もう一つのものづくり革命、プリント基板の3Dプリンターが13億調達

もう一つのものづくり革命、プリント基板のオンデマンド生産

もう一つの革新が密かに進行しつつある。3Dプリンターの進歩は、ものづくりの分野に風穴を開け、製品開発に多大な変化を与え始めているが、もう一つの製造技術も大きな進歩を迎えつつある。それが、プリント基板の3Dプリンターの開発だ。

言うまでもなく、私たちの日常生活において、家電製品は必須の道具だが、今ではあらゆるものが電子化されているといっても過言ではない。家庭内では数多くの家電製品に囲まれて暮らしているし、家の外でも電気で動いているものがほとんどだ。そんな電気で動くものの根本にあるのが電子回路とプリント基板だといえる。

プリント基板とは、一言で言うと複雑な電子回路が描かれ、無数の細かい半導体などの電子部品がはんだ付けされて構成されているもの。これが機械を動かす核になる部分だ。このプリント基板は、一見すると1枚のボードのように見えるが、実は何枚もの層によって構成されており、内部にも複雑な電子回路が描かれている。

なぜ何枚も張り合わせてあるかというと、現代の複雑で多機能な電子機器を動かすためには、多機能な分だけ電子回路も複雑化せざる負えないためだ。しかし、その複雑な電子回路を1枚のボードに描こうとすると、到底人間が使用できる大きさに収まらないことから、何層にも貼り合わせてコンパクトにまとめるということが必要になる。

この多層プリント基板は今では当たり前の存在だが、新たにこれを1枚単位で生産できるようにしようという動きが登場している。

前回の多層プリント基板の3Dプリンターの記事はこちらです

イスラエルのNano Dimensionが13億円の資金調達を計画

いわば多層プリント基板の3Dプリンターともいえるマシーンを開発するのがイスラエルのNano Dimensionだ。かつてもご紹介したが、実は今このNano Dimensionが巨大な資金調達に成功している。彼らは今年の4月末に、初号機となるプリント基板の3Dプリンタートンボ2020(The Dragonfly 2020)を発表し、来年の中盤から下旬にかけて市場に投入する計画を立てている。

このトンボ2020だが、驚くべきことに、導電性ナノインクを使用して、完全な多層回路基板を印刷することができるという。しかもそのレベルなナノレベルで現代の電化製品で使用されるプリント基板でも通用するレベルで10層から、それ以上の多層化が可能。すぐさまはんだ付けを行うことができる。

また同時に、Nano Dimensionは、デバイスとしてトンボ2020を販売するだけではなく、材料となる高導電性銀ナノインクも販売する計画だ。この高性能の導電性銀ナノインクでは、すでに開発元である中国企業と覚書を締結済み。こうしたハードと消耗品両方を用意することによりハードウェアの試作、研究、カスタム製造がこれまでとは比較にならないほど低コストで可能になる。

仮にこの多層プリント基板の3Dプリンターが世に登場すれば、これまでのように、かなりの高額をかけてプリント基板を量産する必要はなくなるわけだ。また試作もこのマシーンが1台あれば電子回路を設計、試作、はんだ付けというハードウェアを構成する一連の流れが自社でできる。Nano Dimensionは既にアメリカを主なメイン市場として展開する予定で、アメリカの金融市場において非米国会社の株式の円滑な売買取引ができる米国預託証券で株式を発行することを決定している。

ちなみにその調達額は総額で1,100万ドル、日本円にして約13億円近くにものぼると見られている。

10層以上の多層プリント基板もできる。2016年下旬に市場に登場予定
高導電性の銀ナノインクも販売予定

3Dプリンターと同様エレクトロニクスに革新をあたえる

3Dプリンターの発展は、大きく分けて二つの面から産業の振興につながる。第一に、これまで製品開発やものづくりに参加できなかった人々を、多く参加させることにつながり、よりよい製品、社会にインパクトをあたえる製品が生まれる可能性を拡大する。第二に既存のメーカーや製造業の競争力を圧倒的に高めることができる。

従来とは比較にならない低コストと短時間で製品を開発することができる。こうした3Dプリンターがもたらす巨大な恩恵が、このNano Dimensionが開発する多層プリント基板の3Dプリンターにも同様のことが言えるだろう。冒頭で述べたとおり、プリント基板は現代の多くの製品では必ず必要となる部分。

3Dプリンターがデザインや形状など物体の面から革新をもたらすのと同時に、多層プリント基板の3Dプリンターは、機能や性能といった動きの部分から革新をもたらす。物体が3Dデータから作られるように、多層プリント基板の元も電子回路データから作られるようになれば、側だけではなく内部的な機能も巨大なクラウドに統合され、より一層ものづくりの幅が拡大することになるだろう。

電子回路とプリント基板もデジタルベースになり巨大なクラウドに統合される

まとめ 製品開発から小ロット生産まで行う小規模メーカーの登場

ここから先は予測に過ぎないが、いずれ、電子回路の多層プリント基板だけではなく、そこから一歩進んだ電子部品とはんだによるはんだ付けもオンデマンドで、できるようになるかも知れない。ちなみにプリント基板は作っただけでは機能せず、必要な電子部品をペースト状のはんだと一緒に高温ではんだ付けするリフロー炉で接着しないと意味がない。

もちろん、このリフロー炉も量産用であり、1台導入するだけでも相当な金額になる。このように進むとすれば、もはや製品開発から小ロットのカスタマイズ生産まで一貫してできる小規模メーカーが将来的に続々と登場する可能性が高い。ただ、1点注意しなければならないのは、プリント基板も電子部品も、はんだ付けも、徹底した生産管理が必要になる。

ゴミやチリ、水滴一つ落ちていないクリーンな環境で製造されなければ、出来上がったものは故障が多い低品質なプロダクトになるだろう。

エレクトロニクス製品の製造の注意点とはんだと接合の重要性はこちらをどうぞ

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