真空成形の特徴と使用例 自動車からコンビニ弁当箱まで

真空成形の基本的な仕組み

真空成形はプラスチック製品の中でもプレート状やカバー状のものを作るのに最適な製法だ。最もわかりやすい製品でいうと、卵のケースや、コンビニ弁当のプレート、チョコレートなどのプラスチックプレートがあげられるだろう。また、こうした食品用で使用されるプレート以外にも自動車のメーター類やダッシュボードのインパネなども真空成形で作られるプラスチック製品だ。

真空、英語でいうとバキューム(vacuum)と言われるこの製法は、金型の内部を真空状態にすることでプラスチックのカバーなどを成形することからこのように言われている。真空状態といっても想像がつかないが、わかりやすく言うと、金型内部を真空にすることで、温めて柔らかくなったプラスチックの板を吸い付け、型を取るという仕組み。

そもそも吸引の仕組みとは、ある空間を真空状態にすることで生じる大気圧との差によって吸着するという技術。下記の図のように金型内部を真空状態にすると、プラスチックのプレートが吸い付けられるというわけだ。吸い付けられたプレートはあらかじめ加熱して柔らかくすることで金型に即した形に加工される。真空状態を作るのには、金型内の空気を真空ポンプなどで排気することで作り出す。

成形のもとになる金型だが、一般的な射出成形やブロー成形などの金型に比べればはるかに安価に作ることができる。というのも、私たちが生活している地球の標準大気圧は1気圧程度なので、真空状態にして吸着させても、金型にかかる圧力は非常に少ないものになる。そのため、金型の構造も大仰なものは必要なく、射出成形などに比べればはるかに安いコストで済む。金型もプラスチックプレートを吸い込んで吸着させるため、片側面だけの製造で済む。

こうしたことから、一般的な金型を使った射出成形やブロー成形、押出成形などに比べれば金型製作コストが安い。また、最近では金型よりももっと安価な木型を使用するケースも多く、デザインの変更や型の微修正が容易にできる。木型を使うことでさらにコストを抑えられ、多品種少量生産が可能になる。

ちなみにここでいう木型とは木で作られる型だが、最近ではあらかじめブロックになった樹脂素材を使用する。木型用の樹脂ブロックはさまざまな種類があり、木材パウダーなどいろいろな材料を混ぜて独自の質感を出せるのが特長。ブロック状の樹脂素材を作りたいカタチに切削し、それに熱で柔らかくしたプラスチックプレートを押し当てて成形する。

真空成形
卵パックも真空成形で作られる
自動車のフロントバンパーも真空成形

真空成形の種類

上記で述べたように真空成形は射出成形やブロー成形に比べコストが低くプラスチックのカバーや容器を作ることができる。上記ではわかりやすい事例として卵のケースや、コンビニ弁当のケースなどをあげたが、そのほかの製品を作るのにもいろいろと使用されている。

例えば自動車が代表的な製品だが、いたるところに真空成形によって作られたプラスチックパーツが使用されている。自動車のメーターなどがあるインパネ部分や、フロントバンパー、ヘッドライト部分などが代表的だ。他にもゴルフ場で使用されるゴルフカートのルーフ部分やダッシュボード、自動販売機のサンプルが飾られているカバー部分なども真空成形によるプラスチック部品。

また、ビルの受付などにあるタッチパネルなどの外枠カバーも真空成形で作られている。このように真空成形で作られているプラスチックパーツはさまざまで、カバーを作るのには欠かすことができない成形方法だ。

その製法も実はいろいろな方法があり、上記で述べた基本的な真空成形の方法に加えいろいろな真空成形が存在する。ここでは質の高いプラスチックパーツを作るためのいろいろな真空成形についてご説明しよう。基本的に上記でご説明したように、真空成形は金型内部を真空状態にすることで、大気との気圧差を生み出し、その気圧差によってプラスチックを吸い込む仕組みだ。

しかし、吸い込む力は1気圧程度の小さい気圧差になることから、作るパーツやものによっては、吸い込む力が足りず綺麗に成形できない場合がある。こうした気圧差を補い、プラスチックのシートがしっかりと吸着するようにするさまざまな真空成形が存在する。とりわけ自動車用パーツなどに使用されるプラスチックパーツは仕上がりの美しさや滑らかさを要求されるため、一味違う真空成形を用いることになる。

基本的に金型と周りの気圧差を変化させることはできないため、真空状態にプラスアルファのサポートを行なう形が一般的だ。以下に述べる製法が真空成形をより高めてくれる製法になる。

自動販売機のカバーも真空成形
ヘッドライトカバー
ケースやトレイ、弁当箱なども真空成形

エアスリップ成形

最もシンプルな方法として挙げられるのが、エアスリップ成形と言われる真空成形だ。通常の真空成形では加熱して柔らかくしたプラスチックプレートを上から押し付けるのが一般的だが、エアスリップ成形の場合は、下から金型を突き上げることでより密着度を高め滑らかな仕上がりを行なう製法になる。

プラグアシスト成形

次にご紹介するのはプラグアシスト成形と言われる方法だ。読んで字のごとく上からプラグで押し付け下からの吸引をアシストすることからこのように言われている。この製法の特徴は下からの真空状態の金型と、上からのプラグの押し付けで、プラスチックシートにむらが無く、成形が難しい細かい部分まで細部にわたって押し付けることができる。

圧空成形

最後にご紹介するのは圧空成形と言われる製法だ。圧空成形とは上下の型によって挟み込み、圧力によってプラスチックシートを成形する方法になる。挟み込んで形がついた後、冷却することで固める仕組み。真空成形と比べて高い圧力をかけることが可能で、よりしっかりとした形状を作ることができる。また、圧空成形と真空成形を組み合わせ真空圧空成形という方法もある。

真空成形の特長

真空成形はプラスチック成形の中では最も手軽に利用することができる成形方法だ。型も最近では金型を作る以前に木型を使用することもできるし、また製造期間も短いことから、その他の射出成形やブロー成形、押出成形などにくらべて比較的安価に利用することができる。

まさに多品種少量生産向きだと言えよう。またプレート状のプラスチックを押し付けて成形する方法から、比較的大型なモノの成形にも適している。このようにプラスチックの美しい面とある程度の大きさまでカバーできるという特長があることから、デザイン性と機能性が要求される旅行用のキャリーケースなども真空成形で作られている。キャリーケースは空港などで荷物として投げられても壊れずに中身を守れるほど頑丈でなければならない。

こうした頑丈さはプラスチックの粘性がとても適している。また、頑丈であると同時に販売にはデザインと仕上がりの美しさも影響してくることから、美しい表面仕上げができる真空成形はベストだと言えよう。

真空成形と木型の重要さ

それと同時に忘れてはならないのが木型の役割だ。木型のクオリティはそのまま真空成形のクオリティにつながるといっても過言ではない。木型とは製品の外観をそのまま表現したモックアップで、主にデザインや形状確認の試作として用いられる。真空成形では上述したように熱で柔らかくしたプラスチックプレートを木型に押し付けることから、木型の完成度がそのままプレートに影響する。

また、プラスチックの熱収縮や形状変化を計算に入れて的確に削り出さなければならない。こうした木型製作は以前は読んで字のごとくかつては木材によって成形していたが、現代ではABS樹脂やケミカルウッドなどで作るのが通常だ。最近では3Dプリンターの登場で試作製造に3Dプリンターを使用するケースも増えているが、精巧さが要求される実際のものづくりの現場では、木型の方が適していると言える。

特に、加工前の仕上げを行なう部分や、微妙な質感を出す部分は、手作業による仕上がりに勝る物はなく、こうした面からも木型による削り出しの方が、クオリティもよく、表現の幅が広い。ちなみに木型は真空成形以外に金属加工の鋳造にも必須の技術で、いわば最も古代から伝わる製造技術の一つだ。

真空成形には木型が重要

まとめ 均一なクオリティとコスト効率の高さ

真空成形はプラスチック成形の中に置いて、カバー類などの製造に使用する技術だ。その範囲は卵のケースから自動車用のフロントバンパーまで多岐に及ぶ。こうした真空成形の特徴は、その成形方法の特性から、出来上がったものがほぼ均一の薄さを保つことができる点にある。また、一般的な射出成形などに比べれば金型を作る必要もないため、比較的安い費用で作ることが可能だ。作る製品やパーツの種類にもよるが、高精度を出しながら生産性の高い成形方法だと言える。

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