拡大するストラタシスの3Dプリントアプリケーション

拡大するストラタシスのアプリケーション

今年は3Dプリンティングの最新技術が集結する見本一が続けて開催された。2019年1月30日~2月1日にTCT Japanが、その翌週の2月6日~8日に次世代3Dプリンタ展が、東京ビッグサイトで行われた。今回は毎年、最先端のユースケースを紹介するストラタシス・ジャパンの取組をご紹介しよう。

3Dプリンタのアプリケーションは今やあらゆる業界で拡大している。製造業からロボティクス、ファッションから建築まで、またその用途もプロトタイピングから治具、最終品の生産までさまざまだ。

こうしたアプリケーション拡大の背景には、造形技術、材料、ソフトウェアアプリケーションといったテクノロジーの進化が大きいが、ストラタシスはこの3つの領域を年々進化させている。

50万色まで拡大し、更に用途を広げるPolyJet 3Dプリンタ

マテリアルジェッティングの最先端ともいえる3Dプリンタが Stratasys J750だ。CMYKWとクリアの5+1色の液体樹脂を掛け合わせることで、自在なカラー表現と透明度を実現することができる。

また、CMYKのベースカラーを拡大することで、表現力を更に拡大している。現在J750では、最大50万色まで実現が可能だが、今回新たにシアン系のベースカラーを開発し、より多彩な表現を可能にしている。

新たにベースからも追加。質感がより豊かに

下記は、Stratasys J750によって造形されたサンプル。最終品さながらのリアルな質感を実現している。プロトタイプの段階から、最終品レベルでデザインや形状更には質感まで確認が可能だ。

TCTブースにて

例えば、シルバニアファミリーで有名なエポック社では、最終品の金型量産で使用する樹脂のカラーを含む製品開発プロセスに、Stratasys J750を使用することでプロトタイプ段階から合わせることができる。

下記は、シルバニアファミリーの自動車のモデル。上がStratasys J750でプリントしたパーツを組み合わせて作られたもので、下が金型で作られた最終品だ。こちらの自動車は、車体だけではなく、車の内部のパーツ、ホイールを含むタイヤのパーツまでStratasys J750で再現している。

Stratasys J750でプリントしたパーツを組み合わせて作られたモデル。最終製品と同じ部品点数。
金型による最終品 (次世代 3Dプリンタ展 ストラタシスブースにて)


また、Stratasys J750は、高品質なプロトタイプに加え、カスタマイズ用途でも使用が開始されている。下記は、ロボットベンチャー企業GROOVE X社が開発した家族型ロボット「LOVOT」だ。このLOVOTでは、ロボットがつけるメガネのカスタマイズ製品の検証 をJ750で行っている。

多彩なデザインの検証もStratasys J750なら、1個単位からスピーディにできる。このメガネはアクセサリ感覚でコーディネートしたりすることで、オーナーとの親密性を高めるアイテムとして開発され、その一環としてStratasys J750が利用されている。

このLOVOTでは、試作開発ではストラタシスのFDMシステム、F123シリーズ3Dプリンタが導入されている。F123シリーズは、汎用のコンセプトモデリング向けのPLAをはじめ、ABSやASAなどの工業用プラスチックが使用できる3Dプリンタで、失敗などのリスクを最小限に抑えた高品質な造形が実現できる。

これによりスピーディにプロトタイプの検証が可能になり、製品化を大幅に早めることができた。また専用ソフトウェアであるGrabCAD Printを活用することで、セットアップの時間を大幅に効率化、従来の5分の1まで短縮している。

Stratasys J750 で眼鏡のカスタマイズ検証も

耐候性の実験品も展示。炎天の夏季を含む数か月を経も劣化しない

J750で使用される樹脂は、紫外線硬化性樹脂であることから、一般的に耐候性に弱いといわれてきた。たとえば外の環境で使用すると黄ばんだり、ひびが入ったりといった劣化がみられ、耐候性が低いとされている。ストラタシスでは、こうした紫外線硬化性樹脂の耐候性でも実証実験を行っている。

炎天の夏季を含む数か月を経も劣化しない (TCTブースにて)

下記のサンプルは夏季を含む数か月間、屋外で風雨や直射日光に晒される状態で数か月にわたり展示していた造形モデルだが、ほぼ造形当初のままの状態を保っている。J750で造形したモデルを屋外展示パーツとして活用することで、従来のFRPによる展示品と同等のコストで、シルバニア製品の設計データを活用し、はるかにクオリティの高い展示品を作製できるようになった。

広がるFDM。Pocket Changeの実装部品

ストラタシスのもう一つの造形テクノロジーであるFDM 3Dプリンタ。もともとFDMの開発元として、用途を更に広げている。展示されたPocket changeは余った外貨を電子マネーに交換するサービスだ。

海外旅行などで余ったコインを入れるだけで、電子マネーにチャージが可能。現在空港や駅などに設置され、訪日外国人観光客にも利用が始まっている。このPocket Changeでは、ストラタシスのFDM 3DプリンタとABS樹脂でつくられたパーツが、実装部品として使用されている。

コインを投入する部分の筐体や、スマホにチャージする部分の筐体、更には内部のコインを振り分ける機能パーツも、FDM3Dプリンタで作られている。 しかも機種はストラタシスのFDMシステムの中でも、最も小型でデスクトップタイプのuPrint 3Dプリンタだ。

筐体にもFDMで作られたパーツが使用される。

さらに、Pocket changeでは、「DFAM」というアディティブマニュファクチャリングのための設計ガイドラインに基づいて設計されている。これによりサポートの使用量や、造形時間、コスト、などが最適化される。ストラタシスのFDMとあわさることで、より効率的でユーザービリティの高い3Dプリントが可能となった。

小ロットの製品開発を実現する最適なツール

このPocket changeのようにFDM 3Dプリンタでは、試作から最終品まで一貫して使用することができ、非常にスピーディに開発を進めることが出来る。データからすぐにアウトプットすることで、パーツの形状や強度などの検証ができ、機器に導入後の検証と課題解決もスムーズにできる。まさに小ロットの製品開発を実現する最適なツールなのだ。

実際に使用されているパーツ。右が最適化されたもの
内部の実装パーツとして使用されている。

新たなゴム(熱可塑性ポリウレタン)材料も登場

ストラタシスのFDMシステムの最大の特長が豊富な材料である。もともと金型と同様、本物の熱可塑性樹脂が使用できるのが最大の強みだが、新たにエラストマー、熱可塑性ポリウレタンの「TPU 92A」が登場した。

これまで安価なデスクトップタイプのFDM 3Dプリンタでは熱可塑性ポリウレタンのフィラメントが登場していたが、造形がデリケートで、安定した造形を実現するのが難しいとされてきた。しかしストラタシスの長年培ってきたFDMテクノロジーで、安定した高品質なゴムパーツの造形が可能になっている。

使用できるプリンタはF123シリーズの3機種、「F170」「F270」「F370」で、ゴム弾性、耐摩耗性、機械的強度を持つパーツを作ることができる。また、従来熱可塑性ポリウレタンはサポート材の取り外しが苦労する材料であったが、ストラタシスのTPU92Aでは、水溶性サポートに対応しており、かんたんに取り外すことができる。

ゴムのパーツは自動車用など、さまざまな分野で使用が大きい材料だが、TPU92Aの追加で、更に日本のものづくりがよりよいものになりそうだ。

カーボンファイバー配合からスーパーエンプラまで使用できる

ストラタシスのFDMの材料では、一般的なABS樹脂などに加え、エンジニアリング用途で使用される高性能な樹脂が使用できるのが特長である。例えば、カーボンファイバー配合のナイロン材料や、スーパーエンジニアリングプラスチックといわれる樹脂も使用することができる。

カーボンファイバーでは高い強度と剛性を持ち、軽量であることから、さまざまな用途での利用が期待されている。下記は、チョコレート工場の包装用機器の差し替えパーツだが、従来の金属パーツから、カーボンファイバー配合ナイロンでのパーツに変更することで、コストを大幅に減らすことが可能となった。

また従来の金属で作られたパーツでは、金属パーツがついている部分が壊れると、同時にそれが取り付けられている機械本体にも影響を受けたが、カーボンファイバー配合ナイロンのパーツであれば機械本体には影響はない。またスーパーエンプラでは、ポリエーテルケトンが使用できる。

ポリエーテルケトンは耐薬品性や低アウトガスの材料で、工場の溶剤や石油タンクなど、従来腐食対策として金属が使用されていた分野での代替として使用が開始されている。

カーボンファイバー配合ナイロンパーツ。金属パーツの代替として使用される

600ショット以上のプラスチック成形を実現したデジタルモールド

ストラタシスと有限会社スワニーによるデジタルモールド®も、更なる進化を遂げている。デジタルモールドは、射出成形から、プレス加工、ブロー成形まで幅広い量産加工への利用が開始されているが、今回エラストマー材料での射出成形では、なんと600ショット以上の生産を実現している。

これまでデジタルモールドでは数十個から100個程度の量産性であったが、今回の展示では熱可塑性ポリウレタンを使い限界まで挑戦、一つの型で600ショット以上という小ロット量産を実現している。また、有限会社スワニーの橋爪氏によると、現在デジタルモールドを大型の射出成型機でトライしているとのことで、近い将来、本格的な量産へ進出するかもしれない。

まとめ 金属量産も視野にいれた開発で生産領域まで広がる

ストラタシスの3Dプリントの活用事例は例年進化し、さまざまな分野へ利用が開始されている。試作から治具、パーツ製造から、更には生産の分野まで領域を広げつつある。その背景には、FDMとPolyJetという確固たる二大造形テクノロジーと、多彩な用途に対応した幅広い材料、更にはGrabCAD Printのようなソフトウェアによる効率的で安定した運用面が大きい。

また、ストラタシスではレーザー燒結法やバインダーではない、新たなアプローチの金属量産3Dプリンタの開発も進めているという。3Dプリンタのアプリケーションは、まさにこれからが本格的に拡大するだろう。

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。