センサーから半導体まで。IOT時代のハードウェア専用5軸3Dプリンター

半導体や電子部品も3Dプリントする5軸3Dプリンターの開発

現在の3Dプリント技術のほとんどは、プラスチック素材や金属、セラミックといった物体の3Dプリントが中心だが、電子機器をオンデマンドで製造するための開発が着々と行われている。以前もご紹介し、ジェームズダイソンアワードを受賞したVoltera V-ONEや、Nano Dimensionなど電子機器の核とも言えるプリント基板をオンデマンドで生産することができるマシーンが登場してきているが、それだけでは電子機器を機能させることはできない。

出来上がったプリント基板に抵抗や半導体のような電子部品を装着し、はんだ付けを行わなければ動かすことはできないからだ。おそらくデータからのデジタル製造が目指す未来は、電子機器の完全なオンデマンド製造だろうが、そのような未来を形にする第一歩とも言える開発が行われつつある。

本日ご紹介する5軸システム搭載の3Dプリンターは、電子回路だけではなく半導体や抵抗などミクロレベルの電子部品をもプリントし、オンデマンドの電子回路基板を作り上げることができる。このエアゾールジェットと言われる独自技術を搭載した5軸3Dプリンターに、GEベンチャーズとオートデスクのスパーク投資ファンドがこのマシーンの生産と配備を目的とした投資を行っている。

その金額は合計で600万ドルにも及ぶとされ、エレクトロニクスのデジタル製造に注目する両者の動向が伺える。本日は新たな時代のエレクトロニクス製造を担うOptomecの3Dプリンターをご紹介しよう。

高性能マイクロデバイスの3Dプリンターとは

実はOptomec社は以前もご紹介させていただいが、3Dプリント技術が注目されるはるか以前、1997年創業の企業だ。既に15カ国に展開するグローバル企業で、超小型・軽量の電子部品の3Dプリントを可能にするエアゾールジェット技術のマシーンは2014年3月に発表済み。実はこの電子部品の3Dプリンターはデスクトップモデルから、5軸加工を可能にするハイエンドモデルまで製品化している。

このエアゾールジェット技術の機能を一言で言ってしまうと、UV硬化性エポキシ樹脂ポリウレタンやポリイミドのような熱硬化性樹脂をつかってプリント基板を作り、銀、白金、パラジウム、及びCuを含む導電性インクで電子回路をプリント、更にはルテニウムやカーボンで抵抗を、カーボンナノチューブや有機半導体で半導体を3Dプリントできる。言うなれば全てのプリント基板上に電子回路を描き、電子部品を設置するというもの。

その精度は10ミクロンのレベルで高性能マイクロデバイスのダイレクト製造を可能にする。例えば5軸のエアロゾルジェットシステムで作れるものは抵抗器やコンデンサー、薄膜トランジスタなどの微細な電子部品を始め、アンテナやセンサー、バッテリー、燃料電池といった電子機器も3Dプリントできる。またこのマシーンは既存の平面ではない物体上にも電子回路と電子部品をプリントすることができる。

下記の動画は5軸による電子回路の加工を表したもので、ゴルフボールに回路のプリントを行っている。

エアゾールジェット技術動画

センサー製造の分野で注目するGE。2005年から協力関係に

このOptomec社のエアゾール技術、いわば空間に電子回路を製造することができる技術にかねてから注目をしているのがGEである。GEは従来から独自に3Dプリント技術に力を入れている代表的な企業。既に自社製品のさまざまな製造現場に3Dプリント技術を導入し改良に積極的な企業だが、このOptomecのエアゾール技術にもかねてから注目してきたようだ。

実は両者の関係は古く2005年から3Dセンサーの領域でコラボレーションを行ってきている。今回のGEベンチャーズのエアゾール技術への投資も、10年近い期間の信頼があることが伺える。ちなみにセンサー技術はアプリケーションやソフトウェアでモノをコントロールできるIOT製品では必須の技術。GEは今後来るべきIOT時代において、より効率的で無駄の無いセンサー製造を目指したい考えだ。

エアゾール技術で作られたセンサー

ハードウェアに電子回路を組み込むオートデスクの開発

一方オートデスクも自社で展開するスパークプラットフォームを通じて、Optomec社に投資している。スパークプラットフォームは3Dプリント関連の技術に投資しクローズドで共有する開発プラットフォームで、欧米のハードウェア、ソフトウェア、材料メーカーなどが参加している。既にこのプラットフォームでは3Dプリント技術や3Dプリント用材料の開発が行われており、参画する企業には投資も行われる。

実はオートデスクはかねてから電子回路を物体に組み込むソフトウェアを開発しており、既にプラスチックのボディに電子回路を組み込むことができる3DプリンターVoxel8にもスパークを通じて投資済みだ。そのため、このあらゆる基板に電子回路と電子部品を組み込むことができるOptomec社とのコラボレーションもオートデスクの事業展開からは当然のことと言えるだろう。

5軸で電子回路をプリントする動画

まとめ 製造と使用がシームレスになる

ものづくりの未来は、二つのキーワードが中心となる。そのうちの一つが3Dプリンターという言葉に代表されるデジタルデータからのダイレクト製造である。このデジタル製造はプラスチックや金属といった物質そのものの製造から、完全に機能するハードウェアの領域にまで手を伸ばそうとしている。

オートデスクが開発するプロジェクトワイヤーという電子回路を物体に内蔵するソフトウェアや、今回ご紹介したOptomec、CIAも投資するVoxel8といった3Dプリンターがその先駆けと言える。そしてもう一つのキーワードが今では当たり前になりつつあるIOTだ。無線とアプリケーションでハードウェアをコントロールしさまざまなデータを収集し、更なる利便性と性能アップに繋げる、そんな製品が続々と登場してきている。

この二つのデジタルがもたらすものづくりの技術は、将来、製造という現場に置いては一つのものとされ、製造と使用という二つの行為がよりシームレスになるのかもしれない。使用したデータは迅速に製造現場にフィードバックされ、すぐさまカスタマイズされて提供される。こうした完全なデジタル製造が未来には当たり前となるのかもしれない。Optomec社に投資するGEやオートデスクの狙いは、完全に未来のデジタル製造時代を見据えているのだろう。

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