒井氏)

文化財レプリカ制作でForm4が選ばれる理由
Form4は、文化財などのレプリカ制作に最適な性能を発揮します。その最大の理由の一つが高い安定性と高速性です。滑らかで高精細な造形ができることももちろんですが、業務で使用する3Dプリンターの条件の一つとして、安定性が重要です。3Dプリンターは、物体を変化させながら形にしていく技術で、形状や大きさ、素材、機種によってはまだ不安定な技術です。「Form4では材料ごとに応じた造形条件を3Dプリンターが自動で行ってくれるため、何度もプリント出力⇒データ修正を重ね、出力品を見ながら実物に近づける事が出来るのが魅力です」(酒井氏)

まとめ デジタルと職人の手による融合で高い完成度を実現
「3Dプリンターや3Dスキャナーは便利ですが、これだけで完結することはできません。3Dプリンターで出力後、職人の手による加工と合わさることで、その完成度を高めます。むしろ、3Dプリンターと3Dスキャナーを工程に取り入れることで、従来では再現できない形状やモノを、より完成度高く仕上げることができます。」(酒井氏)

Form4で出力された「獅子目貫(ししめぬき)」のモデルも、酒井氏の手によって、一つ一つ手作業で後仕上げが行われ、実際の彫金によって施された細かい彫りや模様が再現され、量産用の原型を完成した。最終仕上げでは、仏壇の職人が金箔を塗装し、実物と寸分形状と質感共にたがわない完成度を実現しています。「獅子目貫(ししめぬき)」のレプリカは福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館のミュージアムショップで、訪れた人々に販売されています。デジタル技術による文化財の再現は、単に複製を作るだけでなく、保存や普及、教育の現場においても大きな可能性を秘めています。