バルブの仮想スペアパーツで在庫ゼロ。高度な製造技術と3Dデータの革新

3Dデータの最大のメリット。スペアパーツ在庫の仮想化

3Dプリンターの性能アップは、単なるプロトタイプ製造としての使用を飛び越え、ダイレクトに最終品を製造する役割を担い始めている。例えばストラタシスのハイエンドなFDM3Dプリンターでは、実際の工業用途で多用されるABS樹脂ナイロン・ポリアミドポリカーボネートといったエンジニアリングプラスチックを高品質で使用することができる。

このエンプラの使用は、いわば物体の機械的特性をそのまま表現することができるため、最終品のダイレクト製造を可能にするといった画期的な発展だといえる。この、データからのダイレクトな製造の流れは、今後も材料のバリエーションや造形精度が向上することで高まるだろう。

だが、その一方で、〝生産性゛と〝精密な材料の再現性゛という観点からは、既存の製造技術と比べた場合、3Dプリンターはまだまだこれからの技術だといえる。実際、射出成形やダイカストでの量産性、素材の表現のバリエーションを比べてみると、圧倒的に遅いし、表現できるバリエーションは少ない。

製造効率、コスト効率という点からは、スピードアップという今後の発展を待たなければならないし、材料の仕上がり方法などでは改善の余地が残されている(材料の仕上がりについては、射出成形とピアノブラックの記事などが一例を示すものとして適切だ)。

だが、その一方で、物体のデータ化は着実に進み、データからの製造、すなわちダイレクトデジタルマニュファクチャリングという波はますます浸透していくだろう。そのような中、アメリカのバルブメーカーがある画期的な在庫管理プログラムを立ち上げている。

3Dプリンターは使用していないが高性能な3Dスキャニングとパーツ分析により、オンタイムの製造&納品という対応を可能にしている。これにより飛躍的に生産効率や在庫によるコスト管理が改善され始めているというわけだ。

本日はデータからダイレクトに製造するアメリカのバルブパーツメーカー、ミレニアムパワーサービスの取り組みをご紹介しよう。

バルブパーツメーカーミレニアムパワーサービス動画

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材料の微量元素も、千分の一インチの高性能3Dスキャンで全パーツをデータ化

ミレニアムパワーサービスは2000年設立のアメリカのバルブパーツメーカーだ。もともとバルブの修理会社から始まったこの企業は、わずか15年の間に、全米最大の電力会社や紙メーカーの工場のバルブを一手に引受け、その高いクオリティとサービスで拡大を続けている。

その製品バリエーションも多角的で、バルブという一つの分野を切り口に、顧客に対応したカスタマイズ製品を設け、多種類のバルブからトルク、空気アクチュエータまで揃えている。もともとバルブは液体や気体を通す配管において、極めて重要な役割を担っている部品であり、液体や気体の流れの方向や圧力、流量の制御・コントロールを行う役割を担っている。

ミレニアムパワーサービスの製品はこうした電力や水・気体を大量に使用する紙の工場では、ソフトウェアでコントロールできるハイテクバルブを収め、定評を得ている企業だ。バルブの説明で前置きが長くなってしまったが、今回ミレニアムパワーサービスが立ち上げた在庫管理プログラムとは、既に顧客に納品しているバルブを完全にクラウドで管理し、データからオンタイムで製造するというサービスである。

その仕組みをご紹介すると、顧客の使用しているバルブを超高性能3Dスキャナーでスキャニングし全てのパーツを3Dデータ化して格納。顧客はいつでもミレニアムパワーサービスのデータベースにアクセス可能で、必要に応じてオンデマンドで製造し納品するというものだ。

ここで使用されるスキャニングは1000分の1インチレベルでスキャニングされ、さらにはスペアパーツに必要な材料の精度、表面処理や硬化レベルなどを正確に記録するため、材料中の微量元素まで分析を行うことになる。全てのバルブデータは、形状から材料特性、機械的特性を記録され番号によって管理されることになり、顧客はいつでも必要なパーツの代替品を全く同じレベル、同じクオリティで手に入れることができるわけだ。

ちなみにバルブというガスや液体といった物をコントロールする特性上、多種多様な原材料パターンが求められ、現在の金属3Dプリンターでは再現することができない。また、高性能な多軸加工機のほうがスピードも金属3Dプリンターよりも早いことから、製造には高性能なマシニングや溶接、表面加工によって行われ、発注から7日以内で納品される。

1000分の1インチのレベルで超高性能3Dスキャニング
設計データを全て格納
ユーザーはデータから購入できる
高性能なマシニングや溶接で忠実に再現
材料の微量元素まで管理

まとめ 効率性と品質を両立した3Dデータの画期的な使用例

このミレニアムパワーサービスは、3Dデータの特性と自らが手がける主力製品であるバルブの特性を上手く組み合わせることで、顧客に対し付加価値の高いサービスを提供している。前述のとおり、バルブはその特性上、製品の形状や材料特性などをどのように再現するかが非常に重要になってくる。

そのため3Dデータ化するにあたり、材料中の微量元素まで分析することで、データから完璧に近いクオリティを再現することに成功しているわけだ。当たり前の話だが、ものづくりにおいては品質が第一であり、安全性とともにその製品の価値を計る重要な要素の一つだといえる。

一般的に(従来の)ものづくりの製造現場に置いては、効率を優先させると品質が落ちる。品質を重要視すると効率が落ちるということが常識だが、ミレニアムパワーサービスは、3Dデータとシステムを上手く利用することで、品質と生産現場における効率化を両立させているといっていい。これもダイレクトデジタルマニュファクチャリングがもたらす大きなメリットの一つだ。

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