塗装なしでプラスチックを高級に仕上げる技術
プラスチックはモノづくりの分野において最も奥が深い素材だ。素材の配合や、成形方法によってさまざまな商品を作り出すことができる。またその質感や仕上がりもいろいろだ。プラスチックは基本的には分子と分子の結合から構成されている人工の素材であり、並び方や結合方法をコントロールすることで性質も変えることができる。
コントロールの方法は熱による制御方法が主で、熱による変化で分子の結合のパターンを変化させ、さまざまな仕上がりを出すことができる。分子の配合パターンと素材の種類によりその組み合わせは膨大な数にのぼる。上記で述べた熱のコントロールで作り出される最も代表的な仕上げがピアノブラックだ。ピアノブラックとは読んで字のごとくピアノのようなブラックのこと。通常ピアノの製造において、あの鏡面のような黒い輝きを出すためには非常に多くの工程を踏んで加工している。
例えば下地塗料を2、3回ふきつけ、サンドペーパーで研磨、その後塗装と研磨を何度も繰り返すことで、あの鏡面のような美しいブラックを表現することができる。ピアノは木材でできているが、プラスチックのピアノブラックも似たような製法で塗装と研磨を繰り返すことで作られている。しかし、今では特殊な射出成形技術を使うことで塗装と研磨をすることなく鏡のようなピアノブラックを実現することができる。
無塗装で光沢を出すピアノブラックとは
ピアノブラックの仕上げはさまざまな商品に使用されている。今では家電製品の仕上げで使用されているケースが多く、テレビ、プリンター、パソコン、などでの使用が盛んだ。現代では家電製品にも機能性と美しいデザイン性が求められるのが当たり前で、それを表現するためにプラスチック成形と金型技術も発展してきたと言える。
とりわけ美しい光沢のピアノブラックはその最たる例だろう。通常は塗装と研磨によって光沢を出すという工程が一般的だが、現代の高度なプラスチック成形技術では、塗装をすることなく、高級感のある光沢を出すことができる。
金型のゲートを広げる方法
射出成形などの金型による成形は、金型内にいかにスムーズに樹脂を挿入するかで表面のきめ細かい滑らかさが表現できる。ピアノブラックを塗装なしで表現する場合には使用する樹脂はABS樹脂が一般的。ABS樹脂はさまざまなプラスチック素材の中にあっても光沢感と成形性が最もよくバランスのとれた素材だからだ。ここでのピアノブラックを実現するための金型技術はいくつか存在するが、非常に特殊な方法がとられる。
第一はいかに金型内にまんべんなくスムーズに樹脂がいきわたるということを実現するために金型注入口を広げるという方法がある。これにより射出注入口のゲートが広がり、溶けた樹脂がまんべんなくいきわたりより分子と分子の層が濃密になることで塗装することなく光沢を出せるというわけだ。
高速ヒートサイクル成形
もう一つの方法は高速ヒートサイクル成形と言われる手法だ。この手法は射出成形の記事でも述べたが、改めてご紹介しよう。この方法は、今の家電では当たり前の薄型テレビの筐体や、パソコンの筐体、エアコンカバーなど多くのプラスチックボディに使用されている。この方法も上記のゲートを広げる方法と同様で、目的は金型内の樹脂の流動性を高めよりまんべんなくスムーズにいき渡せることを目的としている。
その方法は高速ヒートサイクルという名前の通り、金型内の温度を急速に加熱したり冷却したりすることで樹脂の分子が濃密にいきわたり光沢を保った状態で固形化することが可能だ。この高速ヒートサイクル成形のもう一つのメリットは、二酸化炭素や窒素を樹脂と混ぜ合わせることで、樹脂の熱収縮を抑え高い精度の成形ができる点にある。これは微細射出発泡成形と呼ばれる方法で、光沢のあるピアノブラックを高い精度で作ることができる製法である。
無塗装成形のメリット コスト効率
ピアノブラックを無塗装で行うことのメリットは、どのような点にあるのだろうか。一般的な通常の射出成形と比べて、前述の高速ヒートサイクル成形などは、コストは高くなる。しかし、塗装という工程が無いためトータルではコストは安くなる。また、塗装にかかるリードタイムも削減されるため、コストを抑え生産性を高めた光沢のある成形が可能だ。現代の多くの工業製品の製品開発では、生産性という部分を抜きにして語ることはできない。
そうした際に、より効率的に生産性を上げ、コスト効率をよくする製造技術は一朝ではできない物である。もちろん、この生産性とコスト効率は、良質なモノを作るということが前提での話だ。無塗装でのピアノブラックの成形はそうした製造技術と生産性の奥深さをわかりやすくひも解いてくれるものだ。
まとめ 素材を最大限活かす製法
金型とプラスチック成形の最大の特長は、生産性と仕上がりの良さである。その二つを表した代表的な仕上がりがピアノブラックだと言えよう。どんな種類のモノでも製品開発をするうえで忘れてはならないのが、素材の特性とその特長を最大限活かす加工方法だ。そこに存在するのは、エンドユーザーに価値を与えることモノづくりをするといった意気込みに他ならない。
デジタル化が普及し、誰でも同じ機械を手に入れれば一定のクオリティを出すことができるようになっているが、本当にユーザーに価値を与えることができるモノづくりは、道具ありきではなく、発想やアイデア、そしてそれをカタチにするデザインと、製品にまで仕上げる奥深い技術なのだ。ピアノブラックと金型の成形方法はそんなモノづくりの精神を教えてくれる技術だと言える。
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