模型やジオラマで広がる3Dプリンターの活用
3Dプリンターはいろいろな分野で利用が広がっていますが、最も活用が期待されている分野が模型やジオラマ作成です。模型やジオラマはホビーの領域として、多彩な商品が登場していますが、3Dプリンターを使うことで、独自のオリジナルな作品を作ることができます。
中でも、高精細で滑らかな造形ができる3Dプリンターとして模型やジオラマに期待されているのがForm3(現行モデルはForm3+)です。
今回はジオラマ作成にForm3を活用しているユーザー事例としてS MODEL WORKSの酒井正人氏にForm3を使ったジオラマづくりについてお話を伺いました。
ウルトラマンの生みの親にも作品が認められる
S MODEL WORKSは福井県に拠点を構える模型制作工房です。多種多様な模型制作を手掛けており、ジオラマから鉄道模型、ガレージキットまでその制作実績はなんと500点以上、その高いクオリティから、なんとウルトラマンの生みの親である円谷英二氏監督の生家にもその作品が展示されているほどです。
S MODEL WORKSの酒井氏は模型作りについて「伝えたい・見せたい部分を強調したり作り込んで、メッセージを的確に伝える事また、作る物のリサーチをしっかり行い、それらの情報を基に、リアリティと動きを感じるの『生きた模型』作りを心掛けています」と語ってくれました。
そんな多彩な制作実績を誇るS MODEL WORKSがジオラマや模型制作に取り入れているのが光造形3DプリンターのForm3です。
Form3は滑らかで高精細な造形ができる3Dプリンターとして、その前のモデルであるForm2の時代からフィギュアや模型作りに幅広く利用がされてきましたが、S MODEL WORKSはさまざまなジオラマ作品に3Dプリンターを取り入れ、モノづくりのデジタル化を図っています。
3Dスキャンと3Dプリンターを融合したジオラマ作成
特にS MODEL WORKSがForm3を活用しているのが、福井ならではの風景を再現した「ふくいジオラマ百景」です。人の手で再現が難しい非常に微細で複雑な形状を3Dプリンターで出力することで、ジオラマづくりにデジタルをと融合させた画期的な取り組みです。
特に各作品を3Dプリントする元となる3Dデータは、3Dモデリングは元より、ドローンなどの3Dスキャニング技術を取り入れ、実際の地形を忠実に再現することに成功しています。
東尋坊:ドローン空撮と3Dプリントで2500分の1ジオラマを実現
その代表的な作品が福井の名勝として国定公園にも指定されている国指定の天然記念物にもなっている東尋坊のジオラマです。東尋坊は柱状節理と言う地質学的にも極めて珍しい奇岩として、その存在はなんと世界に3カ所しかないといわれている地形です。
日本海に臨む断崖絶壁は1km以上続き、岸壁の高さは23メートルにも及びます。そんな人の手では再現が難しい東尋坊をS MODEL WORKSはドローンによる3Dスキャニングで正確に3Dデータ化を行い、Form3の3Dプリントと人の手による仕上げによって忠実に再現することに成功しました。
3Dスキャン画像から出力用データを作成
3Dプリンター用の出力データは、ドローンでその地形の空撮を行い、165枚の画像データをベースに合成を行っています。地形の各市置をXYZの座標の点群モデルで構成し、メッシュモデルを形成、地形を忠実に再現しました。
Form3のグレイレジンで出力
STLの3Dプリント用データに変換後は、Form3のグレイレジンで出力しました。グレイレジンはFormlabsの材料の中でも最も高精細でディティールが再現できるレジンで、模型やジオラマ、フィギュアづくりに利用できます。
福井県立恐竜博物館:3Dプリンターとレーザーカッターで2000分の1を再現
福井県を代表する観光スポットとして代表的な存在の一つが福井県立恐竜博物館です。
恐竜を主たるテーマとした自然史博物館であり、カナダのロイヤル・ティレル古生物学博物館、中国の自貢恐竜博物館と並び、世界三大恐竜博物館と称され、日本における恐竜博物館の代表格であります。
恐竜博物館には44体の恐竜の全身骨格が展示され、この中には福井県で発掘された5種のうち復元されたフクイサウルス、フクイラプトル、フクイベナートルの全身骨格もあります。
2023年夏にはさらに増改築され、リニューアルオープンします。そんな福井県立恐竜博物館のジオラマにも3Dプリンターのデジタル技術が活用されています。
Form3とグレイレジンで繰り返しテストし忠実に微細モデルを再現
福井県立恐竜博物館は「自然環境と調和」をテーマにした博物館で、日本を代表する建築家黒川紀章が設計を行いました。
上記のテーマのもと「元の地形を極力保存しながら起伏を積極的に利用し、最小限の造成で施設を建設する手法」(出展:https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/museum/construction.html)で作られており、展示室である恐竜ホールと建物が段差になっている特徴的な形をしています。
ジオラマにあたっては、この山間部に溶け込む複雑な形状をアナログ手法で忠実に再現しました。特に象徴的な展示ホールの卵型の形状はForm3で3Dプリントを何度もテストし仕上げは「ジオラマ全体として映える、青空の下に光る青みを帯びた色彩」(S MODEL WORKS酒井氏)に仕上げています。
また恐竜博物館のもう一つの象徴である「レインボーサウルスと池」はForm3の微細さがいかんなく発揮されているポイントです(商品には、3Dプリントされたパーツを直接使用しています)。
ジオラマ作成にForm3が最適な理由
S MODEL WORKSの酒井氏はForm3のジオラマに最適な理由を次のように語っています。
「Form3の高精細は、人の手では再現出来ない正確さ(複雑・シンメトリー)と、極小なパーツの再現できます。また3Dプリンターならではのメリットとして極小ロット(数十個ほど)の制作が可能な点があります。
例えば、手作りでは作り直ししないと行けない、「サイズ変更」がデータで出来、多様性が実現できます。特にForm3の再現性では、ジオラマに求められる形状、無機的(工業的)な物たけで無く、有機的(動植物など)な物が再現(造形)可能な点が素晴らしいですね」(酒井氏)
塗装や後加工にも最適
また塗装性や材料選びについてもForm3の魅力を語ってくれました。「塗装を行う際、物に合わせた彩色(全てオリジナル色)は元より、その表面の質感(グロス~マット・凹凸などのディテールなど)を重視しています。こうした塗装などの後加工を考えた場合、繊細なディテールの表現が出来る(かなり攻め込める)Form3は魅力です。また、カラーレジンの使用で、パーツのベース色として使え、塗装が有利になります」(酒井氏)
グレイレジンが最適な理由
ジオラマでは最も高精細な仕上がりができるグレイレジンが多様されています。また模型作りにForm3とグレイレジンが適しているポイントについて酒井氏は次のように語っています。
「グレイレジンは25ミクロン、50ミクロン、100ミクロン、160ミクロンという4種類の積層ピッチが使用でき、試作では100や160ミクロンを、完成品では25ミクロンで出力するなど使い分けも可能です。」
さらに「グレイレジンは他の色と比べ、パーツの凹凸の陰影が見やすくなり、細かいキズや形状の確認がしやすくなります。」(酒井氏)
高強度なタフ1500もジオラマに活用
S MODEL WORKSはジオラマの3Dプリントに高強度なタフ1500も利用しています。タフ1500はFormlabsのレジンの中でも曲げても折れない強度を持つPP(ポリプロピレンライク)の材料です。
「この材料は非常に細かくて割れなどが心配な形状を再現するのに最適です。例えばジオラマを構成する木の作成や、細かい建築物などの出力にも利用することができます。」「特にタフ1500の採用については、テスト出力と検証をi-MAKERでも行い実現しました。」(酒井氏)
画像は「ふくいジオラマ100景」の第三弾「朝倉氏遺跡 唐門」のテスト出力。タフ1500で再現している。
まとめ
S MODEL WORKSはForm3や3Dスキャンといったデジタルテクノロジーをこれまで人の手の領域であったジオラマづくりに取り入れ、より「リアリティと動きを感じるの『生きた模型』作り」を実現しています。
デジタルとアナログの融合を実現した画期的な取り組みですが、酒井氏が求めるクオリティや精度、後加工性、使い勝手、安定性をForm3が支えています。