日本初MakerBotイノベーションセンターが始動。慶應義塾大学SFCのファブキャンパスの力

デジタル化時代に求められるものづくりのスキルとは

3Dプリント技術が最も求められているフィールドの一つが教育現場だ。すでに欧米では3Dプリンターを学校に配備し、デジタルファブリケーションに対応した人材育成が始まっている。3Dプリンターで最終品を生産する時代になれば(もう半分なりかけているが)プログラミングと同様、デジタルファブリケーションに精通した人のニーズはますます拡大していくだろう。

3Dデータであれば、設計データをクラウド上で共有し、リアルタイムに複数の人のアイデアを製品に反映させることができる。また、3Dプリンターがあれば全世界どこにいてもアウトプットして販売することが可能だ。こうしたデジタル化された時代のものづくりは、従来の大量生産時代とは違い根本的に製品開発の概念が異なる。

大量生産時代とは異なる新たなものづくりの概念

例えば従来の製品開発では、製品企画部という少数のチームが社内に存在し、一元的に管理し企画と開発が行われているが、デジタル化された製品開発では、設計データがデジタル上に置かれるため、プログラムのソースコードと同様、複数の人が改良、改変をすることが可能になる。

まるでプログラマがGitHubを使ってソフトウェアアプリケーションを開発するかの如く、製品開発が行われるだろう。そこではプロダクトが、ソフトウェアのバージョンアップデートのように、ユーザーニーズに応じて迅速にカスタマイズされ、進化していく。

もちろん、単純に従来の製品開発手法がなくなるわけではない。メーカーはデジタルファブリケーションの概念を取り込むことで、“スピード”、“多様化するユーザーニーズへの対応”、“コスト効率”といった新たなパワーを手に入れることができる。これは大企業でも、新規に製品開発を始めるベンチャー企業でも同様に言えることだ。

つまりどんな規模の企業であれ、これからの時代の製品開発には、デジタルファブリケーションの技術は必須なのである。

世界的な3Dプリント教育と日本初のMakerBotイノベーションセンター

そのために最も重要な役割を果たすのが実践的なデジタルファブリケーションの教育である。冒頭でも述べた通り、アメリカやイギリスではすでに3Dプリンターを使った授業が行われているが、単なる講義形式の授業ではなく、学生たちが自分で開発を行うオープンコミュニティのような形態をとっている。

こうしたデジタルファブリケーション教育で主体的な役割を果たしている存在が、本日ご紹介するMakerBotイノベーションセンターだ。

MakerBotは、ストラタシス傘下のデスクトップタイプのFDM(熱溶解積層法)3Dプリンターメーカーで、創業当初から教育分野での貢献を企業理念の一つにしている。そんなMakerBotが手掛けるものづくりの拠点イノベーションセンターは、すでに、世界各国20校以上に導入されている。

例えば、フロリダ工科大学は、「RADメイカースペース・イノベーション・アカデミー」というデジタルものづくりの拠点を設け、3Dプリンターや3Dスキャナーなど70もの機器を配備している。また、ニューヨーク州立大学ニューパルツ校では、MakerBotイノベーションセンターを世界で初めて導入した大学として、3Dプリンターを30台以上配備し、学生だけではなく地元企業との連携も行っている。

こうした中、日本でも初めてMakerBotイノベーションセンターを使った実践的なデジタルファブリケーション教育を導入する動きが登場した。本日は大胆にデジタルファブリケーションを取り入れ、新たな時代のものづくりに対応した人材育成に取り組む慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)MakerBotイノベーションセンターをご紹介しよう。

未来の人材を育てる慶應義塾大学SFC「ファブキャンパス」とは

日本初となるMakerBotイノベーションセンターが導入されたのは、SFCメディアセンターだ。ちなみにSFCは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスのことで、総合政策、環境情報、看護医療の3学部と、政策・メディア、健康マネジメントの2研究科から成る、最先端技術と自然が共存する未来型キャンパスのこと。

全12台のMakerBotのほか、3Dスキャナーやレーザーカッター、カッティングマシン、デジタル刺繍ミシンなどが並ぶ。慶應義塾大学の学生ならば誰でも登録すれば使用することが可能で、オンライン上に3Dデータをアップロードすればどこにいても利用することができる。実は、このMakerBotイノベーションセンターは、SFCが提唱する「ファブキャンパス」 の一環として設けられたものなのだ。

MakerBotイノベーションセンターはFabキャンパスの一環として設けられたもの。
全12台にも及ぶMakerBotの3Dプリンターを配備。学生たちが自らの課題解決のために使う。
デジタルミシンやカッティングマシンなど、デジタルファブリケーションに関するツールがそろう。

デジタルファブリケーションでプロダクト開発の本質を学ぶ

この「ファブキャンパス」とは、デジタルとフィジカルとを横断し、結合することで創造性が生まれるというコンセプトのもと、単純に「つくる」環境だけが用意されたものではなく、学生たちが自ら課題を見つけ、何らかの課題を解決するための、ものづくりを行うというもの。

主に「つくる」「つかう」「こわす」「もどす」「わかる」の5つのサイクルを通して、課題解決というプロダクト本来が持つ本質的な価値を習得していく。そのため「ファブキャンパス」は3Dプリンターがあるイノベーションセンターにかかわらず、電子工作や建築、ロボットなどフィールドは多岐にわたる。

また、SFCには、一般的な大学のように履修要件に従って授業を履修するスタイルではなく、学生が自ら課題を設定し、それを解決するため授業を選択するというシステムが特徴的である。そのためMakerBotイノベーションセンターの利用も、ものづくりの授業で利用されるだけではなく、学生独自の研究のためにも使用される。

さらには、イノベーションセンターの運営などにも学生たちが参加し、様々な解決策が提供されている。例えば下記の写真のようにMakerBotの押出ノズルのつまりを防止するツールなども、学生が自ら考案し、3Dプリンターで製作をしたものだ。

学生たちが自ら運営し、課題解決や研究開発のために3Dプリンターを使用する。
フィラメントの詰まりを防止するツール。学生が運用の家庭で自ら開発したもの。

MakerBotならではの仕組み。クラウドで複数の3Dプリンターを一元管理

MakerBotイノベーションセンターは、デジタルファブリケーションを実地に覚えるのにも最適なシステムとインターフェースを持っている。デスクトップタイプの3Dプリンターは、特許切れによって様々な種類が登場しているが、多くの3Dプリンターとセットでモデルを出力するためのパソコンが必要になる。

しかし、MakerBotの場合、3Dプリンターが複数になったとしても、クラウド上のマネジメントシステムを利用するため、運用が非常にシンプルである。学生もオンラインにアクセスできる環境さえあれば、どこからでもイノベーションセンターのマネジメントシステムに3Dデータをアップロードし、アウトプットすることが可能だ。

実際、こうした簡素なシステムと優れたインターフェースから、2016年6月の導入から利用が盛んで、6月が65件、7月が69件とフル稼働状態である。下記でご紹介するSFCの「ファブキャンパス」のオンラインコミュニティと同時に、MakerBot1イノベーションセンターのクラウドアプリケーションを利用することで、実践的なデジタルファブリケーションの仕組みを学ぶことができる。

クラウド3DプリンターともいえるMakerBot。一つのクラウドシステムで、複数の3Dプリンターを一元管理出来る。
実際の3Dプリントする際のプリント方法、積層レベルまでリアルに確認。インターフェースにも優れている。

オンラインの3Dデータ共有サイトやものづくりレシピサイトも

SFCは、さらに一歩進んだ取り組みも開始している。MakerBotイノベーションセンターという作る場を設けるだけではなく、オンラインで作り方や3Dデータを共有するコミュニティサイトも提供しているのだ。

冒頭で、これからのものづくりがGitHubのように設計データが共有されるという話を書いたが、SFCが提供する「ものづくりレシピサイトFabble」では、GitHubアカウントでサインアップ可能で、各Fabプロジェクトがコミュニティによって更新、進化している。

例えば、そこではロボットキットやデジタル楽器といったプロジェクトが立ち上がっており、オープンコミュニティのものづくりが行われつつある。このオンラインコミュニティは、先にご紹介した「ファブキャンパス」の狙いの一つでもある「つくる」「つかう」「こわす」「もどす」「わかる」の5つのサイクルが共有される受け皿ともなっている。

3Dプリント用データ検索システム「fab3d」は、MakerBotのThingiverseを含む、インターネット上のすべての3Dデータを横断的に検索可能。新たにイノベーションセンターを利用する学生も、新入生たちも、いきなりゼロから参加するわけではなく、こうしたオンラインコミュニティの蓄積を利用することができるというわけだ。

ものづくりレシピサイトFabble。すでにSFCだけではなく、他校の大学生など、クラウドを通じて多くの利用者が参加している。
こちらは3DデータサイトのFab3D。MakerBotの3DデータサイトThingiverseのデータなども横断的に検索できる。

ファブ3Dコンテスト2016も開催される

こうしたSFCのデジタルファブリケーションの取り組みは、既に大学内の枠組みにとらわれず、外との連携、新たな取り組みにまで発展しつつある。SFCが主催するファブ3Dコンテスト2016は、「ファブ地球社会コンソーシアム」の一環として行われるコンテストだが、3Dプリンターとデジタルファブリケーションの普及によって、われわれ生活者の創造性がどのように触発され、ものづくりにどんな影響を与えるかを検証する一大イベントである。

ポイントはこれまでの3Dプリンターのメインであった工業用途に限定されるのではなく、小中学生から家族、セミプロまで様々な立場の人々が参加することが出来るファブコンテストということがあげられる。小中学生の部では,3Dプリンターでの夏休みなどの自由研究というテーマで、家族の部では家族が喜ぶ3Dプリンターの活用法を、フリースタイルでは、「3D プリンターで○○をやってみた!!!」というテーマで、自由な開発が行われる。

一方、プロ・セミプロの部では、3D プリントエッグパッケージがテーマとなっており、応募期間は8月1日から10月末日まで行われている。応募作品に関しては、上記でご紹介したものづくりレシピサイトFabbleに公開され、3Dデータから写真、映像、レシピまで、クラウド上ですべてが共有されることになる。

Fab3Dコンテスト。SFCのデジタルファブリケーションの取り組みは、既に大学内の枠組みにとらわれず、外との連携、新たな取り組みにまで発展しつつある。

まとめ 日本にイノベーションを起こす源泉となる

3Dプリンターを中心としたデジタルファブリケーションが、その他のデジタル技術と唯一異なる点は、最終的にはビットからアトムへアウトプットされる点にある。そのため、製品を進化させるためには、オンライン上での共有だけではなく、リアルな場所でのコミュニケーションが欠かすことができない。

例えばGEの家電製品をハックするFirstbuildなどが、その最たるものである。GrabCADといった巨大なエンジニアのオンラインコミュニティと連動する形でリアルな場所でのオープンコミュニティが存在する。そこでは3Dプリンターやレーザーカッターなどが配備され、オンライン上で知り合ったエンジニアやデザイナーがメンバーとプロトタイプの製作や検証などを行っている。

こうしたものづくりの新たなスタイルこそが、新たな製品を生み出し、新たな価値を提供することにつながるのである。SFCの「ファブキャンパス」とMakerBotイノベーションセンターの存在は、日本においてまさにその仕組みを体現している存在だ。自ら問題意識を持ち、課題を解決するための時代に適合した能力を持つ人材こそが日本にイノベーションを起こす源泉ともなるのだ。

MakerBotイノベーションセンターの記事はこちらもどうぞ

クラウド製造とオープンソースのものづくりの記事はこちらもどうぞ

i-MKAERでは光造形3DプリンターForm3+やレーザー焼結3DプリンターFuse 1Raise3Dシリーズなど多彩な3Dプリンターのノウハウ、販売をご提供しています。ご質問や無料サンプルや無料テストプリントなどお気軽にご相談ください。