3Dプリンターの国内最先端事例が集結。ストラタシスがDDMフォーラムを開催

3Dプリンターとデジタル製造の最先端事例が集結

ストラタシス・ジャパンは先週2015年8月27日と28日の二日間にわたり、「未来型デジタルファクトリー DDMフォーラム 2015」を開催した。今年で2回目になるこのフォーラムは前回の1,100名を上回るおよそ1,500名の来場者を迎え、新たな3Dプリント技術の可能性を示すものとなった。

このDDMという言葉は、ストラタシスが提唱する3Dプリンターの製造業における新たな役割、ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングの頭文字をとったもの。これまでラピッドプロトタイピングと言われ、ものづくりにおける試作製造が中心であった3Dプリンターの役割が、その進化によってラピッドツーリング(RT)およびラピッドマニュファクチャリング(RM)、いわゆる最終品の製造にまで拡大し始めていることが、このDDMフォーラムで明らかになった。

ストラタシスについては、以前も「デジタルものづくりと素材を熟知した新たな製品開発の提唱者。ストラタシス」という記事で詳しくご紹介したが、全世界の産業用3Dプリンター市場ではおよそ半分を超える51.9%※(Wohlers Report 2014)の市場シェアを誇るこの業界のグローバルリーダーだ。

FDM(熱溶解積層法)と、PolyJetといった二つの製法からなる3Dプリンターのラインナップを揃えている。また、3Dプリンターブームの牽引役とも言えるMakerBotを傘下に持ち、デスクトップ市場でもトップシェアを持つ。

今回のDDMフォーラムでは、ストラタシスからは、ストラタシス・ジャパン代表取締役社長 片山浩晶氏を中心に、アジア太平洋地域&日本担当ゼネラルマネージャー オメール・クリーガー氏、バーティカル・ソリューション事業部ヴァイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー リチャード・ガリティ氏、MakerBot CEO ジョナサン・ジャグロム氏といった錚々たる講演者に加え、世界だけではなく日本国内でも進むDDMの活用事例が各紹介された。

記者発表でのアジア太平洋地域&日本担当ゼネラルマネージャー オメール・クリーガー氏
バーティカル・ソリューション事業部ヴァイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー リチャード・ガリティ氏
ストラタシス・ジャパン代表取締役社長 片山浩晶氏

国内のDDM活用事例が拡大

3DプリンターによるDDM、すなわちデジタルデータからのダイレクト製造は、海外ではかなりの拡大を見せつつある。既に産業用での3Dプリンターの使用では、GEなどジェットエンジンノズルやブラケットをデータから直接製造を開始し始めている。またインソールやイヤホンといった人間の体にフィットさせるプロダクトでは3Dプリンターが活躍し始めている状況だ。

また、最近では3Dプリンターを使ったオンラインパーツ製造システムを、大手物流会社のUPSなどが開始し始めている。こうしたDDMの普及の背景には、根本的な要因として、3Dプリンターの技術的発展が挙げられる。最終品として使用できるためには、デザインを忠実に再現するクオリティと、強度や耐久性といった機械的特性を両立させることができなければならない。

まさにストラタシスの3Dプリンターは、こうした最終品の製造を可能にする可能性を示し始め、海外だけではなく国内での活用も登場し始めている状況だ。その使用は大きく分類して3種類。

3Dプリントサービスでの活用。物流コストと通関リスクのゼロ化

第一は最も普及が進むであろう3Dプリントサービスとしての活用だ。3Dプリントサービスはこれまで試作品の製造では普及し始めていたが、国内でもリコーやオリックス・レンテックなどストラタシスの高性能3Dプリンターでパーツなどのダイレクト製造を開始し始めている。

過去にもご紹介したUPSの導入事例などを見てもわかるとおり、将来的にはオンラインで3Dデータを格納し、3Dプリンターを配備した現地で生産、納品が行われる可能性が高い。DDMの第一の特長、メリットとして挙げられるのが、クラウドとデジタルデータに基盤を置くことからくる物流面でのメリットである。

データで送信することで物流にかかるコストと時間がゼロになり、同時に通関時のリスクもゼロになる。ストラタシス・ジャパンはこうした時代に備えオンラインのパーツ見積りシステム「Stratasphere」の日本語向けサイトの整備を行うとのことだ。

UPSのパーツ3Dプリントサービスに配備されたストラタシスの3Dプリンター

マスカスタマイゼーションでの活用。エンドユーザーの個別のニーズに応える

DDMの第二の活用事例はマスカスタマイゼーションでの活用だ。マスカスタマイゼーションとは、プロダクトのベースとなる機能や価値は変わらないが、顧客一人一人の要望に細かく応じて、製品をカスタマイズして提供するという概念のこと。

上記のサプライチェーンでの利用などは製造者側におけるメリットに分類されるが、マスカスタマイゼーションは製品本来の価値を高めるだけではなく、同時にエンドユーザーにとっても高い満足感と付加価値を提供することになる。ストラタシスの海外事例では一人一人の耳の形にフィットするようにカスタマイズするイヤホンメーカーのNormalが挙げられる。

Normalの場合はスマートフォンのアプリケーションで耳を撮影し、その人の耳の形に合わせてストラタシスのFDM 3DプリンターFortus250mcが製造を行う。

これは機能性をカスタマイズ・パーソナライズするという事例である。また国内の数少ない開始事例としては、以前もご紹介したダイハツ・コペンの「Effect Skin」が挙げられるだろう。「Effect Skin」では、車体のデザインの一部を顧客の要望に応じてカスタマイズするというもの。こちらもストラタシスのFDM 3DプリンターFortus 450mcで高い耐候性を持つASA樹脂で作られる。

こうしたマスカスタマイゼーションを可能にするのも最終品として使用することができるストラタシスの3Dプリンターならではということが言えるだろう。

イヤホンのカスタイマイス製造を行うNomal
DDMフォーラムの会場でも展示されたダイハツコペン

デジタルABSで金型を作る。伝統的製造とのコラボレーションで製造を高速化

DDMの第三の事例が、伝統的製造方法である金型自体を3Dプリンターで作ってしまうというものだ。ストラタシスのもう一つの製造技術であるインクジェット3Dプリント方式のPolyJetを用いて行われたこの取り組みは、伝統的な金型製造に3Dプリンターを活用する画期的な使用事例といってもいいだろう。

この事例の発表を行ったのはタカラトミー事業統括本部技術開発部の松岡洋和氏。レベルファイブ社とタカラトミー社で行うこのプロジェクトは、スナックワールドでキャラクターが使用する装備品の剣を玩具として製作するというもの。従来は金型で作られていたものを、ストラタシスのPolyJetとデジタルABS樹脂によって作られたデジタルモールドと言われる金型で製造してしまうという取り組みだ。

従来の製造方法では金型を作って試作し、改良する場合はまた金型から作り直さなければならなかった。しかし、3DプリンターとデジタルABS樹脂でダイレクトに金型を作ることができるため、金型自体の修正も非常に容易。小ロットのプロトタイプや製品であれば、従来に比べて圧倒的なリードタイムの短さとコスト削減を可能にしてくれる。

このデジタルモールド技術は今回の製造を行った有限会社スワニーの登録商標で、最新の3D技術を使いこなし、デジタル製造の新たな展開を実現している。

画期的なのはこのPolyJetで使用することができるデジタルABS樹脂で、高温で高圧力がかかるMIM製法にも耐えうる耐久性と耐熱性を持ち、また樹脂同士がくっつかないという特性を持っている点だ。このデジタルABSは、エンジニアリングプラスチックとして汎用性の高いABS樹脂のシミュレーションを行うためにストラタシスが開発した独自の素材。本来のABS樹脂並みに高い耐熱性と高靭性を持つ素材だ。


デジタルABSで作られた金型。※写真は設計・製造ソリューション展2015のストラタシスブースのもの

まとめ まだ始まりに過ぎない3DプリンターとDDM

FDM熱溶解積層法が開発されたのが1988年、PolyJetが開発されたのがその10年後の1998年、従来プロトタイプ製造を目的として開発された3Dプリンターが今では、全くことなる使用方法を確立させ始めている。しかし、DDM、ダイレクトデジタルマニュファクチャリングは未だ始まったばかりに過ぎない。

3Dプリンターとデジタルデータがもたらす変革は、これからますます拡大し、世界中で拡大していくだろう。ちなみにアジア太平洋地域&日本担当ゼネラルマネージャー オメール・クリーガー氏によると、専門機関によるさまざまな予測が存在するが、2020年までにDDMの市場規模は、200億ドル規模になるとの予測もあるとのことだ。

また、本フォーラムで基調講演を行ったコロンビア大学機械工学教授ホッド・リプソン氏によれば、未来のデジタル製造では、あらゆる素材が使用でき、形状の制限はほぼゼロに近くなる、さらにはリードタイムもはるかに高速化されるという予想も発表している。3Dプリンターとデジタル製造がもたらす変革はこれから徐々に浸透していき、気づいた時には全く異なる世界が登場しているかもしれない。

インクジェット3Dプリンターの原理と仕組み

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