光造形3Dプリンターの方式と種類

光造形3Dプリンターの方式とは

光造形3Dプリンターにはさまざまな方式があります。基本的なUVレジンに紫外線を照射して1層ずつ硬化させて物体にするという方式は同じですが、この硬化のアプローチにはいろいろな種類が登場しており、方式ごとで特長が異なっています。本コンテンツでは光造形の方式別の特長についてご紹介します。

光造形3Dプリンターの造形方式一覧

方式名概要価格帯
SLA紫外線をビーム状にしてレジンに照射し硬化させる。十万円~数百万円
DLP紫外線をプロジェクターで面でレジンに照射させる。数万円~数百万円
LCD紫外線をLEDでレジンに照射させる数万円
LFSSLAの進化版。レーザー機関部がユニット化されている。数十万円以上~
CLIPDLPの進化版。造形を遅らせる酸素を除外しより高速。数百万円以上~

一言で光造形方式といっても、上記でまとめたように5種類近い方式が登場しています。基本的な造形物としての仕上がりや対応材料などは同じですが、若干特長などが異なっています。また価格帯も異なっています。

SLA方式

最初にご紹介するのがSLA方式です。正式名称はステレオリソグラフィーといいますが、略してSLAといわれています。基本的な仕組みは、紫外線レーザーをビーム状にしてUVレジンに照射して硬化させる方式です。

SLA方式の仕組み

SLA方式はトレイにUVレジンを入れ、トレイの下からレーザービームを照射してプラットフォームに1層ずつ積層して形にする造形技術です。三次元のCADデータをスライスソフトで積層しデータをプリンターに送ると、そのスライス通りにレーザービームが照射され硬化します。造形が完了するとプラットフォームに吊り下げられて造形物が作られます。

吊り下げられて作られるためサポート材が必要になります。

SLA方式の長所

SLA方式の最大の特長は高精細で細かい造形ができる点です。数十ミクロンのレーザービームを照射しながら塗りつぶすように硬化していくため細かい造形が実現できます。


SLA方式の短所

SLA方式の短所(DLP方式と比較した場合)は、DLP方式に比べて若干造形スピードが遅いことです。またビーム上でレーザーを照射するため複数の造形物を1度に作る場合、若干造形時間が長くなります。

SLA方式の代表的メーカー

SLA方式の代表的なメーカーがFormlabsです。もともと開発したのは3Dsystemsですが、低価格化が進み現在世界的に圧倒的なシェアを誇っているのがFormlabsのForm2、Form3、Form3Lなどの機種です。またのちにご紹介しますが、FormlabsではこのSLA方式を進化させたLFS方式という新たな光造形の方式を開発しました。

DLP方式

DLP方式は正式にはデジタルライトプロセッシングといいます。紫外線を線ではなくプロジェクターを使って面で照射する造形方式です。特長として高速造形ができます。

DLP方式の仕組み

DLP方式の仕組みもトレイにUVレジンを入れ、トレイの下からレーザーを照射してプラットフォームに1層ずつ積層して形にする造形技術です。レーザーの照射にプロジェクターを使用するため、SLA方式のようにビームではなく“面”で照射します。三次元のCADデータをスライスソフトで積層しデータをプリンターに送ると、そのスライス通りに硬化します。造形が完了するとプラットフォームに吊り下げられて造形物が作られます。

吊り下げられて作られるためサポート材が必要になります。

DLP方式の仕組み

DLP方式の最大の特長は造形スピードです。数十ミクロンの面積しかないビームを照射するのとは違い、スライスデータにのっとって一気に面で硬化できるため、造形のスピードが速くなります。また面で硬化するため、1個の造形物をプリントする場合も、複数の造形物を硬化する場合も造形時間は変わりません。


DLP方式の短所

DLP方式の短所は、SLA方式とは違い面ごとに積層していくため、造形物の形状によっては若干粗くなることがあります。また一部極小の穴などが開くケースがあります。


DLP方式の代表的メーカー

DLP方式は非常に多くのメーカーが存在します。また30万円以下の低価格な光造形方式はほぼDLP方式の3Dプリンターになります。

LCD方式

LCD方式は基本的にDLP方式と同じ仕組みです。DLPがプロジェクターを使っている代わりにLCDはLEDによる液晶ディスプレイを使用してUV光を照射します。LCD方式はDLPの廉価版という位置づけで、より安価ですが、その一方で性能はDLPに劣ります。

LCD方式の長所と短所

LCD方式の長所ですが、第一に安価ということが挙げらます。基本的にLCD方式の3Dプリンターは小型で、作れる造形物も小さいものが中心です。短所としては、造形を成功させるための調整やメンテナンスに手間がかかります。

LFS方式:SLA方式の進化系

LFS方式とはSLA方式の進化系です。SLA方式でご紹介したFormlabsが開発した新技術でSLA方式の弱点を補い、さらに高精細と滑らかな仕上がりを向上させた技術です。

LFS方式とは?SLA方式との違い

LFS方式は、正式名称がLow Force Stereolithographyで、略すと小さい力のステレオリソグラフィーという意味です。

直訳すると意味が分かりずらいのですが、LFS方式は従来の光造形方式の問題点を克服する仕組みを実現しました。

従来の光造形方式の課題

従来の光造形方式の課題の一つが、ビルドプラットフォームから造形物を引き上げる際にかかる剥離力です。光造形方式は1層ずつ光を照射して硬化する際、造形物ができる土台を上下動しながら積層します。その際、レジンの液面から土台を引き上げる際に剥離力がかかります。この剥離力によって造形物が縦方向に引き延ばされる傾向にあります。

LFS方式の改良点

SLA方式
LFS方式

LFS方式はこの剥離力をレジンを入れるタンクをフィルム化することで極力小さくいものにすることに成功しました。これにより造形物のゆがみを抑え、より高品質な造形を実現した光造形方式になります。ちなみに、LFSのLow Forceとは“小さい力”を意味し、剥離力を小さくしたSLA光造形方式という意味です。

もう一点、LFS方式では従来のSLA方式では実現することができなかった技術的改良があります。それがレーザービームの照射角度です。

従来のSLA方式はレーザービームをガルバノミラーに反射させて照射するため、造形物を作る場所によってレーザーが当たる角度が異なる場合があります。

このレーザーが当たる角度が異なることで、造形物の精度が一定にならず作る場所によって若干異なるという短所があります。

一方、LFS方式ではレーザービームをユニット化することによってどこで造形を行ってもレーザーが垂直に同じ角度で当たることが可能となります。そのため作る場所が異なっても常に一定の精度(25ミクロンの平面解像度)を実現することが可能となりました。

LFS方式の特長・メリット

LFS方式はSLA方式の進化した光造形方式として、従来のSLA方式にはないメリット、特長を発揮します。

高精細・滑らかさの向上

LFS方式はSLA方式に比べてさらに高精細、滑らかさが向上しました。特に従来のSLA方式と比べて平面の解像度が25ミクロンと一定になったことによって微細な表現が可能になりました。よりキメの細かい造形によって、積層跡が目立ちにくく、透明材料の透明度なども向上しています。


サポート材の除去が楽

光造形方式はサポート材が必ず必要になります。サポート材は造形物を支えるために必要な支えで、光造形方式では造形する材料と同じ材料でサポート材を使用します。サポート材を除去する際には通常ニッパーなどを使用して取り除きますが、造形物との接地面が極力小さい方が取り外しやすくなります。LFS方式ではこのサポート材の接地面も小さくすることに成功しました。

LFS方式の代表的な機種:Form3シリーズ

LFS方式はFormlabsが開発した新技術で、Form3、Form3+とForm3B、Form3B+、Form3Lに搭載されている技術です。

Form3、Form3+、Form3L、Form3B、Form3B+は上記のLFSの実現によって高精細・滑らかさを実現するだけではなく、1台で複数の材料(18種類程度)が使用できます。

またレジン材料ごとのプリント設定がプログラムされていることで、ミスがほぼない非常に高い安定性を実現します。

CLIP方式:DLP方式の進化系

CLIP方式とはDLP方式の進化系です。DLPの高速造形をさらに進化させた技術です。現在はCarbon社によって保有される技術で、従来の“3Dプリンターよりも100倍速く造形する”と話題になりました。

CLIP方式とは?DLP方式との違い・改良点

CLIP方式はCarbon社によって開発されている造形テクノロジーで硬化を阻害する酸素を取り除きレジンの内部で硬化をすることで飛躍的な造形スピードを実現しています。この新技術によって従来の3Dプリンターの常識を覆すスピードを実現しました。例えばCLIP方式を使って実際にアディダスがシューズのミッドソールを生産しています。

ちなみにCarbonも先にご紹介したLFS方式を開発したFormlabsもいずれもMIT出身の企業です。

光造形3Dプリンターの造形方式別の選び方

さて、これまで光造形3Dプリンターの各造形方式についてご紹介してきましたが、実際にどのような視点で選べばよいのでしょうか?

下記が改めて整理した一覧表ですが、実際に3Dプリンターを導入する際には、造形方式に加え、①安定性、②造形サイズ、③使える材料、④価格という要素が入ってきます。

そのため一概に造形方式別だけでは判断することができません。

そこで、i-MAKERでは上記の要素も加えた一覧表を作りました。

SLALFS方式一覧表

SLALFS方式ではほぼ、FormalbsForm2Form3、Form3Lが中心です。出荷台数も世界1位で、非常に高い安定性と高性能、1台で16種類~18種類の材料が使用できるのが魅力です。人気の理由はたくさんありますが、何よりも①かんたんで、②ミスがほぼなく、③高品質という点が大きいでしょう。

製品名

方式

造形サイズ

材料の種類

自動化

価格

Form2

SLA

145×145×175

18種類

(スタンダード~高強度、高耐熱、鋳造用など)

各種自動化によって高い安定性

263,000円(税別)

リフロービッシュ品のみ

ProJet 1200

SLA

43×27 ×150 mm

3種類

不明

4,900ドル(540,000円)

ノーベル 1.0A

SLA

128× 128×200 mm

8種類

200,000

Form3

LFS

145×145×185

18種類

(スタンダード~高強度、高耐熱、鋳造用など)

各種自動化によって高い安定性

641,000

Form3L

LFS

200×300×220

16種類(スタンダード~高強度)

各種自動化によって高い安定性

2,070,000

DLP方式一覧表

DLP方式は、ほぼ低価格帯の光造形3Dプリンターで占められています。20万円以下のDLP方式の光造形3Dプリンターははっきり言って、どれも違いはありません。DLPの解像度の違いをうたっていますが、品質に違いはなく、自動化されていないので、調整が大変です。

製品名

方式

造形サイズ

材料の種類

自動化

価格

ELEGOO Saturn 3Dプリンター

DLP

192×120×200 mm

4~5種類

(スタンダード系)

54,900

ANYCUBIC Photon Mono X

DLP

192×120×250 mm

4~5種類

(スタンダード系)

85,900

ANYCUBIC Photon Mono

DLP

130×80×165 mm

4~5種類

(スタンダード系)

36,999

ANYCUBIC Photon Mono SE

DLP

130×78×160 mm

4~5種類

(スタンダード系)

54,999

NOVA3D ELFIN3 MINI

DLP

120×65×150 mm

4~5種類

(スタンダード系)

20,999

CLIP方式一覧表

CLIP方式は完全に産業用、生産用に近い3Dプリンターです。Carbon社からは3機種登場していますが、どれも高速&高強度&用途特化型の材料です。ただ生産目的で多量にプリントすることを目的に開発されているため、契約が売り切りではなくサブスクリプションという珍しいビジネス展開をしています。

製品名

方式

造形サイズ

材料の種類

自動化

価格

M1

CLIP

141 ×79× 326 mm

24種類

(スタンダード系~高強度、歯科用まで)

年間約400万円~(サブスクリプション)

M2

CLIP

189×118 ×326 mm

24種類

(スタンダード系~高強度、歯科用まで)

年間約400万円~(サブスクリプション)

L1

CLIP

400×250× 460 mm

24種類

(スタンダード系~高強度、歯科用まで)

年間約400万円~(サブスクリプション)

まとめ:造形方式別でのおススメは?

これまで光造形方式について造形方式別についてご紹介してまいりましたが、用途や予算によって選ぶことが重要です。CLIP方式のCarbonは完全に生産の代替手段としてでなければ、コストが合いません。また、安価なDLP方式は初期導入コストは安いですが、導入後、調整やミスプリント時のリカバリ―などを自ら行わなければなりません。価格帯と安定性、簡単手軽さなどバランスを考えるとForm2やForm3がおススメです。