FDMとインクジェットの融合。ボクセルフルカラーの3DプリンターRize One

Voxelでフルカラー造形へのアプローチをする新たな3Dプリンター

3Dプリンター開発において、今年最大の話題ともなったHPのMulti Jet Fusion。高速大量生産を実現しただけではなく、Voxel(ボクセル)という新たな概念によって、フルカラー造形を可能にした画期的な3Dプリンターだ。

もともとVoxel(ボクセル)とは、三次元の体積であるVolume(ボリューム)と二次元の色素要素を決めるPixel(ピクセル)をかけあわせた造語。80年代頃から提唱されてきた概念で、物体の色素を決める要素として用いられてきた。

HPのMulti Jet Fusion 3Dプリンターは、このVoxel(ボクセル)を物体への着色だけではなく、物性、例えば柔軟性や強度、半透明、導電性といった、部分まで実現する手法まで拡大して3Dプリンターの機能に取り入れている。

このVoxel(ボクセル)の実用化の背景にはインクジェット技術の存在が必須である。インクジェット技術は二次元プリントの技術として長年培われてきたものだが、HPは、この二次元印刷の技術であるインクジェットと3Dプリント技術を掛け合わせることで、フルカラー造形を可能にしている。

Multi Jet Fusionの原理は簡単に言うと、パウダー状のプラスチック素材を噴霧して積層し、二次元印刷のインクで使用されるCMYK(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック)を配合した定着剤を吹き付けることで着色を可能にする技術。例えればバインダージェットにインクジェット技術をかけあわせた製法である。

この二次元印刷と三次元印刷を掛け合わせるという法則は、そのほかの製法でも利用が可能なのであろうか。本日ご紹介する新たな3DプリンターRizeは、FDM(熱溶解積層法)とMulti JetやPolyjetに似たインクジェット技術を融合することで、物体に直接着色することを可能にしている。

このAugmented Polymer Deposition (拡張ポリマー堆積) 3Dプリント技術と言われる製法は着色を可能にするだけではなく、造形時間を圧倒的に短縮し、高強度高品質なパーツの造形を可能にする。

新たにVoxelベースでフルカラー3Dプリントを確率したRizeの3Dプリンター。※画像出処:Rize

FDMとインクジェット技術が融合したAPD 3Dプリント技術とは

Rizeは、マサチューセッツ州ウォーバーンに本拠を置く3Dプリンターメーカーだ。ベンチャーキャピタルから400万ドルの資金調達を経て、新たに工業用デスクトップ3DプリンターRize™ Oneをリリースした。このRize™ Oneは冒頭でもご紹介したとおり、FDM(熱溶解積層法)とインクジェット技術を配合した新たな製法により、画期的な造形を実現した機体である。

フルカラー着色や導電性、柔軟性などを自由に

それではAPD (拡張ポリマー堆積)技術とはどのようなものなのだろうか。ちなみにFDM (熱溶解積層法)とは、加熱すると柔らかくなる熱可塑性樹脂を使い造形する方法。熱可塑性樹脂をフィラメントと言われる糸状にすることで、加熱して柔らかくして積層し、自然に冷却されて固まるという手法だ。

一方、インクジェット技術は液体を吹付けて着色する技術。インクは一滴一滴が極小で微細な表現ができるというものだ。APD(拡張ポリマー堆積)はインクジェットプリントヘッドで、熱可塑性樹脂のフィラメントに機能性インクを結合することを可能にする技術。各Voxel(ボクセル)ごとにインクを噴霧することが可能で、どの場所にも着色することができる。

現在公開されているこの着色造形はグレースケールのみだが、Rizeは近い将来これを完全なCMYKを使ったフルカラー化に対応させるという。HPのMulti Jet Fusionのように、導電性インクなどを使うことで、物体に導電性や熱絶縁性といった物性を持たせることや、素材を柔らかくする溶剤を使い柔軟性などを持たせることも視野に入れているという。

FDMとインクジェットの融合で物体に着色が可能。
現在はグレースケールだが近い将来CMYKの対応を可能にする。
Voxelと溶剤によって柔軟性や導電性などの物性も付与できるようになる。
溶剤で柔軟性を持たせられればカスタムフィットのイヤホンなどもダイレクト製造できる。

エンジニアリングレベルのプラスチックで高強度な造形可能

Rizeの3Dプリンターでもう一つ画期的な点は、高強度なエンジニアリングレベルの素材を使用することができる点である。かれらが提供する素材Rizium Oneは、ポリカーボネートに似た特性を持ち、ほぼ同等の強度を持っている。

ポリカーボネートは熱可塑性プラスチックの中でも特に強度に優れる素材で、エンジニアリングプラスチックに分類される素材。Rizium Oneはポリカーボネートそのものではないが、同等のプロパティを持ち、特にZ方向からの強度はABS樹脂の2倍を誇るという。

Rizium Oneは生体適合性を持ち、医療用グレードでも使用することができる。この高強度素材Rizium Oneを使うことで、Rize One 3Dプリンターは、一定の強度が求められる治具や工具に始まり、最終品の製造も可能になるとのことだ。また適用できる業界も航空宇宙・防衛に始まり自動車、消費者製品、教育、医療・ヘルスケア、建築などと様々な分野で使用することができる。

機能性パーツなども高強度樹脂で作れる。
機能性プロトタイプにも最適。
最終品レベルの造形も可能。

サポート剤除去の手間がゼロ。他のシステムよりも50%高速

Rize 3Dプリンターのもう一つの画期的な特長が、サポート剤除去の手間をゼロにしてくれるという点だ。3Dプリンター、特にFDM 3Dプリンターを扱う際に意外と手間になるのがサポート剤の除去である。

最近の高性能3Dプリンターでは、水溶性のサポート剤を使うことで、水で簡単に除去できるものが登場しているが、一般的なデスクトップ3Dプリンターでは、手で剥がしたり道具を使って剥がしたりしなければならない。失敗すれば、造形物自体にまで影響があり、手間と時間がかかるのが一般的である。

しかし、Rize One 3Dプリンターでは、オブジェクトとサポート剤の間にRelease Oneと言われる撥インクを噴霧することで、より高速にサポート剤を剥がすことが可能となる。下記の動画ではサポート剤の除去するシーンが何度も映っているが、手で簡単に剥がすことが可能だ。

これによって造形後の後処理が全くなくなり、他のシステムに比べて50パーセントも作業時間を省くことができる。

Rize動画2

撥インクを噴霧することで、より手軽にサポート剤を剥がせる。

FDMとインクジェットに精通する経歴を持つRizeチーム

そのアイデアを実現する背景には、Rizeのメンバーのバックグランドから見て取ることができる。RizeはCEOであるFrank Marangell氏によって2013年に設立されたが、Frank Marangell氏はもともとストラタシスのグローバルフィールドオペレーション担当副社長を務めた経験を持つ。

またストラタシスがObjetと合併する前には、Objetの北米子会社の社長であった。ストラタシスは言うまでもなく3Dプリンターメーカーの巨人でFDM(熱溶解積層法)の開発元であり、Objetはイスラエルの液体フォトポリマーを噴霧するPolyjet技術の開発元でもある。

さらにCTO最高技術責任者のEugene Giller氏は、3Dsystemsに買収されたZ社で新しいインクジェット技術の開発に務めた経験を持つ。Rizeのメンバーはこうしたトップ以外にも、3Dプリント、3DCADで経験を持つメンバーが集まっており、こうした背景から、FDM(熱溶解積層法)とインクジェット技術の融合であるAugmented Polymer Deposition (拡張ポリマー堆積) 3Dプリント技術が生み出されたと言えるだろう。ちなみに現在では20以上もの特許が取得されている状況である。

FDMとインクジェットに精通するチームが開発した画期的な3Dプリンター

Rize One 3Dプリンター スペック

  • 造形サイズ: 300mm × 200mm × 150mm
  • レイヤー層: 0.25mm
  • 対応OS: Windows® 7, 8 or 10
  • プリンターサイズ: 543mm × 915mm × 644mm)
  • 重さ: 61kg
  • 電源要件:ユニバーサル電源100-240VAC、750W
  • 規制コンプライアンス:FCC、ROHS、NRTL
  • 特別な施設の要件:なし
  • 価格:19,000USD(パッケージ版は25,000USD)
オフィスでも手軽に使用できる大きさ。まさにデスクトップモデル。

まとめ  インクジェット技術との融合が鍵

Rize One 3Dプリンターは、FDMテクノロジーとインクジェットテクノロジーに対して深い経験を持つメンバーが立ち上げた画期的な3Dプリンターである。FDM 3Dプリンターの最大のメリットは、金型と同様の本物の熱可塑性樹脂が使用できる点にあり、一方、インクジェット技術の特長は溶剤を自由に結合することができる点にある。

この二つの技術の掛け合わせによって作り出されたAPD(拡張ポリマー堆積)が、ダイレクト・マニュファクチャリングの波はさらに拡大するだろう。FDMとエンジニアリングレベルの素材で最終品レベルの造形が可能になり、インクジェット技術によって着色や物性が付与されれば、あらゆる分野でマスカスタマイゼーションが実現可能になる。

例えば、柔軟にする溶液を塗布し物体を柔らかくすれば、カスタムフィットのイヤホンや補聴器なども最終品として製造になる。また導電性や絶縁性の製造ができればエレクトロニクスのものづくりは大きく発展するだろう。今回のRizeのように、HPのMulti Jet Fusionや、金属3DプリンターXjetのように、次の3Dプリント技術を担うものは、従来の製法技術とインクジェット技術の掛け合わせなのかもしれない。

インクジェット3Dプリンターの原理と仕組み

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。