電子機器の3DプリンターVoxel8がCES2016に登場
今年も世界最大の家電見本市と言われるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)がラスベガスで開催されている。開催期間は1月6日から9日までの4日間で、IOT関連の家電製品やウェアラブル端末など、いわばエレクトロニクス分野における最先端の技術が集結する展示会だ。最近では、これまで製造向けの展示会でしか見ることができなかった3Dプリント技術の企業も出展することが多く、特にエンドユーザーを対象にしたデスクトップ3Dプリンターの出展が目立つ。
有名どころのメーカーでは、台湾のXYZprintingや、Ultimaker、3Dsystemsなどが今年も出展している状況だ。こうした既存のメーカーに加え、昨年に引き続き、電子回路を内蔵しハードウェアを作ることができる電子機器の3DプリンターVoxel8が今年も出展を行っている。Voxel8は、既に1200万ドルもの資金調達に成功し、CIAだけではなくオートデスクのスパークも投資する新興メーカーである。
デジタルデータからダイレクトに電子回路を含む製品を造形するデスクトップ3Dプリンターの開発に着手している。前回は試作段階であったが、今回はこのVoxel8によって作り出されたワイヤレスパワー・ディスクやLED時計、といった試作品が登場し新たな3Dプリンターの可能性を感じさせる展示となった。
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ワイヤレス充電ディスク、クワッドローター、時計を3Dプリント
このVoxel8は、基本的な仕組みはFDM、熱溶解積層法が元になっている。通常のFDM熱溶解積層法は、フィラメントと言われる糸状の細いプラスチック素材を加熱して積層し、冷却して固形化されるという製法だが、このVoxel8は押出ノズルを2本にすることで、製品を形作るPLA樹脂と、電子回路を構成する導電性インクを埋め込むことができる。
通常、電子機器は製品を動かす電子回路はプリント基板で作られ、外側の形状である筐体は別に作られ、最後にアッセンブルされるという製造プロセスを経るが、このVoxel8の発想は、この外側の筐体とで製品を動かすための電子回路を同時に生成し、データから一個の動くモノを直接製造しようという考えである。ちなみに現代のエレクトロニクス製品の基板の電子回路は非常に複雑であり、極小の電子部品がはんだ付けされているが、このVoxel8はあくまでも電子回路と簡単な電池のみによる簡易的なプロトタイプの製造に留まるものだ。
今回展示されたのは、ワイヤレス充電ディスク、クワッドローター、時計の3種類。ワイヤレス充電ディスクはワイヤレス充電器の上に置かれた場合LEDライトが点滅する仕掛けのもの。クワッドローターは4つのプロペラを持つ航空機だが、メインの動力源はPCB多層プリント基板を使い、残りの筐体と各プロペラへの伝達部分やLEDライトへの伝達部分は導電性インクでプリントされている。
一方LED点滅の腕時計はLEDライトとマイクロコントローラを埋め込み、コイン電池を挿入、LEDライトの点滅で時間を伝達するというデジタル時計を実現している。この3つの製品の筐体と電子回路は、全てPLA樹脂と導電性インクを使用して構成されており、ハードウェアの完全な3Dプリント製造の未来を感じさせてくれるものとなっている。
ワイヤレス充電ディスク動画
クワッドローター動画
LED点滅腕時計動画
Voxel8の可能性とは
このVoxel8で作り出された3つのアイテムは、あくまでもプロトタイプの域を出るものではない。またその構造も極めてシンプルなものに限定されており、現代のエレクトロニクス製品で求められるような極小・複雑な電子回路がこれによって作れるわけではない。現にクワッドローターの製造動画では、クワッドローターそのものを機能させる部分は、別に作り出されたPCB多層プリント基板を取り付けることで完成させている。
ただ、このVoxel8の開発によって大きく開ける部分は無限大である。この電子回路を筐体そのものに内蔵するという試みがさらに精密さを増し、より高性能になることで、3つの可能性を拡大することになる。
エレクトロニクス製品のデザインと機能性を変革する可能性
第一が、エレクトロニクス製品のデザインの変革である。デザインの変革は単一素材の3Dプリンターでも大きく注目されている部分だが、わざわざボード状のプリント基板を配備しなくても、直接筐体の内部に電子回路が組み込まれることで、従来では表現することができなかったデザインを実現することができる。このデザインの変革は単純に外側の見栄えのみを指し示すのではなく、機能性の体現としてのデザインである。
例えば、クワッドローターの事例では、4つのプロペラ部分に電気を伝達させる回路が筐体内部に組み込むことができるため、必ずしも既存のデザインに囚われる必要はない。もっと強度や軽量化に最適な形状が実現できるかもしれない。シンプルなものに限定されるとは言え、筐体にダイレクトに電子回路が組み込まれることで、製品改良の幅は一気に広がるだろう。
多層プリント基板の3Dプリンターと連動。エレクトロニクスの直接製造を可能に
可能性の第二は、デジタル製造によって、製造プロセスを飛躍的に高めるということが予測される。現状のVoxel8では、複雑なプリント基板を製造することができなくても、現在続々と登場してきている多層プリント基板の3Dプリンターなどと組み合わせることで、デジタル製造がより完全体に近づく。
例えばメインの複雑さが要求される部分はNano Dimentionが開発するドラゴンフライのような多層プリント基板の3Dプリンターで造り、残りの筐体と簡易回路の部分はVoxel8で作るということが実現化しつつあるのだ。おそらく行き着く先は、この二つのプロセスの統合だろうが少なくとも現段階においても、製造プロセスは従来とは全く異なる状況になりつつある。これは圧倒的な効率化とコストカットに結びつくと言えるだろう。
エレクトロニクス製品のマスカスタマイゼーションをもたらす
そしてこのVoxel8の開発の目指す先は、エレクトロニクス製品のマスカスタマイゼーションの実現である。マスカスタマイゼーションは既に最終品を製造することができるストラタシスのFDM 3Dプリンターなどを利用し、イヤホン製造や、ダイハツのカスタムパーツのデコレーションで利用が開始されているが、この流れが、電子回路も含めたエレクトロニクス製品の範囲まで拡大されるだろう。
まとめ エレクトロニクス製品のデジタル製造と課題
上記でのべたVoxel8の可能性はあくまでも未来の予測であり、その実現までには克服しなければならない多くの課題が残されている。例えばプロトタイプとして確認するレベルであれば問題ないが、エンドユーザーが使用する最終品として製造する場合には、品質の問題をクリアしなければならない。
電子回路や電子部品はただ単に設計して配置すればいいものというわけではなく、全ての電子部品と電子回路が本来あるべき形で、適切に接合されていなければならない。そのための技術がはんだ付けであり、電気を正しく伝達させるためにははんだやフラックスの存在が重要になってくる。またこれに加え、電子部品そのものの製造現場や、電子回路をプリントする現場の管理も重要となってくる。
現在のエレクトロニクス製品の不良や事故の全ての原因はこの生産管理の側面にあると言える。例えば、はんだ付けの部分でもご紹介したが、電子部品や回路に使用される金属に付着する目に見えない酸化物でさえ、エレクトロニクスのものづくりでは不純物とみなされる。わずか数ミリの糸くず一つで不良が発生し、最悪の場合は事故にもつながりかねない事態を引き起こす。こうした側面から見てみると、Voxel8のようなテクノロジーの進化は素晴らしいが、それと同時に一部の好きもないクオリティの実現が求められるだろう。今後の発展に期待したい。
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