廉価版3Dプリンターの高速化競争
3Dプリンターの高速化が進んでいる。とりわけ、紫外線を照射し硬化する光造形タイプの開発で著しい。ちなみに光造形とはエポキシ樹脂やアクリル樹脂、ポリウレタンなどをベースにした液体状の紫外線硬化性樹脂を使った造形方法になる。光造形は液体状のエポキシ樹脂に紫外線を照射することで硬化させることが可能。
この光造形で高速製造を可能にする3Dプリンターで最近一躍注目を集めたのが、TEDプレゼンテーションにも登壇したCarbon 3Dプリンターだ。Carbon 3Dプリンターは液体樹脂の内部で硬化させる独自のCLIP製法を編み出し、超光速造形と積層しない高精度な造形レベルを実現している。
このCarbon 3Dプリンターの登場により、特許切れでさまざまな機種が登場する廉価版のデスクトップ市場は、まだまだこれから勃興が期待される。そのような状況の中、新たに、Carbon 3Dプリンターを彷彿とさせる新型の光造形3Dプリンターが登場している。本日ご紹介するNX1と呼ばれる3Dプリンターは、なんと1センチの高さをわずか52秒で造形できるといった驚異的なスピードを持つ。
また、CLIP製法と同じような、LSPc™ Technologyと呼ばれる独自の製法技術によって、高精細、高スピードを謳っている。現在、このNX1はキックスターターで資金調達に乗り出しているが、この新たな高速3Dプリンターの登場によって、さらにデスクトップ市場は加熱しそうだ。
1センチをたった52秒で造形する超高速光造形3Dプリンター
今回登場したNX1 3Dプリンターはイタリア初のベンチャー企業、NEXA 3Dによって開発された光造形3Dプリンターだ。このNX1 3Dプリンターは2種類ラインナップが存在し、通常のDLP製法と、NEXA 3Dが独自に開発した、LSPc™ Technologyと呼ばれる製法を搭載した機種になる。
この新たな独自技術、LSPc™ Technology を用いたNX1 3Dプリンターの造形スピードは圧倒的で、上記で述べたとおり、1センチの高さをわずか52秒で造形できる。通常のDLPバージョンと比較した場合も、1センチ34分16秒とその差は歴然だ。また、DLPの場合は200ミクロンの改造度で積層していくタイプだが、LSPc™ Technologyでは積層しない連続造形になることから、解像度がない。
例えば、下記の写真のように、9センチほどの物体を作る場合、LSPc™ Technologyでは、わずか11分37秒で作り出すことができる。このNX1 3Dプリンターは、まるでCLIP製法によるCarbon 3Dプリンターと不気味なほどそっくりな機能を持っている。Carbon 3DプリンターのCLIP製法は、紫外線による硬化を阻止する要素である酸素を、液中で造形することで阻害し、造形スピードと精度を高めているが、このLSPc™ Technologyはどのような技術なのだろうか。
数十秒で造形するNX1 3Dプリンターの動画。リアルタイムのスピード
5年の開発を経て生み出された光造形の弱点を克服する技術
LSPc™ Technologyは、従来の層ごとに光を照射して硬化させるボトムアップタイプの光造形3Dプリンターとは違い、特別な潤滑油を使用することで高速性と精度を確立させている。高速化と連続造形の鍵となる、自己潤滑剤と剥離阻害剤は、これまでの光造形の製法の弱点を克服するために使用されているといってもいい。
光造形も基本的にはFDM(熱溶解積層法)と同様に、一つの層を紫外線を照射し硬化させ、その後にもう一つの層を照射して固めるという方法を取る。その際、次の層の生成に移行するためには、元の層が完全に固まってからではないと、形状が崩れてしまう。
しかし、このLSPc™ Technologyでは、二つの特別な素材、自己潤滑剤と剥離阻害剤を配合することで、積層時に層と層の間に透明な潤滑膜を生成し、新たな層の剥がれやすさを阻害、高精細な連続印刷処理を可能にしてくれる。ちなみに製法名であるLSPcはLubricant Sublayer Photocuringの略で、直訳すると自己潤滑サブレイヤー光造形となる。これにより、積層というプロセスが完全な連続プリントになり、生成される物体の完成度も一体成形に近いものとなるのだ。
理論とアプローチはCarbon 3Dプリンターとは全く異なるが、発揮できる機能(高速化と高精細)という二つの既存の3Dプリンターの弱点は完全に克服される。このLSPc™ Technologyの開発には5年もの歳月を要し、ほとんどの部分で特許が取得されている。
NX1 3Dプリンタースペック
- プリンターサイズ:340mm×340mm×550mm
- 重量:15kg
- 動作環境温度:18℃~25℃
- 電力:100-240V、50/60Hz、250W
- 接続:Wi-Fi、USB、LAN
- 造形サイズ:120mm×90mm×200mm
- 樹脂補充システム:自動
- 洗浄システム:自動
- カートリッジポジション:上部
- レイヤー層:連続造形から200ミクロン(DLPバージョン)
- 造形速度:50秒/センチ
- 樹脂:NEXA3D UV Photocuring Resins
この革新的な光造形モデルNEX1 3Dプリンターは、現在キックスターターで資金調達に乗り出している。ちなみにキックスターターでの価格はプリンタ本体が1399ユーロ、日本円で約18万円。NEXA3D専用樹脂は90ユーロ(約1万2千円)、自己潤滑パッケージ30ユーロ(約4000円)といった価格。発売予定時期は2016年3月で、推定小売価格は2299ユーロ、約30万円ほどの価格帯だ。
NEX1 3Dプリンター動画
まとめ 廉価版の中では圧倒的なスピードと高精細
このNEX1 3Dプリンターの登場によって、Carbon 3Dプリンターと同様、廉価版の光造形3Dプリンターは更なる高速化が進むこととなった。これにより単純な形状確認などのプロトタイピングはよりスピーディに行うことが可能となる。一点、積層に頼らない高精度の造形が可能になるとのことだが、その機械的特性などが気になるところだ。
廉価版の3Dプリンターの使い道は現状のところ形状のみの確認で、エンプラなどが使用できる高度なFDM 3Dプリンターと比べればはるかにものづくりの現場で使用できる幅が少ない。しかし、高精細のレベルがしっかりと裏付けられるレベルまで証明することができれば、デスクトップタイプの3Dプリンターの使用の幅は飛躍的に拡大するだろう。とはいえ、現状の廉価版の中では、圧倒的なスピードと高精細を誇ることは間違いないと言えるだろう。
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