3Dプリントパーツを即日発送。サプライチェーンを変えるUPSのCloud DDM

物流の巨人UPSの3Dプリントサービスが始動、将来は1000台稼働を目指す

デジタルデータからダイレクトに物体を製造できる3Dプリント技術。あらゆる業界に影響を与え始めているが、その及ぶところはメーカーや製造現場などものづくりの範囲を超えている。

とりわけ影響が顕著とされるのが、物流・郵便業界だ。3Dプリンターのスペックが向上すればするほど、サプライチェーンに対する影響は甚大で、プリンターの精度、速度、素材の種類、サイズなどあらゆる面で発達が進めば、わざわざ人件費の安い地域を求めて製造拠点を設ける必要もなく、輸送する必要性もなくなる。

こうした物流業界への影響から、国際物流企業や、郵便局などは3Dプリント技術の導入に意欲的な企業が多い。例えばキンコーズやUPSは店頭での3Dプリントサービスを開始しているし、イギリスシンガポールでは郵便局が3Dプリントサービスを開始している。

今のうちからその分野に進出しておかなければ、多くの物体がクラウドを通して現地に送信され、現地で生産される時代が来てしまう。そんな状況を予測して国際物流企業や一部の時代を読む企業は3Dプリント技術の導入を盛んに行っている。そのような中、以前からも店舗での3Dプリントサービスを盛んに行ってきたUPSが本格的な3Dプリントパーツのクラウドサービスを開始した。

そこではクラウドにアップロードされた3Dデータを即日プリント、即日配送するというこれまでにない取り組みが見て取れる。本日はUPSのCloud DDMをご紹介しよう。

注文から即日生産、即日出荷する3Dプリント配送の仕組み

UPSはかねてからアメリカの店舗を中心に3Dプリンターを導入し店頭での3Dプリントサービスを開始してきたが、今回のCloud DDMにより本格的な全国展開を目指すようだ。今回のクラウドDDMとは、UPS内に設置されたUPS Worldwide Hubという3Dプリントセンターを通して行われる。

このUPS Worldwide Hubでは、およそ100台もの3Dプリンターと3名のオペレーターによって運営される巨大工場で、クラウド上でアップロードされ注文されたパーツを3Dプリントし、即日発送するというものだ。UPSでは将来的にこのWorld wide Hubに導入する3Dプリンターを1000台規模にしていくという。

ちなみにこのCloud DDMを行う3名はUPSと提携した全くの別企業で、物流における世界最大の包装取扱施設へのアクセスを許され、3Dプリントして発送できるプロダクトの物流を一手に担うものだ。恐るべきなのはその納品までのスピードで、その日の午後6時までの注文であれば、次の日には納品されるという仕組みであり、Cloud DDMが構築するWebシステムにより、容量と時間と利用可能な生産優先の選択肢が提供されるというわけだ。

高度なエンジニアリングプラスチックと後処理に対応

また、このCloud DDMが提供する3Dプリンターの素材は、試作品だけではなく最終品としても十分対応可能なエンジニアリングプラスチックで作ることができる。3Dプリンター用ABSフィラメントポリカーボネートふィラメント、ULTEMなどのエンプラのラインナップを揃えており、カラーは素材によって異なるがホワイト、アイボリー、ブラック、タンの4色。

また後加工もマット加工や光沢のあるポリッシュ仕上げも対応可能。おそらく対応する3Dプリンターは幅広いエンジニアリングプラスチックが使用できることからストラタシス社のFDMタイプだと思われる。基本的な仕組みは極めてシンプルで、STLSデータをアップロードし、数量、素材、カラー、生産の優先順位を選択しカートに入れる、その後支払い情報を入力し終了というものだ。

たったこれだけで即日発送され次の日には納品されるというから驚きだ。このCloud DDMの展開は現在アメリカ本土に限定されているが将来的にはカナダ、その他の諸国へも展開を計る見通しだ。

1日160万パッケージ、130機の輸送機にアクセスできるUPS Worldportの力

このCloud DDMの3Dプリント工場とも言えるWorld wide Hubは、ケンタッキー州ルイビル国際空港にあるUPSの巨大物流センターUPS Worldport内に設けられており、世界最大の自動化システムを利用し、瞬時にパッケージングされ配送される。いわば即日配送の秘密はこのUPS Worldportの機能と役割が大きいといえるだろう。

そのシステムの驚くべき機能は物流・パッケージングの化物というにふさわしく、わずか1時間で41万6千パッケージを処理することが可能で、24時間体制で稼働している。その稼働範囲は1日平均160万パッケージ、130機の航空便が処理している。また高速コンベアベルトは高度にIT化されたスマートトラベルシステムが採用されており、小型や不定形などを自動処理するという機能を持つ。

Cloud DDMの迅速な3Dプリントと出荷も、このUPSの巨大物流拠点UPS Worldportと一体となって初めて真の価値を発揮すると言えるだろう。これにより従来はネットで3Dプリントを申し込んでも納品に1週間から2週間程度かかるのが普通だったのが、UPSのシステムと空輸便にアクセス可能なため、即日生産即日配送という離れ業を可能にしているのだ。

まとめ 真のサプライチェーンの変革が起きる

クラウドと高性能な3Dプリンター、そしてUPSの巨大物流システムが融合することで、サプライチェーンの本格的な変革期が差し迫っている。例えば、もしアメリカの取引相手にあるパーツを送らなければならない場合、従来の方法であれば、日本で製造、その後郵便局の窓口によるEMSか、UPSの集荷によって配送してもらわなければならない。

この場合、依頼を受けてから実際に物の届くまで、最低でも2週間から1ヶ月はかかるだろう。しかし、このCloud DDMを使用すればデータを送付し次の日には取引先に納品することができる。こうした離れ業も可能になるというわけだ。コスト、時間、手間暇などを考えればどちらを利用するかは自明の理だろう。

こうした事例が当たり前のように行われるようになるには時間の問題だ。そしてこの新たなデジタル化時代のサプライチェーンは、3Dプリンターの性能が向上すればするほど、及ぼす範囲が大きくなる。一部のプラスチックしか不可能であったものが金属が可能になり、セラミックや複合材料、電子回路などあらゆるモノが「作って送る」という形態から「データを送る」という形態に変化するに違いない。

そうした状況の中においても、UPSは従来からの大規模システム、世界200か国以上の国と地域に展開する国際ネットワークを持っていることからより一層事業を発展させる基盤を備えているといってもいい。3Dプリントサービスも新たなフェーズに入ってきているのかもしれない。

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