36万色フルカラーとマルチ素材の融合。デジタル製造を体現した3DプリンターJ750

インクジェット3Dプリンターの進化

インクジェット3Dプリンターが飛躍的な進歩を遂げている。インクジェットタイプは、紙のインクジェットプリンターと同様に、プリントヘッドから液体状の紫外線硬化性樹脂を吹付け紫外線で硬化させながら積層していく造形技術である。

もともとイスラエルのObjet Geometries社がこの分野の3Dプリンターではトップを走っていたが、2012年にストラタシスと合併することで更なる進化を遂げつつある。インクジェット3Dプリンターの最大の特長は、積層ピッチがその他の3Dプリンターよりも小さく、細かく微細な造形が可能な点にある。

また表面の仕上がりも、液体樹脂を硬化させるため積層痕が残らない滑らかな仕上がりが可能だ。Objet Geometries社はとりわけこの分野の先駆的存在で、登録中のものも含めると800件以上もの3Dプリント技術の特許を取得しており、ストラタシスのPolyjetタイプの3Dプリンター開発にその技術力が生かされている。

とりわけその技術が結集した存在がObjet Connexシリーズである。Connexシリーズは、単一素材ではなく、さまざまな特性を持つマルチマテリアルを複合できる3Dプリンターとして一躍注目を集めた存在。インクジェットタイプは異なる材料を噴射することができるノズルを持つ場合には、複数の特性を持つ材料を使用することが可能で、ひとつの成形品に異なる性質の素材を組み合わせることができる。

中でもConnex3はそのマルチカラー、マルチ素材と複合機能が最大限発揮された3Dプリンターであったが、今回新たに登場したJ750はその上位モデルとして更なる機能を搭載している。最大6種類もの素材を配合するマルチマテリアル機能に加え、360,000色以上のフルカラー化を実現することが可能となった。

本日は東京ビックサイトで先週6月22日から24日まで開催された設計・製造ソリューション展(DMS)の模様からご紹介しよう。

Stratasys AP Ltd.、チャネルディベロップメント&フィールドオペレーション・ディレクター、フレッド・フィッシャー氏と株式会社ストラタシス・ジャパン、代表取締役社長、片山浩晶氏。設計製造ソリューション展にて

デジタルデータ製造の進化を体現した3Dプリンター

今回登場した新型3DプリンターJ750は、驚異の36万色に加え、最大6種類もの異なる素材を組み合わせることが可能だ。例えば、下記のシューズのプロトタイプモデルは、ソール部分だけがゴムライクの樹脂で造形されており、フルカラーで出力されている。

従来であれば、それぞれのパーツ部分を3Dプリントしアッセンブルしなければならないが、J750を使えば一つのモデルとしてデジタルデータからのダイレクトな一体成形が可能となる。またフルカラーで出力できることから塗装や表面加工も不要。ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングの進化をまさに体現した3Dプリンターだといえよう。

製品開発のあり方を変える新型3DプリンターJ750。ダイレクトデジタルマニュファクチャリングを体現したモデル。
ソールをゴムライクの軟質素材に、そのほかの部分は硬質なモデルで再現。アッセンブルする必要はなく一体成形で異なる色、異なる材質を表現できる。

36万色、マルチマテリアルを実現した3DプリンターJ750の動画

6種類の素材の配合で、あらゆる“モノ”の性質を再現

ちなみに6種類の素材は、硬質な紫外線硬化性樹脂に加え、軟質なゴムライク素材、強度と耐熱性が強化されたデジタルABS、透明素材まであらゆる性質を持つ素材に対応しており、この6種類の素材のブレンドと36万色のカラーバリエーションの組み合わせによって、あらゆるタイプのモデルが生成可能となる。

例えば、通常の紫外線硬化性樹脂をベースにカラーを、ショアA硬度のさまざまな硬さのゴム素材で硬軟を、透明マテリアルのブレンドで半透明などの透過性を、さらには2種類のデジタルABS(アイボリーとグリーン)によって強度と耐久性を表現することができる。

6種類の異なる素材と36万色のカラーの組み合わせで、あらゆるプラスチックの性質を表現できる。

精度も超極小14ミクロンを実現。造形スピードも半分に

もちろん、造形精度もインクジェットタイプでは極小レベルとも言える14ミクロンを実現(Connex 3は最小16ミクロン)。造形スピードもデジタルABSなどの素材で、従来のPolyJetタイプの半分の時間で造形できる。これにより、これまで3Dプリンター共通の課題でもあった造形クオリティと造形スピードが大幅に改善されることとなった。

さまざまなサンプルオブジェクト。最小14ミクロンというこれまでにない高精細で造形可能。スピードも従来型よりも飛躍的にアップ。

ものづくりに適したインターフェースのソフトウェアも搭載

J750は、36万色というフルカラーと、6つの属性を持つ素材を配合するという、複雑な技を実現しているが、ユーザーが扱う際には極めてシンプルで優れたインターフェースのソフトも搭載している。PolyJet Studioソフトウェアと言われる新型ソフトウェアでは、マテリアルの選択からカラーテクスチャー、グラデーションの追加機能など、一つの3Dモデルに直感的に物性とカラー要素を組み込むことが可能で、ワークフローを大幅に改善することができる。

ストラタシスのプロダクトの一つの特長として、優れたユーザーインターフェースということが挙げられるが、3DプリントのクラウドサービスSDM、Factoryポータルサイトに見られるように、ものづくりの現場に適した徹底した使いやすさがここでも発揮されている。

優れたユーザーインターフェースを発揮する新型ソフトウェア。カラーや素材の硬軟を視覚的に設定できる。

J750スペック

  • 材料:
    •  デジタルABS:高耐熱、靭性に優れる素材。
    • デジタルABS 2:デジタルABSの強化版。1.2mmの薄さで剛性と靭性を発揮
    • Tangoシリーズ(ゴムライク):ショアA硬度の柔軟性を持つ素材
    • RGD720(透明樹脂):優れた寸法安定性と滑らかな表面を持つ標準的な透明樹脂
    • VeroClear(透明樹脂):汎用性、寸法安定性があり、細かいディテール表現できる透明樹脂
    • Veroシリーズ(不透明樹脂):グレー、ブラック、ホワイト、ブルーなどの硬質不透明樹脂
  • カラー再現:36万色以上
  • 積層ピッチ:最小14ミクロン
  • 造形モード:
    • ハイスピード: ベース樹脂3個まで、積層ピッチ27ミクロン
    • ハイクオリティ: ベース樹脂6個まで、積層ピッチ14ミクロン
    • ハイミックス: ベース樹脂6個まで、積層ピッチ27ミクロン
  • 精度:フィーチャー50 mm未満で20~85μm、フルモデルサイズは最大200μm(硬質マテリアルのみ)
  • 解像度:
    • X軸: 600 dpi
    • Y軸: 600 dpi
    • Z軸: 1800 dpi
  • サポート材料:SUP705(ウォータジェットで取り外し可能)
  • 造形サイズ: 490 × 390 × 200 mm
  • ワークステーションの互換性:Windows 7 8.1/64 ビット
  • ネットワーク接続:LAN – TCP/IP
  • 3Dプリンターサイズ:1400 × 1260 × 1100 mm
  • 3Dプリンター重量:430 kg
  • マテリアルキャビネット:670 × 1,170 × 640 mm、152 kg
  • 動作条件:温度 18~25℃ (64~77°F);相対湿度 30~70% (非結露)
  • 電源要件:
    • 100-120 VAC 50-60 Hz、1.5 KW単相
    • 220-240 VAC 50-60 Hz、1.5 KW単相
  • 適合規格:CE/FCC/RoHS
  • ソフトウェア:PolyJet Studio 3D プリンティングソフトウェア
ハードもカートリッジを装填するだけのシンプルな構成。

これまでご紹介してきたように、J750 3Dプリンターは、プラスチック素材が持つ、あらゆる特性を一つのモデルで自在に表現することができるデジタルデータからの製造を具現化した3Dプリンターだといえよう。

もともとDDM(ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)はストラタシスが提唱する概念で、デジタルデータからの完全な一体成形を目指す動きだが、着々とデジタル製造が広がる動きが広まりつつある。今回の展示会における同社の展示事例も年を追うごとにDDMの導入事例が広まりつつある。

着々と広まる3Dプリンターのデジタル・ダイレクト製造の動き

それではここからは、設計・製造ソリューション展における、同社の展示状況をご紹介しよう。昨年はダイハツとコラボレーションしたDDMパーツ製造サービスの展示が中心であったが、今年はパーツ製造サービスにとどまらず、さまざまな分野で3Dプリンターをつかったデジタル製造の事例が登場している。

例えば、今回ご紹介したJ750でも対応可能だが、PolyJetモデルではデジタルABS樹脂を使って簡易金型を製造することができる。この簡易金型をつかったマスカスタマイゼーションの事例がさらに拡大している。

下記はタカラトミー社とのコラボレーション事例だが、タカラトミーのフラッグシップモデル「トミカ」の試作品100台をなんと3週間で製造している。ちなみに、この新たな試作品は。『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツのデザインで知られるメカニックデザイナー大河原邦男氏が、全日本製造業活性化計画(JMRP)に提供したという「iXine(イグザイン)」というロボットからインスパイアされたもの。

デジタルモールドとハイブリッドモールドについては、「デザインから量産までわずか6日。ハイブリッドモールドの驚異的な力」で詳しくご紹介しているので、そちらをご参照いただければと思うが、アイデアからデザイン、設計と量産という流れが、3Dプリンターを使うことで、飛躍的に向上しているということが挙げられる。

モビルスーツのデザインで知られるメカニックデザイナー大河原邦男氏から、全日本製造業活性化計画(JMRP)に提供されたという「iXine(イグザイン)」というロボットからインスパイアされたトミカの車。
ハイブリッドモールドで試作品100台をわずか3週間で生産。
3Dプリンターによる製品開発やDDM(ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)の豊富な事例が揃う。

まとめ 製造ソリューションカンパニーに進化

ストラタシスはもはや単なる3Dプリンターメーカーとしての存在から、3Dプリント技術を中心とした設計・製造ソリューションカンパニーへと進化し始めている。核となる3Dプリント技術をベースに、3Dプリンター本体の提供だけではなく、豊富な設計ノウハウを活かしたSDM 3Dプリントサービス、更にはデジタルデータから直接製品を形にするダイレクトデジタルマニュファクチャリングの活用方法まで、多岐に及んでいる。

また今回はご紹介しなかったが、教育分野への3Dプリントカリキュラムの提供など、人材育成に対する取り組みも盛んだ。まさにその根本にあるものは、ものづくりに参加する全ての人にとって、役立つ価値ある技術を提供し、ものづくり全体を活性させようという理念があるからにほかならない。3Dプリント技術の進化は、ものづくりや製品開発の在り方を変え、イノベーションの力によって新たな産業の芽を生み出す原動力となるだろう。

インクジェット3Dプリンターの原理と仕組み

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。