Stratasys Day 2025レポート:
アディティブ・マニュファクチャリングが変える製造の未来
はじめに
2025年6月6日、東京都内で「Stratasys Day 2025」が開催されました。本イベントは、世界をリードする3Dプリンターメーカーであるストラタシス(Stratasys)が主催する年次カンファレンスで、アディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing, 以下AM)の最新技術や、今後の製造業の方向性について多角的に発信する場として注目を集めています。
今年のテーマは「『「最終製品」「量産」の視点から探るアディティブ・マニュファクチャリングの現在地と未来』。代表取締役社長のシャルマ・スニールをはじめとするストラタシス・ジャパンの幹部陣やストラタシスの顧客によるプレゼンテーションとトークセッションを通じて、AMがいま直面する現実と、それが描くべき未来のビジョンが語られました。
かつては主に試作用途に限られていたAMは、近年、治具や最終製品の製造など、実際の生産工程に組み込まれる段階へと進化しています。Stratasysはその最前線に立ち、材料技術、造形方式、ソフトウェアの革新を通じて、AMの産業実装を加速させている企業です。
本記事では、Stratasys Dayで語られた最新の市場動向と技術トピックスをもとに、AMが製造業にもたらすインパクトと、今後の可能性についてご紹介します。
世界市場から見るAMの進化と課題
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)市場は、過去10年以上にわたり安定した成長を続けてきました。Capital IQ, CONTEXTのデータによると、AM市場は以下のような年平均成長率(CAGR)が示されています:
2011年〜2014年:平均年20%成長
2014年〜2019年:平均年16%成長
2019年〜2024年:平均年9%成長

この推移は、AMが黎明期から成熟期に向かって移行してきたことを表しています。初期は「技術革新への期待感」が牽引力でしたが、現在はより現実的な「導入効果」や「費用対効果」が問われる段階へと進んでいます。
成長率の鈍化は一見ネガティブにも見えますが、裏を返せば「試作止まり」から「実生産への活用」に移行する中で、より高度な技術・運用力が求められるフェーズに入ったとも言えます。これは、AM市場がより堅実な産業インフラの一部として定着し始めた証でもあります。
コロナ禍で明らかになった
サプライチェーンの脆弱性とAMの役割


この数年で、AMが再び注目された大きな要因のひとつに、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの崩壊があります。世界的なロックダウンや物流の停滞は、従来のグローバルな集中生産モデルの脆弱さを露呈させました。
このとき、地産地消型・オンデマンド型の製造が可能なAMの特性が脚光を浴びました。AMは以下のような強みを発揮します:
柔軟性と迅速な対応力:必要な部品を必要な時に、現地で迅速に製造できる
少量多品種への対応:従来の金型不要で、試作から小ロット本生産までシームレスに移行可能
コスト最適化:在庫リスクや輸送コストを抑えられる
サプライチェーンリスクの分散:集中拠点ではなく、複数拠点での分散生産が可能
環境負荷の軽減:不要な製造や廃棄を削減できる
こうした特徴は、サステナビリティが問われる現代において、製造業にとって非常に大きな価値を持つものです。
AMの強みと現状の課題
アディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、従来の製造方式にはない革新的な利点を多数備えており、製造業における新たな選択肢として注目されています。Stratasys Day 2025でも、AMの「今」と「これから」が明確に語られました。
AMの主要な特性とは?
① 少量生産におけるコスト最適化
従来の射出成形や切削加工では、初期費用として金型や治具の製作が不可欠でしたが、AMではそれらを不要とするため、少量生産においてコストメリットが非常に大きい。たとえば、数十〜数百個レベルの製造では、圧倒的な価格競争力を持ちます。
② 高度なカスタマイズ性
パーソナライズされた製品、医療機器、試作品など、一品一様の製品づくりが可能。デジタルデータをもとに即座に形状を変更できるため、ニーズに応じた柔軟な対応が可能です。
③ 複雑な形状・内部構造への対応力
AMは、従来の加工では実現困難な内部構造や複雑なジオメトリ(たとえば軽量化のためのラティス構造やトポロジー最適化など)を、サポート材を使いながら一体造形できるため、設計の自由度が飛躍的に高まります。
④ 持続可能性(サステナビリティ)
必要な分だけの製造で無駄な廃棄を減らせるほか、部品の地産地消が可能となり、輸送や在庫コストの削減=CO₂排出削減にも寄与します。リサイクル材料との組み合わせも進んでおり、今後の「脱炭素型製造」に向けた基盤にもなります。
3Dプリンティングの活用状況と課題
その一方で、AMの実用化はまだ発展途上の段階にあります。現在、用途の約40%はプロトタイピング(試作)に集中しており、治具・補助具や生産部品などの実製造用途は全体の1%未満、製造業全体から見ると、AMの占める割合は0.05%程度に過ぎません。
つまり、AMの技術的可能性と、実際の普及状況には大きなギャップが存在しているのです。
その背景には、「品質」「材料」「造形スピード」「コスト」「設計スキル」など複数のハードルがあり今後の技術革新と普及支援が重要な鍵となっています。

各用途別ソリューションとStratasysの技術革新
Stratasysは、単に3Dプリンターを提供するだけでなく、用途別・目的別に最適な造形技術と材料を組み合わせた総合的なソリューションを提案しています。Stratasys Dayでは、マネージャーの竹内氏より製造業におけるAMの可能性が広がっていることが強調されました。
技術紹介①【PolyJet:PolyJet ToughONE】


PolyJet方式は、インクジェットのように樹脂を積層する方式で、高解像度かつ多材料・カラー出力が可能。新たに登場した「ToughONE」材料は、従来のPolyJetの弱点とされた「脆さ」を克服し、薄肉構造やスナップフィット、ヒンジ構造にも対応可能になりました。
さらに、Digital ABSの主材料であるRGD531との組み合わせにより、耐熱性・耐衝撃性も高まるため、試作から機能検証まで一貫して対応できるようになります。
技術紹介②【FDM:F3300】

FDM(熱溶解積層)方式の最新モデル「F3300」は、従来機の約2倍のスループットを実現。製造現場において重要な生産性・安定性・メンテナンス性の向上が図られています。
FDM方式の対応材料も豊富で、ABS、ASA、PC、ULTEM™ 9085樹脂、Nylon12などに加え、静電気対策用のPC-ESDも新たにラインアップ。これにより電子部品製造や工場内治具など、高機能性を求められる現場にも対応可能になりました。
技術紹介③【P3:Originシリーズ】

P3は、光硬化樹脂を高精度かつ高速に積層する技術です。Origin Twoでは、Ra3μm以下の表面粗さ、±100μm以内の寸法精度を実現。まさに射出成形品に匹敵する仕上がりで、少量多品種生産に最適です。
また、対応材料も硬質・軟質・耐熱性・耐薬品性など15種類以上あり、最終製品としての利用が現実的なレベルに達しています。
技術紹介④【SAF:H350】

SAF(Selective Absorption Fusion)は粉末焼結方式に属し、大量出力とコスト効率に優れた方式です。H350では、13時間で1140個の部品を一括造形するなど、中量〜量産レベルの生産が可能。
対応材料はPA11、PA12、PPの3種。特にPPは他方式では収縮変形が大きく扱いが難しい素材ですが、SAFではこれを制御し、安定した出力を実現しています。
さらに、ReLife PA12という技術により、使用済み材料の再利用が可能であり、新品材料を使わずに最大20%のコスト削減を実現。これはサステナブル製造への大きな一歩です。
ソフトウェアの進化と現場での活用支援
Stratasysは、ハードウェアと材料だけでなく、ソフトウェアの分野でもAM活用の実用化・迅速化を支援しています。その中心となるのが、設計から造形までをシームレスにつなぐ「GrabCAD Print Pro」の存在です。

GrabCAD Print Proのアップデート:fixturemate機能


今回のStratasys Dayでは、GrabCAD Print Proに新たに追加される「fixturemate(フィクスチャーメイト)」機能が大きな注目を集めました。
この機能は、現場で使用する治具(固定具)をわずか20分以内で設計できる自動支援ツールです。
◎使用フローの概要:
1,製品データ(CAD/STL)を読み込む。
2,治具を作成したい対象部品の3Dデータを取り込むことで、形状認識を開始します。
3,固定土台(ベースプレート)を選択。
4,治具を配置するベース面や制約条件を指定。
5,押さえ具や支持部などは簡易的な操作で形状を自動生成。
6,固定に必要な押さえクランプ等もfixturemate内で配置可能です。。
7,GrabCAD上で3Dプリントへ送信し、即造形。
8,設計した治具データはそのままGrabCAD Printに連携され、対応プリンターで出力可能です。
このプロセスにより、これまで数時間〜数日かかっていた治具設計が、大幅に短縮されるだけでなく、設計スキルに依存せず現場の誰でも作業が可能になります。治具は製造ラインの効率に直結する重要要素であり、fixturemateはAMの実用化を強力に後押しするキーツールです。
まとめ:Stratasysが見据えるAMの未来
Stratasys Day 2025を通じて明らかになったのは、AMはもはや試作技術にとどまらず、製造そのものの構造を変革する段階に入っているという現実です。
プロトタイピングから治具、最終製品へ
多様な造形方式と材料の組み合わせで、業種・用途に応じた最適解を提供
デジタル化と分散生産により、生産スピードと持続可能性を同時に実現
これらの特徴は、まさに「第4の製造革命」とも呼ぶべきパラダイムシフトの核心です。
特に日本市場では、試作止まりだった3Dプリンターが実製造や補助具としての活用へと着実に拡大しており、Stratasysはその変化の中核を担う存在として期待されています。
