デジタル競争力世界1位。シンガポールの3Dプリント事情

デジタル競争力世界1位の国シンガポール

IMD国際競争力ランキングがある指標を発表している。それがデジタル競争力ランキングだ。これはデジタル化が国の競争力に大きく影響を与えるということから、新たに導入された指標である。

このデジタル競争力ランキング、昨年2017年度の結果は日本は27位で、世界の先進国の間においては大きく後れを取っている。ちなみにアメリカは第3位で、インダストリー4.0を進めるドイツは16位という結果だ。そして今回ご紹介するシンガポールは世界1位である。

このデジタル競争力は主に3つの指標から評価される。第一が“知識”だ。具体的には教育や人材育成、新たな新技術に対する取組である。第二が“テクノロジー”。このテクノロジーの分野は、政府の規制やそこに対する資本力など新たなテクノロジーに対する取組具合が評価される。

そして第三が“将来に向けた準備度”である。こちらは新技術に対する適応力やビジネスのスピード、IT環境などだ。

シンガポールはこの3つの指標でも、知識が1位、テクノロジーが1位、将来に向けた準備度で6位となっている。そんなデジタル競争力世界1位の国、シンガポールが最も力を入れる分野の一つが製造業のデジタル化なのである。

このデジタル競争力ランキングについては、シンガポール経済開発庁(EDB)が詳しいレポートを発表しているので「世界1位のデジタル競争力を誇るシンガポール」をどうぞ

製造業の次世代化に動き出す。鍵は“自動化”と“デジタル化”

シンガポールの中において、製造業の占める重要性は極めて高い。政策によって常にGDPに占める割合の20%以上をキープすることが求められている。

これは技術が国の発展には欠かすことができない要素からだ。そして、シンガポールの製造業は、二つの柱によって、次世代化へ向かおうとしている。それが“自動化”と“デジタル化”だ。自動化とはいう間でもなく、ロボット技術など、製造のオートメーション化である。

一方でデジタル化とは、IoTなどに代表されるように、各製造工程をクラウドに集約し、データ化することで、生産効率の向上を図ろうとするものである。中でも3Dプリンターは“アディティブ・マニュファクチャリング”として、自動化の分野において、導入などが行われつつある。

石油・ガス・海洋船舶分野の3Dプリントセンターが設立

それではシンガポールではアディティブ・マニュファクチャリング、すなわち3Dプリンターの導入はどのような状況なのであろうか。

シンガポールでは既に南洋理工大学を中心に3Dプリントの研究を行うアディティブ・マニュファクチャリングセンターが設立されている。そして今回新たに設立されたのが、石油・ガス・海洋・船舶部門の3Dプリントセンターで、ノルウェーに本拠を置くDNV.GLが、開設を行った。

DNV.GLは、オイル&ガス分野のリスクマネジメントなどを行い、世界100カ国以上に展開している。今回設立されたアディティブ・マニュファクチャリングセンターでは、3Dプリントのハードウェアやプロセス、材料、3Dプリントパーツの認証に関する技術基準とガイドラインを提供する。

ちなみにシンガポールの製造業において、石油化学工業は大きな地位を占めており、世界有数の化学品メーカーのプラント工場が多数存在する世界のハブである。

そして、こうしたプラント工場は工場内のデジタル化が大きく進みつつある。今回のDNV. GLのアディティブ・マニュファクチャリングセンターは、こうした石油化学工業の競争力強化につながることになる。

このDNV.GLのアディティブ・マニュファクチャリングセンターは、シンガポール経済開発庁(EDB)のサポートを受けて設立されたもので、シンガポール経済開発庁副次官 産業グループ、エンジニアリング担当であるリム・コックキアン氏は、「DNV GLのGlobal Additive Manufacturing Centre of Excellence(CoE)は、シンガポールの海洋およびオフショアエンジニアリング業界の製造競争力の強化に役立ちます。」と述べている。

シンガポール航空もパーツ製造の3Dプリントセンターをオープン

そしてもう一つ、シンガポールの3Dプリント導入で新たな動きが加速している。それがシンガポール航空のパーツの3Dプリント製造を行うサービスセンターの設立だ。

これはシンガポール航空の子会社で、パーツのエンジニアリングサービスを手掛けるSIAエンジニアリングと、ストラタシスの合弁で設立されたものだ(SIAエンジニアリングが60%、ストラタシスが40%)。

航空宇宙産業は、3Dプリンターによるパーツのダイレクト製造が最も期待される分野で、UPSなどもストラタシスの3Dプリンターを導入し、パーツ製造サービスに乗り出している。3Dプリンターでサービスパーツが製造できるようになれば、膨大なパーツの在庫をストックする必要がなく、オンデマンドで必要な分だけ製造することができる。

今回のシンガポール航空の3Dプリントセンターも、民間航空機向けの3Dプリント部品の設計、エンジニアリング、生産、認定をサポートするとのことだ。

SIAエンジニアリングと、ストラタシスの合弁で設立された。

まとめ。次世代化するシンガポール製造業

シンガポールでは官民一体となって製造業の次世代化に取り組みつつある。今回ご紹介したDNV.GLのようにシンガポール経済開発庁のサポートの元、さまざまな企業が3Dプリントをはじめ、IoTなど自社のデジタル化と自動化に乗り出している。

例えば、ヤマザキマザックやパナソニックなどの日本企業などもシンガポールを拠点に、工場のスマート化に動き始めている。

近い将来、こうした工場は、ロボットや3Dプリンターなどによって設計から製造、さらにはアッセンブルや検品などが行われ、そしてその工程がデータとしてクラウドに集約され、AIによってカイゼンが行われるようになるだろう。シンガポールは製造業の次世代化によって、更なる競争力を持ちつつある。

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