ナノレベルの解像度を誇る3Dプリンター
3Dプリンターの登場は、これまでの製品開発やモノづくりのプロセスに巨大な影響を与え始めている。データから直接物体を生成する技術は多くの可能性を感じさせてくれるが、実際の最終製品に使用するためには多くのハードルが残る。一部、高性能なハイエンドモデルは最終パーツの製造に使用が開始されているが、市場で多くの人が手にする機種ではいまだ不可能だと言わざる負えない。
その最大の理由が、仕上がりや精度のレベルが試作品の域を出ないことがあげられる。より突っ込んでいうならば、素材と素材を接合するための技術が、いまだ粗雑なレベル(現代の量産される多くの製品のクオリティに比べ)である。3Dプリンターの接合レベルを示すのは、解像度や積層ピッチなどという言葉で表現されるが、基本的に共通する点は、細かい薄い層を何層にも重ねてカタチにする技術だと言ってもいい。
この層の厚さが、厚ければ厚いほど作られた物の見た目は粗くなるし、薄ければ薄いほど、接合の継ぎ目がわかりづらく滑らかな表面ができる。現在の3Dプリント技術はミクロンのレベルで接合が可能だが、今それを超えるナノメートルのレベルの接合を可能にする3Dプリンターが登場している。本日はインターナショナルCESで登場したナノスケールの解像度を誇るSLA3DプリンターMC-1とMC-2をご紹介。
100ナノメートル(0.1ミクロン)の解像度
今回インターナショナルCESで発表されたナノスケールの3DプリンターMC-1とMC-2を開発するのはOLD WORLD LABS社。OWL社は、バージニア州に拠点を置く高分解能に特化した3Dプリンターメーカーだ。今回発表された2機種MC-1とMC-2はナノメートルの解像度で物体を作ることができるSLAタイプの3Dプリンターだ。ナノメートルというと実感がわかないが、100ナノメートル、すなわち0.1ミクロンの解像度を誇る。
このSLAの技術は液体のエポキシ樹脂やアクリル樹脂をベースにした紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射し硬化する光造形とは異なり、2光子重合(2PP)と言われる特殊な技術を用いてプリントされる。MC-1がベーシックタイプの機種となっており、6インチ四方まで造形が可能。アップグレード版のMC-2はさらに高解像度で、造形サイズは自由に変更可能。MC-2は2015年の半ばには商用利用が可能になり、精密さが要求される医療分野や、細かい技術が要求される業界やエンターテイメント分野で使用が期待される。
ちなみにこの2機種を開発するOWL社は、NASA、スタンフォード大学、バージニア大学、バージニア工科大学などのトップの研究機関を顧客に持ち、米国防総省と生産革新のための統合フォトニクス研究所と協力している。
MC-1スペック
- 分解能:1ミクロン
- 精度:100ナノメートル(0.1ミクロン)
- 誤差:±500ナノメートル(0.5ミクロン)
- 反復率:99%
- 造形サイズ:6インチ×6インチ×6インチ(15.24センチ四方)
- 造形スピード:分解能設定に依存
- 素材:感光性樹脂
- 重量:30kg
- プリンターサイズ:66cm×45.7cm×66cm
- 電圧:110VAC
- 動作温度:72度まで
MC-2スペック
- 分解能:100ナノメートル(0.1ミクロン)
- 精度:100ナノメートル(0.1ミクロン)
- 誤差:±50ナノメートル(0.05ミクロン)
- 反復率:99%
- 造形サイズ:自由
- 造形スピード:分解能設定に依存
- 素材:感光性樹脂
- 重量:48kg
- プリンターサイズ:66cm×45.7cm×66cm
- 電圧:110VAC
- 動作温度:72度まで
まとめ 接合レベルの向上が最重要
接合技術はものづくりの基本である。接合レベルがそのまま、その製品のクオリティに直結するからだ。例えば現代の電化製品には欠かすことができない電子回路の基板だが、たった一つの極小の電子部品が適切に接合されていないだけで、その製品は使用できなくなってしまう。
現代の電子機器の不良や、故障は、ほぼすべての原因がこの接合部分の不備による。また、同時に製品の形状やデザインを再現する筐体にとっても接合技術は重要である。金型がなぜ優れているかというと、量産性もさることながら、温度コントロールと金型の構造を適切に設計することで、ドロドロに溶けたプラスチックの分子と分子を適切に接合することができるからだ。
この点が3Dプリンターとの決定的な違いであり、3Dプリンターが更に普及するための課題は、この接合レベルの向上に他ならないのである。そうした点から見ると、ナノメートルのレベル積層することができる3Dプリンターの開発は画期的だと言えよう。これにより、3Dプリンターは新たなステージに進む可能性が高い。