ジャストインタイムを進化させた3Dプリント生産システムの台頭
3Dプリント技術の進化は、ものづくりのプロセスを変革させるだけではなく、サプライチェーン(原料から製品が消費者の手に届くまでの一連の流れ)そのものを根本から変えてしまうほどの力を持つ。例えば、3Dプリンターがあれば、世界中どの地域においても、設計データがあれば現地で生産することができる。クラウド上で設計データを共有すれば、必要な時に、必要な場所で、必要な量だけ生産することが可能になるわけだ。
この「必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する」という概念は、トヨタに代表されるジャストインタイム生産システムと言われるものだが、3Dプリンターとクラウドによる生産システムでは、これに「必要な場所」でという第四の概念が加わることになる。もともとジャストインタイム生産システムは、自動車のように複雑な製品を、「大量に、効率的に」生産する方式として編み出されたものだ。
しかし、このクラウド中心の3Dプリンターによる分散型生産システムでは、これまでのような、刻々と変化する需要状況を正確に見通し、一定数の販売量を見込んだ上で、材料を調達し効率的に生産するというサプライチェーンマネジメントは不要になる。全てオンラインで受注を取り、オーダーが入ればどこにいても生産が可能。日本からオンラインで発注し、ヨーロッパで3Dプリントし組み立てて発送されるといったスタイルが当たり前になるだろう。
また、この3Dプリンターとクラウドによる生産システムは、必ずしも自社で3Dプリンターを配備しなくても可能になる。現状では全ての3Dプリンターで最終品レベルの造形が可能なわけではないし、高性能な造形が可能なハイエンドモデルの機種は価格も高額であり、誰でも手軽に導入できるというわけではない。こうした状況から、近年、急速に世界的に普及しつつあるのが3Dプリントサービスだ。
本日は、数ある3Dプリントサービスのなかにおいても、時代の流れに対応した新たな生産システムを構築しつつある、ストラタシスが提供するソリューションの一つである「SDM」(Stratasys Direct Manufacturing)のパーツサービスと国内向けFactoryポータルについてご紹介しよう。
ストラタシスの3Dプリントサービス「Factoryポータル」が始動
3Dプリントサービスとは、自ら3Dプリンターを導入しなくても、データを送るだけで立体造形モデルを製造してくれるサービスのことだ。例えば世界的にはUPSなどがいち早く3Dプリンターを配備して全米でサービスを開始している。日本でも、キンコーズやDMM、リスマチックといったサービスが登場しつつある。こうした3Dプリントサービスの基本的な仕組みは、3Dデータをアップロードし、素材を選択すれば、造形して納品してもらうという流れだ。こうした3Dプリントサービスは、これまでの3Dプリンターの使い方のように、単純なモックアップや形状確認の試作品のみをプリントするといった目的で3Dプリントサービスを利用するのであれば、基本的な違いは無い。
しかし、機能性を確認するためのプロトタイプや、実際に最終品のパーツとして使用する物を3Dプリントする場合には、こうした3Dプリントサービスに求められる能力も全く異なるものになる。一般的にクラウドを中心としたと分散型生産システムでは、膨大な設計データを格納するサーバーが必要だが、冒頭でご紹介したような新たな生産システムとして利用する場合には更にいくつかの能力が絶対的に必要だ。
それが、「製造プロセスに近いユーザーインターフェース」と、正確にアウトプットするための「実用的な3Dプリントスキル」なのである。ストラタシスのオンデマンド3Dプリントサービスでは、この二つの特長を持つことで、単なるプリントサービスではない、顧客の製造プロセスの一部を担いつつある。
特長1:顧客の「製造業務」の一部になる優れたユーザーインターフェース
まずストラタシスの「SDMパーツサービス」の基本的な流れをご説明しよう。その特長は非常にシンプルでわかりやすいということが挙げられる。わかりやすさとシンプルさは、3Dプリントサービスに限らず、全てのウェブアプリケーションでは最も重要な要素だが、「SDMパーツサービス」は特に入口からわかりやすさを徹底している。まずユーザーは登録を行ったあとは、3Dデータを選択してアップロードするだけ。3Dデータは現在STLデータに対応しており、アップロード後は、サイズ、数量、3Dプリントの種類、素材、カラーを選択して見積もりを取得。問題なければ注文するという仕組みだ。
そのほかのウェブアプリケーションと同様、ユーザーが迷うことなく扱えるということが重要だが、ストラタシスの「SDMパーツサービス」が優れている点は、顧客のものづくりの製造プロセスの一部として機能できる点にある。例えば、「SDMパーツサービス」の場合、試作の範疇を超えた、小ロットの生産まで視野に入れていることから、複数パーツの一括アップロードや、数量変更まで簡単にできる。
これは、自社での生産で間に合わない場合や、オンデマンドの生産に対応した機能であり、顧客の製造プロセスの一部として機能できるということがいえるだろう。急に10種類のパーツが必要になった場合でも、データをアップロードし、個別に数量を設定するだけで、必要に応じて生産ができるというわけだ。
またこの機能はシンプルであると同時に、社内で共有することが可能で、アップロード後、見積もりを取得する際に、決済権を持つ第三者などにも通知され、価格や納期といった部分が共有される事になる。まさに「製造業務」に特化したシンプルで使いやすいユーザーインターフェースを持っている。
特長2:用途に応じた実用的な3Dプリント方式をオンライン上で提案
もう一つ、この「Factoryポータル」の持つ独自の機能をご紹介しよう。それは3Dプリンターメーカーならではの、「実用的な3Dプリントスキル」がこのウェブアプリケーションには搭載されているのだ。ここでいう「実用的な3Dプリントスキル」とは、ただデータ通りに綺麗に造形できるといったことではない。もちろん、精密で綺麗な造形は重要だが、こうした仕上がりは当たり前のこととして、よりユーザーのニーズに応じた最適なアウトプットを実現する能力が必要になる。
例えば、一つのパーツの仕上がりでも、扱う素材や3Dプリンターの製法などによって、特性が全く異なることになる。ちなみに3Dプリンターはさまざまな原理のものが存在するが、基本的に共通する部分はどの製法も「積層」によって物体が造形される。実は、この積層する際のアプローチの方向によっても物体の特性は変わってきてしまうことから、用途に応じた最適な造形方法をユーザーに提案することが必要になる。
ストラタシスの3Dプリントサービス「Factoryポータル」ではこの部分において最も優れた機能を有し、同時にユーザーが迷うことなく使うことができる。例えば、ストラタシスの開発した製造技術であるFDM(熱溶解積層法)では、フィラメント状のプラスチックを積層して造形する手法だが、物体の形状によっては積み上げる方向によって、強度や見た目が変わってきてしまう。
下記は、一つのパーツによって価格が異なる提案がなされているが、これは、積層する方向によってプリント時間や、パーツの強度が異なるためである。顧客がこのパーツに何を求めているのか、強度を持たせるためのものか、それとも表面の見た目を重視したものか、ストラタシスの「Factoryポータル」では、この時点で、さまざまなパターンをオンライン上で示すだけではなく、顧客とメールや電話によるコミュニケーションを取ることで、よりユーザーニーズにあった機能を3Dプリントに反映することが可能となる。
またオンライン上では、3Dプレビューによって、実際のアウトプットされたモデルに忠実な形状がウェブブラウザ上で確認できるのも「Factoryポータル」の優れた機能の一つだ。この3Dプレビューは、造形方法や素材、プリントする方向などによっても微妙に変わり、表面のテクスチャが忠実に再現される。オンラインの造形サービスで、利用する際にユーザーが最も心配な点の一つが、この3Dデータとアウトプットされたものギャップだが、ストラタシスの「Factoryポータル」では、このギャップがオンラインでも、エンジニアとのリアルなコミュニケーションでも両方の視点から解消することができるのが他社と異なる点だといえよう。
まとめ 拡大するデジタル製造のグローバルネットワーク
現在、このストラタシスの国内向け3Dプリントサービス「SDMオンデマンドパーツサービス」は、FDM(熱溶解積層法)のハイエンドモデルFortusシリーズと、インクジェット3Dプリンターの一種であるPolyJetのConnexシリーズに対応しているが、今後自社製品にとらわれない製造マシーンを配備することを計画している。既に、この「SDM」は世界10カ国以上に展開しつつあるが、そこに配備されているマシーンはSLS、粉末焼結法や、DMLS(ダイレクトメタル積層法)といった他社の3Dプリンターや、これまでものづくりで使用されてきたCNC加工機や、金型量産の代表射出成形機まで搭載しており、表面仕上げからアッセンブリーといった最終品への仕上げまで行われる。
これは、もはや単なる3Dプリントサービスの枠組みにとどまらない広がりを見せつつある。また、品質管理の部分においても進化をとげ、品質管理マネジメントシステムのISO9001と、航空宇宙産業でも対応できる品質管理のAS9001も取得するほどのレベルである。今後、この仕組みを使うことで、冒頭で述べたように日本にいながらにして、その他の国での試作や生産が実現可能になるだろう。
実際、さまざまな3Dプリンターであらゆる種類のモノが「生産」が可能になれば、サプライチェーンや産業構造そのものを変革することになる。また、自社で3Dプリンターを配備し生産するよりも、「SDMパーツサービス」のようなデジタルファクトリーを利用したほうが、はるかに効率よく、製造できるかもしれない。現在ストラタシス・ジャパンは、自社で展開する「SDMパーツサービス」以外に、自社の3Dプリンターを導入しているそのほかの3Dプリントサービスとパートナーシップを組むことで、グローバルワイドにデジタル製造のネットワークを拡大しつつある。
3Dプリント技術とデジタル製造の波は、時代に対応したものづくりの仕方を提供してくれることで、自社の競争力を飛躍的に高めることが出来るだろう。
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