進化し続けるデスクトップ 3Dプリンター
熱溶解積層法の特許が失効することで、低価格なデスクトップタイプのFDM®3Dプリンターが登場している。FDMはストラタシスの登録商標で、同社が1988年に開発した3Dプリント方式だ。
しかし2009年以降、その特許を利用してさまざまな機種が登場している。当初はPLAフィラメントのみに対応したシンプルな機種のみであったが、造形を安定させるオーブンの特許が失効したことで、デスクトップでありながらスーパーエンプラと言われる高機能な樹脂材料が利用できる機種が開発されている。
今回取材したFUNMAT HTは、デスクトップでありながらPEEKやPEI(ULTEM)PPSUといった高機能素材が使用できる3Dプリンターだ。また価格帯も120万円と従来では考えられない金額で導入が可能だ。
今回はFUNMAT HT 3Dプリンターの販売を行う株式会社フュージョンテクノロジー取材記事をお届けする。
スーパーエンプラ対応3DプリンターFUNMAT HT
FUNMAT HT 3Dプリンターはデスクトップタイプの高性能3Dプリンターだ。1台で通常の熱可塑性フィラメントからエンジニアリング・プラスチック、スーパー・エンジニアリング・プラスチックまで対応している。
使用できる材料は、ABS、PLA、PETG、ポリカーボネート(PC)、PVAにはじまり、スーパーエンプラといわれるPEEK、PEI(ULTEM)、PPSU、カーボンファイバーなどに対応している。
それを可能にする秘密が押出ノズルの高温対応と、オーブン化による庫内温度の調整だ。
一般的なデスクトップタイプの3Dプリンターは押出ノズルが200℃~270℃前後だが、FUNMAT HTは最高450℃まで対応している。この高温によって高い耐熱性を誇るスーパーエンプラの造形が可能になる。
オーブンによる庫内温度調整で優れた安定性を発揮
また、FUNMAT HTの最大の特長がオーブンによる庫内温度の調節である。この技術は従来ストラタシスが開発したFDMの造形を安定させる特許技術であったが、その失効によって他のメーカーが利用可能になっている。
これまでデスクトップタイプの3Dプリンターは造形プラットフォームのみ加熱が可能であったが、これでプラットフォームだけではなく庫内全体から熱を加えて造形を安定させることができる。
FUNMAT HT 3Dプリンターは庫内温度がマックスで90℃、ヒーティングベッド温度が160℃まで加熱可能で、これによりFDM 3Dプリンターでたびたび課題となる熱収縮による“反り”をおさえ、デスクトップで高品質な強みを発揮することができる。
スーパーエンプラからカーボンファイバー配合材料まで対応
FUNMAT HT 3Dプリンターは、このノズル温度と庫内温度の機能によって多彩な材料に対応している。
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)
例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂では、引張強度や耐衝撃性、耐摩耗性にすぐれ耐熱性も200℃以上を誇る。また耐薬品性や耐酸性、耐アルカリ性、耐放射線性などにすぐれていることから、食品や実験、宇宙など幅広い用途で使用することができる。
PEI(ポリエーテルイミド ULTEM)
次にスーパーエンプラとしてよく知られるPEI(ポリエーテルイミドULTEM)は217℃もの耐熱性を誇り強度に優れるプラスチック材料だ。
さらに機械的特性、難燃性、耐薬品性、電気的特性などを併せ持つため、電気・電子部品、自動車部品、機械部品、航空機部品、加熱調理用品金属の代替材料としての可能性が期待されている。
PPSU(ポリフェニルスルホン)
更にPPSU(ポリフェニルスルホン)は耐スチーム性があり、耐衝撃性、耐薬品性、難燃性が高き材料だ。さらにFDA、NSF、UL、厚労省の規格に適合しており、医療用、食品用など高い安全性を求められる分野にも対応している。
こちらも航空宇宙や自動車、歯科、医療、外科用機器などで利用が期待される。
PEEKで人工膝関節を3Dプリント
FUNMAT HTでは既にさまざま利用が開始されている。中国の病院ではFUNMAT HTとPEEKで人工膝サポーターが開発された。
PEEKの持つ高い耐久性と耐衝撃性がユーザーの膝への衝撃を軽減するのに役立っている。また日本でも導入が進み、研究開発目的や耐薬品性が求められる開発現場で導入が始まっている。
ポリカーボネート(PC)で自動車用パーツも
FUNMAT HTは、一般的に反りなどが起きやすくプリントが難しいとされるABSフィラメントやポリカーボネート(PC)フィラメントなども安定して3Dプリントすることができる。
3Dプリンター用フィラメントはさまざまな種類が登場しているが、メーカー純正や限られた材料しか綺麗に造形が出来なかったが、FUNMAT HTの登場によって、これまで造形が難しかった材料が高品質に造形できるようになっている。
例えば、自動車分野では、マツダやフォード、日産などのパートナー企業であるSAIC YanfengがFUNMAT HTとポリカーボネート(PC)を使用し計量器のサイズ制御パーツをプリントしている。
これまでこのパーツは切削加工で作られていたが、FUNMAT HTで作ることで、正確によりスピーディに製造を実現している。
FUNMAT HT 3Dプリンターのスペック
- 本体サイズ:530mm*490mm*645mm
- 重量:46kg
- 電圧:100-120V
- 使用電力:1200W
- 造形方式:溶融フィラメント造形法 (FFF)
- プリントエリア:260×260×260mm
- 産業用3Dプリンター「FUNMAT HT」 積層ピッチ:0.05-0.3mm
- プリントスピード:30-300mm/s
- ノズル温度(MAX):450℃/842℉
- ヒーティングベッド温度(MAX):160℃/320℉
- 庫内温度(MAX):90℃/194℉
- データファイル形式:STL,OBJ
- フィラメント径:1.75mm
- 位置精度:X/Y:12.5μm Z:1.25μm
- 安全認証:FCC and CE
- 使用可能マテリアル:PEEK、PEI(ULTEM)、PPSU、PA(NYL)、ポリカーボネート(PC)、ABS、カーボンファイバー配合、PETG、PLA、PVA、ETC.
FUNMAT HT PRO 3Dプリンターのスペック(大型モデル)
- 本体サイズ:1210*1120mm*1850mm
- 重量:600kg
- 電圧:200V
- 産業用3Dプリンター「FUNMAT PRO HT」 使用電力:5500W
- 造形方式:溶融フィラメント造形法 (FFF)
- プリントエリア:450*450*600mm
- 積層ピッチ:0.05-0.5mm
- プリントスピード:30-150mm/s
- ノズル温度(MAX):450℃/842℉
- ヒーティングベッド温度(MAX):160℃/320℉
- 庫内温度(MAX):120℃/194℉
- データファイル形式:STL,OBJ
- フィラメント径:1.75mm
- 位置精度:X/Y:18.75um Z:1.56um
- 安全認証:FCC and CE
- 使用可能マテリアル:PEEK、PEI(ULTEM)、PPSU、PA(NYL)、ポリカーボネート(PC)、ABS、カーボンファイバー配合、PETG、PLA、PVA、ETC.
まとめ
これまでスーパーエンプラを3Dプリンターで使用する場合には高額な3Dプリンター本体が必要であった。しかし、特許が失効することによって、技術力が飛躍的に進歩しテクノロジーの民主化がさらに進むことになる。
テクノロジーの民主化が進めば、これまで実現することが難しかったアイデアや技術がどんどん形にすることができるようになる。
この時代の流れは必然であり、今後もさらに3Dプリンターの進化と低価格化は進むことになるだろう。