新たな製品開発に求められるもの、デジタルと素材の力
特許切れによって、世界中で続々と登場する3Dプリンター。とりわけFDM(熱溶解積層法)方式の3Dプリンターでは、あらゆる低価格モデルが登場し、もはや世界の3Dプリンター市場は有象無象とも言える状況を呈しつつある。
もともとこのFDMという製法は、3Dプリンターのグローバルリーダー、ストラタシス社が1988年に特許を取得した製法になる。この特許が2009年に切れて以来、ストラタシス社の製法特許を利用し、さまざまな低価格モデルが登場している。
おそらく世界中のユーザーも溢れかえる低価格3Dプリンターにどれがいいのか判断が付き兼ねていることだろう。また、3Dプリンターというと、ベースとなる3Dデータがあれば、なんでも簡単につくることができるという安易な考えを持たれかねない。しかし、製品開発やものづくりの現場に置いては、素材のさまざまな特性を熟知し、プロダクトに応じて素材を最大限活かすことができなければ人の心を打つものづくりはできない。
いくらデジタル化にベースを置く3Dプリント技術が普及したとしても、実際の物体を構成する〝素材"を知らずして、いいものづくりはできないのだ。
今特許切れによって世界中に3Dプリンターメーカーが乱立しているが、そのような数ある3Dプリンターメーカーのうちデジタル技術と素材の特性を熟知し、作り上げるプロダクトに応じて最適な製法と素材を提案する能力があるのはストラタシス社を除いて他には無いだろう。
その実績は世界の3Dプリンター市場で有に50パーセント以上の市場シェアを占め、納品実績は10万台以上に及ぶ。まさに3Dプリンター業界のグローバルリーダーといっても過言ではないが、ストラタシス社にはグローバルリーダーになるだけの所以があるのだ。最も製品開発を熟知する3Dプリンターメーカーの特長をご紹介しよう。
最終品のクオリティを実現、素材の力を最大限引き出すFDM製法
ストラタシスはアメリカに本拠を置く世界最大の3Dプリンターメーカーだ。前述の通り、今溢れかえるあらゆる低価格モデルのベースともなるFDM(熱溶解積層法)を開発したメーカーでもある。その特許が取得されたのは1988年。
今でこそ3Dプリントという言葉が広く知られているが、ストラタシスがこの画期的な製造技術に打ち込んだ当時はそんな言葉もない27年も昔のことだ。現在はこのFDM(熱溶解積層法)と、PolyJjetといわれる液体樹脂をインクジェットのように吹き付けて紫外線で固める製法の2種類の3Dプリンターを揃えている。
そしてこのストラタシス社の最大の強みは、あらゆるプラスチック素材の特性を熟知し、最終品として使用できる本物のプラスチック素材をつかった造形ができる点にある。
この部分が、今特許切れで群がりおこる多くの新興メーカーと決定的に異なる点だろう。たとえば、低価格モデルのFDM(熱溶解積層法)の機種のほとんどが、単なるデザインの形状確認のみにしか使用できない。もちろんそれだけでも従来の金型などで作るよりははるかに画期的なのだが、こうした低価格なFDMで作られたプロトタイプでは、機械的な強度や耐熱性、耐候性といった物性は再現されないケースがほとんどである。
しかし、その一方でストラタシスが揃えるFDM(熱溶解積層法)の3Dプリンターは、素材そのものの特性を余すところなく発揮することが可能になる。そのラインナップはプロダクトデザインでお馴染みの、ABS樹脂やナイロンポリアミド、ポリカの略称で呼ばれるポリカーボネートなど、耐熱性や耐久性に優れたエンジニアリングプラスチックの造形にまで及ぶ。
たとえばABS樹脂一つにしても、ストラタシスのFDM3Dプリンターでは、5種類のABSを用意する(ABSplus、ABSi、ABS-M30、ABS-M30i、ABS-ESD7)豊富ぶり。またABS樹脂のブタジエンの変わりにアクリルゴムに切り替えたASA樹脂なども使用することが可能だ。
また、特殊プラスチックとして優れた強度と耐熱性、剛性を持つウルテム(ULTEM)のFDM3Dプリントもできる。まさに素材とその特性を熟知した3Dプリンターを揃えているといっていい。彼らが展開するラインナップは、航空宇宙産業に始まり、自動車部品、医療、日用品、スポーツ用品、食品関連と、ほぼ全ての分野の製品開発で使用される。
優れた製品には3つのポイントを最大限、表現している必要があるが、ストラタシスの3Dプリンターはデザイン、機能、素材というこの3つのポイントを最大限引き出すものづくりを可能にするだろう。
機能もデザインも最大限本物に、プロトタイプに特化したPolyJet製法
もう1種類、ストラタシスが提供する3Dプリント技術がある。それがPolyJetといわれる3Dプリント技術だ。PolyJetとは冒頭でも触れたが、液体状の樹脂をインクジェットのように噴霧して、紫外線をあてて瞬時に固めて物体にする製法。その精度は驚異的でなんと16μmの層で滑らかな高精細の物体を作れる点。
しかも驚くべきことに一つの3Dプリントモデルに、複数の素材を組み合わせて造形することが可能だ。複数のPolyJet専用の樹脂を組み合わせて配合し、硬い素材や柔らかい素材を自由に表現することができる。
この素材はデジタルマテリアルと言われ、さまざまな配合により1000種類以上もの素材感を表現することができる。つまりこのPolyJet技術を使えば、プロトタイプの段階で最終品の素材に近い特性と質感を再現することができるわけだ。
また、このPolyJet技術のもう一つの特長が、カラーバリエーションの再現性だ。クリアな透明マテリアルから、さまざまなカラーを自由に表現でき、いわば見た目の面からも最終品に極力近づけることができる。例えば、デザイン性が求められる家電製品や家庭用品などは、デザインの主体となる筐体に1種類のプラスチック素材だけで終わらすことは少ない。
パーツごとに素材を変え、そのプロダクトのデザインが最大限発揮される素材を使用する。筐体のメインボディは光沢があるABS樹脂、ボタンは発色のいいポリスチレン、透明な部分はアクリルなど、そのプロダクトの機能とデザインに応じて素材を使わける必要が出てくる。
前段のFDMの最後でも述べたが、プロダクトのクオリティを決定づける部分は、この3つのポイント、"デザイン"、"機能"、"素材"だ。いわばストラタシスのPolyJet技術は、この3つの部分を最大限最終形態に近いプロトタイプを作り出すことが可能というわけだ。
10万点以上もの3Dモデルを利用、MakerBotとThingiveseの力
ストラタシスにはもう一つ3Dプリンターのラインナップが存在する。それがデスクトップタイプで最も市場シェアを持つ3DプリンターMakerBotだ。MakerBotはもともと特許切れになったストラタシスのFDM(熱溶解積層法)を利用して開発された低価格モデル。
3Dプリンターが世界中で注目されるきっかけにもなったマシーンとも言えるだろう。このMakerBotは2013年6月にストラタシスに買収され、それ以降、今ではストラタシスのライナップとして名を連ねている。上記でご紹介した、さまざまなエンジニアリングプラスチックを使用できるハイエンドなFDMとは違い、3Dプリンターの入門モデルとして最適なラインナップだろう。
このMakerBot、単純に3Dプリンター本体のみではなく、専用のアプリケーションや3Dデータの無料ダウンロードサイトThingiverseと連動することで大きな力を発揮する。スマートフォンなどで使用できる専用アプリケーションではThingiverseなどの3Dデータをプリンターに送信したり、プリント状況を遠隔でコントロールすることができる。
またThingiverseでは、さまざまなコミュニティがありクラウド上にアップロードされている3Dモデルの数はなんと10万点以上にのぼる。実はMakerBotはこのThingiverseを通じて、さまざまな3Dプリンターの価値を発揮することができるのだ。
3Dプリンターは言うまでもなく3Dデータから物体を作り出す製造技術だが、元となる3Dデータは、インターネットを通じてクラウド上で共有したり、ダウンロードしたデータを自由にカスタマイズすることができる。すなわち、こうした3Dデータとインターネットの特性を利用しクラウド上で不特定多数の人間のアイデアを製品に反映させることができる。
これが3Dプリンターがものづくり革命といわれる最大の所以だ。
まとめ ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリングの真髄とは
これまでご紹介してきたように、ストラタシスの3Dプリンターは、最終品でも使用することができるさまざまな種類のプラスチックを扱えるFDMライン、素材の機能性とデザイン両方の部分で最終品に酷似した仕上がりを作り出せるプロトタイプ特化型のPolyJetライン、デジタルものづくりの入門に最適で、10万点以上もの3DデータコミュニティThingiverseと連動できるMakerBotと、「新たなモノを創りだす」ことに特化したラインナップが揃う。
いわばストラタシスは製品開発のための、あらゆるソリューションを提供することができるわけだ。また、ここでいうソリューションとは単なるデバイス単体を指すのではない。素材の特性を熟知し、同時にクラウドに基盤を置く3Dデータの特性を熟知したソリューションであると言える。
たとえば、3Dデータとクラウドに基盤を置く製品開発では、世界中のエンジニアやデザイナーから優れたアイデアを集結し、迅速にモノに反映させることができる。過去にいくつかご紹介したが、ストラタシスのグループであるGrabCADなどの事例がもっともわかりやすいだろう。
GrabCADは全世界からエンジニアが登録する3DCADデータのコミュニティで、その数なんと200万人。格納されている3DCADデータは82万点に及ぶ。3Dプリンターにおけるものづくり、すなわちダイレクト、デジタル、マニュファクチャリングでは、こうしたコミュニティを利用して新しい製品開発をすることができるというわけだ。
例えばGEは自社で作るジェットエンジンパーツの改良にGrabCADのコミュニティを利用している。昨年、2014年に行われたこの取り組みでは、全世界56カ国から700以上もの改良データが投稿され、数案に絞られた候補が3Dプリントされた。GEは最終的に数案の中からインドネシアのエンジニアが改良したパーツを採用。
自社単独で開発するよりも圧倒的な数のアイデアを集約することができ、よりよい改良品を作ることができた。こうしたクラウド上における製品開発のメリットはそれだけではない。これまでの製造技術とは比べ物にならないスピードとコストで開発を進めることができる。
これが3Dプリンターと3Dデータの最大のメリットであり、ダイレクト、デジタル、マニュファクチャリングの真髄である。ここでご紹介したストラタシスの取り組みはほんの一例に過ぎないが、彼らが提供するダイレクトデジタルマニュファクチャリングは、明らかに次の時代を担うものだし、デジタルと素材の物性を熟知した高品質な彼らのデバイスによってこそ、完遂させられるものだ。
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