拡大するデジタル製造サービス。サプライチェーンを変えるUPS

拡大するUPSのデジタル製造サービス

3Dプリンターを使ったデジタル製造サービスが着々と浸透しつつある。クラウド上で3Dデータをアップロードし夕方の6時までであれば即日配送も行う体制を築きつつあるUPSが、着々とローカル3Dプリントサービスを拡大してきている。ちょうど2年前の10月、UPSのアメリカで3Dプリントサービスを展開する店舗はわずか6店舗に過ぎなかった。

しかし、昨年の2014年の9月には19の州で100店舗まで拡大。そしてさらに今、その数はさらに増え、全米の主要都市を含む62箇所の主要地域にまで拡大を果たしている。店舗数は不明だが、確実にデジタル製造サービスの規模を拡大しつつある状況にある。前述のクラウド上での製造配送サービスCloud DDMを始め、ローカルネットワークにまでデジタル製造の手を広げつつあるUPSだが、今後この体制はますます拡大し、アメリカはおろか他の国や地域にまで拡大していくのは時間の問題だろう。

ストラタシスのFDM 3Dプリンターで最終品の製造も視野に

ちなみにUPSは全世界200カ国にも及ぶ国と地域に拠点を持っているが、もし仮に全拠点に3Dプリンターを配備したローカル製造体制が整えば、サプライチェーンは大きく変革されることになる。また、UPSは3Dプリンターの導入にあたってはストラタシスのFDMテクノロジーの高性能3Dプリンターを配備しており、確実に最終品を作ることができる製造体制を築きつつあるようだ。

ストラタシスのFDM 3Dプリンターは以前もご紹介したが、現在登場している3Dプリンターの中において、実際のエンジニアリングレベルのプラスチックを使って最終品を製造できる数少ないマシーンの一つ。UPSのローカル3Dプリントサービスでは、ストラタシスのuPrint SE Plusが導入され、9色のABSフィラメントが使用できる。これにより中小企業からのプロトタイプ、小ロット生産などといった要望を確実に取り込みつつある。

ストラタシスのFDM 3Dプリンター uPrint SE Plus 画像出処:ストラタシス

5分野を対象に中小企業、エンドユーザーを狙う

実際にUPSがローカル3Dプリントサービスで主要ターゲットと考えているのが5つの分野。マーケティングアイテム、プロトタイピング、製造、アーキテクチャ、ホーム用品だ。とりわけ製造業メインでは治具などの製造が期待されるとのこと。治具は製造工程において、組立や加工に必要な工具のことで、工程や作る対象によって異なるため常にカスタムメイドが必要になる。

通常の治具製造ではマシニングなどでプラスチックの塊から三次元データで削り出しを行うのが主流だが、この製法だとプラスチックの塊分の材料コストがかかり、削り出した材料はゴミとなるため無駄が多くなる。また、従来の削り出しによる治具製造の場合は、リードタイムも1週間から2週間程度かかるため、デジタルデータからダイレクトに製造できる3Dプリンターのほうが、はるかに短くて済む。

こうした点からも高性能なFDM 3Dプリンターはコスト的にもスピード的にも最適だといえるだろう。こうしたUPSのサービスは3Dプリンターを独自に導入するには手が出ず、従来の外注に頼るよりははるかにメリットがある中小企業には最適だといえる。

5つの分野をターゲットに

またUPSの3Dプリントサービスが狙うターゲットは消費者レベルのプロダクト製造を想定している。先ほども述べたとおり、配備されているストラタシスのFDM 3Dプリンターの強みとする部分は、最終品のような製造ができるという点が挙げられるからだ。ストラタシスのuPrint SE Plusは9色のABS Plusに対応しているが、最終品のようなパフォーマンスで造形を行うことができる。これによりアーキテクチャやホーム用品といった手軽な利用も大いに期待できるようだ。

ストラタシスのABSプラス
高精度なFDMの造形が可能

UPSの野望。全世界でクラウド製造を展開しサプライチェーンを変える

このようにローカル3Dプリントサービスの拡大とクラウド製造の確立には、最終品を作ることができる3Dプリンターの存在が必須だ。プロトタイプにしか使用できないレベルではなくダイレクトに最終品が作れることによってサプライチェーンの変革が完遂することになるだろう。そしてUPSは着実にデジタル製造時代の新たなサプライチェーンで主体的な地位を築くことを目標に掲げている。

こうしたことは、UPSがローカル3DプリントサービスやCloud DDMにストラタシスの高性能なFDMテクノロジーを導入している点からも一目瞭然だ。現在はCloud DDMもローカル3Dプリントサービスもアメリカ国内にとどまっているが、アメリカ国内の地固めが終わった暁には、早晩全世界に展開を行うことが予測される。前述したとおり既にUPSは従来からの国際物流ネットワークで200カ国以上の国と地域に展開しており、各国に高性能なFDM3Dプリンターが配備されれば、実質的にこれまで物流に費用と時間をかけていた部分が全てゼロになるといえるだろう。

まとめ 物流のコストとリスクを取り除く

例えば、これまでどおりの国際物流では、製造したものを集荷してもらい、通関手続きを経て、船便か航空便で送る。その後相手の国に到着後、対象国の通関手続きを行い、通関後納品先まで配達するという流れをとる。この際、単純に国内の横持ち運賃、空輸か船便の費用、さらには通関費用というさまざまなコストが掛かってくるが、これがデジタルデータで現地に送ることができれば全てゼロになる。

もちろんこの通関と物流に要する時間も一瞬に短縮される。また、国際物流上はこうしたコストと時間以外にも目に見えないリスクが存在する。通関時における相手国の事情(国によっては税関職員の個別の対応も入る)、さらには輸送時の転載地変など。仮に事故や事件などで送るものが紛失してしまっては、すべての労力とコストが無駄になるわけだ。しかしデジタルデータを現地に送信し、3Dプリンターで製造を行うことで、こうしたリスクは少なからず回避されることになる。

また、こうしたクラウド製造が浸透することにより、物流業界は大きな変化に見舞われるだろう。既にイギリスやシンガポール、フランスなどの郵便局が3Dプリントサービスに乗り出していることも、こうした迫り来るサプライチェーンの変革を見越しているからにほかならない。

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